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歪んだ箱庭  作者: パステル
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第十九話 孤独毒々脈を打つ

ストックを書いてたら投稿期間がかなり前になっていました。

 始まりはいつも予想がつかない。

 幸せも不幸せもいつだって突然の事だ。


 私の両親は、薬学については一族でも群を抜いて秀でた知識と技術を持つ薬剤師だった。

 ところがある日、両親が栄養剤を処方していた偉い人の一人が体調を崩した。

 その結果、私と両親は『毒を盛った薬剤師の一家』だと言われるようになり、両親の仕事が段々と減っていった。

 両親は以前とは違い、私が周囲から避けられるようになってから笑顔を見せなくなった事にいち早く気づき、親戚の家へと私を預け遠ざけた。


 感情の変化に気付けるなんて、流石は病人と接する機会のある薬剤師だろうか?


 …今だからこそ、両親の意図に理解はできる。

 だけど、四歳の子どもにとって両親から引き剥がされてしまうのは、とても苦痛だった。


 でも、その苦痛も…これで終わる。


「日々の恵みを与えて下さる女神様に感謝を…」


 小さな試験管の蓋に指先を引っ掛け力を入れて外す。

 キュポンっと音を立てて開いた試験管の中からは、強い刺激臭が鼻先を掠める。


「全知全能の女神様……私は、苦しいです…!」


 お父様とお母様と私の三人で最後に食事をしたのは、二年以上前の誕生日。


「叔父様も叔母様も優しくしてくださるし、従姉妹のお姉様も差別すること無く本当の家族のように接してくれます。でも……それは全て温情から生まれた仮初の家族だって、思い出しましたっ…!」


 内鍵はかけて、音が漏れないように防音結界を部屋に張ったから、苦しんで泣き喚いても大丈夫。

 その事実を知っている私は、生まれてから初めて女神様の罪を信じながらーー


「背徳の女神様なら、私をっ…地獄へ連れて行ってください…ッ!!」


 ーー祈り、劇薬を呷った。



 〜〜〜〜〜



 私は六歳の誕生日までは必死に生きて、贖罪の為に遠方の辺境地にて無償で働く両親は、潔白の身であると証明しようとしていた。

 叔父様と叔母様に無理を言って当時の新聞を入手してもらい、両親の関わった事件とされた当時の症状を調べ始めたが、箝口令が出されていた当初は殆ど進展がなかった。


 しかし、その二年後に出版されたある一冊の本により、私の人生は大きな転換期を迎える。


 その本は高位貴族の御令嬢が出版したとして噂になっていたので、聞かずともその本の内容、それに対する批評までもが耳に入ってきた。

 曰く、出版された当初は貧民街の住民にも手が届く価格で売られていたにも関わらず、全くと言って良い程売れ行きは悪く、それでもその本を購入した者達が広めた話を信じるならば『今までの一般常識とされる民間療法の大半が適切な処置ではない』と指摘されているらしく、その情報を切っ掛けに世間からは凄まじい批判を受けたらしい。

 かくして()()()()()()と呼ばれるようになった本だが、何故か販売は中止とされずにいて、誕生日に私が強請った時も何度も止められはしたが、いずれ飽きるだろうと根負けした叔父様が与えて下さった。


 ところがある日、私が居候している屋敷の近くの冒険者ギルドで()()が起こった。

 正確には奇跡ではなく、その本の情報の正確さが証明された出来事だけれど。



 新たな開拓村の為に森で伐採をしている途中に魔物に襲われた意識不明の樵が居ると、担架で運び込んで来た樵仲間の男達が治癒魔法の使い手を求めて緊急依頼を貼り出した。

 その日、偶然にも薬草の買い取りを頼んでいた五歳の私には見えないよう、護衛とお付きの侍女が私を背に隠した為、その時はハッキリと怪我の具合は見えなかったが、声の聞こえる方から漂ってくる濃い血の匂いと息を呑む周囲の反応から、相当深手の重傷であり下手をすれば命を落としかねない状況なのだと察した。


 運の悪い事に、この付近にある診療所のお医者様は早馬で半日掛かる農村へ出向いており、樵にとっては更に運の悪い事に、その頃はちょうど魔法学園の交換留学生が冒険者の真似事をしていて、その冒険者ギルド内での揉め事の中心にはその学生達が必ずと言っていいほど関与していた。

 然し、そんな留学生達は仮りとは言え所属したメンバーだった為、その冒険者ギルドの熟練のメンバー達は扱いに困っており、新米や見る目の無い中堅のメンバー達からは治癒魔法が得意であり見目も良い事から『聖女』と呼ばれていた少女達のパーティーが真っ先に引き受けた。

