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たらこのホラー小説作品集

帰り道で不審者に襲われたけど不良たちが撃退してくれました

 皆さんは携帯電話はお持ちでしょうか?

 今はケータイなんて言わないでスマホって言いますけどね(´艸`*)


 まぁ、尋ねるまでもなく皆様お持ちだと思うのですが……知らない番号から電話がかかって来た経験はありますか?

 誰もが一度は経験することだと思うのです。


 たいていの場合、なにかの営業だったりしますが……スマホの画面に相手の名前が出てないと不安ですよね。

 見知らぬ番号からの電話は何が目的か分かりませんから、通話ボタンを押すのにも勇気がいるでしょう。


 今回は知らない番号から電話がかかってきたら……いつの間にか恐怖のどん底に突き落とされていた、というお話。

 最後までお付き合いいただけたら幸いです。



 ◇



 ぷるる……ぷるる。

 電話が鳴る。


 受話器を取って相手方の名前を聞き、担当の部署に引き継ぐ。


 一日何件の電話を受けているか分からない。

 そのうちのほとんどが取るに足らない用事だったりする。


 ホウレンソウは大事だと言うけど、今の時代に電話で連絡する必要性ってなんだろうか。

 簡単な連絡であれば電子メールや通信アプリで済んでしまうはずなのだが、やはりみんな最後は人の声を聴いて確認をしたいらしい。


 周りを見ると、誰もが電話で連絡を取り合っている。

 急な呼び出しによりスマホを片手にオフィスを飛び出していく者もいた。


 世間ではリモートが広く普及して、うちの会社のようにオフィスに集まって仕事をするスタイルは時代遅れになりつつある。

 こういう光景が見られるのもあと少しなのかもしれない。



 ◇



「ねぇねぇ、昨日の見た?」

「見た見た!」


 社食で昼食を取りながら同僚たちと雑談。

 話題に上がるのはインフルエンサーとか、インスタグラマーとか、ウェブの有名人の話。


 流行はものすごいスピードで移り変わっていくので、追いついて行くのも大変。

 最近の若い子との会話は気を遣うし、疲れる。


「ねぇ……そう言えばあなたのアカウントなんだけど……」


 私は向かいに座っている新人の女の子に、以前から思っていたことを伝えることにした。


「実名で画像を投稿してるよね。

 これって危なくないかな?」

「え? 大丈夫じゃないですか?

 炎上しないように気を付けてるし」

「でも、素顔も公開してるから。

 何かあったら危ないんじゃないかなって」

「加工してるから平気ですよぉ」


 そう言ってケラケラ笑う彼女。

 自分がしていることの危うさが分かっていない。


 ネットに画像を投稿するのは自分の個人情報を公開しているようなもの。

 実名や素顔を晒すなんてもってのほか。


 本当だったらすぐにでもやめさせるべきなのだろうけど、無理やり言うことを聞かせるのも難しい。

 下手に叱ったりしたらパワハラだモラハラだなんて言われるし……なんて言ったらいいんだろう?


 まぁ、私が困るわけじゃないからいいか。

 困るのは会社だし。


「そっか、うるさいこと言ってごめんね」

「あっ、いえ……心配して下さってありがとうございます」


 素直に礼を言う新人。

 決して悪い子ではないのだ。


 ただ……ちょっと危ういというか。

 老婆心ながら心配になってしまう。


「そう言えば昨日、知らない番号から電話きたんですよぉ。

 なんか怖くて無視しちゃいました」

「へぇ……」


 新人の子がケラケラと笑ってそんなことを言うものだから、余計に心配になってしまった。

 まさか電話番号を公開したりしていないだろうか?


