第五話 上には上がいっぱい
幸せを与えてくれた大切な人との記念投稿です。
現段階で第六話の文字数が10,000字を超えた為、短くしようと編集してます(汗)
本心を言えば…結果がどう転ぼうが、可能な範囲内で本人達の意見を拾って叶える気持ちだった。
其処に理由という程のものは無く…ただ単に、二人とも私に対して物怖じせず、グイグイと関わってくるタイプだったから。
ダークとベリィは統一帝国での一般常識が無く、私に対して優位的に立ち回る事は限りなく不可能に近い。
そこに二匹、野良猫のような魔獣が加わったとしても…可能性は微量にしか上がらない。
「キミ達の返事を、聞かせてもらえるかな?」
ただ、このあまりにも不平等な条件下で、ダークとベリィならどのようにして立ち回るのか…それが知りたいだけだった。
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「…さっきの面倒な人達が自滅した事で【特殊分岐ルート】へ進んで…僕とベリィさんが、結果的に条件を満たす形になって、助かった…?」
異国語混じりで一部聞き取り難いが、ダークは小心者の割には…中々イイ性格をしているようだ。
然し…私が居るというのに、無防備なのはよろしくない。
「言葉にして情報を客観的に見る事は良い事だが…取り引き相手の目の前では、決してしないように」
「ひゃいッ!!」
しかし、長い物には巻かれろの精神のようで、非常に素直で転がしやーー説得しやすい。
それに対して、ベリィの方はというと。
「色白な地肌で…輪郭も体躯も数値化計算しても、黄金比率のパーフェクト!警戒していても垂れてる大きな深い紫の瞳に、筋の通った小ぶりな鼻と…ほんのり上気した頬に少し湿って肌や服に張り付く、ロータスピンクのスーパーロングが少し艶っぽい雰囲気も相まって、淡い桃色の唇まで扇情的になっていてぇ……あっ、手で口元隠してくれるとか…ファンサだけで尊死しそう…ッ!」
また…性懲りも無く【鑑定】を無断で幾度も掛けてきている。
「黒レースで所々フリルのあるミニワンピに、白のショートボレロカーディガンを羽織って…薄手の黒いハイニーソと黒の厚底紐結びブーツ…極め付けに白のチョーカーの五点で、モノクロ統一を徹底してる…上品なのに現代らしさも取り入れられたフェミニンでちょっぴりダークなコーデが、美しさと可愛らしさを限界突破して引き立ててるぅ…」
瞳が完全にヤバい薬へ依存してキメた直後のようにギラギラと輝いていて…実力的には完全に格下だと理解しているのに、身の危険を感じるのは何故だろうか…
「…ウチの萌えを的確に貫く、我が人生の最推し確定な美少女ちゃんを……情報屋もタイプだろうから、情報通同士報告なしとかもありえない…となれば【完全新規キャラ】か、ウチ達の知らないだけのガチ【NPC】なのか……めちゃくちゃ気になるんだけどっ!!」
「あの、ベリィさん?考察は後にして冒険者さんに返事をした方が、身の安全の確保と情報漏洩を防げるんじゃないでしょうか?」
二人を簡潔に言い表すなら…弱腰腹黒と暴走変態娘だろう。
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取り敢えず、このままでは埒があかないのはわかった。
「キミ達でも、統一帝国の領土内で自らが犯した言動に伴う…責任を簡潔に理解できるよう、全面的に私が加害者だった場合の末路を教えよう」
二人を地面に座らせて、自分は近くのそこそこ大きな岩の上へ腰掛ける。
視覚的に取り入れられる情報の中に威圧感が加わって、より現実味を帯びた話として私の言葉を受け取れるだろう。
「まずは、私が受注した第一王子殿下からの依頼に記載されていた…護衛対象十名と御者の護衛だが。道中にて護衛対象の異国人十名のうち八名を殺害し、キミ達二名にも外傷を与えた。この部分だけを掻い摘んで冒険者協会に報告すれば、即座に冒険者登録の永久的な剥奪と、依頼主との重大な契約違反と犯した重罪による国家間の信頼問題よって、有無を言わさず捕縛されるのは確定事項だろう。そして捕縛後、罪人の資産は国の預かり物となる。一部例外もあるが…強力な魔封じの拘束具で魔法やスキルすら封じられその身一つになった私に最初に与えられるのは…凡そ小規模国家一つなら買える程度の莫大な額の罰則金な訳だが。当然そんな資金を私が払える訳も無いし、私を擁護する者にも当て嵌まる。無難に考えれば、人権の無い被験体としての日々が始まるのだろうね」
