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ジンチクのススメ  作者: 夢似える
序章 常世り熾きる夜の雲雀
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第五話 人間も血も、薄めて




▷北東区▷ホテル・アンジェリオン:九階宴会場『アリス・グレイ』



「あれ、やべ、死んでないよね?殺してたら結構怒られそうなんだけど……」


「結構じゃねえぞ新入り。最低でお前の首が飛ぶ。」


「それは比喩?それとも物理?」


「物理だ。」


「そっかあ……うーん、輸血とか出来るのかな、私の能力って。」


「知るか。自分の力ぐらい把握しとけ。」


「そうは言われてもねえ。出来ること多すぎて何していいかわかんないし、今のだって蛇さん沸騰させて自壊させてるだけだし……」


「その蛇さんがかなり意味不明だが。お前本当に瞥神教じゃねえんだよな?」


「違うって。そもそも、私だってなんでこうなってるのか分かんないんだよ。ボスに拾われたけどさ。」


「……ま、ボスのやることに文句は付けねえよ。このガキ連れていくのだって意味わかんねえしな。」


「あ、それはボスじゃなくてあの変な白衣の……誰だっけ、あの〜、ポポルみたいな。」


「ヘポラルだな。全く、あのキチガイ爺さん……また変なことでもやろうとしてんだな。」


「んー、じゃあ私の相棒は人じゃなくなるってこと?というかあのポポラルに弄り回されて生きれるわけ?」


「……………………ま、生きてはいるんじゃないか。最悪、屍が歩いてるみたいになるかもしれねえが。」


「最悪!ねえ最悪!もー!!!」


「あと、ヘポラルな。」




■■■■■



▷██区▷ゴルゴン本拠地:█階『ヘポラル・█████』




ピ、ピ、ピ、ピ。と無機質な機械音が木霊する。静かな部屋の中にはソレただ一つが、まるで神棚か何かのように安置されていた。


部屋は血液で塗れており、乾き切ったそれらは、赤というよりも黒と呼ぶのが相応しい様相を示している。


窓はなく、ドアもなく、あるのは壁端に備えられた梯子と、天井の落とし戸のみ。凡そ人間が一般生活に使っているとは思えないその部屋に、今1人の人間が立ち入ってきた。


「よほ、そろそろ成果が分かる頃かぁね?」


白衣を纏った男は危なっかしげに梯子を降り切ると、ソレへと駆け寄る。


ソレは端的に評するのであれば、上半分がガラスで出来た棺であった。内部には血色の良い、健康そうな青年……ローガン・コリンズが安置されている。紛れも無く生者であるが、棺の内側下部には夥しい量の血液が溜まっていた。


「ふむ、ふむ。()()()はぁ完了しちょるの。よく間におうたな、それまでに死んじまうと思ったが!」


何やらブツブツと呟きながら、白衣の男は棺の周りを動き回る。いくつかのコンソールを操作し、コードを繋ぎ、外し、それから勢いをつけてひとつのボタンを押し込んだ。


ゆっくりと棺の蓋が開き、大量の血液が床に備えられた乱雑な排水溝を通る。上手く流れきらない血液が溢れ出し、部屋の床に存在する血痕と重なった。


「さぁて、血色、健康状態を見るに既に()()()()。拘束してボスでも呼んで……」


扉は一切開いていないにも関わらず、その部屋の中に、一匹の猫が現れた。そして、それは男が瞬いた瞬間に少年の姿へと変じる。


「やぁ、呼んだかい?ヘポラル。」


「へへへほほ、相変われぇず神出鬼没もええとこでぇすね?」


ボスと呼ばれた少年は、棺の中に居る青年を見る。ヘポラルの言を聞きもせず、その頬をつつき始めた。


「あの、ボス?そろそろ起きるたぁ思いまっけど、その小僧からしちゃぁ我々は誘拐犯でしょぅ?」


「ああ、そうだね。ただまあ、この子は聡明だ。若く、未熟で、甘いだけであって、愚かでは無い。まず間違いなく交渉には乗ってくれるさ。」


つつかれている青年の頬が歪み、身動ぎをして狭い棺に衝突する。さらにいっそう顔を歪め、その青年はゆっくりと瞼を上げた。


「……ぁ……ん、な……?」


「やあおはよう、ローガン・コリンズくん。」


にこやかな笑顔でそう言ったボスは、機械仕掛けの左腕から冷水を出すと、そのままローガンの顔面にぶっ掛けた。


「冷たッ!?はっ!?て、誰!?」


「よし、目覚めたね。じゃあ端的に話すんだけど、君は誘拐されて人体実験の被検体にされました。ということで、君は抵抗したら殺すので僕たちに協力してね!」


「は……?」


満面の笑みで言い切ったボスに、ローガンは困惑したような目を向け、それから機械の左腕を見て、異様な格好をしたヘポラルを見た。数秒固まった後に血まみれの自身の体を確認し、青ざめたローガン・コリンズは、ゆっくりと頷いた。




