第四話 切離すそれぞれ
説明回、というやつです。正直な話、説明はせずに物語の中で明かしていく、といったような形式で書いていきたかったのですが……自身の技力不足により、そのように書いていると時間がいくらあっても足りなかったため、一纏めにしてしまいました。
▷西区▷中層▷█████客室?『ローガン・コリンズ』
ローガン・コリンズを含めて、屋敷に閉じ込められていたのは9名。そのうち1名は食堂に居なかったが、最強のお嬢様とのあれこれを片付けてからの自己紹介で、食堂の8名──ローガン、サム、イヴ、お嬢様にプラスして4名──は取り敢えずの顔見知りと相成った。
何が起きるのかもわからない状況であるのだから、各々の戦闘力は明らかにしておこう。そう言い出したのは誰であったか、全員が受け入れ会合は幕を開けた。
お嬢様……片西暴楽が語り始めたのは、この世界に存在する三つの力について。
「私たちのように、この浮遊都市……E.2.U.Dが浮かび上がった瞬間に覚醒した人々。これを国々は、怪物と呼んでいるわ。」
片西は続ける。私たちは、全体的に脳筋の気質がある……と。食堂にいる何名かが異議を申し立てたそうな表情をしたが、彼女は全員を一瞥してそのまま続けた。
「そして次。瞥神教……及びそれの前身、そして瞥神教から分離したカルト団体。これらによって生み出されている、冒涜者と呼ばれる人々。」
片西は続ける。彼らは、全体的に性格の悪い能力を持っている……と。先程の再放送かの如く何人かが顔を歪めたが、これまた彼女はそれら全てを無視して続けた。
「そして最後。人間。純粋なる人類。これは中々いないけれど、人のままに怪物や冒涜者と渡り合う人間のことを、世界は超人と呼んでいるわ。」
彼らは……頭がおかしい人が大半ね。そう続けた少女に、イヴが立ち上がって抗議しようとする。が、口を開こうとしたところで、その発言は別の声によって留められることになる。
「発言、いいかぁ?」
「構いませんよ。」
「んじゃ聞くけどよぉ、今更そんな話する必要あんのか?オレはとっととここから出てえんだ、テメェらのふざけた茶番なんか見にココに来たわけじゃねぇんだよ。」
「あら、随分の気の短い方ですのね?」
立ち上がったのは長身の男性。筋骨隆々の前身には見慣れない紋章が刻み込まれており、鬼かと見まごうような顔は憤怒の表情に彩られている。
「オレぁ女を殴る趣味はねぇんだよ、とっとと話を進めやがれ。自己紹介なんだろ?だったらオレからやってやるよ!」
「思ったよりまともなことを言いますのね!?」
その肉体を見せ付けるようにポージングを行った男は、高らかに名乗りをあげる。
「オレの名は、マッドバッド・ヘルゲート!世界に轟く西の蛮人とはオレのことよ!」
自慢げな……事実その通りである表情を浮かべながら、蛮人、マッドバッド・ヘルゲートがその名を明かした。
そこからは話が早い。彼らは1人づつ能力の大まかな内容、名称を教え合い、2時間も経たないうちにその会談は終了した。客室──恐らく客室として使われていたであろう部屋を屋敷の中から探し出した──の中でひとり、ローガンは彼らの発言を精査しつつ、自身の頭の中でこの状況を打破する手段を考え始める。
ローガン・コリンズ。所属、ゴルゴン。冒涜者。男性としては長めの銀髪を綺麗に切りそろえている、客観的には美青年と呼んで差し支えないであろう男だ。彼が明かした能力はふたつ。【嘗て望んだ遥かな空】、【削ぎ落とす肢体】である。実際にはそれに加え、彼が生来持つ瞳と、不死身という後天的特性、そして隠している切り札、【瞼に掌を重ねて】が存在する。
サム・ミラー。所属、自称国家公認記者。怪物。真鍮色の短髪、カッチリと着こなされたスーツ、そして″特徴的に特徴のない″その顔。胡散臭い表情をさせたのならば、右に出るものなどいない男でもある。明かした能力は、【右、下、前】、【左、上、後】のふたつ。
イヴ。所属は明かされなかったが、どうやらロシアの人間であるらしい。本人は何も話す気は無かったようであるが、お嬢様──片西暴楽によってバラされており、その時のイヴの顔は筆舌に尽くし難いものであった。白金色の長髪を靡かせる、口の悪い美丈夫である。本人に特殊な能力は無いらしく、語るには「俺は暗さつ……少しばかり人殺……戦いが得意なだけの一般人だ。荒事には期待しないでくれ。」とのこと。