ひと息でここまで言うが、情報を一度に伝えるなら断続的にはしない方がいい。
また、静かに息を吸う。
「如何してこんな無理難題を押し付けられた上で、一時的に選択権が与えられるのかというと…それは極刑を犯した罪人が統一帝国の王族やその直系に当たる人物だったり、他国から正式に来訪していた賓客だった場合の保険の措置だ。もしも王族の血脈が途絶えれば国は組織として成り立たなくなる為、予備として生涯幽閉というのがどの国の歴史を振り返っても一番多い。また、相手国と契約を結んで定期的に纏まった額の支払いをさせて、将来的には契約金を払えなくなるほど摩耗した相手国を経済的に支配下に置く機会を失う可能性がある。一般人に対しても行うのは、形式上ではあるが等しく選択の機会を与えたという事実が必要なだけであって…外聞的な体裁を考えた場合に罪人が通過する工程の一つに過ぎない」
今のは伝える必要性は高くはないが、法律の抜け道や粗を探すなどの無用な詮索は全て無駄だと、少しの希望だろうが摘み取る意味もあった。
「では今度は、キミ達も加え予想し得る未来を言うが…先ず、ダークとベリィの二人だけに罪がある訳では無い。しかしながら、隠し立てようとしても…極刑を免れる事は不可能に近いだろうね」
此の程度の脅し文句ではダークもベリィも…絶望に呑まれなかった。
ハードルを下げて、オブラートに包んだ言い方でも、現実の残酷さを理解した上で見つめ返してくる視線の中には…希望が揺らぎながらも存在している。
「今から伝える言葉は、あくまで私個人の知識と照らし合わせた結果の憶測だが……昨今の国の首脳陣の考え次第では、結果は更に深刻になるだろう。極刑の種類は法律であり国の知的財産とも言えるから、道中でキミ達の同郷だった者達に聞かれても答えなかった例が、一つある」
二人の希望は、諦める事なく光り辺りを照らし続ける。
「統一帝国の辺境の地に神々の時代より存在し、魔物や魔獣など比較するまでもない程に…凶悪で残虐な異形と呼ばれるモノを、現在も生み出し稼働し続けている前人未踏のダンジョンーー通称『深淵』へ何も持たせず放逐する事で、生還した場合は全罪状を無かった事とする…残酷な温情からできた極刑の『奈落行き』も、執行された事例が極端に少ないだけで、現代の法律上でも存在している」
多くの場合は…希望は輝き、誰もが影に隠す負の感情を不完全に消化するように促す。
「何を今更と思うかもしれないのだが…遅かれ早かれ終わりがあるのは、生物だろうが無生物だろうが…器があればその中に魂が存在するかしないかだけで、結果としては同じ。それが自然な世の摂理だからね」
そういった環境や要因から生まれ…負の感情を糧として喰らうような異形からすれば、二人のような存在は鬱陶しいのだろう。
「つまり、キミ達は私と手を組み事実を隠蔽しなければ…絶望に飢えた異形に早々に喰われてお仲間になる。その後に運良く、地上を垣間見たとしても…異形になれば元の姿には戻れない。それに、どれだけ願っても簡単には死ねないと聞く。それこそ奇跡でも起きなければ、私もキミ達も『奈落行き』は不可避に等しいだろうね」
でも、燃料が尽きた希望は……あまりにも呆気なく簡単に、絶望へと反転する運命だと知っている。
「未知の可能性の先を望むか、異形と成り果て終焉を望むか。これからキミ達がどうなるのかは…キミ達自身が、じっくりと考えてから決めるといい」
数多に分岐した未来の始まりが前者なら、それは謂わば未確認の星の軌道。
そこには言葉通り、何があるかもその時にならなければ分からない。
破滅を願うのなら…後者が最適解だが。
もし、二人が選ぶならーー
何方か、或いは両方の息を飲む音が、思考を遮った。
「大きな…赤い星?」
「もしかして、あの天体も…月なの?」
二人が物珍しそうに見つめる先には、暗闇の中に浮かんだブラッドムーンがあった。
「…あぁ、もう夜だったのか」
その時になれば、思い知らされるだろう。
別に…今すぐ考えるような事でもない。
「【聖炎】と【退魔の聖域】に対し【永続化】」
森の中に魔物の反応は無いが…念の為、灯りの代わりに触れても安全な【聖炎】の設置と、周囲一帯に魔物除けを掛けて、持続時間の延長もする。