 他のマトモなギルドメンバーが止めるにも関わらず、手綱を離した暴れ馬のように突っ走り、息の浅くなっていく樵に治癒魔法を行使した。


 少女の治癒魔法の行使は間違いではなかったが、少なくとも正しい処置ではなかった。


 重傷を負っていた樵は意識を取り戻したが、身体の傷は外傷だけを治した不完全な状態であり、次の瞬間には樵は全身に襲い掛かる激痛に脂汗を流しもがき、青白かった顔色を土色に変え、気を失った。

 呆然とする少女に対して怒鳴るギルドメンバーに、泣き崩れる樵の奥方らしき女性と、現実から目を背けるように涙を流す樵を運び込んで来た仲間達。


『薬剤師は治癒術士のように劇的な変化を直ぐには出せないし、目立たないかもしれない』


 目の前の命が風前の灯のように、今まさに消えていきそうなのだと思った時。

 両親が教えてくれた言葉を思い出した。


『だけど、私達なりのやり方で命を繋ぐ事も出来るんだ』


 何故、誰一人として彼の命の為に動かない?

 今にも掻き消えてしまいそうな命を前にしているのに…!


「液状薬がありますッ!」


 気が付いた時には、そう叫んでいた。


「オーロラ様?!」

「お嬢様、なりません」

「では彼を、このまま見殺しにしろと言うのですか?!」


 私がそう言うと、侍女と護衛は押し黙る。


「目の前で苦しんでいる者がいて、私は自分用の即効薬を持っている。これ以外に何の理由が要るというのですかッ?」

「ですが、その薬は…」

「お願いしますッ!」


 声に驚き横へ視線を向けると、すぐ側に先程まで泣き崩れていた女性が平伏していた。


「夫に薬を…!どうか、助けてくださいッ!!」


 今思えば、女性は頼みの綱の治癒魔法が重傷の夫を苦しめただけだった事と、薬を持っていると言う身なりの良い少女にお付きと護衛の組み合わせを見て、私が名乗る前から此方が貴族だと理解して、無礼打ちも覚悟していたのかもしれない。

 だがそれ以上に必死で、藁にもすがる思いだったのだろう。


「これを飲ませてあげてください!」

「ぁ…ありがとうございますっ…!」


 女性が薬を飲ませているうちに、似た効能の中身でさっきの薬と同じく今朝作ったばかりの方の液状薬ーー後にポーションと呼ばれる薬を、傷口へ振り掛けた。

 そこから先は、まさに魔法のような出来事だった。

 上半身に大きく広がった魔物の爪撃の痕から流れ出ていた血が凝固し、みるみるうちに肉芽が傷跡を塞いでいく。

 最後にある程度傷の癒えた折れた足を支え技で固定し、残り僅かな液状薬を魔法で生み出した汚れの入っていない水で薄めてから、全身に満遍なく必死に塗り込んだ。


「ぐっ、うぅ…ッ!」


 樵の男性がまた呻き声を上げる。

 でも、その顔には赤さが戻ってきていて。



 そうして私は、一つの命を死の淵から引き戻した。

 私が彼を救えたのだと、お礼を言われながら帰路に着く。


 衝動的に動いた事を、後悔するとも知らずに…



 〜〜〜〜〜



 帰宅した途端、私は叔父様に呼び出される。

 疲労感に纏わりつかれた頭で、叔父様の部屋へと向かった。


「おかえり、オーロラ。座りなさい」

「…はい!」


 叔父様の目付きはいつになく鋭利で、思わず背筋をピンと伸ばした。



「今までは目を瞑ってきたが…薬剤師の真似事はやめなさい」

「…何故、ですかっ…!!」


 座っていた椅子を倒して立ち上がり、震える拳でつい机を叩いていた。


「怪我人に使った薬は、オーロラが今朝に調薬したばかりの代物だと、報告が上がっている」

「確かにその通りですが、あの薬は本に書かれた通りの効果を、いえ!それ以上の効果を出せました!」

「内容も過激であり怪しい製法だったヤブ医者の本の薬の真意はともかく。その本が医学書を騙る本の薬だった場合、オーロラは殺人犯にさせられていてもおかしくなかったんだよ」


