第119話
「ねえ。この穴の奥にさっきの奴の巣があったりしないよね?」
「フィーナ、知ってるか? そう言うのは口に出すと現実になるんだ」
探索を再開して、直ぐにフィーナは巨大ミミズが他にもいる可能性が高いと思ったようで、不安を口に出す。しかし、ジークは彼女の不安を振り払うような事はしない。
「……ジーク、あんたは私に気を使うって事は出来ないの?」
「フィーナが俺に対して気を使ってくれるようになったら、考える……とか話してたら、本当に巣だったりしてな」
「広いですね」
相変わらずの扱いの悪さにフィーナのこめかみにはぴくぴくと青筋が浮かぶ。ジークは穴の奥が開けている事に気づき、灯りを照らすと彼にぴったりとくっついていたノエルが灯りに照らされた空間を覗き込む。
「ジーク、さっさと奥に行って、あの虫を叩きつぶしなさいよ」
「あのなぁ。ただ広くなってるだけで巣とは限らないんだから……って、アーカスさん!?」
フィーナは巨大ミミズを警戒しているようで、ジークに先を進むように言う。ジークは決めつけるなと言いたいのかため息を吐いた時、アーカスがジークとノエルの隣をすり抜けて行く。
「ま、待ってください。どうしたんですか?」
「アーカスさん、危ないですよ」
「……見てみろ。どうやら、目的の場所のようだ」
「目的の場所?」
ジークとノエルは慌てて、アーカスに声をかける。その声にアーカスは振り返る事なく、ただ1点に視線を向け、ここが自分達が探していた場所だと告げた。
「あぁ」
「これって、毒ガスが結晶化してるの?」
「いや、結晶化ってよりは」
アーカスの視線の先には巨大な氷のような塊があり、ところどころにひびが入り、そこから何かが漏れている音がしている。フィーナはその塊を毒ガスの結晶だと思ったようだが、ジークは彼女とは異なる印象を持ったようで頭をかく。
「あ、あの。ここって少し寒くありませんか?」
「そ、そう言われるとそうね……ジーク?」
「……これは仕方ないだろ」
ノエルはこの場所に着いた時から肌寒く思っているようでジークにひっつくとジークはノエルの感触に鼻の下が伸び、フィーナから冷たい視線を受ける。
「たぶん、これって、毒ガスの結晶じゃなくて、鉱山に振った雨が地下に溜まって毒ガスの吹き出し口を凍らせてるんだと思うんだよ」
「小僧の言う通りだな。先日からの地震で氷にひびが入り、毒ガスが充満して行ったなか、あのミミズが坑道近くまで穴を掘った事で毒ガスが鉱山内部に充満したんだろう」
ジークとアーカスは鉱山で毒ガスが噴き出した原因を推測する。
「それじゃあ、どうするのよ? この氷のひびをアーカスさんの魔法で修復するとか?」
「いや、それだと俺達、こんなところまで何しにきたんだよ。だいたい、そんな事でアーカスさんが納得すると思うか?」
「……間違いなくしないわね」
フィーナは氷塊のひびを閉じる事が出来れば毒ガス騒ぎは収まると思ったようだが、直ぐにアーカスがそんな事で納得するわけがないと思い、眉間にしわを寄せた。
「アーカスさん、どうするんですか? ア、アーカスさん!?」
「……」
ノエルはアーカスが氷塊に近づいている事に気が付き、彼を呼ぶがすでに彼の興味は氷塊に移っているため、ノエルの声は聞こえていない。
「ジークさん」
「何もないとは言えないから、俺達も行こう」
ノエルはアーカスに無視された事がショックだったようで若干、涙目になっている。ジークはノエルの様子に苦笑いを浮かべるもアーカスに何かあっても困るため、アーカスを追いかけようと言い、ノエルとフィーナは頷くとアーカスの後を追いかける。
「アーカスさん、どうです? 何かやることあります?」
「……小僧、出力を上げて、ここを撃ち抜け」
ジーク達は下手に氷塊に手を出して毒ガスが漏れても困るため、アーカスに指示を仰ぐとアーカスは氷塊の脆そうな部分を見つけたようで、魔導銃で氷塊を撃つ抜けとジークに言う。
「ここを撃ち抜けって、いきなり、粉々になったりしませんよね?」
「……わざわざ、そんな危険な事をするか」
「そうですね……出力はこのままでいいですか?」
ジークは腰のホルダから魔導銃を引き抜くと最悪の状況を危惧するが、アーカスはくだらない事を言うなと言い切る。ジークはため息を吐くとアーカスに魔導銃の威力の確認をする。
「そのままで良い」
「そうですか……ノエル、フィーナ、何かあったら困るから一応、下がってくれ」
「はい。わかりました」
「ジーク、失敗するんじゃないわよ」
ジークは魔導銃を構えて、ノエルとフィーナに後ろに下がっていろと言うと2人からジークを応援する声が響く。
「……動かない物を外すほど、バカじゃないって」
「そうだな」
ジークは後ろから聞こえる2人の声に苦笑いを浮かべるも、直ぐに表情を引き締めて魔導銃の引鉄を引く。
それと同時に魔導銃の銃身には光が集約され、氷塊に向かって光を撃ち出す。
撃ち出された光は氷塊を融かし、撃ち抜かれた個所は湯気とともに勢いよく毒ガスが噴き出した。
「アーカスさん、これって不味くないですか!? 安全だったんじゃないんですか?」
「……これで良いんだ。毒ガスの吹き出し口に最も近い個所まで穴を開けた。その分、他のひびから漏れる毒ガスが減っているだろ」
ジークは噴き出した毒ガスに驚きの声をあげるが、アーカスには彼の考えがあるようでところどころから漏れ出していた毒ガスは勢いを弱らせている。
「本当です」
「それじゃあ、この穴から出る毒ガスで魔導機器を試すのね?」
「……ジーク」
ノエルとフィーナは氷塊の変化に気が付き、感心したようで大きく頷く。アーカスはそんな2人の様子を気にする事なく、ジークに持ってきた魔導機器を出すように言う。
「はいはい。ここで良いんですか?」
「そうだな……小僧どもお前達は今から毒ガスが漏れている個所を塞いで行け。魔導銃の威力を最弱にして、少し融かせば、この気温で勝手に凍り付く。心配なら水と風の精霊に助けを借りて気温を下げて凍り付く時間を早めろ」
ジークは魔導機器を穴のそばに置くとアーカスから次の指示が出る。
「氷を溶かすね。フィーナ、間違っても壊すなよ」
「わかってるわよ」
ジークは魔導銃を1つ、フィーナに渡す。フィーナは使い慣れない武器を持ったため、少しだけ興味があるのか魔導銃の銃口を覗き込む。
「……やっぱり、ノエルに任せる。誤射でもされたらたまったもんじゃない」
「ちょ、ちょっと、ジーク、何をするのよ?」
「……いや、やっぱり、俺1人でやる」
ジークはフィーナの様子にため息を吐くと考え直したようでフィーナから魔導銃を取り上げ、ノエルに魔導銃を渡そうとするがノエルはフィーナ以上に誤射の可能性があると思ったようで頭をかく。