「知らない番号は出ない方がいいよ」

「ですよね~」


 そう言ってスマホをタップする新人。


 彼女は視線を画面に向けたまま。

 食事中ずっと。

 話をしている時も。


 これが今の子のコミュニケーションの取り方なのかな。



 ◇



 仕事も終わり、家路につく。


 今日は立て続けに急な横やりが入ったので、帰るのが遅くなってしまった。

 いつもは定時で帰れているんだけどな。


 帰宅時間が終電間際になったのは久しぶり。

 新人時代はしごかれてよく帰りが遅くなっていたけど、今はそれほど仕事も振られなくなった。

 こうして帰りが遅くなったのも、まだ私が期待されているからだ。

 ポジティブにとらえて素直に喜んでおこう。


 だけど一人で暗い道を歩くのは、やっぱり怖いな。


 私が住む街は、お世辞にも良い立地とは言えない。

 首都圏から近い以外に特にメリットがなく、人気度も低い。

 最近は治安も悪くなっていると聞くし……早く帰った方が身のためだろう。


 私はできるだけひと気の多い場所を選んで、少し遠回りして自宅へと向かった。

 新人時代は特に気にせずに夜中でも一人で歩いていたけど……今思うと自殺行為だった。


 公園に入って外灯の続く道を歩いて行く。

 ここを突っ切れば私の住むマンション。

 歩いて数分の距離。


 だけど……今日は運が悪かったのか。

 それとも普段の行いのせいなのか。




 ぶぅぅぅぅぅぅぅん。 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん。




 スマホが振動する。

 誰だろうと思って画面を見てみると……知らない番号?


 知り合いとは通信アプリの通話機能を使って話しているので、電話をかけることは滅多にない。

 かかって来るとしたらだいたいは仕事関係。


 でも……連絡が必要な相手は全て登録している。

 知らない人から電話がかかって来るってことは新規のクライアント?

 ――いや、私用の端末にかけてくるはずないよね。


 じゃぁ……誰?


 見知らぬ番号を見つめたまま、電話に出るかどうか迷う。

 もたもたしているうちに切れてしまった。


 いったい誰だったんだろう?

 不思議に思っていると……また着信。




 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん。 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん。




 さっきと同じ番号。

 なんだろう……しつこいな。


 ちょっと怖くなった私は早く家へ帰ろうと思って速足で歩きだす。

 嫌な感じがするのだ。



 こつ……こつ……こつ。



 ひと気のない公園に私の足音が響く。

 なにか妙に耳障りに聞こえる。


 ……どうしてだろう?



 こつ……こつ……たっ……こつ、たっ。



 あれ?

 足音が重なって聞こえる?


 妙だと思って振り返ってみると――



「…………」



 男が立っていた。


 無言のままその場に立ちつくしている男の背後には外灯があり、黒い影が一本の筋のように伸びて私の足元まで続いている。

 顔はよく見えない。


 足音の正体はあの男?

 私が立ち止まったのを見て足を止めた?


 男はスマホを操作してそっと耳に当てる――




 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん。 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん。




 私のスマホがなる。


 なんで?

 どうしてこのタイミングで?


 さっきと同じ番号。

 まさか……でも……なんで?!


 スマホを持つ手が震える。


 出た方がいい?

 出てどうする?

 もし着信の相手があの男だったら――。




 ばくばくばくばく。




 心臓が早鐘をうつ。

 息が上がって苦しい。


 こわい、こわい、こわい――


 怖くて、怖くてたまらない。

 この状況から抜け出したい。

 大声を上げて助けを呼びたい気持ち。


 でも……なにも起こってないのに叫んだりしたら、変な人に思われてしまう。


 そうだ。

 この電話に出よう。


 自分でもよく分からないけど、電話の相手が男でないと分かれば安心できると思った。


 震える指で通話ボタンを押す。

 おそるおそるスマホを耳に当てて話しかける。


「……あの。もしもし?」


 無言。

 何も聞こえない。


 男は立ったままスマホを耳に当てている。


「だっ……誰ですか?

 お願いですからなにか答えて下さい。

 何も言ってくれないと――」






「……みつけた」







「…………え?」


 通話が切れる。

 つーつーと耳障りな音が響く。


 男はスマホを下ろしてゆっくりと歩き始めた。




 ――ぞわっ。




 背中に悪寒が走る。

 とても嫌な気持ちになった。


 たまたま同じ方向に向かっているだけ。

 あの人は電話の相手ではない。


 そう自分に言い聞かせて平静を保つ。


 早く家に帰ろう。

 公園を出ればすぐそこ。

 自宅へたどり着ければ普段の日常が戻ってくるのだ。



 こつ……こつ……こつ……こつ。



 私の足音が公園に響く。


 ひと気はない。

 周りに誰もいない。


 いるのは私と男だけ。



 たっ……たっ……たっ……たっ。



 男の足音が近づいてきている。

 ヤバいと思って歩調を速めると向こうもペースを合わせて来た。


 明らかに私を追ってきている。


 いやだ……こわい!