 叔父様の言葉に、たちまちのうちに全身から血の気が引いていく。


「結果がどうであっても、オーロラは効能が定かでは無い薬を効果の伴う薬だと、誤認させるような言い方もしている。これは詐称の罪に問われても無理はなかった」

「…そん、な、つもりは…私は、ただ助けたくって…!」

「それはオーロラの中にある正義だろう。それにそのつもりが無くとも、我が家の家名が出れば非難され、私達は多くの者に恨まれていた可能性もある」

「も、申し訳ありません…!」


 小刻みに震えながらも、声を絞り出して深く頭を下げる。

 目頭が熱くなって、下を向くと視界がぼやけた。


「…いいや、私も言い過ぎた。食事の時間まで、ゆっくり休みなさい」

「……はい…」



 人気の無い外通路へ出て扉を閉めると、ポロポロと熱い雫が服に染み込んでいく。


「『妹夫婦達のようにはなって欲しくない』…結局叔父様も…無実だと、信じていなかった…」


 私は先祖返りではないし、感情を読み取る事は特に苦手だ。

 だけど、視覚と聴覚は生まれつき、獣人族並みに優れていた。


「私だけでも、信じていたいのに…ッ!」


 特異な私の体質を知らない叔父様が扉を閉めてから発した、小さな声での本音を聞き取れる程度には。



 〜〜〜〜〜



「…なに、これ?」


 人目を避けて部屋へ戻ると、調薬に使う器具や調薬用の作業机に材料の入っていた棚、作り掛けで触れないようにお願いして保存していた試薬すら、消え去った後だった。

 当然のように、本棚からも薬学に関する本はあの本も含め、全て消え去っていた。


「そんな…」


 衝撃の余り足から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 いつもの作業スペースが無い所為なのか、部屋が普段よりも寂しく色褪せたように感じる。


「…まさかッ!」


 こういう時の嫌な予感は皮肉にも、よく当たるもので。


「無い…!無い、無い無い無いッ!!」


 備え付けであった調度品類とは場違いな、私が此処へ来る時に唯一持ってきた、壊れたオルゴールが無かった。


「…まさか、叔父様が指示したの…?」


 あのオルゴールの蓋は開けるのにコツがあり、壊れているが思い出の品で私の宝物だと、叔父様達には説明してある。

 ネジを巻いてももう音は鳴らないし、特別な魔道具を隠している訳でもない。

 つまり私以外からすればガラクタ同然の物で…だけれど、壊れてしまった家族三人で過ごしていた頃に両親と作った、私に残された全てで。


「何もかも、なくなっちゃったぁ…ッ!」


 それから三日三晩、自分以外の人間を信じる事が、怖くて……やがて裏切られるのだとしか、思えなくて。

 魔法で生み出した水以外、何も口にはしなかった。



 〜〜〜〜〜



 いつまでも部屋に閉じ籠り碌に反応も返さない私に同情でもしたのか、開封されることなくただひとつだけ返ってきたオルゴールを、虚ろな目で見つめる。


「私にあるのは…これだけ…?」


 オルゴールの蓋を開けて、私が初めて調薬した記念に入れて寝かせていた頃から意図せず隠していた、コルクの蓋で閉じた試験管を一つ取り出した。

 試験管の中には透明なとろみのある液体が半分にも満たないごく僅かな量だけが揺れており、それはあの本から学んだポーションの()()()()()()だった。



 ***



 現在の私ーートワの人格を形成しているものは主にユウガオの記憶ではあるが、私にはユウガオだった頃に行使できていた魔法は使えないモノも多いし、身体能力だって身体の動かし方のコツだけは知っていれども、その通りに維持したり動かしたりする事は、トワイライトの身体では難しい。


 だが代わりに、今の私には何故か転生した特典だとでも言うかのように、ユウガオの頃は感知できなかったモノが感知できるようになっていた。


 例えば今も、メイ達のような精霊王レベルの感覚とまではいかないが、人々の祈りが聞こえるようになっていた。

 しかし、全ての祈りが聞こえるのではなく、私に聞こえるのは本人が心の内に秘めた感情と魔力を無意識のうちに乗せるほど強いモノばかりで、凡そ八割以上が負の感情に属するモノだった。

 今日も祈りに()()()()()助けを求める後悔と懺悔の言葉が、どこからか強い思念波となって、頭の中へ直接響く。


『どうして、俺だけがこんな目に…!』

『私じゃなくても、誰でもよかったじゃない!』

『女神様なら助けてくれよぉ!』


 そして、普段は祈りすらマトモにしない者達の身勝手な願いは今も、強弱はあれど絶え間なく四方八方から怨嗟の声のように聞こえていて、とてもではないが苛立たずにはいられなかった。


