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ジンチクのススメ  作者: 夢似える
序章 常世り熾きる夜の雲雀
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第一話 潜む者たち

初投稿です。読んで頂きありがとうございます。



▷北東区▷ゴルゴン支部『███・███』



「新入り、仕事だ」


木製の扉が乱雑に開け放たれ、言葉が投げかけられる。声の主は部屋には入らず、少し顔を顰めてから何かを投げた。


「汚ねぇな……自分の小屋ぐらい掃除しとけよ。ほら、今回の衣装だ」


放物線を描いて飛んだソレは、殺風景な部屋を横切り、埃を撒き散らした。ふぁさ、と軽い音を立てて机に着地したソレは、少しばかり過剰に生地の薄い、美しいドレスのように見える。


「……なに、破廉恥?そういう仕事ならやらないけど」


部屋の主はため息を吐き、部屋の外に立つ男を見上げる。紫紺の瞳が殺意を持って細められ、安っぽいシーツを握る手に力が込められる。


男は煙管を2本の指に挟み、灰色の煙を吐き出しながら問に答える。即ち、否定こそ出来ないが、お前の想像通りでは無いと。


「今回の仕事はお偉いさんに関わる事だ。普通ならお前みたいな新入りのワンコロには任せないんだが……」


そこまで言うと、男は口の端を歪める。笑みと形容するべきであろう表情には、愉快という感情がありありと浮かんでいた。


「ウチの組織は、如何せん何処かトンでるヤツが多くてな。お前も知るところだろうが」


それを聞いた少女は、少し面白そうに笑ったあと、結局は、と口を尖らせた。


「で、ハニートラップしろって事?やっぱりそういう案件なんだ?」


パタパタと振られる足、にへらと笑った顔とは似つかわしくない言葉。それを冷めた目で見据えた男は、そのまま背を向けてその場を去った。


「さて、うわ。ほんとにうっすい生地。胸と腰以外隠す気ないじゃん」


投げられたドレスを確認しながら、何度か文句を口走る。仕方がない、と渋々な姿勢を見せながら、その顔には笑みが貼り付けられていた。


ゆるりと服が脱ぎ捨てられ、薄いシーツの上に2枚、3枚と重ねられる。下着姿になった少女は、渡されたドレスに袖を通した。


手首には銀のアクセサリを着け、耳たぶにも同じくイヤリングを。ゆらりと揺れるイヤリングはトランプの意匠が施されており、ディティールの凝ったソレからは、並々ならぬ拘りが感じられる。


脚にはストッキングを履き、ガーターベルトで落ちないように支える。足元には短いヒールの靴を携え、カツン!と踵を打ち鳴らす。


くるりと回ると、薄い生地のドレスが舞い上がり、イヤリングが揺れる。その見かけを部屋に備え付けられた姿見で確認すると、ここまであからさまとは、と苦笑いを浮かべた。


そして、心底楽しそうに部屋を出た。





▷北東区▷ゴルゴン支部『ハンク・メタラー』



部屋の外は廊下になっており、そこを通る人間は誰一人として存在しない。この組織は常に人手不足であり、それは新入りが2人ほど増えたこの瞬間でも変わらない。


廊下の突き当たりにある少女の部屋を出た男は、そのまま広間まで歩く。開け放たれ、空になった部屋を何度か横目にすると、その度に表情を歪ませた。部屋の中は散らかっており、少し前までは住民がいたことが伺える。


広間には1人の男が居た。その男は首に小さな猫を乗せており、右の手首から先は黒光りする金属に覆われていた。その小さな身長も相まって、端的に評するなら異様としか呼べないだろう。だがそれと同時に、この不穏な屋敷に於いてはなんともマッチする格好でもあった。


「ああ、君か。どうだい、新入りの様子は」


屋敷の二階と一階を広間にて繋ぐ階段。その手摺に腰掛け、猫の男は見下すように声を掛けてくる。


「ボス、貴方も趣味が悪い。彼女を連れてきたのは貴方ではないですか。何故私が教育の真似事を?」


一階の男は不快げな顔で文句を宣い、ボスと呼ばれた男はあはは、と軽快に笑う。それはそのまま彼らの在り方を表しているかのようでもあった。


「君は真面目過ぎるね、僕の行動に意味なんて考えても無駄だって、まだ分からないかい?」


相も変わらずあはは、と笑うボスに対して、苛立つように煙管をくるくると弄んだ男は、煙を吐きながら諦観を表した。


「はいはい、ボス。貴方は相変わらず狂ってるし、俺はそんな貴方にお仕えする者ですとも」


ボスは満足そうに笑うと、その穏健な気配を引っ込めた。瞳に剣呑な光が宿り、鋼鉄の右手がからりと音を鳴らす。


「さて、そんな君に次の任務だ。そんな顔をするな、今回の任務は簡単だとも!」


苦虫を噛み潰したような顔をした男に対して、ボスは安心させるように笑みを浮かべる。


「なんてったって、次の任務の場所はあの東区なんだから」


東区。別名を、平民区。9つに分けられたこの国の区分けに於いて、最も平和であり、最も凡庸な区域でもある。


残念なことに、そんな場所に派遣されるような事案が起きているという時点で、平穏を望む男の願いは打ち砕かれたも同然だ。これがスラム街とも呼べる西区であったなら、喧嘩の仲裁で終わることもあっただろうが。


