第113話
「ランタンをですか? どうしてです?」
「……良いから、早くしろ。魔法の効果時間もあるんだ」
「わかりましたよ」
ジークは首を傾げるが、アーカスは魔法の詠唱を始め出す。ジークはアーカスの様子にため息を吐くとランタンを取り出した。
「と言うか、いつもの事だけど、フィーナ、お前は持ち歩いてないわけな」
「何よ?」
「いや、もう良いや」
ジークは冒険者が遺跡などに入る事に必要なランタンを持ち歩いていないフィーナの様子に呆れたように言った時、アーカスの魔法が発動したようでランタンが光輝く。
「なるほど、これで遺跡内部を照らしながら進むわけですね」
「あぁ。光の精霊に力を借りたんだ。使えれば遺跡や洞窟探索には必要な魔法だろう」
ジークはランタンを覗き込むがアーカスは興味なさげであり、その目はジークに奥へ進むように言っている。
「わかりました……えーと、流石に鉱山ですから、道は広いですね。俺、アーカスさん、ノエルの2人、フィーナの順かな?」
「まぁ、そうなるわね」
ジークは隊列を決めるとフィーナは頷く。しかし、今回は巨大ミミズの影におびえているのか反応は鈍い。
「それじゃあ、行くぞ」
「は、はい。わかりました」
ジークはフィーナの様子に少し対応に困っているようで頭をかく。それでも進まないわけにもいかないため、鉱山の中に入って行き、3人は彼の後に続く。
「トロッコの線路がありますね。鉱石を運搬するのに便利だから、必需品だよな」
「そうですね。でも、トロッコ自体がないです」
「そりゃそうよ。トロッコは作業員の脱出に使ったみたいだから、全部、外よ」
「あー、よく考えれば、トロッコ借りてきた方が楽だったな。歩かなくてすむ」
ジークはトロッコを見つけて、失敗したと言いたげに頭をかく。
「必要がない。それに今、トロッコの切り替え個所がどうなっているかもわからないんだ。そこで上手く止められる自信があるなら、取りに戻っても良いぞ」
「……いや、安全策で行きましょう。そっちは専門外だし」
アーカスは操作に失敗しなければ取りに戻っても良いと答えるが、ジークは操作などが全て自分の責任になると理解したようで視線を逸らす。
「それより、この暗闇を照らす魔法は便利ですね。ランタンは落としちゃったりするとそこで終わりだけど、魔法の効果がある間は明るいし、何より、光量がランタンの比じゃない」
「そうですね。アーカスさん、わたしにこの魔法を教えてください」
「断る。自分で覚えろ」
ジークは改めて、暗闇を照らしている魔法を便利だと言うとノエルはアーカスに魔法を教えて欲しいと頭を下げた。しかし、その願いは当然のように却下される。
「どうしてですか?」
「こんなものは精霊魔法の基礎の基礎だ。今更、私がどうこう言うものではない」
「そうなんですか? わたしはアーカスさんの使う精霊魔法を全然知りません」
ノエルは自分が精霊魔法の基礎を知らないと言われた事に肩を落とす。
「そこが不思議だよな。俺、遺跡で見つかった本を読むのに数日、魔法書とかも読んだけど、ノエルは精霊魔法の支援魔法についてはそれなりに強力なものだったんだよ。それなのにアーカスさんは精霊魔法の基礎もできてないって言う」
「あれじゃない? ドレイクだから、戦いに特化した魔法しか覚えてないとか、教えて貰えなかったとか」
「……それで納得がいきそうで怖いな」
ジークとフィーナはノエルの精霊魔法のいびつさが彼女の種族に関係しているのではないかと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「……あ、あの。確かにわたしの先生は攻撃魔法と戦闘支援の魔法しか教えてくれませんでした。神聖魔法は独学です。知っての通り、攻撃魔法は覚えられなくて、先生にも愛想を尽かされてしまいましたけど」
「……回復より、殴り合いか? 改めて、価値観の違いを思い知らされるな」
「そ、そうね」
ノエルは言いにくそうに自分に魔法を教えてくれた先生の話をすると、ジークとフィーナの眉間のしわはより一層深くなって行く。
「そ、そんな事はないです!?」
「いや、俺的には謎は完全に解けた」
「そうね」
ノエルは声を上げて否定しようとするが、ジークとフィーナの中では完全に納得が行ったようであり、大きく頷く。
「……そんな事はどうでも良い。それより行くぞ。戦闘にならなければ問題ないが、魔力にも限りがあるのだからな」
「わかってますよ。えーと、アーカスさん、ノエル、一応、これ」
「あ、ありがとうございます。ジークさん」
アーカスは話すより、足を進めろと言うとジークは苦笑いを浮かべるとノエルとアーカスに魔力を回復させる薬を渡す。
「守銭奴のジークがこんなものまで?」
「あのなあ。今回、重要なのはアーカスさんの魔力。何事もなければ、俺とフィーナはやる事ないんだから、最悪、昨日、遺跡から脱出した魔法分の魔力の確保が必要だろ」
フィーナはジークの行動に疑いの視線を向けるが、ジークにも考えがあるようであり、頭をかく。
「あの魔法は使えないがな」
「へ? どう言う事ですか?」
「いろいろと、条件があると言っただろ。戻る場所のマーキングに移動できる距離も関係している。この場所では遠すぎる」
アーカスは昨日の遺跡から脱出した魔法が使えない事を話し、ジークの持っていた期待は脆くも崩れ去った。
「そ、それなら、どうして、アズさんの屋敷にマーキングしてないんですか!!」
「マーキングだけで、3日かかるからな。早く、この魔導機器を試すために決まっているだろ」
アーカスに取っては魔導機器で毒ガスを結晶化できる事が重要であり、その実験を最優先した結果であると言い切る。
「……アーカスさんなら、そう言いますよね。先を急ぎましょう」
「そうね」
ジークとフィーナはアーカスの性格を考えればわかる事だったと気づき、力なく頷くと目的地に向かって歩き出す。