「そろそろメイに言って、聞こえないようにしてもらおう…!」

「トワ、顰めっ面になってる」

「夕刻の鐘もなって、そろそろ食前の祈りが増えてきたし…いつもの、都合の良い()()()も聞こえてね」

「…納得」


 ヴィオには既に、私の大体の能力については話してある。

 そして同じ先祖返りという事もあり、先祖返り特有の生活に出てくる弊害や、他者の負の感情に自分を掻き回される不快感等、最も深く共感してくれる仲間であり大切な悪友だ。



『誰も、信じてくれないの…?』


 と、ここで。幼い子どもらしき強すぎる思念波が、頭の中へとダイレクトアタックしてくる。


『努力しても…掴み取れなかった』


「だあ゛ぁ〜!!」

「トワが気にする事じゃない。今はゆっくり呼吸して?」

「あ、あぁ…」


『この毒を飲めば、苦しんで終われる』


「…苦しむと知っていて、服毒死を選ぶなんて」


 心からの絶望に染まったモノを吐露した幼な子が、苦しむと理解した上で死のうとしている。

 混じりっけのないユウガオ本人だった頃なら、死を選んだ当人の勝手だと、見捨てることも可能だっただろう。


 事実、今の私も不快には思っても、どうせ関係の無い()()()だと自分に言い聞かせていたから。


()()()()()()なら、私をっ…地獄へ連れて行ってください…ッ!!』


 だが、その幼な子は私の琴線に触れた。


「いいだろう、連れて行ってあげるさ…!!」


 名指しで私の女神(ニーナ)を侮辱した罪、その身で支払って貰おうじゃないか。



 ***



 さっきからブツブツと愚痴を溢しながら苛立っていたトワが、黙ったまま光なき焦点の合わない目で、そこそこ大きな屋敷の方角へ顔を向けた。


「…予定変更だ。そこの屋敷の二階の角部屋の防音結界の中へ、移動を頼めるね?」

「うん、トワと一緒になら行く」


 脳内での詠唱ーー無詠唱を並行して行いながら、トワの様子を観察する。


「防音結界の一部分を書き換えて…試験管内部の引力のみを、試験管の底の方角へ集中させて…【重力操作】」


 まだ教わっていない呪文や魔法を口にしているし、後で教えて貰おうと思いながら転移魔法の発動キーだけ言わずに待機状態にした。

 ついでに屋敷の周囲で巡回している、此処の屋敷の警備隊らしき者達の視界に入らないように地面に腰を下ろして、棒立ちのトワは自分の膝の上に乗せた。


「もう行けるけど、家主の方は?」

「もちろん、アポなしに決まっているだろう?」

「僕はいいけど…当主様は、そろそろ怒らない?」

「ヴィオ。人命第一は基本中の基本だよ」

「建前じゃなくて、本音は?」

「生意気な子どもに地獄を見せる準備で忙しいし、お父様が私を叱りつける事すら苦手なのは知っているから、お母様にバレなきゃ問題は無い」


 確かに、と納得しながら無防備なトワをぬいぐるみのように抱き締め、頑張って怒ったルークス様を想像してみる。


「ルークス様と怒りの感情、全然似合わない」

「だろう?」


 例えどんなに強引な屁理屈だとしても、口喧嘩ですらトワに勝てないルークス様は、慌てて涙目になってるイメージしか無い。


 そんな時、ふと脳裏に浮かんだのは…ふわふわとした雰囲気と優しげな笑顔なのに、薔薇の棘のように心を抉る鋭利な言葉を選んでトワを叱る、ルークス様の奥方様でトワの母上のハイライト様だった。


