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第五話 ワーウルフ族の村

「離せって! だからなんでそうなるんだよ!」


「うるさいのじゃ! 夫になる者なら腹を括れ!」


 俺――神白たくまは、現在。


 ワーウルフ族の少女、アレナ・ワー・ガロウに腕を引っ張られながら森の中を歩いていた。


 ほぼ拉致である。


「いや普通、初対面で結婚とか言わねぇだろ……」


「我は気に入ったら一直線なのじゃ!」


 そう言って胸を張るアレナ。


 尻尾がぶんぶん揺れている。


 元気すぎる。


「……はぁ」


 そんなやり取りをしていた時だった。


 ゾクリ。


「……っ」


 全身に悪寒が走る。


 森の奥。


 木の上。


 草むら。


 至る所から感じる殺気。


 しかも一つや二つじゃない。


「なんだこれ……」


 思わず足を止める。


 するとアレナが少し真面目な顔になった。


「我らワーウルフ族は、非常に珍しい種族らしくてな」


 ゆっくり語り始める。


「よく子供がさらわれるのじゃ」


「……」


「我らは情に深い種族だ。仲間意識も強い」


 その赤い瞳が少し細くなる。


「だから、同胞――ましてや子供をさらって売り飛ばす人間を好きな者は、この村にはおらぬ」


「……なるほどな」


 そりゃこの殺気も納得だ。


 完全に人間嫌われてる。


 すると。


 アレナが突然こちらを向いた。


「だからたくま」


「ん?」


「我の婚約者と決闘しろ!」


「……は?」


 話飛びすぎだろ。


「なんでだよ!?」


「その男は強いことは強いのじゃ」


 アレナは露骨に嫌そうな顔をした。


「だが、それ以外が結構ゴミなのじゃ」


「言い方ひどっ」


「我は強いオスが好きじゃ。だが、中身も大事なのじゃ!」


 ビシッと俺を指差す。


「だからお主にした!」


「そんなコンビニ感覚で言うな!」


「村で一番を倒せば、父上も認めると思うのじゃ!」


 いや。


 重い。


 色々重い。


 しばらく歩くと、大きな村が見えてきた。


 木造の家々。


 巨大な門。


 そして。


「……うわ」


 視線が痛い。


 村人全員、俺を睨んでいる。


 完全にアウェーだった。


 すると。


「アレナァァァァァ!!」


 爆音みたいな声が響いた。


 次の瞬間。


 巨大な男が飛び出してくる。


 銀色の髪。


 大きな耳。


 筋肉の塊みたいな体。


「無事か娘よ!!」


「父上、近いのじゃ」


「我を誰だと思っている!」


 男は胸を叩く。


「我はワーウルフ族族長、スワイフ・ワー・ガロウであるぞ!!」


 声デカいなこの人。


 だが次の瞬間。


 族長の目が俺を見る。


「……ふむ」


 そして。


「娘を救ったことには感謝する」


「どうも」


「褒美もやろう」


 ここまではよかった。


 だが。


「だが結婚は断じて許さん!!」


 急にブチギレた。


「その娘を低俗な人間などにやれるかぁぁぁぁ!!」


「言い方!」


「結婚したければ我を倒してみろ!!」


 無茶苦茶である。


 すると。


 隣でアレナがシュンとした。


 尻尾がだらんと垂れる。


 耳もしょんぼり下がっていた。


「……たくま」


「ん?」


 涙目。


「我のために……戦ってくれぬか?」


「…………」


 その瞬間。


 脳裏に、昔飼っていた犬の姿が浮かんだ。


 散歩行きたい時、こんな顔してたな。


「あいつ元気かな……」


「たくま?」


「……分かったよ」


 俺はため息を吐く。


「戦えばいいんだろ」


 その瞬間。


 アレナの尻尾がブンブン振られた。


「ほんとか!?」


「近い近い」


 笑顔が眩しい。


 ……なんか調子狂うな。


 そんな時だった。


「アレナ!」


 乱暴な声が飛んできた。


 一人の男が近づいてくる。


 黒い髪。


 鋭い目。


 ワーウルフ族の中でもかなり体格が良い。


「なんで人間なんかと一緒にいるんだ」


 男はアレナの腕を強引に掴んだ。


「こっち来い」


「いたっ……!」


 アレナが顔をしかめる。


「離すのじゃ!」


 だが男は笑った。


「お前はもう俺の物みたいなもんなんだよ」


 その言葉に。


 俺の中で何かが冷えた。


「勝手なことすんな」


 アレナを、“物”みたいに扱う。


 それが妙にムカついた。


「……おい」


「あ?」


 男が睨む。


「なんだよその目。人間風情が調子乗んな」


 さらに周囲を見る。


 護衛隊。


 何十人ものワーウルフ。


 完全に数の暴力だった。


「悔しかったらかかってこいよ」


「……その手」


「は?」


「離せよ」


 俺が男の腕を掴んだ瞬間。


 パキッ。


「っ!?」


 男の腕が凍り始める。


「うわっ!? クソ、なんだこれ!!」


 慌てて飛び退く男。