敢えて言うなら…ダークの膝の上に陣取って話の冒頭で寝落ちた子猫にしか見えないのと、眠そうに目を瞑ってベリィにくっついていながらも耳だけは私を警戒した猫っぽいのが居るのだが…そこまで強力ではないとは言え、人類種以外は従魔でもない限り息苦しさを感じるこの空間で…ぷぅぷぅと息をしているのだから、相当上位の種族なのだろう。
落ち着かない様子のダークと、お腹が鳴って少し顔が赤いベリィへ【収納】から取り出した毛布を一枚ずつ渡す。
雲の切れ間から覗く美しいブラッドムーンに怯えた様子の二人は、思い返せば昼間も流血に慣れていない様子だった。
「随分と気分良く語っていたようで、私もお腹が空いたしまったみたいだ。ついでにキミ達の分の夕飯も作って来るが、此処から動かずまた寝てしまわないように…頼むよ?」
ならば獲物の解体も、かなり刺激が強いだろうし…昨日狩って下処理も冷凍保存も済ませた新鮮なワイルドボア肉と、常時買い込んでいる野菜も【収納】に入っているし、串焼きにして食べるなら調理も後片付けも手っ取り早くて、洗い物も最小限に抑えられる。
飲み物はあるにはあるが…今日は魔法から生み出した水で我慢してもらおう。
「…待って」
離れた場所で調理しよう…そう思い、数歩だけ離れた私にベリィが、声を掛けてくる。
「なにか私に、急ぎの用件かな?」
「ウチと…取り引きを、しない?」
*****
早くも声を掛けた事に後悔したが…攻撃されない事に安堵して、自分の行動は間違いでは無かったのだと、持論の信憑性が増した。
勝算は少なく感じるが、やはり不可能じゃないんだと…焦燥感に胸を高鳴らし、リアルな冷や汗が背中を伝うのを感じながら…久し振りに、生を実感していた。
「…私の勘違いなら、申し訳ないんだが」
決して大きく発せられた訳では無いのに、春風のように可愛らしいソプラノの声がやけに響いて聞こえている。
「もしかして…ベリィと私が、かな?」
ロータスピンクの背中の真ん中程まである髪を二つにして緩く纏めて下の方を三つ編みにして結び、成長途中の少女らしい幼さと儚さが両立した端正な顔立ちの中でも、一際意識してしまうような…懐疑的な視線を向けてくる、深紫の瞳を見つめ返す。
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ゲーム内では、お昼頃かそれを少し過ぎた頃。
言葉遣いや口調は見た目に似付かず刺々しかったが、先程までは無防備な姿を晒していても助けてくれたり、凛々しいのにどことなくフワフワとしていた美少女は、少し投げやり気味に何かを言って、明確に雰囲気が変わった。
コレからは逃げないと死ぬ、そう思った絶対的なあの感覚が殺意なのだろうと思った。
まぁ、メタ視点で言えば…殺意など察せる様な人間はいない方が圧倒的に多いだろうし、そういった特別な訓練を受けた事も当然ないので、ゲームのシステム的なものがサポートして思わせたのだろうが。
二連続目のギリギリ致命傷になる、魔法かスキルによる冬場の静電気の何十倍かのようなダメージが、HPをレッドゾーン圏内まで削る。
衝撃を受けたと感じるとほぼ同時に、視界が真っ白に塗り潰され、聴覚は静寂の中に耳鳴りを混ぜてきて、他の触覚と嗅覚と味覚は、完全に機能をシャットダウンしたようになる。
その時は、一定以上のダメージによって身体に負荷が掛かると、一定確率で起こる状態異常の混乱になっていたんだろう。
指一本動かせずに混乱している最中、偶然にもフレンドチャットで会話をしようとした【ダーク】の名前の横の、オンライン状態を示す緑の光が消えて、丁度灰色に変わってしまう。
反射的な速度で【ベリィ】もログアウトしていた。
その直後、端末から通知音が鳴り、届いた未読メッセージを見ると…予想通り【ダーク】が差出人で『ごめん、お昼ご飯食べてきます!』と、フレンドチャットが届いていた。
相変わらず準備不足なネッ友をただ待っても良かったけど…事前に調べていたチュートリアルの情報と、ゲーム内で【ベリィ】と【ダーク】と…偉そうに振る舞う割に瞬殺された、自称プロゲーマーな八名のプレイヤーが受けていたチュートリアルには……違いがあり過ぎた。
