第114話
「着きました」
「……取りあえず、おかしなものは出なかったわね」
毒ガスの噴出位置までは特に何も起きず、フィーナは安心したようで胸をなで下ろす。
「本当にここか?」
「はい。鉱山の人の話をまとめた情報ではここで間違いないですね。だけど……精霊の灯りだから見えないのかな?」
アーカスはこの場所に違和感を覚えたようで、眉間にしわを寄せるとジークもアーカスと同じ違和感を覚えているのか頭をかく。
「ジークさん、アーカスさん、どうかしたんですか? 魔導機器を起動させて脱出しましょうよ」
「そうなんだけどな」
「何が引っかかるのよ?」
フィーナはジークとアーカスが気になっている事にまったく想像が付かないようで首を傾げる。
「これを見てくれるか」
「何? これに何の意味があるのよ?」
ジークは持ってきていた鉱山内部の地図を噴出位置らしき穴に近づけるが、地図は動く事はない。
「単純に毒ガスが噴き出てるって事は、本来なら、この地図が噴き出しているガスで揺れたりするわけだよ」
「そう言われればそうですね」
ジークはこの場所からは毒ガスが噴き出していないと言い、ノエルは不思議そうに首を傾げた。
「何? それって、無駄足って事?」
「まだ、そうとも言い切れないけどな。この中で一時的に毒ガスが溜まって、この穴から噴き出す可能性もあるわけだし、他にはさっき話題に出た巨大ミミズがどこかに穴を開けて、そこから噴き出してるとか」
ジークは毒ガスが出ていない理由を考えているようで乱暴に頭をかく。
「小僧、どうやら、後者のようだぞ」
「……本当ですか?」
「あぁ。小娘、ここの石を避けろ」
ジークが推測を立てている間に、アーカスは周囲を調べていたようで何かを見つけたようで、フィーナに指示を出す。
「私が?」
「力仕事はお前の仕事だろ」
「まぁ、頭脳労働はできないからな」
フィーナは文句がありそうだが、アーカスに何を言っても無駄なため、不機嫌そうな表情でアーカスが指定した石をいくつか避ける。
「空洞がありますね」
「結構深いな……まぁ、俺が最初に行くんでしょうね」
「当然だな」
フィーナが石を避けるとそこには下りられそうな縦穴があり、ジークはため息を吐くと荷物からロープを取り出す。
「それじゃあ、行ってきます」
「ジークさん、気を付けてくださいね」
ジークは適当なところにロープを縛りつけると縦穴を降りて行く。
「一先ずは、ロープが尽きる前に下まで着けば良いわね」
「そうだな」
ジークからの反応があるまでは下手に動くわけにもいかないため、アーカスはこの位置で光の精霊を呼び出し、灯りを確保する。
「ジークさん、大丈夫ですかね? 誰か付いて行った方が良いんじゃないでしょうか?」
「とりあえず、ノエルが降りるとジークは下敷きになるから、待ってなさい」
「で、ですけど」
「良いから、待ってなさい」
「はい。わかりました」
ノエルはジークが心配のようで追いかけたいと言うがフィーナは全力で止め、ノエルはしゅんと肩を落とす。
「アーカスさん、ジークが戻ってくるまで、何かできる事ってないですか?」
「そうだな。特に何もないな。小娘は周囲を警戒していろ。小僧がいないんだ。まともに戦えるのは小娘だけだからな」
「わ、わかってるわよ」
アーカスはフィーナに周囲を警戒するように言うと、フィーナはジークが下りている縦穴を作った巨大ミミズが出てくる事を心配しているようで落ち着かないようである。
「小娘、言って置くぞ。小僧がいないんだ。お前が逃げ出したら、総くずれだからな」
「わ、わかってるわよ」
「すいません。なんか、盛り上がっているところ、悪いんですけど戻ってきました」
アーカスがフィーナにおかしなプレッシャーをかけているなか、ジークは申し訳なさそうに縦穴から顔を出す。
「ジークさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、縦穴自体は暗いから底まで見えなかったけど、5メートルくらいかな? そんなに深くない。ただ、その後に緩い傾斜の坂でまだ降りられそうです。ただ……」
ノエルは直ぐにジークに駆け寄ると、ジークは縦穴の様子を話すが、ノエルを見てため息を吐いた。
「どうかしましたか?」
「いや、ノエルをどうやって下まで連れて行こうかな? と思ってさ」
首を傾げるノエルの様子にジークは困ったように笑う。
「お、降りれますよ」
「無理ね」
「そう思うだろ」
ノエルは1人で降りられると言うが、フィーナは首を横に振った。
「まぁ、小娘は小僧が背負って降りるしかないだろうな。後は降りる順番だ」
「まぁ、そうなるか。フィーナ、先に降りるか? 後に降りるか?」
「……ミミズの通った道なのよね?」
ジークはフィーナに順番をどうするかと聞く。フィーナはミミズの穴に降りると言う事実から目を背けたいようで眉間にしわを寄せている。
「あ、あの。わたし、ジークさんに背負われるんですか?」
「まぁ、落ちたらケガするしな。女の子1人くらいなら、どうにかなる。ノエルはフィーナと違って軽装だし」
「ジーク、また、私にケンカを売ってる?」
ノエルはジークに負担をかけていけないと思っているようだが、ノエルが落ちる危険性を考えると自分が背負った方が安心だと笑う。しかし、その言葉をフィーナは眉間にしわを寄せた。
「そんなわけないだろ。鎧を着てる人間を抱えて歩けるほど、俺に体力はない。落ちる可能性が高いと思うなら、鎧を降ろしてから、降りろ」
「……その場合、下でミミズにあったら終わりじゃない」
「アーカスさん、俺、ノエルを連れて先に降りますね」
「あぁ」
フィーナはどうするべきか悩んでいるようで眉間のしわはいっそう深くなるが、答えはまだ出そうになく、ジークは先に縦穴を降りる事を選ぶ。