第129話
「……出力上げるかな? ノエルの支援魔法があれば重くなるけど、扱えるだろうし」
「悩むなら、他の武器にしなさいよ」
魔導銃ではあまりダメージが与えられず、ジークは眉間にしわを寄せるとフィーナは剣をポイズンリザードの横腹に振り下ろす。
「……剣でも変わらないじゃないか?」
「うるさいわね。それでも傷ついてるわよ」
フィーナの攻撃に、ポイズンリザードの横腹には小さな切り傷が付くがポイズンリザードに取ってはたいした事ではないようで2人に構う事なく食事を続け、ジークとフィーナの攻撃は少し鬱陶しいのか、尻尾で2人を薙ぎ払う。
尻尾の攻撃は単純であり、2人は難なく交わすとジークは武器を変える利点などないと言い、フィーナはポイズンリザードに付いた切り傷を指差す。
「……あの2人には緊張感ってものがないのかな?」
「性格破綻者、お前にだけは言われたくないだろうな」
「あ、あの。大丈夫なんですかね?」
緊迫していたはずの戦闘が緩く進んでいる様子にカインはため息を吐く。ノエルは顔を引きつらせる。
「とりあえず、食事中の間は大丈夫そうだね。少しでもその間にダメージを与えられたら良いんだけど、アーカスさん、ジークの魔導銃はどれくらいまで出力を上げられそうですか?」
「そうだな。最大出力だと片方は1発で銃身が焼ける。もう片方は持って2発だな」
「なるほど」
カインはアーカスにジークの魔導銃の耐久度を聞く。アーカスは冷静に答えるとカインはポイズンリザードを倒す算段を立てようとしているのか黙り込む。
「あの。カインさん?」
「……小娘、静かにしていろ。それより、昨日の攻撃魔法を覚えているか?」
「は、はい」
カインが黙り込む様子にノエルは首を傾げると、アーカスは今の状況ではポイズンリザードにダメージを与えられないため、昨日、魔法の失敗で発動してしまったノエルの攻撃魔法に勝機を見出している。
しかし、ノエルは攻撃魔法の威力に恐怖を抱いているようで彼女の顔は真っ青になって行く。
「……小娘、あの2人は緩く見えるが実際にはかなり危険な状況だと言う事は理解しろ。ポイズンリザードがどれだけの間、眠っていたか知らんが、あのミミズだけで腹が膨れるとは限らないんだからな」
「は、はい。わかってます」
アーカスは巨大ミミズを食い終わった後にジークとフィーナをも餌と判断する事もあり得ると言い、ノエルはアーカスの言いたい事が理解できているようで不安を振り払うように杖を握り締める。
「鬱陶しいな」
「まぁ、動きが遅い分、やりやすいわね」
「それでもダメージは微々たるものだけどな」
「ジーク、出力を上げて一気に横腹をえぐっちゃってよ」
ジークとフィーナはポイズンリザードの尻尾による攻撃を交わしながら、攻撃を仕掛けるも芳しくはなく、フィーナは魔導銃を壊してもダメージを与えろと無責任な事を言う。
「お前な。簡単に言うけど、壊すと修理が大変なんだぞ」
「それでも、このままじゃどうしようもないでしょ」
「だよな」
ジークは魔導銃を破壊してまで攻撃をするのはためらわれるようで頭をかくが、フィーナの言う通り、攻撃力が足りない事もわかっており、魔導銃の出力を少し上げる。
「フィーナ、できれば1点集中。少しでも傷を点けないと魔導銃だとダメージも与えられないから、俺も合わせるから今ある傷を広げるように攻撃してくれ」
「……簡単に言ってくれるわね。それでもやるしかないんだろうけど、と言うか、石人形の時と言い、この戦い方しかやってる気がしないわ」
「確かに」
ジークとフィーナは攻撃方法を決めるが結局は2人のいつもの戦い方でしかなく、ジークは攻撃パターンの少ない自分達の様子にため息を吐く。
「とりあえず、援護は任せるわよ」
「はいはい」
フィーナはポイズンリザードの尻尾を交わすと直ぐに距離を縮め、ポイズンリザードの横腹を素早く斬り付け、ジークは威力をあげた魔導銃でフィーナに尻尾が当たらないように魔導銃を放ち、尻尾の攻撃を逸らす。
「……あの2人は攻撃方針を決めたようだね」
「カインさん?」
カインはジークとフィーナの動きが繋がり始めた事に気づくとノエルはカインの名前を呼ぶ。
「決まったのか?」
「そうですね。でも、それなりに危ない」
カインが考え付いた作戦は危険性が高いのか、カイン自身もあまり乗り気ではない。
「危ないんですか?」
「まぁ、支援魔法を受けても与えられるダメージは微々たるものだからね。いつまでもちまちまと皮膚を攻撃しているわけには行かない。それにフィーナ、後ろに後ろに跳べ!!」
「へ? いきなり何よ!?」
カインはノエルに作戦を説明しようとするが何かに気が付き、フィーナに後方に跳ぶように指示を出す。フィーナはカインからの突然の指示に驚きの声をあげるが身体は指示に反応しており、ポイズンリザードと距離を取る。
その時、フィーナが傷つけたポイズンリザードの横腹からは血液が飛び散り、地面からは何かが焦げるような音と煙が上がり、その場には異臭が放たれる。
「こ、これってどう言う事よ!!」
「……血液も毒の塊って事だろ」
フィーナは何が起きたかわからずに驚きの声をあげるとジークは状況の悪さに舌打ちをしながらも、攻撃の手を緩める事はない。
「ちょ、ちょっと、私はどうしたら良いのよ?」
「……少し下がってろよ。血を被るわけにもいかないんだからな。フィーナ、お前こそ、接近戦以外で戦える方法を考えろよ」
「そんな事を言っても、あんた1人じゃ無理でしょ」
ジークは現状で自分だけしか攻撃ができなくなったため、フィーナに後ろに下がるように言う。フィーナはジークだけではどうにもならない事はわかっているようで後ろに下がれずにいる。
「フィーナ、下がれ。ジークの邪魔だ」
「でも」
「それにその剣で何をするつもりだ?」
「剣で……これ、何よ!?」
フィーナはカインの言葉に自分の剣を見るとポイズンリザードの横腹にいくつもの傷を付けていた剣はすでに毒の血液で腐食が進んでいたようで刃がこぼれ落ちており、フィーナは驚きの声を上げた。