幼馴染がフレネミーでした〜私は呪縛を解いて幸せになります〜
[日間]ハイファンタジー - 短編 15位ランクイン!
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「ねえナトリー、そのドレス可愛いけど、貴女には似合わないわね」
大人気のお針子が仕立てた新緑色の新しいドレスを着て、ベリンダとの待ち合わせに赴くと、開口一番にそう言われた。
ベリンダ・マイルズ。新興の子爵家であるマイルズ家の三女で、私の幼馴染だ。
口下手で人付き合いの苦手な私とも変わらずに接してくれる、ハキハキと喋る明るい令嬢。
対する私は、ただ歴史が古いだけというグレイス子爵家の次女、ナトリー・グレイス。
勉強だけが取り柄の、地味で暗い女だ。
ベリンダはクルクルとしたオレンジ色の髪を揺らし、派手で愛らしい顔を歪めていた。
いつも流行の最先端を着飾る、おしゃれな彼女が言うのだから、やはり私には似合っていないのだろう。
「そう、かしら……。お母様が注文してくださったのだけど……」
「もー、おば様もセンスが無いわね!
本当は私だってこんな事言いたくないんだからね? でも、ナトリーがそのドレスのせいで周りから恥をかくのが可哀想で、貴女のためを思って言っているんだから!」
「そう…。…言いにくいことを教えてくれてありがとう……」
「だいたい、ナトリーはそういう明るい色は似合わないのよ。貴女に似合うのはもっと茶色とか灰色とか、落ち着いた色!
髪型だって、今みたいに下ろしていると、顔色の悪さも相まって本当にお化けみたい。いつもみたいに、後ろでキッチリまとめるのが一番良いわよ?」
「そうかしら…」
「その髪飾りだって、ナトリーの真っ黒な髪じゃ全然目立たないわね。ほら、ちょっと貸して」
そう言うと、ベリンダは私の髪から緑のストーンが輝く髪飾りを強引に引き抜き、自身の鮮やかな髪に当ててみせた。髪飾りと一緒に髪の毛まで数本抜かれたようで、頭皮にチクリと痛みが走る。
「ほら、やっぱり! 私みたいな明るい髪色の方がずっと似合うって。
ねえ、これ私に頂戴よ。有効活用してあげるわ」
「それはダメよ。叔父様がくださったものだから、あげることは出来ないわ」
私がはっきりと断ると、ベリンダはあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「…ほんの冗談じゃない。本当にナトリーって、冗談も通じないわね」
呆れたようにため息をつかれ、私は思わず気圧される。
「ごめんなさい、でも本当に大切なもので……」
「そんな風にすぐ大真面目に返して、殻に閉じこもっちゃうから友達ができないのよ? 貴女って本当に口下手だし、人付き合いが下手くそなんだから」
ベリンダの言葉が、私のコンプレックスに鋭く突き刺さる。
何も言い返せずに俯く私を見て、彼女は僅かに声を弾ませた。
「だから、ナトリーは私以外に友達なんて作らないほうがいいわ。貴女の退屈な話なんて、だぁれも聞いてくれないもの」
「そう、ね……」
「ふふ、私みたいにずっと一緒にいてあげる物好きな親友なんて、他にいないんだからね? 私がいてあげて、本当に良かったわね!」
「う、うん。ありがとう……」
私はその言葉を「親友としての忠告」だと信じ込み、言われるがまま地味な服に身を包み、学園でも周囲との壁を作って孤立していった。
(…だって、私は地味で暗いんだから…これでいいのよね……)
そうして周囲との繋がりから逃げ、教室の片隅で一人、本の中に逃げ込む私。
その孤立していく姿を、ベリンダが満足げに、優越感を孕んだ瞳で見つめていることにも気づかないまま、私は彼女の歪んだ支配欲を満たすための、都合の良い人形へと成り下がっていった。
そんな関係に転機が訪れたのは、帝国への2ヶ月間の短期留学制度の発表があった時だった。
筆記試験の成績が学年トップクラスの私に、教師から打診があったのだ。しかし、それを聞きつけたベリンダは血相を変えて反対した。
「絶対に留学なんて行くべきじゃないわ!!ナトリーは1人じゃ何もできないんだから!
