第118話
「これで、進めるな」
「そ、そうかも知れませんけど」
アーカスは邪魔なものを避ける事ができたとしか思っていないようであり、彼の様子にジークはため息を吐く。
「こ、攻撃魔法、怖いです。こ、こんな事になるなんて」
「ノ、ノエル、大丈夫だから、落ち着いて」
ノエルは自分の魔法の威力に顔を青くして小刻みに震えており、フィーナはノエルに駆け寄った。
「そうだったな。小娘、さっきの続きだ。風の精霊に呼び掛けて魔法を張れ」
「む、無理です」
「まぁ、当然だよな。アーカスさん、使い慣れない魔法を練習する時間もないですし、支援魔法をお願いします」
アーカスは先を進むに当たり、ノエルに再度、支援魔法に挑戦するように言う。しかし、ノエルは失敗する事しか頭に浮かばないようで顔を青くしたまま全力で首を横に振る。
ジークは今のノエルの様子ではまともに魔法が発動するとは思えないため、アーカスに魔法を頼む。
「仕方ないか……小娘、しっかりと見ていろ。支援魔法や治癒魔法は生命線だ。いくら攻撃力が高かろうと死ねば終わりだ」
「は、はい」
アーカスは逃げ腰のノエルを見下すように冷たい視線を向けた後に、魔法の詠唱に移る。ノエルはアーカスの言葉に大きく頷くがその視線の先にはアーカスは映る事はなく、不安で仕方ないのかそばにいるフィーナの服をつかんで震えている。
「……行くぞ」
「そうですね。ノエル、歩けるか?」
魔法が発動するとアーカスは直ぐに先に進みたいようで、ジークに目で指示をだす。ジークはノエルの様子が心配のため、少し休憩をしたいようだがアーカスの魔力にも限界があり、長時間の探索は建設的ではない事も理解している。
ジークは震えているノエルの目の前まで歩き、彼女に手を伸ばす。
「は、はい。大丈夫です」
「ジーク」
「あー、フィーナ、お前の言いたい事もわかる。でも、ノエルが支援魔法を使えないってなると長時間の探索は無理だろ。アーカスさん、その魔法って後何回使えそうなんですか?」
ノエルは震えた手でジークの手を握り返すがその様子は酷く弱々しく、フィーナはこの状態では先に進む事など無理と思ったようでジークの名前を呼ぶ。
ジークはフィーナの考えも理解出来るため、乱暴に頭をかくと状況を確認したいようでアーカスへと視線を向ける。
「……現状で言えば、4人分と考えれば2回。仮に戦闘があると考えれば1回だな。灯りも点ける必要もあるからな」
「ノエルが魔法を使えれば探索時間が単純に増える。アーカスさんはそれを見越して、ノエルに魔法を使えないか試したわけだよ。アーカスさん、これを渡して置きます」
ジークはアーカスの回答もある程度は予測できていたようでため息を吐くとゴソゴソと持っていたカバンを漁り、魔力の回復薬を渡す。
「あぁ」
「って、なると時間はかけられない。ノエルが歩けないって言っても、歩いて貰うしかない」
「わ、わかってます。わたしは歩けます。大丈夫です」
ノエルは自分が迷惑をかけている事を理解しており、自分を奮い立たせるように握り締めていたジークの手をしっかりと握る。それと同時にノエルの瞳には力が戻り始める。
「……強いな」
「強くなんてないです」
ジークはノエルが自分で立ちあがった姿に小さな声でつぶやく、ノエルはその声が聞こえたようで首を横に振った。
「それじゃあ、行きますか?」
「はい」
自分のつぶやきがノエルに聞かれた事を恥ずかしく思ったようで、彼女から視線を逸らして探索を再開させようとするとノエルは大きく頷く。
「とりあえず、坑道よりは道もせまいし、高さもバラバラだから、頭をぶつけないようにな」
「わかってるわよ」
ジークは灯りを照らし、巨大ミミズの作った道の奥をのぞき込み。気が付いた注意点を話すと、フィーナはそれくらい常識の範疇と言いたげにため息を吐いた。
「順番はさっきのままで良いな……ノエル?」
「な、何でもありません!?」
「なら、放してくれ。歩きにくい」
ジークは歩き出そうとするが、彼の身体は後方から引きとめられており、振り返ると大丈夫と言ったわりにはノエルは不安なのかジークの服をしっかりと握りしめている。そんな彼女の様子に苦笑いを浮かべたジークは彼女に手を放すように言う。しかし、彼女はなかなか手を放せないようである。
「……さっき、カッコ良く決まったと思ったのにな」
「す、すいません。すぐに放します」
「そのまま歩け。時間がない」
ノエルはジークの服から手を放そうとするが踏ん切りがつかないようであり、アーカスは眉間にしわを寄せると、歩く順番を自分とノエルを入れ替えると言う。
「……歩きにくいし、周囲の警戒がしにくいんですけど」
「進まないよりマシだ。時間がない」
「そうですね。ノエル、落ち着くまで服をつかんでて良いから、歩くぞ」
「は、はい。申し訳ありません」
ジークは2人でくっ付いて歩くのは危険だと言うが、アーカスはノエルが落ち着くまで待つ時間はないと言い切った。ジークは眉間にしわを寄せつつもアーカスの提案に頷く。ノエルはジークの言葉に少し不安が拭えたのか笑顔を見せるとジークは照れくさくなったようでノエルから視線を逸らす。
「……何、デレデレしてるのよ?」
「べ、別にしてない」
逸らした視線の先には不機嫌そうな表情をしたフィーナが立っており、ジークは慌てて首を横に振る。
「良いから進め。時間がないと言ってるのが理解できないのか?」
「わ、わかってますよ。ノエル」
「は、はい。進みましょう」
アーカスは一向に進まないジークの様子に眉間にしわを寄せる。ジークとノエルはアーカスの様子に彼の苛立ちを察知したようでそそくさと歩き出す。