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ヴァーチャル・リアリティーー通称、VR。
仮想現実とも呼ばれ、現代社会ではほぼ全ての人間の第二の自分が生きる世界の事を指し、もう間もなく肉体という枷のある現実よりも重視される、新たな現実世界。
大昔…と言う程では無い、数世紀程前のVR技術は面白半分程度の話題としてしか、存在していなかったらしい。
だが時代が変わっても、VRに関する科学技術者達の熱意は変わらず、周囲の反応も次第に興味から感心へ、そして感嘆の声が広がり始めた。
最新鋭の科学技術を所有する企業は国のお抱え元の技術者となり、ネットやSNSから始まった技術の多くは、いつの間にか社会に馴染み溶け込んでいた。
仮想空間内のアバターへ五感を接続し、操作する者の意識そのものでアバターを動かす事を可能としたフルダイブと呼ばれる技術は、現代の社会と関連しない事業は無いとも言われている。
当然、それは職業に限らず生活の些細な事柄や娯楽にも関与していた。
そんな時代背景の中、フルダイブ技術に貢献したとして有名な企業が新たな試みとして、VRMMORPGにワールドシミュレーションを掛け合わせて開発し発表した、従来の機器にも対応した【Egoism and the chaos】という完全新作のゲームタイトル。
娯楽としても、それ以外の目的でも。
現代人なら、放って置く訳が無かった。
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事前情報無しのままで模索してプレイするのもゲームの醍醐味ではあるし、そういった楽しみ方も嫌いじゃない。
寧ろ最初は、この後の展開はある程度知っていても、楽しいから満足したと思い込んでいた。
ゲーム上での姿ーー【ベリィ】のプレイスタイルが、既出情報を効率的に進めた後に自由に行動できるようになった時になって、やっと出会えるよう散りばめられたーー運営や開発チームといった例外を除きーー誰にも知られずに【ベリィ】が見つける瞬間を待っていたかのようにも思える…未発掘状態の新要素との出会いを優先しているだけで、ナンバーワンやオンリーワンの願望を持つ、普通のプレイヤーに【ベリィ】も当て嵌まる。
プレイヤーは長年鎖国状態だった小規模国家の島国から、友好国になった主な舞台とされる大陸最大の統一帝国にあるランダムな港町に着くと、チュートリアルが始まる。
ここで、プレイヤーが初期設定などの後に三つあるシナリオの中から選択したものによって、チュートリアルの目標が変わる。
王道、邪道、フリーダムの三つに分岐したシナリオは、一度決めたら変更は出来なくなる。
つまり、思った通りに進められず理想とは違う結果になった場合は、データを削除して一から始め直さなければ選び直せない。
然しフリーダムに関しては例外で、自身の言動によって増減する罪深さを表すカルマ値が一定値に抵触すると、途中から一度だけ王道か邪道に変更する事が可能。
その上、ご丁寧な事に変更するかどうか毎回システムメッセージが表示され、拒否した後にカルマ値を調整するようにすれば、フリーダム限定の種族や職業になった上で別のシナリオを遅れながらも楽しめる。
そういった公式サイトからの正確な事前情報を知ってから、サービス開始前日まで悩んでいた【ベリィ】が最終的に選んだのは…邪道シナリオだった。
ネッ友の多くは【ベリィ】と似た気質が多い為か、大半がフリーダムシナリオを選んでその後にシナリオ変更をしようと誘ってくれたが、今回ばかりはフレンド登録も断りを入れていた。
気心の知れた仲で、互いを情報屋としてもネッ友としても信頼し仲良くしている、一名を除きだが。
そんな訳で、邪道シナリオを選んだネッ友は【ダーク】という、まだ知り合って一ヶ月程度の顔見知りレベルが一人だけだった。
だが【ダーク】には【ベリィ】以外に直接的に関わった事のあるネッ友がいないのだと、サービス開始間近に行なったアバター状態での通話で打ち明けられ、頼られる覚悟で事前ミーティングを進めたが、活動方針や【ベリィ】が求めるプレイスタイルに賛同してくれた上で、見落としていた詰めが甘い点について鋭い意見を言ってくれる姿勢を見て、昔からの友人のように【ベリィ】は気心を許していた。