■■■■■



▷██区▷ゴルゴン本拠地:█階『ローガン・コリンズ』



「さて、落ち着いたかい?」


「はい、まあ……ええ……誘拐されてますけどね……」


「下手なこと言うと爆殺するよ?」


「なんでもございません!」


一通りの説明が済まされ、部屋に残されたのはローガン・コリンズとボスのみ。ヘポラルは寝る!と宣言した後に部屋を出ていった。


「で、ヘポラルの説明には納得してくれたかな?」


「一応。それで、僕は何をすれば?」


「やる気があるのはいい事だね、死にたくないからかな?」


苦笑いをするは青年。それを見てケラケラと楽しそうに笑ってから、ボスは言う。


「じゃ、最初の仕事だ。君には、東区で1年間学生生活をしてもらおう!」


「は?」


にこやかに笑ったボスがどこからともなく赤いボタンを取り出すと、青年は必死に首を横に振る。


「さて、()()していただけたようだし、さっそく行ってもらおうか。家はこっちで用意するし、君の能力訓練の為に定期的に人員も送るよ。ただ、裏切ったらこれをポチッとやって殺すからそのつもりで。」


「は、はい……」


頷くことしか出来ない青年をみて、満足気に笑ったボスは、その左腕をガチャガチャと変形させていく。


「あの、一体何を……」


「ヘポラルに頼まれててね、さっきヘポラルは東区に行ったんだ。人体を転送するその瞬間を観察するためにね。」


「て、転送?」


変形する左腕は肥大化し、どう見ても転送に使えるものとは思えない様相を示していく。


「まあ、正直僕もどうかと思うよ?脅してるとはいえ新入り、僕たちの仲間にこんなことをするなんて。でもまあ、ヘポラルの頼みだし、君には死に慣れてもらわないと行けない。ということで、行くよ。」


「あの、なんですかそれは。明らかに圧殺というか、削り殺すというか、ミンチ肉を作り出す感じのフォルムなんですけど。」


「お、察しがいいね。その通り。君の全身を今から挽き肉にして、電脳だけをすっとばす。記憶の連続性、個人の同一性は保証するし、実験済みだから安心していいよ?」


「いやあの!死ぬんですよね!?1回死ぬんですよね!?」


「まあ、これから何度でも死ぬだろうし。じゃ、行くよー」


「まっ」



▷██区▷ゴルゴン本拠地:█階『猫の男』



ぐちゃぐちゃに挽き回された肉塊の命が世界から消え去ると同時、その部屋につぶやきが残された。



「よく考えたら、ミンチにする必要は無いよね?普通に殺せば生きている肉体に転送されるだろうに……」


「へほほほほほほ!こりゃぁ傑作だァ、上手くいったぞぅ!あのマンガのシーン、再現してみたかったんじゃぁ。」


「おや、お早い帰りだねヘポラル。転送は上手くいっていたかい?」


「もちろんだぁとも?上手くいかなきゃぁ戻らんよ。」


「ふむ、じゃあお疲れ様。もう休んでいいよ。」


「じゃあお言葉に甘えぇるとするけぇ。無限の休暇がワシを待っとる!」




■■■■■



▷東区▷アリス居室内『ローガン・コリンズ』



「かくして、哀れローガン・コリンズは挽肉となり初仕事に就くのであった……」


「起きたら酷いナレーションをされている気がする。それで、転送は上手くいったのか……?」


「もちろん!ここで君の体にイロイロしていたけど、さっき急に生気が滾ってたからね!」


「色々!?色々って、色々ってなんだ!?」


「まあ、それは置いといて。」


ベッドの上に寝ている女が跳ね起き、その長い金髪を揺らして自己紹介をする。


「殺した時にも言った気がするけど、私の名前はアリス・グレイ!これから君に仕事を教えつつ、監視して裏切ったらまた殺すから!よろしく!」


上に立たれるとデカイな……と思春期らしいことを思いながら、ローガン・コリンズは前途多難なイマを思って遠い目をするのであった。

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