片西暴楽。眠れる暴君。怪物。所属は……強いて言うのであれば元日本。現在は国元からも追い出され、各地を放浪する旅をしているらしい。彼女が明かした能力はひとつ。【最強】ただそれのみ。
マッドバッド・ヘルゲート。所属はなし。怪物。鍛え上げられた褐色の肉体を晒す、禿頭の狂戦士。明かした能力は、【来い、地獄の門】【居ね、地獄の門】のふたつ。
オーディス・ヘイスト。所属は国立警備隊。人間。本来は反社達の会合に潜入捜査するべく送られた人材だそうだが、この状況なら協力しますよ、と優しげな笑みを浮かべていた。柔らかな真紅の髪を持つ、壮年の男性である。能力は特になく、この中では唯一の非戦闘員であるだろう。
ドーライヒ・K・N。所属は不明。一言、「邪魔はしない。勝手にやりたまえ」と呟いて以降は一切話さなかった男。この空間の胡散臭い含有量を跳ね上げている張本人でもある。紫と青で彩られ、ツギハギによって形作られた道化の衣装を着用し、その頭には道化の冠を被っている。
ライコニア・BB。所属はサヴェルス会。人間。燕尾服を着こなした若い男性であり、身の丈ほどもある不可思議な杖を持っている。戦闘能力はほとんどないと自称していたが、ローガンはその瞳にて、彼の身のこなしに戦人のそれを感じ取っていた。
それから解散して数十分。軽く屋敷を探索し、8人分の客室を発見してから解散。被害者たちは、各々に割り与えられた部屋で休憩をとっていた。
「……これから何が起こるのかは全くわからない。監禁することが目的なのか、監禁することは手段に過ぎないのか。そもそも、西区にこんな大きさの屋敷なんてあったか……?」
そんな中ローガンが行っていたのは、現状の整理と先程ボスから与えられた暗号による伝言の解読。それから、片西暴楽から与えられた初見の情報についての考察。
怪物、冒涜者、人類の三すくみ。この知識は常識と言って差し支えないものであり──ヘルゲート、及び他の者たちの反応からして──ローガンが知らなかったこと、そして彼が知らないという事実を片西が察していたこと。どちらも彼にとっては考えるべきことであり、今の彼の思考をぐちゃぐちゃに掻き回すには十分な出来事であった。
再優先目標は脱出。彼は脳内で言葉を紡いでいく。戦いになるとすれば恐らく首謀者……が、あの場にいた人間が味方と言い切ることは全く出来ない。あの中に敵と呼べる者がいる可能性は大いにある上、通信した際にボスから伝えられた疑えという暗号を鑑みると……
そこまで思考した所で、彼の考察はドアをノックする音によって遮られることになる。
「コンコン、サムさんですよ!あれ?もしやァ、この状況で寝てるクソ図太い野ァ郎だったりします?」
「ノックにノータイムで返さないだけでそこまで言われるのか?考え事してたんだよ、どうかしたか?」
彼が巫山戯た闖入者に疑問を飛ばせば、サムはその人格に相応しい巫山戯た情報を叩きつけて、その根っこから彼の思考を吹き飛ばす。
「首謀者ァ……恐らくですけどね?その方からの手紙がァ、食堂に届いていましたァよ。内容は……まァ、実際見た方がァ早いでしょう。」
「……は?」
「ただァ……内容からして、戦闘準備はァ……した方がいいでしょうね。」
準備を見られたくはァないでしょうからァ、と言い残して、怪しげな男は去る。その後ろ姿を見送って、ローガンは一本の刃物を取り出す。
彼は嘘を吐いていなかった。ローガンの眼にはそれが見える。つまるところ、戦闘準備が必要という事に違いはないのだろう。
電子ナイフ全盛の時代に、安全装置も備えられていないような金属製の刃物を使っている理由は自明。それは、あまりにも悍ましい用途に、赤に染まっている。
それをベット脇に備え付けられた証明に翳し、角度を変えては反射した光に目を細める。幾度かそれを繰り返した後、大きくため息をついて、彼は自身の左薬指にそれを充てがった。
極限まで押さえ込んだような、小さく呻くような、喉で押し殺し、それでも漏れた苦悶の声。うるさい迄に鮮やかに、彼の瞳は自身の鮮血を映していた。
▷西区▷中層▷█████食堂『ローガン・コリンズ』
食堂に集合した彼ら8名。全員が揃って違わず見つめているのは、食堂の丸テーブル、その上に乗っている一枚の紙。
広義、紙というのは何かを書記すためにあるものだ。書かれていること以前に紙そのものを気にする人は、少なくとも少数派であることだろう。
