第112話
「……まったく、ジークのせいで恥かいちゃったじゃない」
「俺のせいか? 誰も毒ガスが噴き出している場所を調べてなかっただろ」
4人は詰め所で鉱山内部の地図を受け取り、鉱山の入口付近まで向かう。
「えーと、2人とも落ち着いてください。ほ、ほら、そろそろ、入口ですし、この辺からは濃度も薄くなってますけど毒ガスも出てきてますし、危ないんですから注意しないと」
「そうだな……小僧、毒ガスの噴出位置はわかっているな?」
「わかってますけど……俺が1人で行く流れ?」
ノエルは詰め所で私兵団から聞いた危険な場所に着いたと言い、アーカスはジークを呼ぶ。
「……誰もそんな事は言ってない。それに戦力を減らす理由はない」
「戦力を減らす理由ですか?」
「それって、戦闘もあり得るって事ですか?」
アーカスは全員で鉱山に入るつもりのようだが、彼の言葉にノエルとフィーナは何かが引っかかったようで首を傾げた。
「まぁ、無いとは言わないよな。この毒ガスの中でも動ける動物もいるだろうし、野生の生物で穴を掘ってる巨大なミミズみたいな奴もいるしな。確か、鉱山の道や洞窟の中にはそう言う生物が作った道もあるって話だし、実際、この辺にはそんな生物も出るはずだしな」
「巨大なミミズ?」
ジークは1人で戦闘などやってられないと思っており、聞いた事のある生物の話をする。ジークのたとえ話に出たミミズと言う一言にフィーナの顔は引きつる。
「どうかしたんですか?」
「な、何でもないわ」
ノエルはフィーナの変化に気が付き、彼女の顔を覗き込む。フィーナはノエルの反応に首を横に振って何でもないと言うが、その様子は明らかにおかしい。
「フィーナ、お前、虫が苦手だったか?」
「べ、別に苦手じゃないわよ……普通のサイズだと、何の問題もないわ」
「そうか。大きさか? 確かに巨大に育った虫は気持ち悪いな」
「……」
フィーナが何を苦手にしているか理解したようで苦笑いを浮かべる。フィーナはその言葉に何も答えないがその沈黙が肯定を表しているのは誰の目から見ても明らかである。
「……小娘、それなら、残っていろ」
「でしょうね」
アーカスはフィーナにこの場所に残るように言い、ジークはアーカスが何を言いたいか理解したようで頭をかく。
「ど、どうしてよ?」
「……足手まといは少ない方が良い」
フィーナは2人の言葉に文句があるようで唇を尖らせるが、アーカスは彼女を足手まといと斬り捨てると魔法の詠唱を始める。
「ちょっと、足手まといって、どう言う事よ?」
「そのまま、何だろ。アーカスさんが魔法の準備を始めたって事は魔法で毒ガスをどうにか防いで奥に進むって事だ。4人分より、3人分の方が魔力は少なくて済む。何回もかけないといけないとしたら、大変だしな」
「……それに本当に巨大なミミズが出てきた時に、冷静でいられずに逃げだしたら、命を落とす。小娘、お前は冷静に対処すると言う事を知らんからな」
アーカスの魔法は上手く発動したようでフィーナを抜かした3人の身体を淡い光が包み、アーカスは淡々とした口調でフィーナの性格等で連れて行く事は危険だと判断した事を告げる。
「まぁ、妥当ですね」
「ま、待ってください」
「何だ?」
ジークはアーカスの意見に賛成のようだが、ノエルは何かあるようで声をあげる。
「苦手なものを見たら、逃げだしたくなるのもわかります。そ、それに、ジークさん、ここでフィーナさんを置いて行ったら、絶対にフィーナさんはそのまま後を付いてきますよ」
「……ルッケルに行く時の事を考えたら否定がまったくできないな」
「……小娘、お前もなかなかきつい事を言うな」
ノエルはフィーナをフォローしようとするが、その言葉は彼女に止めを刺しているにしかすぎず、アーカスは眉間にしわを寄せた。
「そ、そんなつもりはないです!?」
「まぁ、ノエルの言う事もわかるな」
ノエルはアーカスの一言に慌てるが、ジークは苦笑いを浮かべる。
「……ノエルまで」
「これが現実だ」
フィーナはノエルからの天然の毒に大きく肩を落とし、アーカスはノエルの言い分を理解したようで再度、魔法の詠唱を開始する。
「……良いか。言って置くぞ。小娘が錯乱して、1人で逃げ出したら見捨てる。わかったな」
「了解です」
「大丈夫です。そうならないように頑張ります。フィーナさん、行きましょう」
フィーナの身体も3人と同じように光が包むと準備を終えたため、アーカスは最悪の場合はフィーナを見捨てると言い切り、4人は鉱山の入口に向かって歩き出す。
「アーカスさん、今更ですけど、この魔法って、どんな効果があるんですか?」
「……風の精霊に助けを借りて、空気の渦を作っている。それで毒ガスを防いでいるんだ」
「毒ガスを防ぐ? 毒ガスだけ防げるって便利ですね」
「到着ですね……暗いです」
ジークはアーカスから魔法の効果を聞き、感心したような表情をした時、鉱山の入口まで到着し、ノエルは鉱山の中を覗き込むがその中には闇が広がっている。
「まぁ、灯りは消えてるだろうな」
「ジーク、ランタンは?」
「いや、毒ガスは可燃性のものをあるし、ランタンは怖いって、それに……俺、毒ガスの成分を知ってるわけだしな。絶対に燃えるから火気厳禁だからな」
ジークはリックから貰った毒ガスを吸った患者の症状から、火を使うのは避けたいと言う。
「でも、それだと何も見えませんよ」
「まぁ、そこら辺はアーカスさんが精霊魔法で灯りを点けてくれるだろうし」
「……と言うか、小娘、お前は精霊魔法を使えるわりには、知らない魔法が多すぎるな。小僧、火を点けなくて良いから、ランタンを出せ」
アーカスはノエルの魔法の知識の偏りにため息を吐くも、魔法で灯りを点ける事には賛成のようでジークにランタンを出すように言う。