第123話
「アーカスさん、ジークさんとカインさんに何があったんですか?」
「……」
ノエルはこのままでは話にならないと思ったようでアーカスに2人の関係を聞こうとする。しかし、アーカスは先ほどまで立っていた場所にはおらず、キョロキョロと部屋の中を見回すとアーカスは夕飯前にジークが書いていた地図を手に持ち、その出来を眺めている。
ノエルは直ぐにアーカスに駆け寄り、2人の間に何があったかと聞くがアーカスは興味すらないようでそばに置いてあったペンを手に取り、更に細かい書き込みをして行く。
「あ、あの。アーカスさん?」
「過程などどうでもいいだろう。少なくともあの性格破綻者がいては小僧も小娘もまともに動かん」
「だからと言って、そう言うわけにはいかないです。ジークさん」
アーカスはカインの事を説明するのも面倒なのか、ジークとフィーナの2人と組ませる事は出来ないと言い切る。ノエルはアズやルッケルの住人が困っているのを見ていられないようであり、ジークの服の袖をつかむと泣きそうな表情で彼の顔を見上げる。
「う……」
「ジークさん、せっかく、魔導機器も置いてきたんですし」
「でもな。俺達は元々、王都からの調査員が来るまでの繋ぎだったわけだし」
ノエルの表情にジークは罪悪感を持ったのか、ノエルの顔が近くにあるのかわからないが彼女から視線を逸らす。ノエルはジークの様子に気が付く事なく、懇願し、ジークは精神的に追い詰められて行き、アズからの依頼は達成されたと逃げようとする。
「ジーク、すいません。その依頼ですが、もう少し延長してください。カインが持ってきた書状はなぜか、カイン1人を調査員として送り出すとなっていまして、どう言う事かわからないため、明日の朝にもう1度、使者を出そうと思っています。流石に1人とは言え、王都からの正式な調査員ですし、調査の段階で何かあっても困りますし。こちらとしても鉱山にともに入る護衛は必要なんです」
「カインさん、1人何ですか?」
カインが持ってきた王都からの書状にはカイン1人を調査員としてルッケルに派遣するとだけ書かれており、それを受け取ったアズはどう対応して良いのかわからないようで大きく肩を落とす。
「……性格の悪さで他の調査員が逃げ出したか、国王にアズさんの書状が渡る前に、あれが使者を狩って、書状を取り上げてねつ造したかだな」
「確かに、その可能性も否定はできないな」
ジークはアズの話に、調査員が1人しか来ないのはカインのせいだと決めつけ、アーカスはあまり興味がなさそうにその言葉を肯定する。ノエルとアズの表情はジークの言葉が常識的に考えてあり得ないその言葉に眉間にしわを寄せて少しの間、考え込む。
「ジークさん、いくらなんでもそんな事はないと思いますよ」
「はい。しっかりと国王様の印が押されていました」
「……そうだと信じたいな」
考えてはみたもののやはり、ジークの言葉は信じられないため、冗談は止めて欲しいと笑い飛ばそうとする。
しかし、ジークの表情は真剣そのものであり、ノエルとアズは顔を見合せるも嫌ってるとは言え、ジークが誰かをそこまで悪く言う事も信じられないようでどう反応して良いものかわからないように見える。
「アズさん、俺達は俺達で明日の朝に魔導機器を取りに行きます。あくまでも別行動で、あれの護衛は冒険者を雇うか、アズさんの私兵団を付けてください。変に誤魔化しません。あれとは一緒に動きません」
「残念ながら、どうも、俺は冒険者達に嫌われているみたいでね。護衛を断られてしまったんだよ」
「……そりゃ、あんたみたいな人間と組みたいって人間はいないわよ」
ジークはもう1度、釘を刺したいようできっぱりとカインとの行動はしないと言い切った。そのタイミングをまるで狙ったかのようにフィーナを引きずったカインがジークの部屋に現れる。
そして、ジークの意見をあざ笑うかのようにすでに自分と組む冒険者はいないと言い、フィーナは証言をさせるために連れ回されていたようであり、その表情にははっきりとした疲れの色が見える。
「全滅?」
「……すでに、あれの悪行は国中の冒険者に伝わっているのか?」
「ええ、名前を名乗っただけで、ホールにいた冒険者全員が割れ先にって部屋に逃げ帰ったわ」
ノエルとアズはあり得ない状況に顔を引きつらせるが、ジークは納得できる結果だと頷く。フィーナはカインに連れ回されたなかで見た冒険者達の様子を思い出して眉間にしわを寄せた。
「と言う事で、王都からの調査員を1人で鉱山の中に入れるわけにはいかないから、護衛はジークとフィーナの仕事、これくらいは理解できるね?」
「アズさんの私兵団がいる。俺は絶対にイヤだ!?」
「ジ、ジークさん!?」
カインはにっこりと笑い、ジーク達に自分の護衛を命令する。ジークはそれでも悪あがきをしようと声を上げた瞬間、彼の身体は宙を舞い、背中から床にたたき落とされた。
ノエルは慌ててジークに駆け寄り、彼の身体を支える。
「な、何をしているんですか?」
「ただのしつけですよ。口のきき方も覚えない愚弟には当然の罰です。違いますか?」
「少なくとも、俺はあんたと兄弟じゃない」
アズはカインの行動に驚きの声を上げた。カインはしつけだと言う。ジークは痛む背中に顔を歪めながらカインを睨みつけるが、カインはそんなジークを見下ろすように笑っている。
「小娘、これが結果だ。この性格破綻者とまともに依頼ができるわけがないだろ。調査もせずに周囲の被害も気にする事なく氷塊事、毒ガスを焼きつくそうとするだろうしな。鉱山の奥には貴重な魔導機器を置いてきたんだ。この性格破綻者に壊されるわけにはいかんからな。わかったな」
「仕方ありませんね。アーカスさんが鉱山内部の毒ガスの濃度を下げてくれるようですから、明日1日待ちましょう」
アーカスはカインが鉱山内部で何をするかわからないためか、カインの参加を認めないと言い切る。カインはその言葉に頷くが本当に納得しているかはわからない。