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よくある話。

※この話はフィクションです。特定の人物、団体、企業、作品に関係ありません

 友人が死んだ。

 過労死だった。

 何ヶ月連続かも分からないような激務の中、残業中にパソコンの前で死んだらしいと通夜の最中に聞いた。


 ……あいつとは中学からの付き合いで、いつもくだらない話ばかりしていた。「青春なんてクソ喰らえ!」と言っていたが、今思えばあれも青春だったのだろう。

 それから高校は分かれてしまったが、時折連絡を取り合って遊ぶくらいには仲が良いままだった。

 それが変わってしまったのは___あいつが大学受験に失敗した頃だっただろうか。

 志望校に受からず浪人を決めたところまでは良かった。

 だが2年、3年と年月が経ち失敗が重なっていく度に、あいつはおかしくなっていった。

今まで好きだったアイドルも、音楽も、ゲームも、どんどん好きだったはずの趣味に触れることすらできなくなっていったのだ。

 やがて浪人生という名の無職に嫌気が差したのか、あいつは高卒のまま就職した。


 ……実のところ、この時僕は安心したのだ。「これで元のあいつに戻ってくれるはずだ」、と。

 浪人経験者ならばわかるだろうが、予備校のあのピリピリした空気があいつから心の余裕を奪っていたと考えたのだ。

 で、あれば。就職して働くうちに金にも心にも余裕が出来てまたあの頃のあいつに戻ってくれると__今度は酒でも呑みながら、他愛ない話で盛り上がれると思っていたのだ。


 だが、現実は違った。


 あいつは死んだ。


 あいつの職場はいわゆるブラック企業で、労働基準法など守ろうともしないような会社だった。

 しかも高卒なうえに今までアルバイトもしたことがないからと会社ぐるみで「社会の厳しさ」を教えるためと手に余る量の仕事を押し付けていたのだ。

 浪人ですっかり削られた自己肯定感では、断れなかったのだろう。それとも、反抗することすら許されなかったのか?


 もしも助けを求めてくれれば。

 もしも連絡を取っていれば。

 もしもまだ浪人する道を選んでいれば……いや、これは違うか。

 未だに浪人していたら、あいつはもっとおかしくなっていただろうから。


 だから、なにか他に___志望校を変えたり、あるいは専門学校なんかも良いかもな。アルバイトをするのもいい。それかしばらくのんびりしてから就職しても良かったはずだ。

 そうなれば、良かったのにな。

 あんなブラック企業に就職したばっかりに、友人はまだ30手前だというのに命を落とした。


 叶うことのなかった可能性だけが、ふわふわと脳内を巡る。

 あいつが好きだったものを見る度に手土産にしては、言い訳をして墓に供える。

 その繰り返しだ。それしかもう、できないのだ。

 もうあいつが手にすることはないのに、もういないのに、未練がましく墓参りに来てしまう。


「……もしも、あいつが生まれ変われるなら……」


 今度こそあいつのまま生きていける世界であって欲しいと、あいつの好きだったRPGみたいな世界だったら良いと線香に火をつけながら祈った。

 立ち上る白い煙が意味はないのだと突きつけるように、風に揺れて僕とあいつ(墓石)を隔てていた。

よくある転生の、よくある置いていかれた人の話。

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