第110話
「リック先生、状況はどうなっていますか?」
ルッケルに到着すると馬車は領主であるアズの屋敷の前に止まり、アズは馬車から駆け出し、勢いよくドアを開ける。
「帰ってきたか? ……アーカスさんを連れてこれたのか?」
「久しいな」
リックはアーカスがルッケルまで足を運ぶとは思っていなかったようで声をあげるが、対照的にアーカスの反応は薄い。
「アーカスさん、それで、こいつはどうしたら良いんですか? 鉱山に行って動かしてきます……毒ガス、防ぐ方法ないけど」
「……はい。ジーク、毒消し」
「おお、これで奥まで行って来れるな……行けるか!!」
ジークは運んできた魔導機器を手にして、この後の行動方針について聞く。その問いにフィーナは余計な事を思いつき、毒の治療薬の1つをジークに渡し、ジークは1度、頷いた後にフィーナにツッコミを入れた。
「……ジーク、フィーナ、お前達は何をしたいんだ?」
「いや、この緊迫した空気を変えようと」
「……滑ったのはジークのせいよ」
2人のボケは完全に滑っており、リックから冷たい視線を向けられ、2人は気まずそうに視線を逸らした。
「あ、あの。リックさん、それで、患者さんの様子は?」
「あぁ、薬も効いているからな。命を落とした患者はいない。軽度の患者にも、昨日、ジークが作った治療薬を行きわたったし、現在は落ち着いている」
「そうですか」
ノエルは遠慮がちにリックに毒ガスを吸い込んだ人々の様子を聞く。アーカスは患者の状態が落ち着いてようやく一息つけると言いたげであり、イスに腰をおろした。
「それじゃあ、後はアーカスさんに任せて……よく考えたら、私達って、ルッケルに戻ってくる必要ってなかったんじゃない? 人手って足りてるわけだし」
「まぁ、それでも、そのままってのは寝覚めが悪いだろ」
フィーナは今の状況ではルッケルで手伝える事もない事に気づき、ジークは苦笑いを浮かべた。
「……それにアーカスさんとアズさん、2人だと馬車の中はキツイと思う」
「そ、そうね」
ジークとフィーナはアーカスの人間性を考えて、ルッケルには同行する必要性があったと思いなおしたようで顔を見合わせて頷く。
「……小僧、遊んでないで行くぞ」
「へ? 行くって、どこに?」
「……決まっているだろ。そいつを動かしに行く」
その時、アーカスがジークの名前を呼び、鉱山に魔導機器を運ぶと言って、アズの屋敷を出て行ってしまう。
「……えーと、エルフって毒に耐性あったかな?」
「いや、無いだろ」
「ですよね……何か対策ってしてあるよな?」
ジークは指名された事に顔を引きつらせるが後を追いかけないわけにもいかずに顔を引きつらせる。
「はい。ジーク、これ」
「……いや、もうそのボケは良い」
フィーナはジークに毒の治療薬を渡し、ジークは同じボケには乗れないと首を振った。
「あの、ジークさん、アーカスさんを追いかけなくて良いんですか?」
「行くよ。アーカスさん、行くって言ったわりに、こいつを持ってってないんだから」
ジークはアーカスが身体1つで出て行ってしまったため、魔導機器を持って屋敷を出て行こうとする。
「ジークさん、ま、待ってください。わたしも行きます」
「別にノエルは……それじゃあ、行くか」
ノエルはジークと一緒にアーカスを追いかけようとする。ジークは毒ガスを吸い込む可能性もあるため、ノエルに残るように言いかけるが、彼女の首に下がっている魔導機器を見て思いなおし、2人で屋敷を出て行く。
「フィーナ、お前は行かなくて良いのか?」
「い、行くわよ。何があるかわからないし、人手はいるから、べ、別にそれ以外に意味なんかないわよ」
「良いから、行け」
ジークとノエルが並んで出て行く様子にフィーナの顔には出遅れたと書かれており、リックは苦笑いを浮かべて、彼女の背中を押す。フィーナはその言葉に言い訳をしながら、2人の後を追いかける。
「……素直じゃないですね」
「まぁ、仕方ないだろ。もう少し正直ならないと進展も何もないしな。今はノエルもいる分、焦ってはいるようだが、どうして良いのかわからないんだろ」
フィーナの様子にアズは苦笑いを浮かべ、リックは頭をかく。
「アーカスさん、待ってくださいよ。これを持ってないのに1人で行かないでください」
「……早くしろ。わかった」
ジークは早足でアーカスを追いかけようとするが、ノエルはジークについて行けず、息も絶え絶えになっており、そんな彼女の様子にアーカスは足を止めた。
「……ノエル、本当に体力ないわね。大丈夫?」
「す、すいません。頑張って体力が付くように努力します」
後ろから追いかけてきたフィーナはノエルの様子にため息を吐き、ノエルは頭を下げる。
「アーカスさん、鉱山に行くのは良いんですけど、毒ガスを結晶化できるとしても、これの置く場所って重要ですよね? 変なところに置いても結晶にならなかったら、
意味もないですしね」
「あぁ。ベストは吹き出し口だな。それ以外の場所ではすでに濃度も薄くなっているだろうから、魔力として集められるかもわからないからな」
ジークとアーカスは魔導機器の設置場所の話し合いを始め出すが、どう考えてもその場所は危険でしかない。
「……やっぱり、奥に行く事になるのか?」
「アーカスさん、奥に行くのはわかったけど、どうやって行くのよ? 突撃なんて無謀な事しないわよね?」
「そんな脳みそがないような行動は小娘しかせん」
フィーナは毒ガスが充満している鉱山の中に入る方法を聞く。アーカスはその言葉にフィーナを完全に見下した口調で答える。
「えーと、流石にフィーナさんでも、突撃はしないと思いますよ」
「……この反応はノエルもフィーナならやりかねないと思ってる証拠だな」
「そ、そんな事はないです!?」
ノエルはフィーナを擁護しようとするが、ジークはノエルの言葉もアーカスと変わらないと苦笑いを浮かべる。