第121話
「……結構な時間になったな」
「まぁ、なんだかんだ言って朝にジオスを出て、強硬日程ですからね」
鉱山の入口まで戻ってくると太陽はすでに西に沈みかけており、長い間、鉱山の中にもぐっていた事がわかる。ジークは流石に疲れているようで大きく肩を落とした。
「とりあえず、アズさんの屋敷に戻りましょう。流石に疲れたわ」
「そうですね。アズさん達に現状の報告もしないといけませんし」
フィーナは巨大ミミズの影におびえていた事もあり、精神的にかなり疲れているようでいつもの騒がしさはなく、ノエルは苦笑いを浮かべる。
4人は帰還した事を現在、鉱山の管理をしている兵士達の詰め所に報告した後にアズの屋敷に向かって歩き出す。
「と言う事で、明日、実験が成功しているか見てきます」
「そうですか……」
アズの屋敷に到着すると4人は応接室に通され、そこで待っていたアズに鉱山の内部の様子と毒ガス発生場所の事を説明するとアズは難しい顔をして頷く。
「アズさん、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。アーカスさん、1つお聞きしたいのですが、あの鉱山は爆発する事はありますか?」
「……毒ガスがそこから出ているんだ。地中深くではまだ活動しているだろうな。最近、この近辺に見られる地震が影響しているかはわからんがな」
アズは毒ガス発生と最近の地震騒ぎで不安になっているようで、鉱山の状況をアーカスに確認する。アーカスはアズの不安を取り除く気はないようで淡々とした口調で言い切った。
「そうですか……」
「まぁ、その辺は調査員が調べてくれるだろ」
「ちょ、ちょっと、アーカスさん、どこに行くんですか?」
アーカスはこれ以上は何も話す事はないと言いたいようで席を立とうとし、ジークは慌ててアーカスを引き止める。
「これ以上は話す事もないだろ。宿はジルのところに取ってあるんだろうな」
「あー、まだ、宿は取ってないですよ。アーカスさんがルッケルに着いて、直ぐに動き出したから」
「そう言えば、そうですね。お部屋、空いてたら良いですけど」
アーカスは宿に移動すると言うが、ジークは宿を取っていない事を思い出し、ノエルは大きく肩を落とす。
「この屋敷を使ってください。流石に現状でジーク達にこれ以上の出費を出させるわけにはいきませんから、私はここで少し、まとめる書類がありますので」
「わかりました。ありがとうございます。それじゃあ、また、後で」
アズはジーク達に屋敷に泊まるように言うとジークはアズが忙しいのを理解しているため、4人で応接室を出て行く。
「……広いな。流石、領主様」
応接室を出るとすでに使用人が待っており、ジーク達をそれぞれ1人ずつ部屋に案内し、ジークは部屋の大きさに落ち着かないようでため息を吐くが何かやる事があるのかすでに部屋に運ばれていた荷物を漁りだす。
「ジーク、いる?」
「失礼します」
その時、部屋をノックする音が聞こえるが、ジークが返事をする前にドアが開き
、ノエルとフィーナが部屋に入ってくる。
「……せめて、返事を待てよ」
「別に良いでしょ。部屋が広すぎて落ち着かないのよ。ノエルと同じ部屋にして貰ったわ」
ジークは2人の行動に呆れたようで眉間にしわを寄せるが、フィーナは気にする事はなく、ジークと同じようになれない部屋の大きさに変な気疲れをしているように見え、ノエルはフィーナの様子に苦笑いを浮かべた。
「ノエルは気にしてなさそうだな」
「はい。わたしはジークさんが治療薬を作っている間にこのお屋敷で休ませて貰いましたし」
「それもそうだな」
ノエルはルッケルに滞在している間はアズの屋敷に宿泊していたためか、申し訳なさそうな表情をしており、ジークはノエルの様子に少し困ったように笑う。
「ジーク、あんたは何かする気?」
「ん? あぁ、ちょっと、鉱山の地図もところどころ、崩落とかで狭くなってたり、進みにくいところもあっただろ。俺達は明日、魔導機器の様子を見てきたら、一先ずは用済みだけど、調査員の人達に役に立つものは書く必要があると思ってさ」
ジークは詰め所で貰った地図に書き足す情報があると言うと、部屋に置いてあったインクとペンを手に取ると地図に情報を書き足して行く。
「ジーク、あんた、こんなに細かいところまで見てるわね」
「ほ、本当です」
「……ノエルはまだしも、フィーナ、お前は冒険者だろ。少しは頭を使うって事を覚えろ」
ジークの様子をノエルとフィーナは後ろから覗き込むが2人は鉱山の中を歩く事で精一杯だったようで彼の様子に感心したようで大きく頷くが、ジークはいつまでたっても進化のないフィーナの様子に呆れ顔で言う。
「う、うるさいわよ」
「それで、2人は何かようか? 俺は見ての通り、忙しいんだよ」
「あ、あの。ジークさん、どうして、地図が何枚も出てくるんですか?」
ジークは1枚、書き終えると荷物を再び漁り、地図を大量に取り出し、ノエルの顔は引きつった。
「さっき、詰め所で貰ってきたんだよ。1枚だけ、書いておいたって何かあって、その地図が紛失したら他の人間が困るだろ」
「そ、そうかもしれないですけど」
ジークはノエルの質問にあまりくだらない事を聞かないで欲しいと言い、ノエルはジークの言葉に納得できる部分もあるだが、それでも積み重なっている地図の量に何と言って良いのかわからないようで眉間にしわを寄せている。
「あー、そうだ。ノエル、ノエルの杖を貸して貰って良いか?」
「わたしの杖ですか?」
「あぁ。後でも良いけど」
ジークは地図にペンを走らせながらも何かを思い出したようでノエルに杖を貸して欲しいと言う。しかし、ノエルはジークが何をしたいのかわからないようで首を傾げた。
「ジーク、何かするの?」
「いや、杖の先に付いている宝石って魔力を集約させるものなんだよな? それなら、昨日の魔力を結晶化したものを使えないかな? と思ってさ。ノエルの魔力を結晶化したものなら、ノエルの魔法の時に補助をしてくれるんじゃないかと思ってさ」
「そんな事ができるんですか?」
ジークはノエルが派手に魔法を失敗した事もあり、彼女の失敗の確率を減らす事は出来ないか考えたようで杖の先を魔力の結晶に取り換えたいと言う。
「特定の武器や防具に使用者の魔力を宿らせる事ができる鍛冶師もいるからな。問題はないだろう」
「アーカスさん!? いきなり、部屋に入ってこないでください!?」
「お、驚きました」
ノエルの疑問にいつの間にか部屋の中に入ってきていたアーカスが答え、ノエルとフィーナは驚きの声をあげる。
「……小僧は気が付いていたようだがな」
「まぁ、それでアーカスさん、何かありましたか?」
「夕飯の時間だそうだ。小娘、2人が部屋にいないと使用人が慌てていたぞ」
アーカスは夕飯の時間になった事を告げに来たようであり、アーカスに遅れて使用人の1人が部屋をノックして部屋に入ってくると食事の用意ができた事を告げる。