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歪んだ箱庭  作者: パステル
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第四話 焦りは禁物

投稿のストックを考えてずっと書いてたらまた長くなった。

「お久し振りです、クロッカス様。いつも姉上がお世話になっております」


 半歩前へ出たマラカイトが、爺ちゃんにお辞儀をする。

 保護者のような対応が様になっている義弟に、複雑な心境になってしまう…


「おうよ!マラカイトの坊っちゃんも…色々と、振り回されてるのか?」


 それに対して、爺ちゃんにしてはハッキリとしない口調に…違和感を感じる。


「悩み事があるなら聞こう。その方が()()()楽になれる筈だ」


 最初は…何を言われたのか理解できなかった。

 だが、今の言葉がマラカイトだけでなく、私に対しても発せられた言葉だと理解したら…漸く、疑われているのだとわかった。


 爺ちゃんは、私が報告しなかった事実に気が付き掛けている。

 そして、マラカイトが私の隠し事をマラカイトが知っているのか…その上で、害意が無く懐に入れる価値があるのか…試しているんだ。


「幼い頃より姉上を見ていますから、この程度の回収作業など…今更苦痛には思っていませんので」


 私と同じく察したのか、マラカイトも爺ちゃんと私を見て…探るように会話を続けていた。


「…後で、話す」


 私が私らしく生きれるように尽くしてくれる、大切な家族の義弟と…心の底から尊敬している、自由に生きる冒険者のトワの基盤を作って鍛えてくれた、人生の恩師。


「二人が何を予想しているかは分からないけど……何を知りたいのかは、理解しているから」


 その二人が、今まで構築してきた信頼関係を取り除き…腹の内を探り合っている様子に、耐えられなかった。


「私から言わずとしても…時期が来れば周知の事実なる事だけど。五日後までには、二人以外にも知っていて欲しい相手だけを招待して…渦中の当人達も交えたカタチで…情報の擦り合わせをしたいと思ってる」


 言葉の証明のつもりではなかったが【収納】から、実家の家紋の封蝋で閉じた小さな招待状を、頭を下げて震える手で持って、二人に差し出した。


「だから今は…受け取って頂けませんかっ…」


 家紋の封蝋を使った招待状を受け取るという行為は、二人の立場を考えれば…実質、辺境伯家当主からの招待に応じる事と同意義となる。

 時期当主のマラカイトはもちろんのこと、ギルドマスターだとしても平民の爺ちゃんが、正式に断れる理由は無く…これは、招集命令のようなモノだった。


「そういう招待状なら、断る理由はねえな」

「僕にも…いえ、受け取らさせて頂きますよ」


 両手の招待状の重さを感じなくなったのに、心は曇天のように重たくなる。


 気軽に受け取れば、後戻りはできない。

 二人なら理解している筈なのに…



「それよりも、今度こそ昇級テストに出ろよ?」

「…えっ?」

「冒険者協会の議員には、今回の依頼の件でのランク降格の処置について異議を申し立てた。だが…アイツらが素直にこっちの意見を聞く訳がねえし、一部の議員の小童は俺を毛嫌いしている節があるからな」

「ちょちょっと、待って?!」


 私は爺ちゃんに何を言われている?

 いや、内容は十分に理解できるが…


「切り替え早くないっ?!」

「別に、頃合いがあるって言うんなら、それまで待つだけだろ?」

「いやまあ、そうなんだけど!」

「姉上からは、その時に事情を洗いざらい話して頂くとして…現状では姉上の手綱を両親以外で握れるクロッカス様には…到底及ばない、一人の未熟者に過ぎません」

「そうか、そうかぁ…あの小さくて無駄に悪知恵の出てくるチビがなぁ…世辞だろうと、マラカイト坊っちゃんみたいな良い奴に言われれば、年の功ってヤツにも感謝しなけりゃなぁ!」


 色々と訂正したくなる程、二人が今まで通りに戻って…飲み込んでくれた事実に、安堵する。


「ところでトワは、なんでまた木の上なんかに隠れてたんだ?」

「別に、静かなところで昼寝したかっただけだよ…前にも話した変な夢を見たから。場所を変えたら今日こそ眠れるかもって、思ったんだけど…駄目だったみたい」


 頭髪と同じ色素の、適当に剃ったであろう薄青紫の顎髭に触れて、爺ちゃんが思い出す時の仕草をする。


「前に睡眠不足と栄養失調で倒れた理由の、王都まで行って調べたっつう…夢だって分かる夢の件か?」

「うん…爺ちゃんの言う通り。私の心の奥底の気持ちが影響した結果の、明晰夢っていう…現実みたいで歯痒い思いのまま、なんにもできないで変な時間に起きちゃう…悪夢みたいなモノだよ」


 夢の中にいた私は、現実の私とは異なる姿で…目に掛かるまでほったらかしにした黒と焦げ茶の中間のような前髪が邪魔だったのだけは覚えていたが、他は全くと言っていい程思い出せずに診断を受けた。

 医師曰く、仕事や環境の変化による疲労からの一時的な睡眠障害だと診察結果を受け、診断書と睡眠導入のお香と香炉を渡されたが…


「医療用の鎮静効果のあるヤツの匂いが、すっごいキツくってさ…近隣の住民の皆さんから被害報告を受けて、直ぐそこに見える…今まで住んでた貸し出し倉庫から帰って来て直ぐに、叩き出されちゃったんだよねぇ」

「あそこの倉庫から叩き出されたって…つい最近まで領主様から依頼されてた、夜になると漂う刺激臭騒ぎの事か!?」

「うん…それについては、すっごい疲れた」


 主に、過保護な家族や使用人達にバレないようにする事が。


「…全部片付いたら、ギルドの物置き部屋に住めるように手配しとくからな。後で会えたら…顔出せよ」

「え?なんでそんな哀愁漂う感じで行くの?荷物は【収納】に入れたから私も今すぐ行くし、被害を受けた方々には直接、誠心誠意の謝罪をして回ったから訴えられないで済んでるけっ、どぉッ?!!」


 掴まれたと感じた肩の辺りから、ミシッ…と骨が軋む音が聞こえた。


「…姉上?貸し出し倉庫から、追い出されたということは…今まで警備の行き届いていない、内鍵すら無い空間で荷物とともに寝ていた…?」


 振り返れば、本当にブチ切れた時の黒い笑みを浮かべた、過保護組筆頭の義弟であるマラカイトがこめかみに手を当てていた…!


「ヒッ…まぁまぁ、落ち着こうよ…ねっ?!」

「いつまでも彷徨っている噴水広場から、現在地までのルートを魔道具にて転送しました。姉上の傍付き侍女でも特に主人思いな、あのオーロラが最短距離で此方へ向かっているようですから…ほら、座って下さい」


 そう言ってマラカイトは地面に座り込む。

 言葉に従い隣に座ろうとすると、マラカイトが腕と脚の間を広げていた。


「…ん?あぁ、マラカイトの足の間に座るの…?」

「えぇ、僕の腕の中で、一緒に待ちましょう?」

「あ、はい…?」


 ストン、とマラカイトの足の間に自分の膝を抱えるように座ると、溢れ出ていたドス黒いオーラが少しだけマシになる。


「フフッ…昔とは逆ですね?」

「うん、懐かしいね…お父様に一緒に怒られた時は、必ずこうやってくっついて、いっぱい泣いて…」


 どうやら、マラカイトからのお叱りは、免れたのかな…?