数時間に及んだ話し合いの結果、ゲームの仕様上はフレンド登録をしてから始めればチュートリアルも一緒に行動できるので、今回のゲームもある程度の攻略情報が耳に入ってしまったチュートリアル以降の、未知の領域で行う初動からは、なるべく攻略情報は遮断して楽しむつもりだった。
いち早く楽しむ為に、その直前までの情報だけを全て調べ上げていたつもりだったし、ある程度は邪道シナリオ以外も情報を揃えたくらいの心構えだった。
なのに、チュートリアルを予想通りに進められず、知っている全ての情報にかすりもしない状況に…困惑していた。
それ故に【ダーク】が昼食中に、掲示板やスレッドと呼ばれる情報の集まる場所を巡った。
チュートリアルクリア後で話していたり、様子見をしている他のプレイヤー達で賑わう雑談スレや、特殊イベントや各シナリオのシークレットの条件考察スレに、中には自分達の状況と似たようなガセネタ認定されている話題の投稿なども調べた。
だからきっと、間違えなければ…大丈夫。
目の前の美少女が幾ら規格外だったとしても、彼女は邪道シナリオを選んだプレイヤーに殺される為に用意されているNPCなのだから。
*****
「フフッ…」
至って真剣に、此方を見据えて寝言を言い出したベリィの瞳を覗き込むが…巫山戯て言ったという様子でも無く。
「…ハハッ、アハハハッ!!」
目の前の無知で愚かしい生き物が可笑しくて、自然と笑いが止まらなかった。
「まさか、正気を保ったまま狂っているのを、私が見落としていたなんてね!」
「なっ…ウチは狂ってなんかいないっ!」
「それなら、質問だが…いつからキミ達と私が取り引きをできるような対等な関係になったのかな?」
冷めた視線で見れば…取り引きを持ち掛けてきたベリィも、話題についてきていなかったらしいダークも、硬直したまま…動かなかった。
「キミ達が信じる信じないは別だが……私ばかりが一方的に常識とされる情報を正しく与え、本来なら襲い掛かってきたキミ達を殺すどころか守り、保身を考えれば邪魔にしかならないキミ達へ選択する権利を与えたが…その上でも、私はキミ達と対等な関係で今も話していると?」
二人とも…ただ変わっていて、頭には常識の代わりにお花畑が満開なだけの存在だった。
期待外れだったが、もう既に私の意識は別の存在へ向いている。
「【アイスバレット】」
「【パリィ】」
速度を重視して指先に生成した氷の銃弾を放つが、完璧なタイミングで弾かれてしまう。
しかし、私の目的はその存在を確認する事だから問題ない。
「好ましくないね」
しっかりと視認するのも三度目となれば、目の前の景色が歪んで捻じ曲がった部分から女性が現れたとしても…漸く姿を確認したのが相手の意思で自ら現した結果の、格上相手だ。
「だいたい、取り込み中よりも前からジロジロと此方を見世物のように観て…それに加えて不躾な夜の訪問は、自身の行儀が悪いと思わないのかな?」
「いやぁ、アタシも今じゃないかなぁって思ったけど…それ以上に個人的に気になっちゃって、ね?」
例え私がどう足掻こうが、本気を出されるまでもなく敵わない格上相手だと悟ったとしても…いや、だからこそ。
自分を殺めるかもしれない相手が、茶目っ気溢れる口調で饒舌に喋ってウインクをしてみせてきても流せるし、苛立っている時に相手の粗を見つければ、最低限は叩き込まれているマナーの指摘くらい、自分の死の間際だろうがしなければ気が済まない面倒な性格なのは…それこそ変えようがないと、自分が一番知っている。
「えっとぉ……アタシはトワちゃん達の崇める神様だから、二人の件もついでに…許してくれない?」
迷うように言われた後に発せられた…その単語から目の前の女性の姿をしたモノの正体に気付いた。
そして、自分の行いに付き纏う責任の重さを、頭が理解し始める。
「今は亡き我が母国の主神で在らせられる女神様に対しまして、数々の狼藉を働いた此の身を…どうか、お許し下さい」
膝立ちになって胸の前で手を組んだ形で頭を垂れて、非礼を陳謝する。
「それは別にいいよ?それでさ、二人も許してくれたなら今回は無罪放免にしてあげるけど…」
「断る」
「んぇ?えぇええええッ〜?!!」
「耳が痛い」
両脇の下に手を入れて私を持ち上げた元女神にして暫定邪神は、ぐるぐると持った私を振り回しながら一通り叫び終わるまで止まらなかった。
良ければまた読みに来て下さい!