第二話 之が?
お読み頂きありがとうございます。結末までは決まっているのに、文字に起こすだけの時間が取れない……
▷西区▷中層▷█████食堂『ローガン・コリンズ』
「んだァかァらァ!出れなくなったって言ってるでしょう!?私が嘘を吐くとでも!?」
「この場で最も……最もは言いすぎた。上から数えた方が早……いことも無いかもしれない。ともかく、かなり嘘を吐きそうな人格ではあるだろ、サム。」
「そこはせめて断言してくれませんかァ?私、この胡散臭さがアァイデンテティでもあァるんですけど?」
「空間内の胡散臭さ含有率が高すぎて、必然的に薄れて見えるんだよな……」
長い、これまたとんでもなく長い回廊を抜けて暫し。ローガンとサムは食堂の様な部屋に到着し、そこで外との連絡を試みていた。
一旦落ち着くのは異常事態の基本──そう宣ったのはサムであったが、本人が慌て散らかしているように見えるのは気のせいであろうか。ローガンのサムを見る目は厳しくなる一方であった。
「外部との連絡が取れたのは幸いだったな。明らかな異常空間だから、そもそも通信すら通らないと思ってたんだが。」
「まァ、今の世の中そっちの方が有り得ませんからァ。空間ネットワークをブチ切るようなバケモノに拉致されたんなら、それは生を諦めた方がァ早いです」
ローガンは既にボスへの連絡を済ませており、返事は『今は無理!』の一言であった。つまるところ、通信を行ったところで現状に進展はナシ、ということである。
ローガン達がいる部屋には窓が数箇所存在している。それら全てが釘と木の板を打ち付けられ閉鎖されているが、垣間見える外の景色は深夜の星空。
ひとつ、木の板が外されている窓がある。開かれた窓は全てを受け入れるように、暗い夜の闇を内包している。出れるのではないか──そう考える人がいてもおかしくは無かった。しかし、誰もそこには近付こうとせず、寧ろ視線を向けることすら避ける始末であった。
「しかし……静かですねえ!この部屋ァ!」
「……煩い。お嬢様が寝ているんだ、空気ぐらい読めないのか?」
「……はァい。すみません。」
ローガンとサムの電話も終わり、あまりに静かな空間。耐えきれずに声を上げたサムは、機嫌の悪い男の声により瞬く間に沈黙させらた。
「……あのな、そもそも全員顔と名前が一致しないレベルなんだよ。んな時に空気変えようとデケェ声出されても困るだけなんだ。まずは静かに、静かに自己紹介でもしてくれ。」
サムがあまりに落ち込んでいるように見えたからか、その男は救いの手を差し伸べた。それが悪手である事に気付かないまま……
「おっと?ツンデレ?ツンデレなんですか?いやァ、いいキャラしてますねイヴさァん!」
「キャラって言うんじゃねえよ。あとお前な、話聞いてたか?静かにしろっつってんだろうが。」
「はァい!聞いてますよ!」
「聞いてねえなこいつ!?」
ノリノリになってしまったサムは、誰にも止められない。頼みの綱!と言わんばかりに男はローガンに視線を向けるが、彼は絶対に目を合わせ無いように斜め上を向いてしまった。
監禁されているとは思えない緩いやり取り。食堂にいる他の5名は、皆それぞれの思惑をもってソレを眺めていた。
▷西区▷中層▷█████食堂『████』
少女は微睡みの中にいた。しかし、その微睡みを邪魔する者がいる。騒々しい声で叫び、喋り、眠りを妨げる者がいた。″お嬢様″と呼ばれる彼女は、自身の睡眠を妨げるものを許しはしない。
「……あァ、私の名はサム、サム・ミラー!国家公認記者にして!その国の闇を暴かんとする!究極の記者!です。以後よしなァに?」
「……声のデカさに関してはもうノーコメントだ。後でテメェがお嬢様にぶん殴られようが知ったことじゃねえ。死ぬだろうがな。どうなるか分かんねえが、よろしく、サム・ミラー。」
「おお、案外素直ですねえ!やはりツンデレキャラ、それもかなりお手本のようなァ……!」
寝起きの彼女は、とてつもなく機嫌が悪い。それ即ち、視界に映った声のデカい男を瞬時に殴り飛ばし、その首をへし折る程度は普通に行うということである。
「……ふん!!」
車椅子に座り、その瞳を閉じていた少女が、前傾姿勢を取り高速で接近してくる。そんな有り得ない状況に、反応出来なかったサム・ミラーは「ぐべらァ!?」と情けの無い声を上げながら水平に吹き飛んだ。
その首はあってはならない方向に曲がっており、その部屋には3名分の悲鳴が響き渡った。下手人であるふわふわフリフリの服を着たお嬢様は、振り抜いた拳をそのままに瞼を閉じて残心……いや。