「…今回は、バレないといいね」

「伏線を張らないでくれ…」



 ***



 試験管に口をつけて、勢い良く天井へ向けて身体を逸らした。

 強い刺激臭を放つ劇薬は重力に従い、真っ逆さまに口へ侵入し食道から体内へと注ぎ込まれ、耐え難い激痛が襲い掛かってくる…筈だった。


「…あ、れ?」


 しかし、かなりの時間待てども、激痛どころか痛みも痒さも伝わってこない。

 つい、力んで瞑っていた瞼を開くと、無色透明な液状の劇薬は丸い()()()()()で揺らぎ、月光を透かして輝いていた。


「なんで…?」

「自分が作った劇薬に弄ばれる気分は、どんな色をした感情なのかな?」

「ーーッ!?」


 試験管から一時的に口を離し、周囲に意識を張り巡らせると…先程とは異なる声の嘲るような笑い声も微かに聞こえる。


「…こんな夜分遅くに、何方様ですか」

「あぁ、私達のことは気にせずに続けておくれよ」

「……言われ、なくてもッ!」


 一瞬、物理法則に逆らう液体と見えない二人の侵入者の声に呆気に取られるが、この薬は空気に触れていればその分だけ品質が劣化していく。

 だから、劇薬であるうちに飲まないと苦しむだけで確実に死ねない。


「でも、なんで」


 試しにゆっくりと振ってみると劇薬の液体は揺れるが、その後幾ら激しく落ちてくるように振っても、必死な私を揶揄うように、底の方で少し揺らぐだけだった。


「アイツ、自分がしようとしている愚行に気が付いてないよね?」

「そう言ってあげないでもいいじゃないか。今の彼女からすればこれが最善の選択なのだろうし」

「でも…短慮な終わり方で、ガキっぽい」


 焦りと恐怖に飲まれた中で、思い通りにいかない事ばかりが続く。

 挙句、覚えの無い声の二人からも馬鹿にされる始末で。


「もうッ!こんなものッ!!」


 理性を失い感情的になって、試験管を床に叩きつけようとした瞬間ーー手首を強い力で掴まれる。


「廃棄処分行きなら、私が貰い受けよう」


 刹那、強く握っていた手の中の試験管の、冷たく硬い感触が無くなった。


「私の、返してッ!」

「キミは自主的に捨てた物にまだ、所有権があると言い張るのかい?」

「それは…」

「トワ、地獄行きはどうするの?」


 ゆらりと空間が揺らぎ、薄紫の瞳が覗く髪を後ろで結った男の子が姿を見せた。

 そして差がなく、薄桃色の髪を腰まで伸ばし三つ編みにした美しい少女も現れる。


「そうだったよ!ヴィオ、教えてくれてありがとう」

「また忘れても、僕が教える。それより今は、地獄を見せよう?」

「あぁ、忘れぬうちにすぐさま済ませる」


 絵画の中から出てきたような美少年と美少女なのだが…どうにも発言が物騒過ぎる…


「さて。キミの先程の神頼みだが…よく知りもしない癖に貶める言い方をした挙句、地獄へ連れて行けと縋りつくのは、流石に看過できない」

「なんの話を…!」

「とぼけても無駄だよ?私には、キミの願望に欲望に切望。そして心の迷いまでもが聞こえているのだから…」


 薄桃の長い睫毛に縁取られた、深紫のくりくりとした大きな瞳で覗かれ、ようやく私は目の前に居る少女の事を思い出した…!


「…辺境伯様の子どもの、トワイライト…!?」


 纏う雰囲気こそ真反対のように違えど、整った端正な顔立ちと先祖返り特有の色素持ちを見間違える筈がない。


「あれ?昔はあれだけ()()()()()()に嫉妬しておいて、気付いていなかったのか……でも、気が付いた今なら尚一層都合がいい」


 それだけ言って、彼女はゴクリと喉を鳴らしーー試験管の中の劇薬を口にした。


「なッ…!?」

「…へぇ?日の当たらない場所で熟成していたようだし、なかなか良い出来栄えじゃないか」


 それだけ言い、トワイライトは再び試験管の中を飲み始める。


「やめっ、飲まないでッ!!」

「トワ…ソレ、匂いもキツくて美味しくなさそう…」

「あっ、あなたは!トワイライトの味方じゃないんですか?!今彼女が飲んでいるのは劇薬ですよッ!!」


 私が焦ってトワイライトに近づこうとすると、少年が少女を背に庇い割り込んできて邪魔をする。


「度数の高い酒じゃなくって、劇薬?あんなに幸せそうに飲んでて?」


 確かに少年の言う通り、トワイライトは蕩けた表情で最後の一滴を飲み干している。


「とにかくあれは、今の人類種が滅多に耐性を持っていない毒の薬となる原液で、体内組織の破壊に特化した薬になっていて…!!」

「…さっきから、何言ってんの?」

「トワイライトは!遅効性の致死毒を飲んだんですッ!!」


 胡散げな視線を送ってくる少年に、危機感がないのかと食い気味に答えていた。


「…は?」


 真剣な私の訴えに少年の顔が強張るが、動かずに立ち塞がる障害物と化したので背後に回り込む。


「【ピュアウォーター】!」


 今なら飲み込んだ劇薬を吐き出させれば、まだ助かるかもしれない…!


「ぶべばっ?!」


 半開きのままの少女の口に向かって、私が出せるだけの全魔力を注ぎ込んだ魔法から生み出した強力な勢いの水を注ぎ込む。


「私はッ!人殺しに堕ちたい訳じゃないッ!!」

「わがっだ、があ゛…!」

「誰であろうと、私の薬で傷つけたくなんてないッ!!」


 涙で歪む視界に映るのは、弱々しい力で苦しそうに私の腕に触れるトワイライトの姿。

 でも私には、ついこの間見たばかりの、掻き消されそうな命が彼女に重なって見えて…!


「う、ぁ……っ!」


 元から魔力量も大した事のない私は、急な魔力切れを起こし、意識が遠のいていく…


「…ごめんな、さぃ…」


 私の意識は、そこで途絶えた。



 ***



「トワッ!?苦しくない?死なないッ?!」

「…うん。もう大丈夫…【浄化】」


 高圧縮した水を浴びせられて呼吸ができず、息継ぎ無しの状態で水を飲み続けた結果、床に流してしまった自分の吐瀉物を原子レベルまで分解させて、大気に残った臭いの元や汚れは圧縮してどこにも繋がっていない亜空間へと投げ入れた。


