第104話
「……もう無理」
「アーカスさん、これなんですけど、魔導銃の材料に使えますか?」
ジークとフィーナの追いかけっこは石人形をすべて砕いた後もしばらく続いたが流石に剣を振りまわしていたフィーナの体力が尽き、腰を下ろす。その隣でまだ余裕があるジークは石人形の外装とコアらしき赤い石を手に持つ。
「……そうだな。外装は使えるか? ただ、今より、重くなりそうだな。その代わり、銃身の耐久度は上がるだろうから、出力は上げられるな」
「あまり重いと、扱い難いですよね。でも、出力があげられるのは魅力的ですね。こっちは何かに使えないですか? あれ?」
「ジークさん、どうかしたんですか?」
アーカスは地面に転がっている石人形の外装の1つを拾い上げると、簡単な分析をして魔導銃に使用する時のメリットとデメリットを話すなか、ジークは石人形のコアを見て首を傾げた。
「いや、研究室のカギとはやっぱり違うんだなと思って、研究室のカギも石人形の中から出てきたのに」
「そんなにカギだけあっても邪魔だからでしょ。失敗作だからこいつのコアにしただけでしょ」
「いや、失敗作だとしてもこんな危なっかしいものをばらまかれても困るんだよ」
ジークは遺跡の研究室のカギである赤い石を取り出すと2つを見比べ、フィーナは息が整ったようで立ち上がり、ジークの手の中にある赤い石を覗き込む。
「だとしたら、凄い確率で最初にカギを引き当てたな」
「確かにそうですね」
ジークは初めて倒した時の石人形からカギが出てきた事が偶然にしては出来過ぎていると思ったようであり、ノエルは首を傾げた。
「それは妖精がお前達を見ていたんだろ。人族と魔族が協力するところを見極めていた。その上で資格ありと判断されたんだろ」
「それなら、前回、合格を貰ってるんだから、こんな歓迎はいらないんじゃないの?」
アーカスはジークがカギを手に入れたのは偶然ではないと推測するが、フィーナは石人形との戦いを終えたばかりのためか大きく肩を落とす。
「アーカスさんの言ってる事が正しいのなら、アーカスさんを試したって事だろ」
「……性格の悪さを察して妖精達も全力で仕掛けてきたわけね」
「あ、あの。フィーナさん、それは言い過ぎじゃないでしょうか?」
今回の石人形の攻撃をフィーナはアーカスのせいだと決め、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「とりあえずは、魔導銃の材料も手に入ったし、奥の研究室に行こう。アーカスさん、こっちも何かに使えるかも知れないから持ってた方が良いですよね?」
「あぁ、後で何かに使えるかも知れないから、取っておけ」
「……アーカスさん、マイペースですね」
アーカスはすでに石人形から興味が失せたようで研究室に降りる階段を目指して歩き始め、ノエルはつかみきれない彼のペースに肩を落とした。
「ノエル、行くわよ。と言うか、ノエルがいないとカギがそろわないわけだし」
「そ、そうですね」
フィーナはノエルに声をかけると3人はアーカスの後を追いかけて行く。
「ふむ。なかなか広いな。それもかなり生活環境も整備されている」
「生活環境?」
4人が中央の部屋に降りるとアーカスは壁や床を観察し始め、彼の口から出た言葉にフィーナは首を傾げた。
「確かに、結構、深いところまで入ってきてるのに息苦しいって事はないしな。そう考えると不思議だな」
「この点を考えるだけでもしっかりとした空調整備ができている事がわかるだろ。それが魔導機器で行われている事かを確かめればルッケルにも使えるものが出てくる可能性があるな」
「で、アーカスさん、もったいぶらずに教えてよ。この間、ここから持ってった本の中に使えそうなものがあったんでしょ。さっさと終わらせて帰るわよ」
「フィーナさん、もう少し、話を聞いても良いと思うんですけど」
フィーナはアーカスとジークの話し合いは難しかったようであり、フィーナは結果を話せと駄々をこね始める。
「アーカスさん、とりあえず、時間もないですから、何を探せば良いんですか? 前回、来た時に効果がわからなくて手つかずのものとかもあるんですけど、どんなものを探せば良いんですか?」
「……そうだな。取りあえずはそれを見て見るか?」
「それなら、こっちの奥の部屋です」
ジークはフィーナの行動に呆れたようなため息を吐いた後に、アーカスの探索を手伝おうと声をかけ、ジークとノエルはアーカスを奥の研究室に案内するために入口と対面している中央のドアを開けた。
「ちょ、ちょっと、私も行くわよ」
3人が進んで行く姿にフィーナは慌てて後を追いかける。
「で、何を探せば良いのよ?」
「小娘、お前は探し物に適しそうにないから、さっきの部屋で大人しくしていろ」
アーカスにはすでに当たりのものがあると思っているのか、フィーナは不機嫌そうな表情で聞く。しかし、アーカスはフィーナが探し物をする上で邪魔だと判断したのか彼女を斬り捨てた。
「アーカスさんまで!? ジークと言い、アーカスさんと言い何なのよ!!」
「……」
フィーナはその言葉に怒りを露わにしてアーカスに詰め寄り、文句を言い始めるが、アーカスは気にする事などなく、部屋の観察を続けて行く。
「また、バッサリと」
「……わたし、ジークさんがきつい理由がわかった気がします」
そんな2人の様子にジークは苦笑いを浮かべた。ノエルはジークのきついところは幼い頃からアーカスに関わっていたところからきていると思ったようで大きく肩を落とす。
「ノエル、始めるぞ。なんか、前回、使い方がわからなかった怪しいものを引っ張り出すぞ。それをアーカスさんに見て貰おう」
「は、はい。わかりました」
「特に前回、フィーナが確認したものは念入りにな」
ジークはノエルの言葉が聞こえたのか、頭をかいた後に彼女に声をかけると研究室の中の探索を開始する。