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僕と  作者: 宵待昴
11/14

夢で

※Xのタグにて

「ずいぶんと嘘がうまくなったね」

という台詞をいただいて書いた話です。


これは夢だ。

僕は直ぐに分かった。懐かしいこの縁側が、今はもう無いことを知っているから。

「よお、宗也(そうや)。元気そうじゃん」

柾木(まさき)さん」

「おじさんで良いんだぜー?全く、子どもってのは成長が早ぇよなあ」

僕の隣には、柾木さんがいた。縁側には、あの頃と同じ、「逢瀬」のラベルが貼られた緑色の日本酒の瓶と、青いガラス細工の美しい小さなグラスがある。明るい日差しが柔らかく、僕らを照らす。

「おじさん、相変わらず飲んでますね。美味しいですか?」

「美味いな、変わらず」

おじさんは不敵な笑みを浮かべる。

おじさんーー柾木忠臣(まさきただおみ)さんーーは、僕が小学校低学年から六年生までお世話になった人。

親戚などでなく赤の他人だ。近所の貯水地の管理をしていた。今はもう、鬼籍の人。

それでも時折こうして、夢で僕に会いに来てくれる。それは素直に嬉しいんだけど。来てくれるタイミングというのがどうにも、何かが起きる前触れなのだ。前回は入学式の前。その後、僕は入学式でうっかり行方不明になりかけ、友人も出来た。その前もいろいろ起きた。そんな感じ。

「友達とは仲良くやってるか?」

「ええ、まあ。僕は一緒にいて楽しいです」

「お前も相変わらずだな」

くつくつと、おじさんは笑う。気付くと、急須と湯呑みが置いてある。緑茶だった。これもあの頃と同じ。おじさんに顎で促され、僕もお礼を言って湯呑みを取った。

「お茶、本当に好きか?もうそろそろ卒業しても良いんじゃねぇの」

「ここで好きになったんです。そう簡単に卒業出来ませんよ」

「言うねぇ、少年」

おじいさんみたいな調子で言うから、僕は少し、笑ってしまった。

「感覚が鋭い割に鈍いとこもあると思って勝手に心配してたが、最近は結構活躍してんな」

不意に言われ、僕は音が出そうな勢いで首を横に振る。おじさんは笑った。

「僕は、弱いままですよ。その、頑張るようにはしてますけど」

「ふうん。ずいぶんと嘘がうまくなったな」

「え」

おじさんはにやにやと笑っている。

「ま、いつも通りにやんな。本当にヤバい時は行ってやるから」

ほんのり、胸が温かくなる。でもそれって。

「何か起きるってことですか?」

おじさん、と呼んだ自分の声で目が覚めた。自分の部屋。うっすらと外が明るい。肝心なことを言ってくれないのも、変わらないんだから。

ぼんやりと天井に目をやって、僕は長い息を吐き出した。



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