 怖いと思いながらも、勘違いかもしれない、ただの被害妄想かもしれないと、何度も自分に言い聞かせるけど息が上がって、心臓の鼓動が早まって。

 なかばパニック状態に陥っていた。


 公園の出口はもう少し先。

 いつも歩きなれている道なのに、まるで異次元へ迷い込んだかのように遠く、長く感じる。


 確かこの先に外灯が故障している場所があったはずだ。真っ暗になって何も見えない。

 もしそんな場所で襲われたりしたら――


 だめ、もう無理。


 はやく――はやく!

 お願いだからはわく私を出して。

 この非日常の空間から!




 だっ! だっ! だっ! だっ!




 私が走り出すと、背後から足音が迫ってくる。

 やっぱり私を追って来たんだ!


 パニックになるのを我慢して走り続けた。


 早く助けを呼ぶべきなのに声がでない。

 怖くて、怖くて、とにかく逃げるのに必死で。

 この期に及んで叫び声をあげるのが恥ずかしいと感じる自分がいた。




 だっ! だっ! だっ! だっ!




 迫る足音。

 すぐ後ろまで来ている。


 だめだと思ったその時、皮の手袋をした手が私の口元を覆う。

 もはや悲鳴すら上げられない。


「むぐっ! むっ⁉」

「黙れ。殺すぞ」


 ねっとりと絡みつくような男の声。

 こわい! こわい! こわい!


 抵抗も虚しく羽交い絞めにされたまま、ずるずると茂みへ引きずりこまれる。

 外灯もない真っ暗な場所。

 地面に散らばった葉っぱがガサガサと音を立てる。


 耳元で繰り返し聞こえる男の荒い呼吸音。

 そして煙草の匂いが混じった生暖かい吐息。

 吐きそうになるくらい気持ちが悪い。


「黙ってればすぐに終わる。騒いだら殺す」


 男はそう言って私の胸に手を伸ばした。


 いやだ……こんな場所で?!

 そんなまさか!


 普段通りの日常が一瞬で砕け散り、最悪の状況に突き落とされてしまった。

 このままこいつに犯されるくらいなら死んだ方がまし。


 誰か助けてと心の中で叫び声をあげるけど、ドラマじゃあるまいし助けてくれる人なんて――




「おい、おっさん。何してんだよ」




 急に男の動きが止まった。


「てめぇ……その人に何しようとしてんだ?

 放せよ、こら」

「いや、それはその……違うんだ」


 声をかけてきたのはガラの悪い少年たちだった。

 だぼだぼのジーパンとシャツ。

 ジャラジャラしたアクセサリー。

 夜なのにサングラスをかけている子もいた。


 彼らが登場した途端に男は大人しくなり、私の身体を放した。

 安堵感によって一気に体中から力が抜けて地べたに座り込んでしまう。


 現れたのは三人組。

 二人がさっと回り込んで男を取り囲み、逃げられないよう退路を塞ぐ。

 手慣れている様子だった。


「私はこの人を介抱しようとしただけなんだよ。

 体調が悪そうだったから……」


 取り囲まれた男はしどろもどろになって、オロオロと言い訳をするばかり。


「って言ってるけど、ほんと? おねぇさん?」


 少年の一人に尋ねられ、私は勢いよく首を左右に振って否定する。

 言葉で状況を説明するだけの余裕はなかった。


「ねぇ……違うって言ってるみたいだけどさ。

 おっさん、本当はどうなんだよ?

