第100話
「ここですか?」
「そうです」
「時間かかったわね」
何とかアーカスの家の前まで辿りついた時にはすでに日が落ちかけている。
「それでは急ぎましょう」
「ちょ、ちょっと、アズさん、待った」
アズは時間だけが過ぎている事に焦りを感じているようでドアノブに手を伸ばす。ジークはその時、何か胸騒ぎをしたようでアズを呼ぶがその声は少し遅く、その場には鈍い音が響く。
「か、金ダライ?」
「アズさん、大丈夫ですか? い、今、回復魔法を」
その音は金ダライがアズの頭に落ちた音であり、アズは頭を押さえてしゃがみ込み、ノエルは慌てて彼女に駆け寄ると精霊を呼び出そうとする。
「ノエル、待った。中に入ってからにしてくれ。何かあっても困るから、アズさんも慌てないでくださいって言いましたよね」
「そ、そうでしたね。すいません。焦ってしまいました」
ジークはノエルに待つように言い、アズは自分のうかつな行動を反省しているようでジークに謝るとふらふらと立ちあがった。
「アズさん、捕まってください」
「ありがとうございます。ノエル」
金ダライのダメージはかなりのもののようでノエルはアズを支える。
「あれは地味に効くのよね。それに小バカにされているみたいで精神的にもくるのよ」
「フィーナは喰らい慣れてるからな。あだ!?」
フィーナは金ダライを喰らった事があるようで眉間にしわを寄せており、ジークは最後の罠解除だと扉の前に移動した時、タイミングを狙ったかのようにドアが開き、ドアがジークの頭を直撃した。ジークはその痛みに耐えるようにうずくまっている。
「ジ、ジークさん!?」
「……まったく、うるさいと思ったら、お前たちか? 私は忙しいんだ。帰れ」
アーカスはジーク達を見て、いつものように愛想なく言うと相手をする気はないようでドアを閉めようとする。
「ま、待ってください。アーカスさん」
「……誰だ?」
「はじめまして、アズ=ティアナと言います。ルッケルの領主をしています。アーカスさんにお願いしたい事があって、ジーク達に案内をしていただきました」
アズはドアをつかみ、アーカスを引き止めると自分の名前を名乗った。
「アズ=ティアナ? あぁ、リックが領主を辞退したから、領主を引き受ける事になった小娘か」
「へ? リックさんが領主を辞退した?」
アーカスはアズの名前に心当たりがあるようであり、興味なさそうにアズが領主になった簡単な経緯を話す。しかし、それはジーク達は初耳の事であり、フィーナは間の抜けた表情で聞き返す。
「ちょ、ちょっと待った。アズさん、アーカスさん、それってどう言う事!?」
「……何だ。知らなかったのか。まぁ、俺が話す事ではないからな。知りたかったら、そっちの小娘か、リックに聞け」
ジークは聞かされた真実に痛みを忘れて立ち上がる。アーカスは面倒な事は答えたくないようであり、彼の質問を跳ね返し、家の中に戻って行く。
「頼みたい事があろうと俺の知った事ではない」
「アーカスさん、待ってください。約束の鉱石を持ってきました。これで魔導銃の修理をして貰えますよね?」
アーカスはアズに興味などないようであり、4人を置いて中に入ろうとするがジークはまずは家の中に入る事が第1段階だと思ったようで鉱石を持ってきた事を告げた。
「……入れ」
アーカスは短く返事をするとジークに続いて3人はアーカスの家に入って行く。
「……ルッケルの鉱山で毒ガス騒ぎか」
「そう言う事です」
ジークはよくわからない魔導機器が並ぶアーカスの研究室でルッケルで起きた毒ガス騒ぎの説明をする。
「死者も出ていないんだろ。それくらいなら、そのうち研究員が派遣されてくるだろ。俺が足を運ぶほどの事ではないな」
「そう言うと思いましたよ。それでも人の生活がかかってるんですから、協力してくださいよ。せっかく、領主のアズさん自ら、こんな片田舎にきてるわけですし」
アーカスは説明を聞いても興味が湧かないようであり、ジークはため息を吐いた。
「片田舎にこもるにはこもる理由があるんだ。それに研究員の中にあの小僧が入ってくる可能性もあるんだ。お前やうるさい小娘にはそっちの方が都合が良いだろう」
「いや、どっちかと言うとそっちの方が面倒ですね。毒ガスって可燃性のものも当然、ありますよね?」
「そうだな」
アーカスは派遣してくるかも知れない研究員の中にジークとフィーナの知り合いがいる可能性もあると言う。しかし、ジークはあまり嬉しくないようで眉間にしわを寄せる。
「……アーカスさんが興味を引く何かってないかな? このままじゃ、何も進まない」
「ただ1つだけ、やってみたい事はある」
「え? それって、ルッケルに行ってくれるって事ですか?」
ジークは進まない話し合いに小さくため息を吐く。そんななか、アーカスは何か試したい事があるようであり、ジークは予想外の返事に声を上げた。
「落ち着け。お前と小娘が持って来た本の中にな。1つ、興味がそそられる物があった。今から作る時間はないが、遺跡の中に潜り、それを取って来れれば何とかなるだろ」
「遺跡の中に? ……遺跡の中が見たいから、嘘を言ってるわけじゃないですよね?」
アーカスは先日、ジークから預かった本の中にルッケルの騒ぎを終息に導く魔導機器がある可能性がある事を告げる。ジークはその言葉に少しだけアーカスを疑うような視線を向けた。
「そう思いたいなら、勝手にしろ。ただ、俺は厄介事に巻き込まれる気もないからな。ルックルに足を運ぶ気はない」
「そうですか……遺跡の中か? アズさんも付いてくるって言うかな?」
「そこはお前が何とかしろ。私は知らん」
「で、ですよね」
ジークは遺跡の奥の事を広めたくないため、大きく肩を落とすがアーカスはそれは自分には関係ないと言い切った。