表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

幼馴染がフレネミーでした〜私は呪縛を解いて幸せになります〜

作者: あらいサラ
掲載日:2026/06/06

[日間]ハイファンタジー - 短編 15位ランクイン!

たくさんの応援ありがとうございます。

「ねえナトリー、そのドレス可愛いけど、貴女には似合わないわね」


大人気のお針子が仕立てた新緑色の新しいドレスを着て、ベリンダとの待ち合わせに赴くと、開口一番にそう言われた。


ベリンダ・マイルズ。新興の子爵家であるマイルズ家の三女で、私の幼馴染だ。

口下手で人付き合いの苦手な私とも変わらずに接してくれる、ハキハキと喋る明るい令嬢。


対する私は、ただ歴史が古いだけというグレイス子爵家の次女、ナトリー・グレイス。

勉強だけが取り柄の、地味で暗い女だ。


ベリンダはクルクルとしたオレンジ色の髪を揺らし、派手で愛らしい顔を歪めていた。

いつも流行の最先端を着飾る、おしゃれな彼女が言うのだから、やはり私には似合っていないのだろう。


「そう、かしら……。お母様が注文してくださったのだけど……」


「もー、おば様もセンスが無いわね!

本当は私だってこんな事言いたくないんだからね? でも、ナトリーがそのドレスのせいで周りから恥をかくのが可哀想で、貴女のためを思って言っているんだから!」


「そう…。…言いにくいことを教えてくれてありがとう……」


「だいたい、ナトリーはそういう明るい色は似合わないのよ。貴女に似合うのはもっと茶色とか灰色とか、落ち着いた色!

髪型だって、今みたいに下ろしていると、顔色の悪さも相まって本当にお化けみたい。いつもみたいに、後ろでキッチリまとめるのが一番良いわよ?」


「そうかしら…」


「その髪飾りだって、ナトリーの真っ黒な髪じゃ全然目立たないわね。ほら、ちょっと貸して」


そう言うと、ベリンダは私の髪から緑のストーンが輝く髪飾りを強引に引き抜き、自身の鮮やかな髪に当ててみせた。髪飾りと一緒に髪の毛まで数本抜かれたようで、頭皮にチクリと痛みが走る。


「ほら、やっぱり! 私みたいな明るい髪色の方がずっと似合うって。

 ねえ、これ私に頂戴よ。有効活用してあげるわ」


「それはダメよ。叔父様がくださったものだから、あげることは出来ないわ」


私がはっきりと断ると、ベリンダはあからさまに不機嫌そうな顔をした。


「…ほんの冗談じゃない。本当にナトリーって、冗談も通じないわね」


呆れたようにため息をつかれ、私は思わず気圧される。


「ごめんなさい、でも本当に大切なもので……」


「そんな風にすぐ大真面目に返して、殻に閉じこもっちゃうから友達ができないのよ? 貴女って本当に口下手だし、人付き合いが下手くそなんだから」


ベリンダの言葉が、私のコンプレックスに鋭く突き刺さる。

何も言い返せずに俯く私を見て、彼女は僅かに声を弾ませた。


「だから、ナトリーは私以外に友達なんて作らないほうがいいわ。貴女の退屈な話なんて、だぁれも聞いてくれないもの」


「そう、ね……」


「ふふ、私みたいにずっと一緒にいてあげる物好きな親友なんて、他にいないんだからね? 私がいてあげて、本当に良かったわね!」


「う、うん。ありがとう……」


私はその言葉を「親友としての忠告」だと信じ込み、言われるがまま地味な服に身を包み、学園でも周囲との壁を作って孤立していった。


(…だって、私は地味で暗いんだから…これでいいのよね……)


そうして周囲との繋がりから逃げ、教室の片隅で一人、本の中に逃げ込む私。


その孤立していく姿を、ベリンダが満足げに、優越感を孕んだ瞳で見つめていることにも気づかないまま、私は彼女の歪んだ支配欲を満たすための、都合の良い人形へと成り下がっていった。



そんな関係に転機が訪れたのは、帝国への2ヶ月間の短期留学制度の発表があった時だった。


筆記試験の成績が学年トップクラスの私に、教師から打診があったのだ。しかし、それを聞きつけたベリンダは血相を変えて反対した。


「絶対に留学なんて行くべきじゃないわ!!ナトリーは1人じゃ何もできないんだから!