 この人に何しようとしたの?」

「うっ……あっ……」


 男の目を覗き込むリーダー格の少年。キスでもするかのような距離感で男を睨みつける。

 こんな風に詰め寄られたら怖いだろうなと、私はあまりに的外れなことを考えていた。


「おねぇさん、家近く?」


 少年は私を見下ろしながら優しく声をかけてくれた。

 私は何度も頷いて答える。


「おい、送ってってやれよ」

「うぃす」


 リーダー格の少年が仲間に指示を出すと、一番年下と思われる天パのキャップを被った少年が私に肩を貸してくれた。


 なんとか立ち上がることができたけど、いまだに足が震えている。


 やっぱりあの着信はこの男だったのかな?

 だとしたら……なんで私の電話番号を知ってたんだろう?

 どうしてだろう?


 どうして――


「家まで送っていきますよ」

「え? あっ……ありがとう……」

「おっさんはこっちな」

「ひぃぃぃぃぃ!」


 男は少年たちに連れられて茂みの外へ引きずり出される。


 じたばたと暴れる男の懐から何かが落ちた。

 月明りに照らされてギラリとそれが光った時、男が何をしようとしていたのかはっきりと理解できた。


 それはむき出しになったサバイバルナイフだった。


「――いやっああああ!」

「大丈夫っすか⁉」


 ナイフが目に入った途端、恐怖のために足が震えて座り込んでしまう。

 私は……もしかしたら……あの男に殺されて……。


「おい! しっかり連れてってやれよ!」

「すみませんっ! だっ、大丈夫っすか? 歩けます?」

「うん……なんとか」


 リーダー格にどやされ、天パの少年はへこへこと頭を下げる。


 支えてもらってなんとか立ち上がれたけど、やっぱり足が震えている。

 一人では歩けそうにない。


「大げさだなぁ……ちょっと脅かそうとしただけだよ」

「……ひっ」


 男の顔が明らかになった。


 どこにいでもいる中年男性。

 そんな印象しかない。


 凶悪事件を引き起こしそうな見た目ではなく、取り分けて容姿が醜いわけでもない。本当にどこにでもいる普通の男。


 男はこの期に及んで言い逃れをするつもりなのか、にこにこと笑みを浮かべて悪意がないことをアピールしている。

 それがまた怖いと言うか――


「ほらっ、こっちこいよ!

 言い訳なら向こうで聞いてやるからよ!」

「やめろ! 放せっ……むご!」


 少年たちは二人がかりで男の口に布を押し込み、両脇を抱えてどこかへ連れて行ってしまった。


 脅威が去ったことでようやく解放されたのだと頭の中で理解するけど、助かったという現実感はまだ、湧かない。

 自分が危険な目に合った事実ですら、どこか非現実的に感じてしまう。


 本当に私はただ歩いていただけなのに。

 どうしてこんな目に合ってしまったのか。

 なにも悪いことなどしていないのに。


 たまたま近くを親切な人が通りかかってくれたからよかったものの。次からはもっと気を付けよう。

 いっそのこと引っ越してしまった方がいいかな。


 肩を貸してもらって自宅へ向かう間、ずっと明日からのことを考えていた。

 もうこんな土地に住むのはごめん。

 安全で安心して暮らせる街へ引っ越そう。


 でも、休みは貰えるかな?

 しばらく忙しいだろうし……どうしよう?


「ほんと大変でしたね。怖かったですね」


 天パ君は私を安心させようとしているのか、何度も声をかけてくれた。

 見た目に寄らず親切で優しい子なのだろう。


 最近の若い男の子はみんな優しいのかもしいれない。


 天パ君に支えられながら、なんとか自宅アパートまでたどり着くことができた。


「ええっと……ここですか?

 最近物騒なんで、夜遅く一人で歩いちゃダメっすよ」

「あの……ありがとう。本当に助かりました」

「お礼なんていいですって。

 俺たちは当然のことをしただけなんで」

「でも……」


 何度も頭を下げる私に天パ君は笑って答える。

 前歯が一本欠けていた。喧嘩でもして折っちゃったのかな?