勉強がちょっとできるって言っても、帝国レベルじゃ絶対に通用しないって!」
「でも、帝国には世界中の本が集まる大図書館があるの。私、一度でいいからそこに行って、いろんな本が読んでみたくて……」
「はぁ?本なんてどこでも読めるでしょ。
もし貴女が向こうで対人トラブルでも起こしたらどうするの!?グレイス家どころか、この国にだって大迷惑がかかるのよ!? 」
「それは…そうだけど…」
ベリンダの迫力に、私は不安を煽られて言葉を詰まらせる。そんな私を見て、彼女はこれみよがしに深いため息をついた。
「…私はナトリーの為を思って言ってるのよ。そこまでどうしてもって言うなら、私が代わりに試験を受けて、ナトリーの分までたくさん観光してきてあげるから!」
(私は観光がしたいわけではなくて、実際に行って本が読みたいのだけど……)
そう思ったけれど、ベリンダの凄まじい剣幕を前に、私の口からその言葉が出ることはなかった。
翌日、私は職員室に足を運んでいた。
「ーーーーそうですか。グレイスさんには是非、留学メンバーに入って欲しかったのですが…」
「その…自信がなくて…。せっかくお声がけいただいたのに、すみません…」
結局、私は受験を辞退した。
代わりに、私は毎日ベリンダの受験勉強に付き合う羽目になった。彼女に付きっきりで教えるせいで、自分の勉強時間は削られていく。
それなのにベリンダは、「もう、ナトリーは教え方が下手!」「テストに出るところだけ教えてって言ってるじゃない!」と理不尽に怒り散らした。
それでも、本人の執念は凄まじかったのだろう。
ベリンダは死に物狂いで猛勉強し、なんとか留学枠の最後の1席に見事滑り込んだのだった。
「いい、ナトリー?私がいない間、変に目立とうとしちゃダメだからね。貴女は地味で大人しく、教室の隅に引っ込んでるのが一番お似合いなんだから。私の言った通りにしていれば、間違いは起きないわ」
出発の直前まで、ベリンダはそんな『親友としての忠告』を私に言い含めていた。私はただ、小さく頷くことしかできなかった。
――それから、二ヶ月が経った。
今日の放課後、留学へ行っていた生徒たちが帰国し、学園へ報告やってくると聞いていた。
(ベリンダともどこかで会うかもしれないわね…)
私がそう考えながら教室で荷物をまとめていると、激しい音を立てて、教室の扉が勢いよく開け放たれた。
「ちょっと、ナトリー!どういうことよ!?」
息を荒げて飛び込んできたのは、眉を吊り上げるベリンダだった。
けれど、私を見た瞬間、彼女は文字通り絶句して、その場に固まった。
「は……? な、にそれ……。ナトリー…??」
ベリンダはまるで、幽霊でも見たかのように目を見開いている。
無理もない。今の私は、かつて彼女が命じていたような、飾り気の無い地味な服を着ていないし、厳粛な聖職者のようにきっちりと髪をまとめあげてもいない。
鮮やかなコバルトブルーのドレスに身を包み、上品に編み込んだ髪にパールのピンを煌めかせた私は、見違えるほど華やかな姿になっていた。
「地味に、してろって言ったじゃない……!なんで貴女が、そんな綺麗な格好をしてるのよ!?」
キィキィと金切り声を上げるベリンダを前に、私は眉一つ動かさず、ただ静かに彼女を見つめ返した。
「クラスの人達が、1人でいた私に声かけてくれて、いろんな事を教えてくれたの。
……前の私の姿、周りから見たら、逆に浮いていたみたいね」
「似合ってない!全然似合ってないわ!!貴女騙されてるのよ!」
ヒステリックに喚くベリンダに、教室中のクラスメイトたちが冷ややかな視線を送る。
「ううん。そんな事無い。
最初は何も分からなかったけど、皆のアドバイスを聞いて自分でドレスを選んで、髪型を変えたら、…私、生まれ変われた気がしたの」
「そんなの気のせいよ!前の方が絶対ナトリーらしくて…っ」
「……ベリンダ。貴女はそうやって、いつも私のことを見下して、自信を奪っていたのね」
静かに、けれど芯のある私の声に、ベリンダの顔が引き攣る。
「な、何よそれ! 私は貴女のために……!」
「私のために、友達を作らせず、優越感に浸っていたの?
……周りの人が教えてくれたわよ。貴女が裏で、私のことをなんて言っていたか。『歴史くらいしか誇れるものがない子爵家の、愚図で可哀想で、友達の一人も出来ない幼馴染の面倒を見させられてる』――ですって?」
「そっ、それは…!!」
咄嗟に言い訳が出来なかったのか、ベリンダの顔からサーッと血の気が引いていく。
「私はずっと変わりたかった。でも、そのチャンスを尽く潰してきたのは貴女じゃない!
私はもう変わるの。貴女の都合のいい操り人形には、二度と戻らない……!!」
「な…生意気言わないでよ!あんたなんて一生変われないわ!!勉強だけが取り柄の、地味で暗い女じゃない!!」
ベリンダが激しく机を叩く。その大きな音に、周囲のクラスメイトたちがビクリと肩を揺らした。けれど、彼女は構わず私に詰め寄る。
「さっき聞いたけど、生徒会からも声がかかってるって噂、本当なの!? 断りなさいよ! あんたには無理、生徒会に迷惑かけるに決まってる! 私にはわかるもの!!」
「――迷惑かどうかはこちらが決めることだ」
その場にいた全員の視線が、教室の入り口へと集まった。
開け放たれたままだった扉の前に立っていたのは、冷ややかな、けれど圧倒的な威厳を放つ生徒会長――公爵家嫡男のシリウス・ランバード様だった。
その後ろには赤髪の副会長、ダリル・フォークー侯爵子息もおり、こちらは楽しげに手をひらひらを振っていた。
「グレイス嬢、生徒会役員の件の返事を聞きに来たが、……随分と賑やかだな」
その言葉に、ベリンダがハッとしたように2人に駆け寄る。
「シリウス様!ダリル様!!これは…その、違うんです!!私、この子が心配で…」
「心配って声色じゃなかったけどね〜」
ダリル様はふっと笑みを浮かべると、ベリンダが叩いた机に歩み寄り、その表面を指先でコンコンと小気味よく叩いた。まるで、彼女の凶暴性をわざわざ周囲にアピールするかのように。
「…ッこの子が生徒会に入ったら、絶対に迷惑がかかると思うんです!!」
なおも必死に食い下がるベリンダを、シリウス様は氷のような冷徹な瞳で見下ろした。
「迷惑をかけているのは貴様だろう。ベリンダ・マイルズ」
「えっ?」
予想もしなかった言葉を投げかけられ、ベリンダはぽかんと口を開けた。
「貴様は留学中、ろくに勉強もせず、あちらの有力貴族に擦り寄っていたと報告を受けている。
それも、すでに婚約者のいる高位貴族にまで強引に迫り、相手方を大いに困惑させたそうだな」
「ことごとく玉砕したらしいね〜。まったく、我が校の恥晒しだよ」
ダリル様が肩をすくめて追撃すると、ベリンダの顔からサーッと血の気が引いていった。
「ち…、ちが、違うんです…私はただあちらの皆さんと交流を…!」
「我が校の留学制度を何だと思っている。向こうの生徒会から、貴様の著しい素行不良についての抗議文が、正式にこちらへ届いている。貴様のせいで、来年からの留学枠が減らされかねない大問題だ。
……のちほど処分を下す。覚悟しておけ」
シリウス様に氷のように厳しく睨まれ、ベリンダは真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。
周囲のクラスメイトから、ヒソヒソと蔑みの声が上がる。
帝国での玉の輿狙いも失敗、学園での評価も失墜。ベリンダが隠したかった醜態が、すべて白日の下に晒された。
ガタガタと震えるベリンダを見下ろし、私は静かに告げた。
「――ベリンダ。私はもう、貴女の『助け』はいらないわ。これからは自分の意志で着たいものを着て、やりたいことをするの。
…私たちの縁は、ここで終わりにしましょう」
「そんな、ナトリー……! 私たち、親友でしょ!?」
地べたに這いつくばり、惨めにすがるようなベリンダの手から視線を外し、私はシリウス様へと向き直って、深く一礼した。
「お待たせいたしました、ランバード会長。生徒会役員の件、謹んでお受けいたします。これからは、我が校のためにこの身を捧げますわ」
「ああ、歓迎する。君のような優秀な人材を待っていた」
シリウス様がふっと口元を和らげると、横からダリル様が歩み寄ってきた。
「君の活躍が楽しみだ。よろしくね、ナトリーちゃん」
ダリル様にぎゅっと両手で握手を交わされ、私は少し照れながらも、しっかりと握り返す。
もう、かつてのように俯く私ではない。
ベリンダの絶望に満ちた泣き声をかき消すように、教室には、温かく大きな拍手が響き渡っていた。
(おしまい)
シリウス「グレイス嬢、どこか少し雰囲気が変わっていたか…??」
ダリル「どう見ても、少しどころじゃないでしょ…」