 勉強がちょっとできるって言っても、帝国レベルじゃ絶対に通用しないって!」


「でも、帝国には世界中の本が集まる大図書館があるの。私、一度でいいからそこに行って、いろんな本が読んでみたくて……」


「はぁ?本なんてどこでも読めるでしょ。

 もし貴女が向こうで対人トラブルでも起こしたらどうするの!?グレイス家どころか、この国にだって大迷惑がかかるのよ!? 」


「それは…そうだけど…」


ベリンダの迫力に、私は不安を煽られて言葉を詰まらせる。そんな私を見て、彼女はこれみよがしに深いため息をついた。


「…私はナトリーの為を思って言ってるのよ。そこまでどうしてもって言うなら、私が代わりに試験を受けて、ナトリーの分までたくさん観光してきてあげるから!」


(私は観光がしたいわけではなくて、実際に行って本が読みたいのだけど……)


そう思ったけれど、ベリンダの凄まじい剣幕を前に、私の口からその言葉が出ることはなかった。


翌日、私は職員室に足を運んでいた。


「ーーーーそうですか。グレイスさんには是非、留学メンバーに入って欲しかったのですが…」


「その…自信がなくて…。せっかくお声がけいただいたのに、すみません…」


結局、私は受験を辞退した。


代わりに、私は毎日ベリンダの受験勉強に付き合う羽目になった。彼女に付きっきりで教えるせいで、自分の勉強時間は削られていく。

それなのにベリンダは、「もう、ナトリーは教え方が下手!」「テストに出るところだけ教えてって言ってるじゃない!」と理不尽に怒り散らした。


それでも、本人の執念は凄まじかったのだろう。

ベリンダは死に物狂いで猛勉強し、なんとか留学枠の最後の1席に見事滑り込んだのだった。


「いい、ナトリー?私がいない間、変に目立とうとしちゃダメだからね。貴女は地味で大人しく、教室の隅に引っ込んでるのが一番お似合いなんだから。私の言った通りにしていれば、間違いは起きないわ」


出発の直前まで、ベリンダはそんな『親友としての忠告』を私に言い含めていた。私はただ、小さく頷くことしかできなかった。



――それから、二ヶ月が経った。


今日の放課後、留学へ行っていた生徒たちが帰国し、学園へ報告やってくると聞いていた。


(ベリンダともどこかで会うかもしれないわね…)


私がそう考えながら教室で荷物をまとめていると、激しい音を立てて、教室の扉が勢いよく開け放たれた。


「ちょっと、ナトリー!どういうことよ!?」


息を荒げて飛び込んできたのは、眉を吊り上げるベリンダだった。

けれど、私を見た瞬間、彼女は文字通り絶句して、その場に固まった。


「は……? な、にそれ……。ナトリー…??」


ベリンダはまるで、幽霊でも見たかのように目を見開いている。

無理もない。今の私は、かつて彼女が命じていたような、飾り気の無い地味な服を着ていないし、厳粛な聖職者のようにきっちりと髪をまとめあげてもいない。


鮮やかなコバルトブルーのドレスに身を包み、上品に編み込んだ髪にパールのピンを煌めかせた私は、見違えるほど華やかな姿になっていた。


「地味に、してろって言ったじゃない……!なんで貴女が、そんな綺麗な格好をしてるのよ!?」


キィキィと金切り声を上げるベリンダを前に、私は眉一つ動かさず、ただ静かに彼女を見つめ返した。


「クラスの人達が、1人でいた私に声かけてくれて、いろんな事を教えてくれたの。

……前の私の姿、周りから見たら、逆に浮いていたみたいね」


「似合ってない!全然似合ってないわ!!貴女騙されてるのよ!」


ヒステリックに喚くベリンダに、教室中のクラスメイトたちが冷ややかな視線を送る。


「ううん。そんな事無い。

 最初は何も分からなかったけど、皆のアドバイスを聞いて自分でドレスを選んで、髪型を変えたら、…私、生まれ変われた気がしたの」


「そんなの気のせいよ!前の方が絶対ナトリーらしくて…っ」


「……ベリンダ。貴女はそうやって、いつも私のことを見下して、自信を奪っていたのね」


静かに、けれど芯のある私の声に、ベリンダの顔が引き攣る。


「な、何よそれ! 私は貴女のために……!」


「私のために、友達を作らせず、優越感に浸っていたの?

 ……周りの人が教えてくれたわよ。貴女が裏で、私のことをなんて言っていたか。『歴史くらいしか誇れるものがない子爵家の、愚図で可哀想で、友達の一人も出来ない幼馴染の面倒を見させられてる』――ですって?」


「そっ、それは…!!」


咄嗟に言い訳が出来なかったのか、ベリンダの顔からサーッと血の気が引いていく。


「私はずっと変わりたかった。でも、そのチャンスを(ことごと)く潰してきたのは貴女じゃない!

