第116話
ジークの魔導銃からは光が放たれ、彼の視線の先にあった物へ一直線に襲いかかる。
「……やっぱり、相手が大きくなると決め手に欠けるよな」
「そう思うなら、剣でも槍でも覚えろ」
「それは遠慮します」
魔導銃から放たれた光は外れる事なく、撃ち抜いたようで悲鳴のような音が地鳴りとともに響く。その音にジークは倒しきれなかった事を直観的に理解したようでため息を吐き、アーカスは自分が制作した魔導銃に文句があるのかと言いたげである。
「……今更ですけど、あれを倒したら、この穴は塞がりますよね?」
「その時は他の道を探すだけだ」
ジークは攻撃をしておきながら、この後の事を考えていなかったようであり、その事実に気が付き顔を引きつらせた。しかし、アーカスは淡々とした口調で別の道を探すと言い切る。
「……そうですね。逃げてくれると楽なんだけど、そうは行かないよな?」
「ジークさん、頑張ってください」
ジークがため息を吐くと穴の先からは巨大ミミズが顔を覗かせた。ミミズのため、目はないがその様子は怒りの表情でジーク達を睨みつけているようにも見える。
「……フィーナじゃないけど、あんなの相手にしたくないよな」
「文句を言う前に終わらせろ。このままでは、あれに潰されて終わりだ」
「ですよね」
アーカスはジークに素早く巨大ミミズを仕留めるように言い、ジークは魔導銃の引鉄を引く。
魔導銃から放たれた光は次々と巨大ミミズを撃ち抜いて行くが、巨大ミミズは撃ち抜かれた個所から体液を流しているが移動スピードを緩める事なく、こちらに向かってくる。
「……不味いかも」
「……何で、こんなところにミミズがいるのよ?」
「フィ、フィーナさん、落ち着いてください」
ジークは止まらない巨大ミミズの姿に状況が悪くなっているため、表情をしかめる。その時、フィーナが穴の底まで到着したようで目の前の巨大ミミズを見て、顔からは血の気が引いて行く。
「あー、何か、前より、後の方が不味い感じ?」
「ジークさん、それってどう言う事ですか?」
ジークは背後から聞こえたフィーナの声に危うい物を感じ取ったようで眉間にしわを寄せ、ノエルは首を傾げる。
「ノエル、何も言わずに、フィーナに腕力の支援魔法をかけてくれ」
「で、でも、フィーナさんは巨大なミミズ相手では」
「良いから、速くしてくれ」
ノエルはジークからの支援魔法要請の意味がわからないようであり、ジークからもう1度、指示が飛ぶ。
「わ、わかりました」
「……取りあえず、時間を稼いでくるか? ノエルに耐久力をあげる魔法を受けていて良かったよ」
ノエルは両手で杖を握り締めて、魔法の詠唱を始めるとジークは巨大ミミズに向かって駆け出す。
「……目の前に立つと、改めて、気持ち悪いな!?」
ジークは目に映る巨大ミミズの大きさに表情を引き締めた時、巨大ミミズはジークを攻撃対象と決めたようで、その大きな体躯を使い、ジークに体当たりを仕掛けた。
ジークは逃げ場所はないため、その攻撃を両手で受け止めるが、その勢いは人1人では防ぎきれるものではなく、ジークは吹っ飛ばされる。
「ジ、ジークさん!?」
「……やば。右手、折れたかも、背中も痛い」
ジークが吹き飛んできたジークにノエルは駆け寄りる。ジークは予想していた威力を超えていたようで右手と吹き飛ばされた時に打ち付けた背中に感じる痛みに顔を歪ませた。
「す、直ぐに回復魔法をかけます」
「わ、悪い」
ノエルは直ぐに回復魔法に移り、ジークは痛みに顔を歪ませながらも頷く。
「……虫のくせに、ミミズのくせに」
「やっぱり、こうなった」
その時、魔法の詠唱を行っているノエルの後ろから、フィーナの声が聞こえ、ジークは彼女の声にこの後に起きる事を察していたようで脂汗を流しながらつぶやいた。
「……小僧、小娘はキレたのか?」
「でしょうね、俺が言うのもなんですが、キレたら手が付けられませんよ」
フィーナはゆっくりとした速さでジークとノエルを横をすり抜け、戦闘に立つ。その手にはしっかりと彼女の武器である剣が握られており、アーカスは彼女の様子に眉間にしわを寄せた。
「……目の焦点が合ってないんだが、大丈夫か?」
「とりあえず、巻き込まれないように後ろに下がった方が良いかも知れませんね」
ジークは痛む身体にムチを打つように立ち上がり、ふらふらと後方に下がろうとする。
「ミミズのくせにこんなに大きくなるんじゃないわよ!!」
「いや、それは差別だと思うぞ。いろんな生物がいるわけだし」
フィーナは剣を上段に構えて叫ぶと、巨大ミミズに向かって剣を振り下ろす。ジークはその言葉にため息を吐くが巨大ミミズの頭は縦に真っ二つに切り裂かれ、体液が噴き出した。
「虫のくせに、ミミズのくせに!!」
「あ、あの。ジークさん、フィーナさんを止めなくても良いんですか?」
「しばらくは放っておけば良い。下手に止めに行って、被害を受けるのはゴメンだ。しかし、治癒魔法って凄いなぁ。痛みが取れたよ」
フィーナは感情のまま、巨大ミミズを斬り付け、ノエルは魔法を唱え終わると彼女の姿に顔を引きつらせる。ジークは回復魔法の効果を実感しているのか、先ほどまで痛んでいた右手に痛みがない事を確認すると感心したようである。
「そ、そうですか?」
「まぁ、腕が折れてなかったから、そのままで良かったがな。本当に折れていたなら、安易に使うと変な形で骨が付くぞ」
「そうなんですか?」
ノエルはジークに誉められた事が照れくさいようで顔を赤らめると、アーカスはジークのケガの状況も見ていたようで安易に治癒魔法は使わない方が良いと言う。