「まさか陸で溺死させられかけるとは…思いもよらないサプライズだよ…!」

「いや、多分コイツにそんな企みは出来ないと思う」

「どちらにせよ、末恐ろしい少女だね」


 少女は取り敢えず、寝台に寝かせておくとして。


「【解錠(アンロック)】」

「ぎゃあッ!?」


 急に開いた扉に張り付いていた為、前のめりに倒れ室内に転がり込んできた人物を見据える。


「夜遅くに幼き淑女の部屋を覗き見るだなんて、マナーがなっていない以前の問題じゃないのかい?」


 記憶違いで無ければ。この屋敷の主人であり同じ一族の、子爵位当主の壮年の男性を咎める。


「…オーロラに、何をするッ!!」


 だが、壮年の男性は体勢を持ち直すなり、抜刀して震える剣先を此方へ向けてきた。

 一見すると、まだ成人の儀は終えていなさそうな、十歳頃のただの少女と少年相手にだ。


「これはまた随分と…物騒で脳筋な子爵様だね?」

「黙れぃッ!私の姪を狂わせてくれた悪魔めがッ!!」


 私に向かって悪魔と言い放った男性に眉を顰めたが、隣からドス黒い魔力が溢れ出したのを感じ取り視線をやると。


「…殺す」


 案の定、お父様に負けず劣らず過保護になってきたヴィオが温度を感じさせない目で男性を睨み付け、拘束魔法の詠唱を終えて掛けようとしていたので、躊躇なく【解除(ディスペル)】した。


「トワ?どうして?」

「ヴィオは少し落ち着いて。それで、今度はいちゃもんかい?と言うか、この場に居る悪魔はキミ()()じゃないのか?」

「うぅ、うるさいッ!!貴様がヤブ医者の書の著者であり、多くの民を惑わせた事は調べが付いている!」

「はぁ?」


 だがしかしこの言い分には、冷静だったが流石にカチンときた。


「キミ達のような…富裕層ばかりが保身の為に情報の秘匿を良しとしないから、せめて貴賤に左右される事なく広まるように、商標登録に著作権の手続きまで行い、効能も確かめてから漸く公開して手を尽くしているのに、今度は惑わせただって?!」

「トワ、此奴は僕が殺す…!」

「…いや、まだ駄目だ」


 危うく、許可するところだった。

 そうすれば瀕死の人間が増え、あの悪魔の思うツボだ。


「そうそう、悪魔といえばだが…最近、物騒な黒魔術師の死体が見つかったが。召喚に用いた道具も媒体も揃っていたのに、召喚された悪魔は未だ、自分を此の世へ謁見させた黒魔術師の命を吸い取った後も潜伏しているらしいね?」

「…何の話だ」

「其方から悪魔の話題を振ったんだろう?それで続きだが、最近は魔物による領民の死傷者が増えている件について、子爵様はどうお考えなのかな?」


 しかし子爵様ーーに取り憑いて表面へとノコノコと出てきた悪魔は、必死になって子爵様の心の中に隠れやり過ごそうとしているが、相当な苦痛らしく子爵様が苦しそうに呻いている。


「何故だ…!ワタシはこんな場所で終わる訳には…!」

「いやぁ、キミが典型的な悪魔で本当に良かった!」


 最早返事など無いし、求めてもいない。


「お陰様で、私は気兼ねなくキミを殺せるよ!」

「ヒィッ!?」


 右手の中に取り出した大鎌を振り上げてーー


「さようなら、悪魔くんっ!」


 ーー悪魔を刈り取った。



 悪魔が消滅し倒れ伏した子爵様を一人掛けのソファへ座らせ、治癒魔術を行使しながら呟く。


「貴族であるならばやはり、精神力から鍛錬するべきだよね。不意を突かれて憑かれても、それ以上の侵食を防ぐ事ができるのだから」


 とは言っても、精神力の鍛錬は集中力の途切れを生み出さない為にも、肉体の鍛錬とは違い四六時中周囲の変化に神経を張り巡らせなければいけない。

 だから、ヴィオや我が家の警備隊達には大変不評だったけれど…鍛え直す価値は十分にあるだろう。


「明日からの鍛錬は、精神強化に特化させようかな…?」


 私の独り言を耳にし、視界の隅でヴィオが自分の身体を抱き震えていた。



 ***



 此処はミスティックレガリア王国の民ならば誰もが知る、国内に唯一存在する隣国との境界線に沿って広がる、広大な辺境伯家の領地。

 しかし、この地が有名な理由には大きく分けて二つある。


 ひとつは、現役のダンジョンでは大陸最古の深淵(アビス)があり、建国されてから何世紀と変わらず当時より、精霊族の末裔の族長の家系が番人をしているから。

 もうひとつは、国内では無数の人類種が共存して様々な階級に分散しているが、純血の人族以外では唯一()()()()を叙爵している、リリック辺境伯家の領地だからだ。


 そんなわざわざ思考を割かずとも同じ一族の分家の出生ならば常識である事を考えながら、成人の儀を終えたばかりの見習い警備隊員達を素手で無力化しては投げるという、余りにも退屈な単純作業を繰り返していた。