 でも、オーロラは別の意味で怖いんだよな…


「あっ…でも、大きくなってからはしてないけど…最初の頃はお互い向かい合って、抱き締めながら胸の鼓動を確認して…私の腕の中で泣き疲れて寝てたマラカイトも、可愛かったなぁ…」

「今の僕は…可愛くはないんですか…?」

「いやいや、今だって最愛の家族で唯一の義弟だからね?それになによりも…私が自分の意思で守りたい、大切な存在だって確認できるんだよ」

「姉上が望むならーー」


 背中に手が添えられ、膝の下に腕がするりと入ってきたと思ったら。


「ーー今でも、こうして確認できるでしょう?」


 くるりと器用に反転させられる。

 そのまま背中と後頭部に添えられた大きな手に逆らわないでいると、マラカイトの胸板に顔からダイブして…ポプリのようで安心する香りが鼻腔をくすぐった。


「昔とは、違うんです…」

「…でも、今も昔もマラカイトは…優しい」


 抱き締められた状態でも息がしやすいように少し空間を作ってくれたり、膝を擦り剥かないようにさり気なく上着を地面に敷いているのも…全部合わせて、私が大好きなマラカイトのままだ…


「…私とお母様と使用人以外でも、女性慣れしないと。心臓の鼓動音が早いし、大きな音で脈打ってる…」

「それはっ…!姉上の感想は、それだけですか…?」

「えっとね、あたたかくて居心地が良くて、私の好きな香りがする…みたいな感じかな?」

「っ…姉上…!」


 ドクンっと、一際大きく心臓が跳ねるような音がして…漸く判別ができた。


「今日は別邸のラベンダーで調香した香水でしょ!」

「…はい。あぁ、侍女が来たみたいですよ」

「えっ、本当に?」


 マラカイトから顔を離して、振り向けば其処には。


「久し振りだね、オーロラ」


 私が幼少期の頃からずっと私に仕えてくれている、傍付き侍女のオーロラがいた。


「ぎぃぇぁあああッ!!!」

「…相変わらず元気なようで何よりだよ」


 低い位置で纏めた深緑のお団子と鮮やかな紅色の瞳がチャーミングな彼女は、動きにくそうな使用人のお仕着せを着ているにも関わらず、無駄のない素早い動きで襲い掛かってくる。


「マラカイト様ッ?!お嬢様をッ!一人抜け駆けしてッ!独占すればどうなるかッ!!知っておられていますよねぇッ?!!」

「一々大袈裟な使用人ですね。姉弟なのだから多少のスキンシップは当たり前でしょう?」

「どこがッ!多少ッ!なんですかぁッ!!」


 いつものように奇声を上げたオーロラとマラカイトによる、当たる寸前で繰り返されるやり取りを見るが…オーロラは決して悪い子じゃない。

 寧ろ、空気も読めるし主人の顔を立てられるし、私への忠誠心がちょっと人並外れただけの女の子友達だ。


 だが、当人は怒髪天と言った様子でダガーを振り回していて、その度にマラカイトが余波も当たらないように【魔法障壁】を発動していた。


 相変わらず、ぶっ壊れた魔術の才能の持ち主であるマラカイトもすごいのだが、物理魔法問わずに、私の渾身の攻撃ですら一発は持ち堪える【魔法障壁】を、ダガーを数回当て斬り刻むオーロラも大概な大物だろう。


「なんていうか…二人とも仲良しだよね?」

「「違います!」」

「…息だってぴったりじゃないか」


 いつものように呆れて、軽く流しそうになり…止まる。


 マラカイトは魔法だけで見れば…私は勿論、父上よりも魔力量と技量を合わせても格上になっていて、魔導師としても魔道士養成学校に呼ばれて、教師よりも指導が上手だと、学園長さんから手紙を貰って帰って来て…毎年必ず授業を行うのが恒例と化している。


 オーロラは護衛術から派生し、武術関連の基礎を私に叩き込んでくれた最初の師匠だ。

 何よりもスキル無しでの戦闘でオーロラと戦えば、引き分けに持ち込むのがやっとだし…彼女は使う武器を選ばないで戦うから、模擬戦でも私にとって相性の良い武器で戦い、どれだけ戦略を練っても()()()()に持ち込むのが、現状でも唯一の勝ち筋になっている。