 見た目はちょっと怖い子たちだったけど……とっても親切で優しい。

 彼らのお陰で私は命を救われたのだ。


 なんてお礼を言ったらいいか分からない。


「あとこれ、落ちてたバッグ。

 何もなくなってないか後で確認してくださいね」

「ごめんね……何から何まで」

「だから気にしないでくださいって。

 あっ……やべ、着信来てる」


 私がバッグを受け取ると、天パ君は走って行ってしまった。

 すぐにスマホを取り出して誰かと連絡を取っている。もしかしたらリーダーの子から呼び出されたのかもしれない。


 それから私はシャワーも浴びず、ベッドに倒れこんでぐっすりと眠ってしまった。疲れていたということもあるが……色々ありすぎて頭が回らなかったのだ。

 今はとにかく休みたい。


 そういえば……あの男はどこへ連れていかれたのだろう?


 不意に男のことが気になったけど、あんなやつのことなんて一秒たりとも考えたくなかったので、すぐに忘れることにした。


 夢の世界へ落ちていく私を引き留める者は何もいない。



 ◇



 ぶぅぅぅぅぅん。 ぶぅぅぅぅぅぅん。


 スマホのバイブが鳴る。


 目を覚ました私は部屋の時計を見る。

 時間はすでに朝の7時。


 安心した私は朝までぐっすり眠ってしまった。


 いけない、いけない。

 今日も仕事だ。

 遅れるわけにはいかない。


 急いで身支度を整えて出社の準備をする。

 スマホをチェックしている暇はなかった。




 ぶぅぅぅぅぅぅん。 ぶぅぅぅぅぅぅん。




 私が準備をしている間も、ずっとスマホが鳴っていた。

 よっぽど急な用事なんだなと思い画面をみると……知らない番号からだった。


 ――え?

 誰?


 見たこともない番号からの着信。

 昨日の番号とは違う。


 なんでこんな時に?

 今度は誰から?

 また……また、なの?


 昨日のことがトラウマになっているのか、知らない番号から電話がかかって来ただけで身体が震えてしまう。

 だめだ――怖くてたまらない。


 しばらくして電話は切れてしまった。


 電話が切れてホッとすると、急に現実感がよみがえる。

 そろそろ出社しないと間に合わない。


 でも……今日の運勢を確認しないと。


 天気予報のあとの運勢を確認するのがいつものルーティーン。

 見てからでないと出発する気になれないのだ。


『それでは次のニュースです』


 キャスターがあわただしく原稿を読み上げている。

 そろそろ天気予報の時間なので、このニュースが終わってからかな。


『昨晩、××市の○○川の橋の下で男性の遺体が発見されました。

 殺されたのは市内に住む男性の――』


 キャスターが被害者の名前を読み上げると同時に顔写真が映し出される。

 この人って確か――


『警察では何らかの事件に巻き込まれたものとして、殺人事件として捜査を続けています。

 それでは天気予報です』


 画面が切り替わって気象予報士が登場し、元気な声で今日の天気を伝え始めたが……私はそれどころではなかった。



 被害者は私を襲おうとした男だったのだ。



 忘れるはずもない。

 私を襲おうとして少年たちに捕らえられ、言い訳をしながらニヤニヤと笑っていた男の顔。

 脳裏にハッキリと焼き付いている。


 テレビに映っている被害者の写真は間違いなくあの男。


 事件に巻き込まれた? 殺人事件? 誰に殺されたの?

 ――まさか、あの少年たちが?


 え?

 なんで?


 どうして?


 あの子たち――まさかあの後――!




 ぶぅぅぅぅぅぅん! ぶぅぅぅぅぅぅん!




 スマホが鳴る。

 バイブが着信を知らせ、画面には知らない番号。


 ――さっきのと同じ番号。


 誰だろう?

 なんで私のスマホに電話を?


 なんのために?



 どうして?




 なんで?


 


 ぶぅぅぅぅぅぅん! ぶぅぅぅぅぅぅん!




 スマホが鳴る。


 知らない番号。

 誰からの着信か分からない。


 出たらどうなるんだろう?

 誰が? どうして? なんのために?


 私は震える手で緑色のボタンをタップする。


「もっ……もしもし?」

『あっ、ようやく出た~!

 俺だよ俺、分かる? おねぇさん。

 俺、俺』


 向こう側から聞こえる明るい口調の声。

 誰なのか分からない。


「えっと……誰……ですか?」

『え? 分からない?

