第127話
「……何よ。これ?」
「……最悪だよ」
魔導機器は2つの結晶を生み出している。1つは毒ガスを結晶化したのか毒々しく紫色の光を放っており、もう1つは毒ガスを塞いでいた氷塊を結晶化したのか青白い結晶。
氷塊は魔導機器が魔力を結晶化させたために、昨日、ジーク達がこの場所を訪れた時より、小さくなっている。その中には体長3メートルを優に超える巨大なトカゲがおり、その目はジークとフィーナを睨んでいる。
ジークは氷塊の中に生物がいる事を実物を見るまで否定したかったように見えるが現実は甘くはなく、彼は大きく肩を落とした。
「説明しなさいよ。あれは何なのよ!!」
「……冬眠してたんだろうな」
フィーナはジークの胸倉をつかみ、ジークに説明を求める。ジークは氷塊の中で体温を奪われて眠りについていたトカゲから視線を逸らす。
「ジークさん、あれって?」
「……なるほど、ポイズンリザードか」
その時、ノエルとアーカスが追いつき、氷塊の中のトカゲを見て驚きの声をあげるノエル。アーカスは氷塊の中のトカゲに心当たりがあったようで、トカゲを『ポイズンリザード』と呼ぶ。
「ポイズンリザード?」
「そのまま、毒トカゲだ。鉱山や火山の周辺に生息し、その中の有毒ガスないでも生きていけるトカゲ。身体の中に有毒ガスを吐き出す器官がある。それにしても……」
「正直、このサイズはなかなかないね」
フィーナはポイズンリザードの事を知らないようで首を傾げる。ジークは冒険者にも関わらず、魔物の知識に乏しい彼女の様子に眉間にしわを寄せるなか、カインの使い魔はポイズンリザードの生態調査だと言いたげに氷塊の直ぐそばまで近づいて行く。
「小僧、魔導機器を回収してこい。壊されたらたまらんからな」
「……この状況で言うのはそれだけですか? 魔導機器が氷塊を結晶化したから、あれが出てくるかも知れないんですよ。危なくて行けません」
アーカスはポイズンリザードより魔導機器の方が重要であり、ジークに取ってくるように言う。しかし、ジークは危なくて近づけないと首を振る。
「……ふむ。そうだね」
「何があるのよ?」
「……トカゲ」
カインの使い魔は戻ってくるとフィーナの頭に降り、フィーナはカインに遊ばれている事に腹を立てつつも必要な情報を得るためにカインに聞く。その隣でノエルは何かあるのか顔を青くしている。
「ノエル、どうかしたか?」
「な、何でもありません」
ジークはノエルの様子に気が付き、彼女を呼ぶ。ノエルは心配をかけたくないのか大きく首を横に振った。
「とりあえず、倒すなら、冬眠から覚めたばかりの動きが鈍い状態を狙うのが良いだろうね。倒さないのなら、あの魔導機器を止めて、水の精霊に力を借りて、あの氷塊を少しでも大きくした方が良いかもね。あのまま、起動させておくと、薄くなった氷塊の中から、あのポイズンリザードが自力で出てくるよ。眠っていてもあれだけの毒ガスを吐き出すんだ。あんなものが、動きだしたら、大変だろうね」
「……ここなら、餌もないし、餓えて死ぬんじゃないのか?」
カインはポイズンリザードを倒すなら、今だと言うが、ジークは戦闘は避けたいようで希望的な事を言う。
「小僧、とりあえず、魔導機器を止めてこない事には始まらないんだ。行ってこい」
「……わかりましたよ。こう言うのはいつも俺の役目なんだよな」
アーカスはこのまま魔導機器を動かしているのは安全を確保できないため、ジークに魔導機器を止めてくるように指示を出す。ジークは文句を口から垂れ流しながら魔導機器のそばに歩いて行く。
「……これで良いんだよな? まさか、一気に2つの結晶ができるとは思ってなかった!?」
ジークは魔導機器を止め、魔導機器と2つの結晶を回収するとノエル達の元に戻ろうとした時、地面が揺れる。
「ジークさん!?」
「俺は良いから、天井が崩れる可能性もあるから、注意しろ」
ノエルはジークの名前を呼ぶが、ジークは自分の事を心配するように言う。
「ジーク、上!!」
「……はいはい」
その時、揺れにより、天井が崩れたようでジークに向かい岩が落下し、カインはジークの名前を叫ぶ。ジークは瞬時に何があったか理解したようでその場所を離れ、ジークがいた場所に落下した岩は粉々に砕け散る。
「ジーク、何があったのよ?」
「……さあな。単純な地震か、それとも」
「ミミズさん?」
「言いたくないけど、そう言う事……本当にタイミングが悪いな」
ジークは直ぐに脱出したいようでノエル達の元に駆け寄ると、この揺れの原因を鉱山に生息している巨大ミミズだと言った時、氷塊の真上の天井から巨大ミミズが顔を出した。それと同時に天井から岩がいくつも氷塊の上に落下して行く。
「……ジーク、不味いぞ」
「わかってるよ。フィーナ、前に出るぞ。氷塊が砕けたら、一気に叩き潰す」
「わ、わかったわ。降りてこないでよ」
カインは今の状況が彼が思っていた状況より悪くなっている事に気が付き、舌打ちをする。ジークはカインの言いたい事を理解したようでフィーナに指示を出して前に出る。フィーナはポイズンリザードより、巨大ミミズの相手をしたくないよで1度、天井を見た後にジークの隣に並ぶ。
「……アーカスさん、ノエル、2人に支援魔法を」
「……あぁ」
「は、はい」
カインはこれから起きるであろう戦闘のためにノエルとアーカスに支援魔法を使うように言い、2人は直ぐに魔法の詠唱に移った。
「ジーク、倒せるの?」
「さあな。それでも、動きが鈍いうちに叩くのは間違ってないんだよ。問題は、あの氷塊の中で、どれだけの活動をしていたかだ。ずっと眠っていたんだとしたら……腹、減ってるだろうな」
「そ、そうね」
岩の直撃で砕けた氷塊からは一気に毒ガスが溢れ出した。その毒ガスの中から、天井に向けられ、何かが発射されると巨大ミミズは氷塊の上に落下し、その動きを止める。
巨大ミミズが動きを止めた様子に氷塊を割って顔を出したポイズンリザードはその飢えを満たすために巨大ミミズに食いつく。