 そして…この後に控えた取り引きで、先方が提示して来たのは『自由への足掛かり』だ。

 酷く曖昧な表現だが、言いたいことはなんとなくは理解している。


 簡潔に言えば、常人ならざる力を欲しているのだろう。

 足掛かりは基盤作りとも言えるし、思うように()()に振る舞うには、単純な能力値の向上やスキルの取得、権力や資金に広い人脈…それ以外にも必要となる要素は、幾らあっても困らない。


「基礎の土台として足りないのは…不測の事態にも対応出来る程度の、武術と魔術にある程度の学問…そして此の世界での立ち振る舞い方。最序盤は全ての科目を受講できるだけの、体力作りも視野に入れて…」


 私とマラカイトとオーロラがいるとなると、必ず関与してくる悪友の彼も含めたら。

 取り引き相手の監視下にある、ダークとベリィの『自由への足掛かり』の教師役に、ピッタリと当て嵌まるメンバーだと気が付く。


「あのね…お願いがあるんだ」


 しかも、三人とも私に対して過保護だが…それ故に、私だけで払える対価を望まれる様子が目に浮かぶ。


「私に力を貸して欲しいの」


 悪いと思いつつも、そうなると…確信に似たモノを感じていた。



 *****



 ーー時を遡る事、凡そ三日前の出来事。


 ダークとベリィの二人を街道の脇に寝転がして、軽度とはいえ怪我をしていたので擦り傷に至るまで自家製で市販のポーションよりも効果の高いモノで回復させて、光属性の魔法の【治癒】を繰り返した。

 それでも二人は寝ているので、その間に魔力が自然に回復しては、協力してくれた風の精霊達にマナへ変換したモノを少しずつ返しては喜ばれた。

 風の精霊達が喜び、風が吹き荒れていた中でも、起きなかった。


 私の体内時計は狂っていると自負しているが、太陽は沈み始めて夕刻の鐘も聞こえていたので…早朝に出発してから数えれば、半日以上はこの依頼に費やしている。


 知らぬ間に死んでいるのかと焦って、念入りに確認するも…すやすやと眠り姫のように静かなまま、健康体でちっとも起きやしないダークとベリィに対し……痺れを切らした私がする行動は、単純明快にして最も効率的な起こし方だろう。


「まぁ、念の為に【手加減】を掛けて、出力最大で…【神鳴り】ッ!!」

「「ーーッ!!?」」


 …あれ?

 起きていないけど、微かに呻き声がしたような…?

 それと、一瞬しか視認できなかったけれど…【魔法障壁】みたいなドーム状の壁が()()()二人を包んで、衝撃を和らげるように周囲へ逃していた…?


「起こし方の方向性としては、間違っていないって事で…合っているのかな?」


 当然のように二人とも応えてはくれず…まだ肌寒い夜風が吹くだけなので、肯定ということにして続けよう。


 大前提として考えるべきなのは、二人に打撃などの物理か魔法を用いたある程度調整可能なアクションを起こすかの選択だが…睡眠妨害に適切な威力を安定して出せる方法といった観点から見れば、魔法の方が有効的だろうし…攻撃魔法ではなく殆ど相手のカルマ値に依存する【神鳴り】が最適だろう。

 注ぎ込む魔力量に関しては…多くし過ぎて壁が現れると邪魔をして、寧ろ魔力の無駄遣いになっているようだし…それで起きたとしても、また寝てしまうかもしれない。

 だからといって衝撃を弱く加減し過ぎれば、起きるどころか気付かないかもしれない…そう仮定するとして。


「つまり、壁が出現しないギリギリの威力を最初とさっきの二回目との差を考えて……というか、寝た相手を起こすのに最適な魔法の威力加減を考えるだなんて、私はどれだけ暇なんだ…!」