「すやぁ……」
眠っていた。そして殴り飛ばされ、確実に命を落としたように見えたサムは……
「ちょっと!痛ァいじゃないですかァ!」
何事も無かったかのように……折れた首をぷらぷらと揺らしながら、怒り心頭、憤慨していますと言いたげな表情を顔に貼り付けていた。
「いや、おま、なんで生きてんだよ……」
「記者ァですからね!首が折れた程度で死んでいちゃァ、公認記者は務まァりません!」
「記者、怖……」
ゴキ!と音を立てながら首の位置を元に戻しながら、サムは少女へと顔を向ける。そして首を傾げ──今度は折れていない──、疑問を呈した。
「ふむ。私、これでもかァなり体を鍛えているんですよ。その私がァ、反応も出来ず水平に殴り飛ばァされる?このお嬢さん、一体何者です?」
眠っている少女本人に対してではなく、少女を護るように立ち塞がっている男に対して、そう問いかける。
「何者か、だって?残念だが、あんたが生きていた時点で答えることは出来なくなったな。大概、あんたもバケモンだろ?」
「おやァ、酷いことを言いますね。こんなにも無垢な記者ァだと言うのに。」
貼り付けられたのは無類の怪しさを誇る表情。和やかな空気であればネタと一蹴できるような表情であっても、警戒している相手に叩きつければそれは煽りに他ならない。
「一般の記者はよ、お嬢が殴った時点で原型も留めずに肉袋になるんだ。間違っても首が折れる程度じゃ済まねえし、そも首が折れて生きれるようなのを人間とはよばねえ。」
一触即発。触るな危険もいい所。サムは腰を落としてその拳を構えており、イヴは懐に手を差し込み、黒光りする鉄の塊に指を掛けている。
「───────」
誰も動かない。張り詰め、触ったなら断ち切られるかのような、冷たい空気。そんな空間でローガンが息を飲んだ音が、撃鉄となって状況を動かした。
男は視認すら叶わぬ速度で懐から出した拳銃のトリガーを引き絞り、サムはその指を揃えて手刀を放つ。放たれた実弾は違うことなくサムの眼球に突き進み、鈍色に鋭く光るサムの手刀は弾丸に匹敵する速度でイヴの首筋へと迫る。
「──────!」
瞬刻。加速されたローガン・コリンズの視覚でどうにか捉えられる速度の攻防……いや、攻防ですらない。ただお互いの命を奪う攻撃。間違いなく攻撃は互いに命中し、その命を散らす結果となる──はずだった。
「ストップ。イヴもやめて。」
瞬き以下の時間。視覚に特化した能力を持つローガンが見逃すほどの速度で、その女は2人の間に立っていた。
彼女の左手指には弾丸が摘まれており、歪んで変形したそれはまさか、その華奢な指の膂力によるものであろうか。
鈍色の輝きを纏っていたサムの手刀は肌色に戻り、細指をめり込まされて痛みに顔を歪めていた。
「……は?」
理解がフルマラソンでようやく追いついてきた、と言わんばかりの困惑顔。間違いなく、イヴが引き金を引く前に少女は全く動いていなかったのだ。弾丸よりも速く動き、それを指でつまんで止めることが出来る?そんなものが人間であると?之が?
「……お嬢様?俺は、その異常性を隠すために戦っていたんですが?」
「だとしてもよ。私は別に、自身の怪物性を隠していない。バケモノであることに自覚はあるし、それで恐れられ、敵視されたとしても、敵が生物の範疇であれば私を殺せない。」
淡々と告げられる言葉。眠たげな眼をした、華奢な少女から放たれるありえない語。
ローガンは知っている。裏世界に触れ始めてからの一年で、この世に人外と呼べるような存在はほとんど居ないということを学んでいる。恐るべき存在というのは無知、そして情報の少なさによって生まれるものであると、彼は思っていた。それが正しいはずだった。
彼だって、人外に限りなく近い力を持っていることは自覚している。だが、他ならぬ彼ですら、ゴルゴンに所属してからの半年は基礎能力を底上げするための体づくりなんかを行っていたのだ。眼前に立つ、細身の、未成熟な女が、このようなイカれた出力を出せる道理は存在しなかった。
「……ァー、貴女ァ、なんなんです?」
「私は……」
一息呑むと、少女は云う。
それが世界の摂理であるように。当然のルールであるかのように。
草臥れた顔で、呆れたように、慣れたように。幾度も繰り返したものをなぞるように。少女には到底似つかわしくない重みで、それを云う。
────私は、最強の人類よ。
修正:食堂の全体人数を8名に変更。ローガン・サム・イヴ・お嬢様+4名になります。