「はぁ……まぁいいですよ。俺に関しては。どうせ、死ねはしないでしょうし。それより、俺は彼女が心配ですね」


何もかもを諦めたような声音でそう言うと、男は再び煙管を咥えた。


「ふむ、というと?」


煙管を離し、再び息を吐く。重ね重ね、と前置きしながら、口を開く。


「貴方も、人が悪い。今回彼女に与えられた任務、相当な厄介事でしょう。確実に国立警備隊が出はってくるような案件だ。それを、新入りの少女に任せるなんて……」


男が言葉を紡ぐ度に、ボスの顔に刻まれる笑みが深くなっていく。ふふふ、はははは、と笑い始めたボスは、ひとしきり笑った後に、爛々と輝く瞳で男を射抜いた。


「人を見た目で判断するのは君の悪い癖だよ、ハンク。彼女は、よもすればヴドをも超える逸材さ」




「それに、危険なことはさせないしね!」


「それを先に言ってください。信じる気にもなれませんが。」








▷北東区▷ホテル・アンジェリオン:九階宴会場『███・███』



当たり障りのない笑顔を浮かべ、時々ひらりと服を舞わせては、男たちの視線を釘付けにして行く。


「やぁお嬢さん、私と一曲踊らないかね?」


申し訳程度に鍛えられた肉体を見せびらかす男から誘われようとも、嫌な顔ひとつ浮べやしない。


「ええ、喜んで!私のようなひとが貴方様と踊れるなんて、まるで夢のようだわ!」


口調の拙さ、幼げの残る薄いメイク。しかして華やかに、ましては艶やかに。ダンスの合間にぬるりと服の中に滑り込まれる手にも、寧ろ掴み返して誘導する。


満足げな男を横目に捨ておき、彼女はまた別の男と踊り始める。だが、それはこの会場においてはスタートラインに過ぎない。


「ん、あの嬢は誰かな?」


パーティも中盤、盛り上がりに盛り上がり、1人の女の事など考えている者の方が少ないだろう。皆、次々と別の女と踊っては、今夜持ち帰り、一晩を共にする者を選別している。


「ふぅむ、あの背の低い真珠髪の事ですかな?それならば……ほう、今回で2回目と……そうなりますと、少々問題でもあるのではないかね?」


そんな中、一人の若い男がその少女に目を付けていた。傍らの執事に疑問を投げかけながらも、その目は少女に釘付けられている。その視線は脚を撫で、臀を撫で、腹を撫で、そして胸で止まった。


「全く、貴方の好みは相変わらずですな。私めから言えることは何もございませんが、少しは節操を保った方がよろしいかと」


曖昧に笑いながら執事の声を受け流した男は、するりと人混みを抜けながら少女に接近する。そして、その肩に優しく手を置いた。


「お嬢さん。俺に持ち帰られてみない?」


愚直なまでに率直な言葉。投げかけられたそれに、少女は満面の笑みで頷いた。こんな貧相な娘でよろしいのですか?問いに対して、それであるから良いのだと返す男。その返事を聞いた彼女はますます笑みを深くし、男にしなだれかかる。


それは妖艶な妓女のように、はたまた獲物に絡みつく蛇のように。


「ああ、本当に幸せものだわ……」


しみじみ、といった様子で呟いた言葉は、当然男の耳にも入っていた。パーティの熱に浮かれ、熱い体温と鈴の声。


酔った判断力で決断した男は、そのまま臀に手を伸ばす。


その手が、二度と動かなくなるとも知らずに。


「残念、ここから先は地獄でどうぞ♡」


耳元で囁かれた声、男は咄嗟に反応出来ない。愕然としながら離れる熱源に手を伸ばし、それが何かの先端を掠めた。


奇しくも男は願いを叶えたが、それを知覚することも無く破壊される。身体の内側から朱色の蛇が伸び上がり、全身に幾つもの大穴が開けられるという過程を以て。


「ぁえ……?」


少女が、指をパチン!と打ち鳴らした、次の瞬間。少女と踊った事のある男たちの体内から、朱色の蛇が立ち上る。それは命を吸うように少しづつ巨大化し、比例するように男たちの身体は乾涸びていく。