「やぁ、オーロラ。今日も頼んでしまってすまないね」

「いいえ…ただ、どうして私は此処にいるんでしょうか…?」


 相変わらず神出鬼没な今の私の主人であるトワイライトに問う。


「そりゃあ、私が気に入ったからさ」

「…なぜ私は、トワイライトが雇用主であり、別邸にて侍女になりながら働いているのでしょうか?」


 雇用主が当主様では無い事は百歩譲ったとして、勤め先と与えられた部屋が本邸の庭の奥に隠れるようにある別邸で、保護された当時から頂いているお給金は成人の儀を迎えていない子どもに渡される額ではないと言うのは、余りにも怪しすぎやしないだろうか?


「一体何が目的で、高位貴族の次女でもない私などに職を与えているのでしょうか…?」

「え…?私が気に入ったからだけど?」

「知ってた…!」


 所詮トワイライトは高位貴族の愛娘で、愛の無い世界を知らない子どもだという事を。

 どれだけ足掻こうと手に入らないモノがこの世にある事をまだ知りもしない、恵まれた外敵もいない温室育ちだという事を…


「あぁ、そうだ。警備隊の稽古の相手が終わった後、私の書斎に来て欲しいんだ。大丈夫かな?」

「…はい。畏まりました」


 この非現実的な光景も、トワイライトの気紛れから始まり終わるのだと、そう思い込んでいた。



 〜〜〜〜〜



「開いているから、勝手に入ってくれ」


 ダークブラウンの重厚な扉をノックしてから名乗ると、相変わらず防犯意識の無い声が中から返ってくるが、これも最早気にするだけ無駄だと分かっているトワイライトの性格上の問題だ。


「失礼致します……はぁ」


 そして、片付けても片付けても元通りに散らかされて、翌日には足の踏み場すら少なくなっている部屋の様子も、トワイライトの性格上治しようのない問題なのだろう。


「呼びつけたのに待たせてしまいすまない。終わるまで適当に座って待っていてくれ」


 そう言いながらペンを忙しなく動かし、書類の山から目を逸らさないトワイライトのすぐ横には、この部屋で唯一座るスペースのある長椅子に寝転んで寛ぐ、彼女の唯一の直属の臣下であるヴァイオレットの姿があった。


「……」

「引かない、退かない、譲らない」

「まだ一言も言っていませんけれど」

「なら、今日のお菓子の毒味をする」


 ヴァイオレットが手を翳すと、座ったままのソファの真横に小さな丸テーブルが出現する。

 それはもう、当たり前のように無詠唱での出来事で、このような些細な事で一々驚いていた頃が遠い昔のように感じるのだから、人間の慣れというものは恐ろしいものだ。


「何してるの?早く出して」

「別に今更、毒など仕込みません」

「じゃあなんで直ぐに出さないの?」

「それは…その…」


 つい先日、間違えてヴァイオレットのマントとローブを上質な布で仕立てられているからと、トワイライトの物だと勘違いして一緒にして洗い、前よりもやや縮ませてしまったお詫びに用意したお菓子に夢中になって、ついさっき作った手抜きの方のお菓子が、ヴァイオレットの崇拝する主人のトワイライトの分だなんて、言えやしない。


「私もヴィオも楽しみにしていたし、今朝料理長に聞いた限りでは初披露のお菓子なんだろう?」

「…はい」


 トワイライトの分は昨日のモノと似たような、中に使った果物を変えただけのタルトだなどと、この後に及んで言える訳が無い。


「本日は…お二人には別々の物を用意してしまいまして…トワイライトの分を作る時間と材料が無くって、申し訳ありません」

「あっそ…なら、僕はトワと同じ物を食べる」


 興味を無くした菫青石の双眼は私から外され、丸テーブルは消えていた。

 だけれど私は、今日もまたここで引き下がってしまいたくはなかった。


「ですが、こちらのお菓子はヴァイオレット好みの味付けに作った物で、日持ちはしないんです」

「だからその、多少珍しくて僕好みらしい味にしたお菓子ひとつで、ローブとマントの件を忘れろって算段でしょ?魂胆が見え透いてる」

「ぐっ…その通りですけど…」

「ヴィオ…別に批難はしないが、許す許さないに関わらず、好意は素直に受け取っておくべきだよ?」

「トワとお揃いの方がマシ。っていうか、僕はコイツみたいな恩知らずがトワの専属侍女候補だなんて認めてない」

「また、その話ですか…」


 同じ性別と年頃に生まれ、トワイライト自らがお気に入りだと公言している同じ一族でもある少女。

 私自身の感情を取り除けば、似たような境遇の者達からすれば、さぞかし私は幸運に恵まれたように見えるのだろう。


「私はトワイライトに憧れはすれど、仕えたいと望んだ事は一度もありません」

「あぁ、もちろん私は心得ているとも」

「ならば臣下の心のケアも心掛けて下されば、あなたの熱烈な崇拝者と逐一無駄な会話をしなくて済むのですが」

「お前!トワ、やっぱり僕は反対だから!」


 怒りに表情を歪めたヴァイオレットはお得意の転移魔法で消え、何処かへといつものように居なくなっていた。


「…また、逃げられた」

「まぁヴィオの事だし、お腹が空いたら戻って来てお菓子を要求するんじゃないかな?」


 別に、彼の機嫌など心底どうでもいい…だが、負い目が残ったまま帰ればそれこそ辺境伯様やオブザーバー伯爵様にご迷惑をお掛けしてしまう。

 そんな事の方こそが真の恩知らずな真似であり、私はトワイライト様のように生まれたかったとしか思っていない。


 この事ばかりを自分に言い聞かせるようにして感傷に浸っていた私では、深紫の瞳が誰を見ているのかだなんて、知れるはずもなかった。



 ***



 私が服毒死を選び死のうとしていたオーロラの元に訪れたのは、全てが偶然ではなかった。


 だって、彼女を導き絶望の淵へと追いやったあの一冊の本の著者は私ーートワであったから。


 領内各地の孤児院を巡り、本の内容について触れて言って回ってもらうようにお給金を出したのも私で、目の上のたんこぶである人族の歴代の王族によって家を無くし、他国から流れてきた奴隷扱いだった彼等の住める場所を開拓するように樵達に指示したのも私。


 元凶を辿れば全て、私に行き着くのだろう。



「許されざる罪なのだと、理解している…それでも、私だってこの想いだけは譲れないんだ…」


 魔石の粉末を練り込んだ陶土でできた女神像を窯から取り出し、温風を当てながら徐々に冷やしていく。


「私には貴女がいる。だから今でも、此の世界を愛せた」


 瞳の部分には深い夕闇のような紫の色を塗り、黒いベールを被っても新雪のように光を反射する白銀の髪は強い魔力で温度変化を引き起こして色を固定させる。


「貴女が此の世界を愛するのならば…私は此の世界に芽吹いた尊き生命を愛でようと思う」


 仕上げに陶器の女神像の中に転送陣を組み込んで、この像のある場所を瘴気の浄化器官として、出入り口の術式も掛けておく。

 そのまま誰にも告げずに、本邸へと向かった。



 ***



 いつものように起床し、運動着に着替えて廊下に出ようと扉を開ける。


「専属侍女候補筆頭。話がある」

「…これは悪夢これは悪夢「現実逃避からの二度寝は求めてない」…チッ!」


 瞬時に扉を閉じようとするが、僅かに開いていた隙間に足を入れられ、信じられない馬鹿力で強引に部屋の中へとヴァイオレットは入ってくる。


「其方からいらっしゃるとは、本日はどういったご用件でしょうか?」

「トワが提示した、選択肢を伝えに来た」

「…選択肢?」

「正確には、現在進行形でトワがお前の未来を開拓しに行った…だから、あくまでも予定は未定」


 そう言うと、ヴァイオレットは出会った時以来では初めて、私と視線を交わす。


「でもその前に、コレを見てもらいたい」


 差し出された紙束を見て、その内容に反射的に顔を歪める。


「…身辺調査の、報告書ですか」

「この件に関しては、僕の申し出で進めていた。だから僕と辺境伯様しかこの件は知らない。でも…」

「でも、なんですか?」

「確固たる証拠は無い。だけど、トワは僕達よりも先に知っていた気がする」

「別に、今更知られても構いませんが」


 同情も憐れみも腹立たしいが、ただそれだけだ。


「寧ろ今まで、知っているのにこんなにも雑な扱いだった事には驚きましたけど」

「お前っ…!本っ当に、ムカつく!」


 それだけ言うと、ヴァイオレットは荒々しく扉を閉め、部屋から出て行った。


「一体、なんだって言うんですか…」

「八つ当たりは良くないわよね〜」

「ーーッ?!」


 瞬時にその場から飛び退くと、空間が歪み薄桃の髪を靡かせた深窓の令嬢といった見た目の女性が、既視感のある方法で登場する。


「オーロラちゃんと会うのは、初めましてよね〜?」

「辺境伯様の奥方様の、ハイライト夫人…ですよね?」

「あらまぁ、正解よ〜!」


 トワイライトにお淑やかさを加えて、あと十年ほど時を進めれば目の前の女性のように成長するのだろうと想像できる。


「あのね、トワちