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フィンガープリンセス

作者: 霜月希侑
掲載日:2025/10/23

 私の名前は友梨奈、22歳。ネットの世界ではなぜか「フィンガープリンセス」で有名になっている。顔出しはしないけど、色とりどりのファッションや、こだわり抜いた部屋のインテリアをスマホの画面越しにシェアしてる、一応インフルエンサー。フォロワーは10万人。22歳の私には、ちょっと自慢できる数字だ。


 でも、画面の向こう側は、いつもキラキラしてるわけじゃない。


 朝、ルイボスティーをすすりながらスマホを開く。昨日アップした動画のコメント欄をチェックする瞬間、いつも心が弾む。どんな反応が来てるかな。私のコーディネートに「かわいい!」って言ってくれる人、いるかな。部屋の雰囲気を「真似したい!」って褒めてくれる人、いるかな。そんな期待を胸に、画面をスクロール。


でも、そこに並ぶのは――


「このトップス、どこで買いましたか?」

「〇〇県にも売ってるお店ありますか?」

「サイズ感どんな感じ?」

「まだ在庫ありますか?」


質問。質問。また質問。


 ため息がこぼれる。動画の中で「このトップスは〇〇のオンラインショップで買いました」ってちゃんと話してるのに。商品名がわからなくても、画像検索すればすぐ出てくる時代なのに。なんで、なんで、こんなコメントばっかりなの?


 最初はマジメに返信してた。「〇〇のサイトで買えますよ☺️」とか、笑顔の絵文字つけて答えてた。でも、同じ質問が何十回も来るから、もう心が折れちゃって。返信する気すらなくなった。


 私が欲しいのは、ただ一言。「かわいい」とか「雰囲気好き!」とか「センス最高!」とか。私の世界に共感してくれる言葉。それだけでいいのに、なんでいつも期待を裏切られるんだろう。ほんと、謎すぎ。


 今日も新しい動画をアップした。秋らしいキャメルのカーディガンに、フリンジのスカートを合わせて、部屋の小さな本棚の前で撮影。窓から差し込む光もいい感じで、選んだBGMは優しいピアノのメロディ。自分でも「これ、めっちゃいいじゃん!」って思える仕上がりだった。


アップしてから数時間。ドキドキしながらコメント欄を開く。すると、また――


「そのカーディガン、どこの?」

「スカートのサイズ教えて!」

「本棚の後ろのランプ、どこで買ったんですか?」

「まだ買えますか?」


私の心の中で、何かがプツンって音を立てた。


「私、商品紹介のYouTuberじゃないよ! ショップの店員でもない! 自分で調べてよ!」


 叫びたい。でも、叫べない。インフルエンサーって、そういうものじゃない。いつもニコニコ、フォロワーと「仲良し」な雰囲気をキープしないといけない。たとえ心の中でどれだけイライラしてても。


 コメント欄はまるで戦場。私のこだわりや想いなんて見向きもされず、ただ「情報」を求める声が雪崩みたいに押し寄せる。私はただ、好きなもの、かわいいものをシェアしたいだけなのに。なんでこんなに大変なんだろう。


 夜、ベッドに寝転がって天井を見つめる。やめちゃおうかな、って。何度もそう思った。コメント欄を開くたびに、心がザラザラ削られる。だったら、もう全部投げ出してしまえば楽なのに。


でも、やめられないんだ。


だって、私の投稿を見て「めっちゃ可愛い!」「投稿楽しみにしてます」って言ってくれる人が、ほんの少しだけど、いるから。私のコーディネートを真似して、写真を送ってくれる子がいる。「この動画見て、部屋にグリーン置いてみました!」ってDMくれる人もいる。そういう小さな瞬間が、私をここにつなぎ止める。


それに、これは私の居場所。現実の友梨奈は、ただの22歳の女の子。大学出て、バイトしながらフラフラしてる、どこにでもいる子。でも、インフルエンサーとしての私は、誰かにとっての「特別」になれる。画面の向こうで、誰かの毎日に小さなハッピーを届けられる。


だから、今日も戦うよ。質問だらけのコメント欄と、期待を裏切る声に立ち向かう。私の世界を守るために。私の「好き」を貫くために。


スマホを手に、明日の投稿のアイデアを考え始める。次はどんな自分を見せよう。どんな世界をシェアしよう。心の中でそっとつぶやく。


「フィンガープリンセス、絶対負けないから」


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