 至って真剣に、今後の役に立つかも分からない理論を、理屈に沿って熟考する変人なんて…


「…あぁ、いるなぁ…身内に」


 私の一番古くからの幼馴染で悪友にして、特異点を理解し合える存在…なのだが。

 奇抜な発想と自他ともに巻き込む行動力などの素晴らしい可能性を持つ彼なら、こんなにどうでもいい問題だろうが本質を見抜き、迷いなどせず嬉々として主体的に立証させる為に動いているだろう。


「取り敢えず…【手加減】そして【神鳴り】」


 極力威力を絞り…最小値で衝撃を与えても、相変わらず起きる気配は、ない。

 …というか検証自体、私の専門でも得意分野でも無いのと…なんだか疲れが溜まってそろそろ限界だし、もう面倒くさい。


「【手加減】【永続化】…【神鳴り】【神鳴り】【神鳴り】【神鳴り】」


 ダークとベリィは【神鳴り】を食らってピクピクと動くが…それだけで。

 変化らしい変化は見受けられないので、無心になって魔力を節約しながら、一定の威力で連撃していると…【空間把握】の感知圏内の…ちょうど二人の頭上辺りに突如として、謎の生命体の気配を感じ取る。


 やがて上空が揺らぐように捻じ曲がっていき……既視感のある光景に対して、いつでも攻撃魔法と【魔法障壁】を展開できるように、構えた瞬間だった。


「にゃめなさぁ〜いッ!!」

「ぶなぁあああッ〜?!」


 毛玉が二つ、寝たままのダークのお腹の上でバウンドして、ベリィの顔面まで転がって止まるとーー


「くはッ!!ゲホッ!!…ガハッ!!?」

「ぷッ、ぎゅぅっ?!」


 ーーその衝撃だけで、二人は起きた。



 〜〜〜〜〜



「はにゃすのにゃッ〜!!」

「暴れにゃいでぇ…息苦しいですにゃぁ…!!」


 毛玉二匹を【収納】から取り出したーー麻縄よりも細長く編まれ魔封じの付与魔法の掛かった捕縛専用ロープで、ぐるぐると巻いて一纏めの団子にして、高い位置の木の枝へ引っ掛けてからロープの先を地面に打ち込んだ杭に結び付けて、固定した。


 早く解放しろだとか人聞きの悪い事を喚いて振り子のように身体を揺らす小さめの毛玉と、それに物理的にも精神的にも振り回されている…まあまあなサイズの毛玉がいるが…文句を言うなら、此方の特権だろう。


「私の苦悩と消費した魔力に労力、そして貴重な時間を返して欲しいが…そんな苛立った感情に振り回されないでいる、慈悲深い私の温情に感謝していると良い」


 実際に、毛量が凄い多かった…山猫の魔獣っぽい姿で爪を立て襲いかかって来た、小さい毛玉の方にしか【神鳴り】は掛けていない。

 もう一匹には少し同情するが、連帯責任で二匹とも爪切りの刑とブラッシングの刑に処したが、最初はジタバタと前脚と後ろ脚を動かし暴れつつも、次第に情けない声で訴え始め…最後の方は両者ともにゴロゴロと喉を鳴らして恍惚とした表情だったので…誰がどう見ても。


