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時をかける

作者: 通りすがり

幼い頃、陸生の母はある日突然姿を消した。誰にも理由は分からず、警察にも捜索願を出したが、母が見つかることはなかった。



時は流れ、陸生は40代となっていた。

ある日、ふらりと入った喫茶店で店員を見て驚愕した。その女性は失踪した母に瓜二つだったのだ。

「母さん…」思わず呟いた陸生の声に、女性が顔を上げた。「陸生なの…」女性は、陸生の名前を呼んだ。間違いなく陸生の母だった。

詳しく話を聞くと、母はタイムスリップによって未来の世界へと来ていた。

母の中では陸生の前から姿を消してから、まだ2年ほどしか経っていないと言った。

そのため、今では陸生の方が母親よりも年上になっていた。

普通ならとても信じられる話ではなかったが、記憶の中と同じ母の姿に、陸生はまったく疑うことなく母の言うことを信じれた。


それから陸生は、度々母と会うようになった。

しかしある日、妻から大事な話があると言われ、そして一枚の写真を見せられた。それは、陸生が『母親』と会っている写真だった。

「あなた、浮気しているのね」

妻にそう責められた陸生は、正直に話した。あれは昔に行方不明となり現代へタイムスリップした母だと。

最初は当然に全く陸生の話を信じなかった妻だったが、母親の昔の写真を見せると、その瓜二つの容姿に驚いた。必死の陸生の説得にやがて妻も話を信じてくれた。

そして陸生と妻、そして母から見ると孫となる二人の間にできた娘の3人で母と会うことになった。

母は孫の姿を見て涙を流して喜んだ。「まさかこんな日が来るなんて…」

しかしそんな幸せに満ちた時間はあっという間に過ぎさり、別れのときとなった。すると母は深刻な顔で陸生に言った。「もうすぐ、私はこの時代からいなくなる」

どうやらタイムスリップが起こる予兆があるらしい。事実、母はこれまで2度タイムスリップを経験していて、その前には必ず予兆があったようだ。

陸生は母がタイムスリップした後のことを心配した。しかし、母はそれは大丈夫だと言った。

母と同じようにタイムスリップをする人は少なからずいて、そしてタイムスリップをした人のことはお互いに分かるようだった。

母親が最初にタイムスリップをした際には、どうしていいのか分からず一人途方に暮れていた。そんなときに声をかけて助けてくれた人はタイムスリップの経験者だった。

そしてタイムスリップ後の生活が困らないよう、お互いに助け合う仕組みもあるらしい。

「どの時代にタイムスリップをするかは分からないから、あなたにはもう会うことはないかもしれない。いつまでも元気で」

母は別れ際にそう言った。そしてそれ以来母と会うことはなかった。



それから数十年が経ち、陸生は老人介護施設にいた。

妻に先立たれ一人暮らしをしていた陸生だったが、階段で転んで腰の骨を折り、歩行が困難となっていた。

娘に迷惑をかけたくなかった陸生は、老人介護施設への入所を決めたのだった。

「こんにちは、私が陸生さんの担当になります」そう言って目の前に現れた女性を見て、陸生は驚きのあまり目を見開いた。

「か、母さん…」

そこには前に会った時とほとんど姿が変わらない母がいた。

「もう会うことはないと思っていたけど、またこうして会うことができるなんて。私はあなたに普通の母親らしいことは何一つしてあげられなかった。でも赤ちゃんの時におむつを交換したあなたを、年老いた今、またおむつを交換することになるなんて。母親冥利に尽きるわね」

母はそう言って嬉しそうに笑った。陸生も子供に戻ったような満面の笑みで頷いた。

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