 私はもう変わるの。貴女の都合のいい操り人形には、二度と戻らない……!!」


「な…生意気言わないでよ!あんたなんて一生変われないわ!!勉強だけが取り柄の、地味で暗い女じゃない!!」


ベリンダが激しく机を叩く。その大きな音に、周囲のクラスメイトたちがビクリと肩を揺らした。けれど、彼女は構わず私に詰め寄る。


「さっき聞いたけど、生徒会からも声がかかってるって噂、本当なの!? 断りなさいよ! あんたには無理、生徒会に迷惑かけるに決まってる! 私にはわかるもの!!」


「――迷惑かどうかはこちらが決めることだ」


その場にいた全員の視線が、教室の入り口へと集まった。

開け放たれたままだった扉の前に立っていたのは、冷ややかな、けれど圧倒的な威厳を放つ生徒会長――公爵家嫡男のシリウス・ランバード様だった。


その後ろには赤髪の副会長、ダリル・フォークー侯爵子息もおり、こちらは楽しげに手をひらひらを振っていた。


「グレイス嬢、生徒会役員の件の返事を聞きに来たが、……随分と賑やかだな」


その言葉に、ベリンダがハッとしたように2人に駆け寄る。


「シリウス様!ダリル様!!これは…その、違うんです!!私、この子が心配で…」


「心配って声色じゃなかったけどね〜」


ダリル様はふっと笑みを浮かべると、ベリンダが叩いた机に歩み寄り、その表面を指先でコンコンと小気味よく叩いた。まるで、彼女の凶暴性をわざわざ周囲にアピールするかのように。


「…ッこの子が生徒会に入ったら、絶対に迷惑がかかると思うんです!!」


なおも必死に食い下がるベリンダを、シリウス様は氷のような冷徹な瞳で見下ろした。


「迷惑をかけているのは貴様だろう。ベリンダ・マイルズ」


「えっ?」


予想もしなかった言葉を投げかけられ、ベリンダはぽかんと口を開けた。


「貴様は留学中、ろくに勉強もせず、あちらの有力貴族に擦り寄っていたと報告を受けている。

 それも、すでに婚約者のいる高位貴族にまで強引に迫り、相手方を大いに困惑させたそうだな」


「ことごとく玉砕したらしいね〜。まったく、我が校の恥晒しだよ」


ダリル様が肩をすくめて追撃すると、ベリンダの顔からサーッと血の気が引いていった。


「ち…、ちが、違うんです…私はただあちらの皆さんと交流を…!」


「我が校の留学制度を何だと思っている。向こうの生徒会から、貴様の著しい素行不良についての抗議文が、正式にこちらへ届いている。貴様のせいで、来年からの留学枠が減らされかねない大問題だ。

 ……のちほど処分を下す。覚悟しておけ」


シリウス様に氷のように厳しく睨まれ、ベリンダは真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。


周囲のクラスメイトから、ヒソヒソと蔑みの声が上がる。

帝国での玉の輿狙いも失敗、学園での評価も失墜。ベリンダが隠したかった醜態が、すべて白日の下に晒された。


ガタガタと震えるベリンダを見下ろし、私は静かに告げた。


「――ベリンダ。私はもう、貴女の『助け』はいらないわ。これからは自分の意志で着たいものを着て、やりたいことをするの。

 …私たちの縁は、ここで終わりにしましょう」


「そんな、ナトリー……! 私たち、親友でしょ!?」


地べたに這いつくばり、惨めにすがるようなベリンダの手から視線を外し、私はシリウス様へと向き直って、深く一礼した。


「お待たせいたしました、ランバード会長。生徒会役員の件、謹んでお受けいたします。これからは、我が校のためにこの身を捧げますわ」


「ああ、歓迎する。君のような優秀な人材を待っていた」


シリウス様がふっと口元を和らげると、横からダリル様が歩み寄ってきた。


「君の活躍が楽しみだ。よろしくね、ナトリーちゃん」


ダリル様にぎゅっと両手で握手を交わされ、私は少し照れながらも、しっかりと握り返す。

もう、かつてのように俯く私ではない。


ベリンダの絶望に満ちた泣き声をかき消すように、教室には、温かく大きな拍手が響き渡っていた。


(おしまい)

シリウス「グレイス嬢、どこか少し雰囲気が変わっていたか…??」


ダリル「どう見ても、少しどころじゃないでしょ…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