 ほら、昨日家まで送って行ったじゃないっすか。

 俺っすよ、俺』

「もしかして昨日の子⁈」

『そうそう、俺っす』


 電話の相手は私を送り届けてくれた天パの子だった。

 なんで……私の番号を知ってるんだろう?


「えっと……どうして番号を?」

『調べたらすぐに分かりましたよ~』


 調べた?!

 どうやって⁉


 え?

 まって。なんで?


 どうして?


 どこにも電話番号なんて晒した記憶はない。

 誰かから聞いた?

 そんなはず……ないよね?


 住所から割り出したの?


 え?

 え?


 なんで?

 まって?


 ちょっと……まって……。



『あのおっさんシメたら、全部ゲロりましたよ~。

 おねぇさんのこと、掲示板で知ったみたいですよ』

「え? 掲示板⁉ なにそれ?! ねぇ!」

『まぁ、まぁ。落ち着いて。

 それでぇ、おねぇさん。ニュース見ました?』


 ニュースって――あの男が殺された事件のこと?

 他に思い当たることはない。


 でも……それを聞いて……?


 え?

 どうするの?


「えっと……あの……」

『分かってると思うっすけど。誰にも話さないでくださいね。

 もし誰かに言ったら――


 ……


 ……


 ……


 ……


 …


 …


 …



 ――分かるよね?』




 少年の声が脳内に鳴り響く。



『じゃぁ、頼みましたからね。

 誰にも話さないでくださいね』




 ぷちっ。ツーツーツー。




 天パの子はそれだけ言って電話を切った。


 ……え?

 掲示板ってなに?


 男はどうして私の番号を?


 あの子たちはあの男を殺してしまったの?

 なにがあったの?


 分からない、分からない。

 分からないことばかり。


 私はその場に立ち尽くしてしまう。

 テレビではちょうど運勢のコーナーが始まっていた。


 ああ、いけない。

 遅刻してしまう。


 早く……早く会社に行かないと。


 はやく、はやく、はやく。

 準備をして仕事に。


 ……はやく。










 ぴんぽーん!




 チャイムが鳴る。


 モニタで確認すると、見知らぬスーツ姿の男が二人。

 険しい顔をして玄関前に立っていた。

 

『すみませーん、開けてもらえますかー?』


 誰だろう。

 誰だろう。


 警察かな。


 開けたらどうなるんだろう。

 昨日のことについて聞かれるのかな。


 話したらどうなるんだろう。

 あの子たちが捕まったら私のせいなのかな。


 どうしよう……どうしよう。





 ぴんぽーん!




 チャイムが鳴る。


『すみませーん! 開けて下さい! いるんですよね?』


 男たちはしつこく呼びかけてくる。

 どうしよう、どうしよう。


 電話に出ていなかったら。

 さっきの話を聞いていなかったら。

 知りませんと言えたかもしれないのに。


 心臓が高鳴る。

 息が上がる。


 逃げ場なんてどこにもない。


『分かるよね?』


 少年の声がリフレインする。


 分かってる……分かってるけど!

 私にはどうすることも――




 ぴんぽーん!




 チャイムが鳴る。


 私にはどうすることもできない。

 スマホを持つ手が震える。


 その場に座り込んだ私は、ただただ茫然とテレビを見つめていた。


『今日のあなたは絶好調! 一日がんばってね!』


 キャラクターが私の運勢を告げる。

 今日の私は絶好調。




 ……はやく しごとに いかないと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーカーの男がスマホを耳にあてがったところで主人公のスマホも鳴るシーンが一番怖かったです。しかもただ何が何だか分からずに怖いのではなく、自分の個人情報が勝手に晒されているというリアルでも…
[良い点]  「スマホを落としただけなのに」と違い本人には何ら瑕疵は無いのにいつの間にか悪意と欲望の対象にされているという恐怖。  今迄何の気無しに生きて来た日常世界がひっくり返る気持ち悪さ。  現実…
[良い点] 主人公が男に襲われる時の臨場感が凄かったですね。 そして、助けてもらえたかと思いきや…。 どこで情報が漏れたかも分からない。どうしていいのかも分からない。 突然落とし穴にはまってしまったよ…
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