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僕と  作者: 六連星碧透
12/14

寒い日の帰り道

吐く息が白い。冬だ。

僕はそんな当たり前のことを考えながら、すっかり暗くなった通学路を歩いて下校していた。寒いし、早く帰りたい。一人でさっさと歩いていると、電柱の下にいた同い年くらいの少年に声を掛けられた。

「ねぇ、寒いね」

「えっ、」

僕は立ち止まって、その少年を見た。同じ高校の制服に、灰色のダッフルコートを着ている。優しそうな顔立ちだけど、見覚えのない人だ。

「急にごめんね。寒くてさ」

「あ、ああ……いえ。そうですね」

「良かったら、これ一緒に飲まない?暖かくなるよ」

少年の手には、缶のお茶が二本ある。

「どうして、僕にくれるの?」

聞けば、少年は困ったように笑う。

「待ち合わせしてたんだけど、相手が来れなくなっちゃってさ。これ買ってから分かったから、せっかく温かいのが無駄になるかな、って思ってたら君が来たから。声掛けちゃった。同じ高校の制服着てたし。ごめんね。知らないヤツに声掛けられて、びっくりしたよね」

「びっくりはしたけど……理由は分かったよ。ありがとう」

少年が、お茶の缶を差し出して来る。僕はそれを受け取った。本当に買ったばかりみたいで、缶は熱いくらいだ。

「良かったよ……君が来てくれて。一人は寂しいからね。冷めない内に、飲んで飲んで」

少年は少し寂しそうに笑って、促して来る。プルタブを開けようとして、変だと思った。急に、缶が汚れて、古くなったように見えたから。

「あれ、」

顔を上げるより先に、耳元で声がした。

「あーあ、残念。もう少しだったんだけどな。飛んで来てくれるような友達がいるんだね。いいなあ」

「え?」

「宗也!」

何が起きたか分からなかった。切羽詰まったようなよく知る声と、強い衝撃。気付くと、道路脇を転がっていた。友人の満寛と一緒に。直ぐ隣を、車が猛スピードで走り去って行く。轢かれるところだったらしい。

「馬鹿野郎!何やってんだ!」

僕に馬乗り状態になっていた満寛が、燃えるような目で僕を睨んでいる。訳が分からないけど、満寛にこんな目をさせるようなことをしてしまったようだ。

「あの……ごめんなさい」

謝ると、満寛は我に返ったような顔をして僕をじっと見た。

「大丈夫か」

「う、うん。僕、どうしたの?」

満寛に、深く長い溜息をつかれた。それから、思い出したように、僕から降りる。そのまま、手を差し出された。

「ありがとう」

手を掴んだら、引っ張り起こされた。そう言えば、あの少年は。辺りを見渡しても、僕たち以外、誰もいない。

「満寛、もう一人、男の子いなかった?」

「いないぞ。俺が見たのは宗也だけだ。……お前、そこの電柱に供えてあるお茶を手に取って、赤信号の横断歩道にふらふら出て行ったんだぞ。覚えてないのか?」

「えっ!?」

満寛の指差した電柱は、さっきまで僕と少年がいた場所だった。少し枯れた花束と、お菓子が供えられている。立ち止まりはしたけど、そこから歩いた記憶は無い。電柱の側には、未開封の古く汚れたお茶の缶が二本、転がっていた。そういえばここで、前に学校の生徒の死亡事故があったような。混乱して固まった僕をちらりと見て、満寛は僕の手首を掴んで引っ張る。

「送る。歩きながら話せ」

「うん……」

僕は道すがら、あの時のことを説明した。満寛は黙って聞いてくれたけど、話し終えると長い溜息をつく。

「分かった。つうか。宗也、お前、知らないヤツから物貰って受け取ってんじゃねぇよ。百歩譲って、貰ったとしても飲むな。危ないだろ」

言われてみればそりゃそうだ。迂闊だった。

「……そうだね。ごめん。助けてくれてありがとう」

満寛はさっきよりは和らいだ顔で僕を見て、でもまた溜息をつく。歩いていると、自販機が見えて来た。満寛はそれに気付くと、僕を置いて何か買いに行く。戻って来たと思うと、手には二本飲み物があって、僕にペットボトルの温かいお茶をくれた。

「貰うなら、知ってるヤツからだけにしとけ」

「ありがとう、満寛」

貰ったお茶は温かい。あの時の缶の熱さを思い出して、何とも言えない気持ちになる。

「寒いな、宗也」

「うん、寒いね」

満寛はさっさと、蓋を開けて飲み始める。ふう、と吐き出された白い息を見て、僕もようやく蓋に手をかけた。


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