第115話
「ノエル、しっかり捕まってろよ」
「は、はい」
ジークはノエルを背負うと落ちないように声をかけ、ノエルはその言葉に大きく頷き、腕に力を込める。
「うし」
「……小僧、おかしな事を考える前に進め」
「ラ、ラジャー」
ジークはノエルがしっかりと抱きついた事で背中に伝わる弾力に小さくガッツポーズをする。アーカスはそんな彼の様子に眉間にしわを寄せ、ジークはアーカスからの視線に逃げるように縦穴を降りて行く。
「ジークさん、お、落ちませんよね?」
「ノエルがおかしな動きをしなければ大丈夫。後は下に何か待ち構えてなければ問題なし」
ジークはノエルを背負っているため、先ほどよりはゆっくりとした速さで穴を降りるが、ノエルは経験のない事のようで不安なのか声は震えている。
「ジークさんは、慣れているんですか?」
「まぁ、崖の下とかにある薬草もあるし、それで降りたりするから慣れていると言えば、慣れてるけど、到着」
「は、速いです」
ノエルは不安を振り払いたいのか、ジークに声をかけるが、その途中ですでにそこに到着し、ノエルは驚きの声を上げた。
「まぁ、俺より、アーカスさんの方が、もっと早い」
「そうなんですか?」
ジークは苦笑いを浮かべながら、ノエルを下ろすとアーカスはもっと手慣れていると言い、そこに到着した事を知らせるためか、ロープを引っ張る。
「あぁ。あの人、精霊使いなのに活動的だから」
「確かに1人で遺跡の中まで行っちゃいますからね」
「と言うか、何か他の戦闘技術を覚えてくれれば良いのに、そしたら楽ができる」
ノエルはアーカスの行動力の高さに苦笑いを浮かべるとジークはアーカスにかなり面倒事を押し付けられているようで愚痴を吐いた。
「……それは悪かったな」
「い、いえ、そんな事はないです!?」
その時にはすでにアーカスはジークとノエルの元に移動しており、ジークは背中に冷たい物が伝ったようで直ぐに首を横に振る。
「後は小娘だな。しばらく、時間がかかるか?」
「いや、下手に時間を置くより、直ぐに降りてきて欲しいんだけど……って、毒ガスを防ぐ魔法って効果時間は大丈夫なんですか?」
「そうだな。そろそろ切れてもおかしくないか?」
アーカスは既にフィーナに連絡をしていたようだが、フィーナがロープを伝っている様子はなくアーカスは眉間にしわを寄せる。ジークはその言葉に苦笑いを浮かべるが、自分の言葉の途中で魔法の効果時間を思い出す。
「おかしくないか? じゃないです!! フィーナさん、早く降りてきてください。魔法の時間が」
「……アーカスさん、フィーナはまだ考え込んでたんですか?」
「そうだな。私が降りる前はまだぶつぶつと言っていたな」
ノエルは慌てて、穴の下からフィーナに呼びかけ、ジークとアーカスはため息を吐く。
「……迎えに行った方が良いのか?」
「ジ、ジークさん、わたし、フィーナさんを迎えに行ってきます」
「……落ち着け。ノエルは登れないだろ」
ノエルはフィーナの事が心配だと言って、ロープを登ろうとするが、少しも登る事はできず、ジークは頭をかいた。
「フィーナ、魔法の効果時間が微妙だから、降りて来い」
「い、今、行くわよ」
ジークは大きく息を吸い込み、叫ぶように声を張り上げるとフィーナの声が返ってくる。
「とりあえず、これで良いか? 慌てて落ちてこなければ良いけどな」
「そうだな」
ジークはフィーナからの返事が有った事に一先ず、安心したようで苦笑いを浮かべる。アーカスはあまり興味がないのか小さく頷くと灯りで照らされている範囲に何かないか見回し始める。
「アーカスさん、何かありますか?」
「とりあえず、空気の流れは感じるな」
「毒ガスはどっちから流れてきてるかわかりますか?」
ノエルは自分達が進む方向を知りたいようでアーカスに毒ガスの流れを聞く。
「現状で言えば、わからん。一先ずは一本道なんだ。このまま、進むしかないだろうな」
「と言ってもまずはフィーナが合流しないと始まらないんだけどな。って、何だ?」
アーカスは首を横に振り、ジークはフィーナの位置を確認するように穴の上を見上げた時、地面が揺れる。
「な、何!? 何なのよ!! 何で私の時だけ!!」
「フィーナさん、大丈夫ですか?」
「ノエル、もう半分くらいまできてるから、落ちても大丈夫だから、そこから離れろ」
フィーナは理不尽だと言いたげに声をあげ、ノエルは心配そうにフィーナに声をかけるがジークは彼女の腕を引っ張った。
「ジーク、わかっているな」
「はいはい。あまり、動かれると穴だらけになりますし、フィーナが対面するとうるさいんで、手早く片付けましょう」
ジークとアーカスは地面が揺れた原因に気が付いたようであり、ジークは1歩前に出て、腰のホルダーから魔導銃を抜く。
「ジークさん、どう言う事ですか?」
「まぁ、簡単に言えば、この穴を作った張本人の襲来。ミミズかはわからないけどな」
ノエルは何が起きるかわからないようで、不安そうに両手で杖を握り締めるとジークは苦笑いを浮かべて耳を澄ます。
「……小娘、小僧への支援魔法は任せるぞ。私は他にやる事がある」
「は、はい。えーと、ジークさんは素早さをあげる魔法が」
「いや、この穴の中だと動きが限られてるから、耐久力で」
「わ、わかりました」
ノエルは慌てて支援魔法に移ろうとするが、ジークは冷静に指示をだし、ノエルは大きく頷いた。
「とりあえず、最大出力で先制攻撃?」
「外すと、道が塞がれるがな」
「……冗談ですよ。何度もぶっ壊したくありませんし」
ジークは魔導銃の出力を上げようとするが、思いとどまったようで視線の先に照準を合わせると引鉄を引く。