「あァ〜〜、全く意味が分かりませんねえ。ちなみに、手紙の第一発見者は?」
「……オレだ。腹減ったから冷蔵庫漁りぃ来たらよォ、この──嘗めた紙が転がってやがった。」
不機嫌そうに手を挙げるのは、筋骨隆々の禿頭。その目は不愉快そうに細められ、真っ直ぐに手紙を睨んでいた。
「内容は──」
《これより、屋敷に集められた君たちでゲームをする。ルールは簡単、この手紙が届いてから、一時間ごとに一人ずつ殺す。もしくは君たち自身の手で殺してくれても構わない。君たち14人が全滅したら終了だ。ああ安心してくれ、私もゲームには参加している。君たちが全滅する前に私を殺せたのならば──生きている人は解放して差し上げよう。》
それは、所謂デスゲームというものなのだろう。改めて内容を精査した8人。大多数の目は疑心に染まっている。それも仕方がないだろう、ひとつ飛ばしに座っている隣人がこの手紙の書き主であるかもしれないのだ。あくまでも被害者たちであったその集団は、今この瞬間に、被害者とそこに混じる加害者という構図へ変遷を遂げた。
だが、そうではない。デスゲームということに関しては、ローガンや一部の勘のいい者たちは予想のひとつとして持っていた。問題は……
「14名、ですか。……あの少女をカウントするとして、書斎にいる1名を含めたとしても……欠けています。」
「手紙に書かれている人数と、見知った顔の人数が一致しない。4人も足りていない。それに、あの少女が既に死んだ判定なのかによって……話が変わってくる。」
オーディス・ヘイストが疑問を呈し、ライコニアがそれを引き継ぐ。そう、手紙に書かれていた14名を満たすには、あまりにも人数が足りていないのである。
探索中に見つけた書斎、そこで本を読み耽っていた1名、そして……ローガン達が辿り着く前に消えたらしい1名。それらをカウントしたとして、今のメンバー含め10名にしかならない。
全員、手紙の内容が嘘だなどと声をあげる愚は犯さない。既に空間ネットワークは切断されており、外部への通信は不可能。詰まるところ、サムの言う『自害した方がマシ』な状況に置かれている訳である。これだけの異常現象を起こせる相手からの手紙など、真実と念頭において行動することに何の損があるだろうか。
沈黙が空間を支配する。一人は死ななくてはならない。この場にある以上は、何の恨みが無かったとしても誰かが消えていくしかない。
「……ふむ。思うのだが──これは、人狼と言うものなのでは無いか?」
その空気を破ったのは、思いもよらぬ人物であった。ヘルゲート、サムといううるさい二人を差し置いて、手を挙げたのは道化の老人。その口から放たれたのは、老けきったシワまみれの男の口からという意味でも、緊迫した現状という意味でも、相応しくはない単語であった。
ただ、その言葉に少なからず納得を覚えた者たちがいるのも確かだ。ローガンもその一人であり、毎夜──この場合は一時間毎だが──一人ずつを消していき、悪を消せば勝利という構図は、確かに覚えがあるものだった。
「ふむ……一理はあるでしょうね。モチーフがそうである可能性は大いにあるでしょう。」
「ンなこと言ったって現状変わんのかよ?……オレはここにいる連中を疑いたかねえ。屋敷ん中探して……カス見ぃけて喰い殺してやる……!」
ヘイストは静かに同意したが、ヘルゲートは強く啖呵を切り、肩を揺らして部屋の出口へと歩いていった。
ローガンは思考していた。現状、全員の視線、脈拍、皮膚に浮かぶ汗。それらに異常は全く見られない。彼の味覚を代償にして強化された視界でも判別がつかないのであれば、この場にいる人々の容疑は一旦だが晴らして構わないだろう。
「……分からないな。そもそも、殺すってのは本当に直での殺害なのか?人狼モチーフなら、直接的な手出しってより、多数決での処刑がイメージしやすいけど……」
情報が、あまりにも足りない。彼は、この屋敷に来てから見聞きしたものを想起していく。異様に長い廊下、おかしなメイドロボ、最強、記者、それと……ここに居る人々。
ふと、彼の頭に違和感が引っかかった。
「あのメイド……メイド?案内人のロボットって、どこに行ったんだ?」
返答は、ヘルゲートが出ていった扉からの爆音、そして熱、硝子、木片を伴った爆風によって返された。




