第106話
「何に使うんですか?」
「たぶん、こいつは魔導機器を動かす。動力源なんじゃないかな? 石人形もこれを壊したり、取りだしたりすると動きを止めたし」
ノエルはコアを何に使うのかわからないようで首を傾げた。ジークは彼女の疑問に答えるとアーカスの次の行動を確認していようで視線を彼の手元に移す。
「そうなんですか?」
「……この赤い石は高純度の魔力の結晶体だ」
「ねえ。ひょっとして、凄く価値のあるもの?」
赤い石の正体をアーカスが語るとフィーナは石人形事破壊したため、顔を引きつらせる。
「貴重なものではあるが、価値は低いな」
「まぁ、これを持っていてもここにあるもの以外は動かせないだろうからな。学術的な価値はあっても利用価値はまったくないな。この研究所に入れる俺達くらいしか使えないし」
ジークとアーカスは使用できないものは無価値と判断しているようで売却はできないと判断した。
「それでも、ここの物を使うとしたら、必要なものなんでしょ。ど、どうするのよ。私、壊しちゃったわよ!!」
「壊れたって言っても、砕けただけで魔力としては存在するから大丈夫じゃないか?」
「……ジーク、あんた、軽いわね」
それでもフィーナに取っては大事であり、声を張り上げるが、ジークの反応は軽い。フィーナはその様子に自分がおかしいと思ってしまったのか額を指先で押さえ考えだす。
「あの、ジークさん、本当に良いんでしょうか?」
「問題ない。必要なら作る事も出来そうだからな」
「作る事ができるんですか?」
アーカスは背後から聞こえるノエルの疑問に答える。その答えは誰も予想していなかった答えであり、ノエルは驚きの声をあげた。
「それを今から実験するんだ。これは小型のものだが、魔力を集約して結晶化する魔導機器だ」
「そんなものだったんだ」
アーカスは魔導機器の調整が終わったようで、簡単に魔導機器の説明をする。しかし、ジークは魔力を結晶化させても売り物にならないせいか若干、興味はなさそうに見える。
「興味がなさそうだな」
「まぁ、作っても売り物になりそうにないですからね」
ジークは隠す事なく、金にならない物には興味がないと言いきってしまう。
「あ、あの。アーカスさん、これが魔力を結晶化するものだと言うのはわかりました。でも、これでどうやってルッケルを助けるんですか?」
「そうね。魔力を結晶化させても何にもならないじゃない」
ノエルとフィーナはアーカスの手の中にある魔導機器が凄い物だとは理解できても、アーカスがどんな風に使用するかは理解できないようで首を傾げた。
「……魔力は万物すべてに宿っている。人間、エルフ、ドレイクのような生物にも木々と言った植物にも、大地や空にもな」
「……ルッケルで出た毒ガスにも魔力があるから、それを結晶化するって事?」
「そう言う事だ」
ジークは1つの推測を立て、アーカスはその言葉に短く頷く。
「そんな事が出来るんですか?」
「元々、魔力自体も形のないものだし、それを結晶化できるんだ。試す価値はあるだろ」
アーカスはあくまで可能性の問題であってできるとは言い切る事はない。
「何もやらないより、マシって事ね」
「そうなるな」
フィーナはもっと簡単に毒ガス騒ぎを終わらせる事ができると思っていたようで小さくため息を吐く。アーカスはその言葉に特に気分を悪くする事なく頷く。
「それでは始めるぞ。小娘」
「は、はい……あの、魔力の結晶化と言いますけど、何をしたら良いんでしょうか?」
ノエルは実験を開始すると言われたが特に指示もないため、どうして良いのかわからずに首を傾げた。
「魔力を発動させるだけで良い。魔法は何でも構わん」
「えーと、そう言われると逆に困ってしまうんですけど」
アーカスは魔法を特定する事はない。その言葉にノエルは戸惑ってしまい、頭を抱え出す。
「ノエル、ルッケルに行く途中で、ジークがやった事ってできないの?」
「ジークさんがやった事?」
「ほら、精霊達に声をかけて」
フィーナはジークが1度、見せた魔力の発動を試してはどうだと言う。
「でも、それって、精霊さん達を結晶化させて閉じ込めるって事じゃないですか? そんな事はできません」
「そうか。それは考えてなかったわね。ごめん。おかしな事を言ったわ」
ノエルは精霊達を虐待する行為だと思ったようで大きく首を横に振る。フィーナはノエルの答えに自分の考えが間違っていたと思ったようで彼女に謝る。
「いや、フィーナにしては良い事を言ったと思うぞ。あれはあくまで精霊達に力を貸して貰っただけだから、その貸して貰った魔力をどこかに集めれば良いわけだろ」
「そうなんですか? それなら……ジークさん、あれってどうやったら良いんですか?」
「……そんな事をしなくても、小娘はドレイクだろ。魔法を発動させる過程で魔力を維持すれば問題はない」
ジークは精霊達には被害はない事を告げるとノエルは試してみようと思ったようで目を閉じた。しかし、明確的な手順を知らないため首を傾げる。アーカスは進まないやり取りに我慢が出来なくなってきたようで苛立ちを隠す事なく、ノエルに自分の魔力で行うように言う。
「魔力の維持って言われても、詠唱から発動って一連の動作じゃないですか?」
「誰がそんな事を言った?」
「えーと、常識じゃないんですか?」
ノエルはアーカスの言いたい事が自分の中にある魔法と異なっているためか、どうして良いのかわからないようでジークに助けを求めるような視線を向けた。
「……非常識なノエルが常識を求めてるぞ。同じ非常識な人間としてアドバイスはないのか。フィーナ」
「ジーク、あんた、また、私にケンカを売ってるの?」
ジークはノエルの視線に気が付き、魔法は専門外のためか自分では何もできないと判断し、フィーナに何か言うように言う。その言葉はフィーナにケンカを売っているようにしか思えず、フィーナはジークを睨みつける。