「この人間風情が!!」


 捨て台詞を吐きながら逃げていく。


 アレナが呆れたようにため息を吐いた。


「あやつが我の婚約者、ガルじゃ」


「……そりゃ嫌がるわ」


 普通に嫌な奴だった。


 その後。


「今日はゆっくり休んでいけ」


 アレナが部屋へ案内してくれた。


「お、ありが――」


「ここじゃ」


「……ん?」


 扉の先。


 ベッド一つ。


「……アレナの部屋?」


「うむ!」


 なぜか誇らしげだった。


「今日は我と一緒に寝るのじゃ!」


「なんで!?」


「夫婦になるのだから問題なかろう!」


「まだなってねぇよ!!」


 アレナはケラケラ笑う。


 さっきまでの辛そうな顔が嘘みたいだった。


「……」


 不覚だった。


 その笑顔に、少しだけドキッとしてしまった。


 同時に思う。


 ――この笑顔、守りたいな。


 翌日。


 村の中央広場。


 ワーウルフ族全員が集まっていた。


 その中心で。


 族長が叫ぶ。


「人間よ!!」


 ドンッと地面を踏み鳴らす。


「我の娘と結婚するために、我と決闘するか!?」


「します」


 即答だった。


 すると。


「待ってください」


 昨日の男――ガルが前へ出た。


「あんな人間、族長じゃなくても俺で十分ですよ」


「……」


 腹立つ。


 でも抑える。


 ここでキレても意味ない。


 族長は頷いた。


「ふむ。それもそうだな」


 そして高らかに宣言する。


「では!!」


「人間、神白たくまと!!」


「次期族長候補、ガルの決闘とする!!」


 歓声が上がる。


 だがその大半は俺を馬鹿にする声だった。


「氷属性だろ?」


「雑魚じゃねぇか」


「人間だし終わりだな」


 笑い声が響く。


 アレナだけが心配そうに見ていた。


「たくま……大丈夫か?」


 その顔を見て。


 俺は笑う。


「大丈夫」


 静かに答える。


「俺、加護あるし」


「?」


「お前なんか楽勝だよ」


「……っ!?」


 ガルの顔が引きつる。


「何笑ってんだよテメェ!!」


 その瞬間。


 カーンッ!!


 開始の合図が鳴った。


「死ねぇっ!!」


 一瞬でガルが消える。


 速い。


 次の瞬間には目の前だった。


 鋭い爪が迫る。


「っ!」


 氷壁生成。


 ガキィィン!!


 衝撃を防ぐ。


 そしてその裏側で。


 俺は魔力を集中させる。


 収束。


 圧縮。


 固定。


 空気が凍る。


 そして現れた。


 巨大すぎる氷の剣。


 いや。


 これはもう剣というより――。


「《零獄》」


 それは、災害だった。


 ガルが笑う。


「なんだよそれ! 剣か!?」


「多少魔力が多いだけのゴミだろ!」


 俺は何も言わない。


 ただ。


 ゆっくりと振るう。


 ガルは爆笑していた。


「そんな遅ぇ攻撃で俺を倒せ――」


 ピタッ。


「……え?」


 空気が止まる。


 次の瞬間。


 ガルの身体が凍った。


 一瞬だった。


 何が起きたか理解する暇すらない。


 俺の剣の先にあったもの全て。


 地面も。


 草も。


 空気すら。


 全てが凍りついていた。


「な、なんだあれ……」


「あれ本当に氷属性か?」


「化物……」


 村人たちが震える。


 族長が慌てて叫んだ。


「何をしている!!」


「早くガルの氷を溶かせ!! 死ぬぞ!!」


 護衛たちが慌てて動き出す。


 そんな中。


 族長は俺を見た。


 そして。


 大きく笑った。


「ガハハハハハ!!」


 族長は豪快に笑った。


「人間!! よくやった!!」


「我の前で戦い!!」


「この村の一番を打ち取った!!」


 周囲のワーウルフたちも、もう笑っていなかった。


 驚愕。


 困惑。


 そして畏怖。


 そんな視線が俺へ向けられている。


 族長は凍りついた地面を見つめながら続けた。


「しかも“不遇”とされる氷属性で、だ」


 その目が細くなる。


 そして。


「改めて聞こう」


 ニヤリと牙を見せて笑った。


「お主、名はなんという?」


「……神白たくま」


「そうか!! たくまか!!」


 ドンッと胸を叩く。


「お主なら娘をやってもいい!!」


「ほんとか父上!?」


 アレナが勢いよく飛び出してくる。


 尻尾が千切れそうなほど振られていた。


「たくま!!」


 嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。


「やったな!!」


「あぁ」


 気づけば俺も笑っていた。


 ――この世界に来てから初めて。


 少しだけ。


 居場所ができた気がした。


コメントくれると嬉しいです。

引き続き投稿頑張るのでよろしくお願いします。

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