「血色の……蛇……?」


男の執事は、ソレに見覚えがあった。腕が震え、喉からは意味を持たない呼気が漏れ出る。潰れた喉から悲鳴に到らない声が捻り出された頃、乾涸びた男の肉体から伸びた蛇がその腹を貫いた。


「警備員!警備員は何を!?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!」


「ぁ……ぁ……」


「ふんふんふんふーん♪」


少女が血で染まった指揮棒を振り回す度に、共に踊った男たちの身体が内側から破壊されていく。内蔵が土のように飛び散り、肉が花びらのように開く。血液は水のように吹き出し、その度に吸われていく。風船に空気が詰められていくように、のたうち回りながら伸びてゆく。


一人、また一人と倒れていく。なぎ払われるように死んでいく。


助けて、と懇願しながら食い破られる者。

嫌だ、と恐慌しながら潰される者。

ふざけるな、と激昂しながら貫かれる者。


まるで食肉が並んで処理されるように、猛獣の檻に餌が流し込まれるように。

植物に水が与えられるように、スポンジがそれを吸い取るように。


当たり前のように流れる、まるで人の命がただのリソースのようにも見える光景。


その中心に立ち、堪えきれない笑みを浮かべる少女。指揮棒を振り、その動きにて鏖殺を引き起こす。軽く右に振り抜かれた動きに合わせて蛇が動き、また1人の腹を食いちぎった。


血で血を洗う、内蔵で臓物を覆い隠すような惨状。


開き切った眼の中心、蛇のように細く伸びる瞳孔。狂気を隠しもせずに滲ませる紫紺の瞳が、睥睨する。


さながら、蛇たちの楽園。血で塗れた庭園。開かれた花と、吹き出す噴水の、美しい庭園がそこにはあった。


さらさらと流れる血の音を聞きながら、少女は鼻歌を唄う。それは子守唄のような、民謡のような、少なくともこの場に似つかうものでは無い歌だった。


それから数瞬。誰かの叫び声が聞こえたのか、はたまた足の速い者が通報したのか。


「止まれ!我々は国立警備隊だ!今すぐ武器を捨てて投降しろ!」


ぐしゃり。と無粋な足音が聴こえ、少女は顔を顰めた。しかし、それをおくびにも出さず少女は振り向く。


ひらり、とドレスを広げた少女の顔には、華のような満面の笑みが浮かんでいた。


「貴様……なんて顔をしている……!?」


後退した警備隊。それは戦況によるものではなく、明らかに精神に起因するものだと分かる。後ずさった足が何かの肉を踏みつけ、ぶじゅりと音が鳴る。


ほんの数分でこの惨状を引き起こした少女。その正体が何かなど、ここに居る全ての人員は把握している。それは彼らを幾度と無く苦しめ、国を内側から蝕み食い破る組織。


「狼狽えるな!相手は血蛇の女、ゴルゴンのメンバー!ほんの一瞬すら命に関わると思え!」


味方の怯えにいち早く気付き、全体に号令を掛ける男。一際立派な服装で全身を包むその男は、見るからにしてリーダーと言える容貌であった。


「むぅ、せっかく狂人の真似事をしてあげたのに」


少女は不満げに呟くと、その顔を無表情に戻す。その転身の速さにも何人かが怯んだが、先の号令にて警戒している彼らは、大きな隙を生まなかった。


「はぁ、めんどくさいめんどくさい。特権階級のクズ共を嬲り殺せるって言うから来たのにー!」


少女を中心に、少しづつ部隊が広がってゆく。彼らは一切の油断無く銃口を向けており、その指は引鉄に軽く掛けられている。


その最中、少女は豪胆にも独り言を呟き、くるくると指揮棒を振り回す。だんだんと加速が早くなり、そしてある一点を超えた時にぴたりと止まった。


「うん、うん、そうかも、そうだよね!」


少女の中で何かが完結したのか、その動きからは迷いが抜けていく。即ち、ゆるりと上げた右腕を警備隊に向け、指揮棒をピンと伸ばす。


「聞こえないのか!その棒を今すぐ!地面に捨てろと言っている!」


その声を聞くと、少女はあっさりと頷いた。


「うん、いいよ?」


すっ、と少女の手のひらから力が抜け、すり抜けた棒が一直線に落ちてゆく。血塗れの床に落ちた棒がぴちゃり、音を立てると同刻。


少女を囲む集団から撃鉄の音が響いた。

集団に囲まれる少女から、声が響いた。







「国立警備隊って……つまるところ、特権階級(クソ共)、だよね?」





■EP.0〈常世り熾きる夜の雲雀〉



お読み頂きありがとうございました。よろしければ次の話も読んで頂けると嬉しいです。

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