絵馬
宗也と満寛は、初詣にやって来ている。
参拝が終わり、宗也は絵馬の並ぶ一角を見つけた。
「あれ、この絵馬……」
近付いた宗也は、目を丸くする。絵馬の願い事が、皆同じものだった。
「『◯◯が、幸せになりますように』?」
◯◯の部分は名前のようだが、不鮮明でどれも読めない。宗也が更に近付くと、風も無いのに全ての絵馬が一斉に揺れた。大勢の笑い声が、宗也の耳に刺さった。
「うわっ」
笑い声の中で、大勢が何か囁いているのが聞こえる。
「不幸せになりますように」
(不幸せになりますように?)
宗也は耳を塞ぐ。重たいものが身体に乗る感覚に襲われ、動けなくなった。
(どうしよう)
冷や汗が流れ、強く目を閉じた時。後ろから肩を掴まれた。
「宗也!」
満寛の声。ハッとして、宗也は目を開ける。振り向くと、不機嫌そうな顔の満寛がいた。
「どうした、何も無いとこで」
「何も無いとこ?」
宗也は、絵馬の方へ向き直る。あれだけあった絵馬は、無くなっている。大勢の声も消えていて、参拝客の喧騒が戻っていた。
「絵馬があったんだけど、」
「絵馬なら向こうだぜ?行くか?」
満寛が反対方向を示しながら言う。宗也は首を横に振る。
「ううん。何か食べに行こうよ」
「ん。そうするか」
何か言いたげな顔になったが、満寛は結局頷いた。