転生してしまった
気がついたら、僕は暗闇の中にいた。
(……ん? あれ?)
暗い。すごく暗い。
何か体の回りで流動しているのは感じる。
そう、水の中にいるような。そんな感じ。
でも、苦しくはない。
いや、そもそも息をしていない。息を……する必要がない?
(どういうことだ?さっきまで、川に落ちておぼれてたよな?ということは川の中ってことか? いや、でも意識はあるし……)
体を動かそうと、手と足で水をかき分けようとする。
動かない。
(え? 手は? 足は?)
顔を下に向けようとしたが、顔も動かない。ない。何もない。
でも、視覚もあるし、聴覚もあるし、触覚もある。ただ嗅覚と味覚がない。自分の体が――体? ――が、確かに存在している感覚。水と触れているという感覚。体内に何かがあるという感覚。
(何が起こっているんだ!?)
パニックになりかけたその時。
視界――いや、視界というより意識の中に――何かが浮かび上がった。
まるでゲームの画面のように、青白い光を放つテキストウィンドウ。
【水質分析】
・汚染レベル: ★★★★★ (深刻)
・細菌類: 大腸菌群、レジオネラ属菌 検出
・化学物質: 重金属(鉛、カドミウム)、有機溶剤 検出
・魔素濃度: 極めて高い
・異物: 浮遊ゴミ、死体、死骸 、多数
【判定】
最悪。飲用不可。長期接触で皮膚疾患のリスク。
飲むと確実に病気になります。
【浄化しますか?】
> はい / いいえ
(……は?)
目の前に――というより、意識の中に――選択肢がポップアップされている。
(なんだこれ……鑑定? 分析? ってか、ゲームのインターフェースみたいなんだけど)
頭が混乱する。いや、頭もないのかもしれない。でも考えることはできる。
(この謎のウィンドウと魔素濃度って……。これって、もしかして……転生?)
漫画やラノベで読んだことがある。死んだら異世界に転生して、チート能力を得て無双する、みたいな。
(でも、普通は人間とか勇者とか、せめて生き物に転生するだろ!? でも、最近無機物に転生するのもあるし、、。これ、僕は何になったの!?)
周りは暗くて何も見えない。自分の姿も分からない。ただ、水の中にいることしかわからない。
そして、目の前にはまだ選択肢が浮かんでいる。
【浄化しますか?】
(……とりあえず、浄化してみるか)
他にできることがない。なので、これしかできない。
僕は頭の中で「はい」と念じた。
瞬間。
ゴゴゴゴゴッ――
体の中――いや、自分という存在の中心から、何かが動き出した。
水が、流れ込んでくる。
汚れた水が、僕の中を通過していく。
そして――浄化されていく。
重金属が分解される。細菌が死滅する。濁りが消える。異物が除去される。
全部、僕の中で処理されていく。
(すげぇ……! これ、僕がやってるの!?)
感覚が鮮明になる。水の一粒一粒が分かる。汚染物質の種類も、量も、全部把握できる。
そして、それらが綺麗になっていく過程が、手に取るように分かる。
いや、手はないんだけど。
体の中――存在の中――が、透き通っていく感覚。なんか、すごい気持ちいい!
まるで体の中の毒素が全部出ていくような爽快感。
【浄化完了】
水質レベルが「飲用可」まで改善されました。
【排出しますか?】
> はい / いいえ
次の選択肢が目の前にポップアップされる。
どうやら、星1個分回復したらしい。
(排出……? あ、綺麗にした水を外に出すってこと?)
「はい」を選択する。
シュゴオオオオッ――!
僕の体――存在――の中から、浄化された水が勢いよく放出された。
まるでジェット噴射のように。
その反動で、僕の体が少し後ろに動いた気がした。
(おお……! 動いた! ちょっとだけど、動いた!)
興奮する。これは使える。もしかして、この能力を使えば移動できるんじゃないか?
でも、喜びはすぐに冷めた。
(……で、僕、結局何になったの?)
周りは相変わらず暗い。自分の姿も見えない。
僕は近くの水を吸っては浄化して吐いてを繰り返し移動した。
何回か噴出をし姿勢?を変えると、光が差しているポイントが見えた。僕はその方向に向けて移動する。
少しずつ、光が大きくなり、その光が水面であるということがわかってきた。
僕は急いで水を噴出する。そして――
ポチャン!!
と、水面を飛び出し宙に浮く。
広がる夜空と満月。
(え、月でかすぎ!?)
川に落ちる前に見た月とは比べ物にならないぐらいでかい。
3倍ぐらいはあるのではないだろうか?
そして、身体が落ちていく。下には水面が見える。。
その水面に反射した自分の姿がーーー
なんと、500㎖のペットボトルのような形になっていた!!
(人型じゃないと思っていはいたけど、ペットボトルになるなんて!?)
涙があふれそうな気がしたけど、目がないのでそれは気のせい。
僕はどうやらペットボトルに転生したらしい。