「私は喋る野良猫の身嗜みをケアして、安全性が確認出来るまでは護衛対象から遠ざけているだけだ」

「ハァ?おみゃあが無抵抗にゃ【ログアウト】状態の【プレイヤー】を魔法でサンドバッグにしてただけにゃの、あたち達は見てたんだからにゃッ!!」

「2番ちゃんっ?!わたし達が【ナビゲーター】にゃのが主人様以外にバレちゃったら、お使いと任務の遂行ができなくにゃるよ?!」


 簀巻きで宙ぶらりん状態なのに、随分と気軽に噛みついてくるな。

 大陸共通語の帝国語と異国語を器用に使い分けて喋る知性がある生物なら、どちらが上で…相手の殺生与奪権を握っているのはどちらか、明らかだろうに。


「あと、あたちも1番も野良猫じゃにゃいにゃあッ!」

「揺れにゃいでぇ〜!」


 それにしても、うるさい。

 こんなにも元気に、にゃあにゃあと常に鳴かれては、二人との取り引きに支障が出そうだ。


「野良猫二匹は、少し()()()いなよ」

「はいですにゃ…」

「ハァアアっ?!おみゃあの言う通りにゃんて、絶っ対にお断りだからにゃぁああッ!!」

「にゃッ?!守秘義務忘れにゃいでッ?!!」


 そして小綺麗な喋る野良猫ーー恐らく魔獣の二匹は、またもや内輪揉めを始めて騒ぎ出す。


 だが然し…驚いた、な…

 言葉に乗せた魔力量自体は微弱だったとは言え…【言霊】が人類種ではない魔獣に効かなかったなんて。


 過去に一度関わっただけだが、幼い頃の未熟な腕前と今の半分程度の能力値で、強力な力と理性を保つ希少な魔獣ーー幻獣種を束ねていた…更に上位種だった妖精王にも、効果は出ずとも威圧になったというのに。

 だとすれば、幻獣種や妖精王よりも格上であるか、或いは…


「みゅふふんっ!あたち達におみゃあ程度のスキルが通じるわけにゃいんだからっ!」

「あのぉ、そろそろ降ろして欲しいですにゃぁ…」

「へぇ?スキルも話も通じないと思ったが…キミ達も異国の出身かい?」

「「……」」


 おかしいな…冗談のつもりが、的中したようだ。

 しかも、相当知られては不味い事実か…それに近しい情報のようだとは。


「成程ね。先程からしてやられていたが…今度は私のターンという訳か」


 猫に表情筋はなかったような気がするのだが、二匹揃って焦りが顔に浮き出ている。


「キミ達が口にしていた主人様やお使いと任務について、今は詮索しないでおいてあげる」

「…そんにゃの、知らにゃい」

「ニャアー」

「分かり易いし、随分と下手な猫の鳴き声だな…誤魔化すにしても雑じゃないか?」


 まぁ、弱みを握れたなら悪くはない。

 これからダークとベリィとの話に割って入ってこないのなら、今のところは特に脅すつもりもないし。



 〜〜〜〜〜



 漸く本題の話ができると思ったが、ダークとベリィの視線があまりにも刺さって痛かったので…野良猫二匹を解放すると。


「わぁ…もふもふしてます…!」

「クルクルル〜……おみゃあはぁ…いい奴だにゃあぁ…」

「ハァハァ…アニマルセラピー」

「にゃぁ…ゴロゴロ…」


 ここまで態度をあからさまに変えられると…結構腹が立つな。

 猫が取り立てて好きな訳でもないが…私だって、何かを可愛がりたい欲求は普通にある。

 別に、羨ましくなんてないが。


「あの…冒険者さんも、触りますか?」

「いいや、遠慮するよ」

「ウチのにゃんこも是非!それと、モフってる様子の撮影許可を下さい!」

「モフる予定は無いし、撮影も却下。だいたい、ダークとベリィが私の話を聞くって言うから解放しただけで、危険な魔獣である事に代わりは無いのだと…二人と二匹は、忘れないようにね?」


 ピシャリと言い切れば、しつこい押し売りも喉を鳴らす魔獣の声も途絶えた。

 雰囲気は最悪だが…どうせこの後には同じかそれ以下になるので、構いはしない。


「それで本題だが…キミ達は今、どの様に今回の件を捉えているのかな?」


 少しは待つが…返事は無い。


「今回の件と広く捉えてはいるが…私やキミ達がした行為の数々は、紛れも無く極刑に値する重罪で、現段階ではバレていないだけの犯罪者だ」


 唖然とされるのも、想定内。



「単刀直入に言おう。今回の件で失ったモノは忘れ去って、痛み分けで手を打たないかい?」

良ければまた読みにきて下さい。

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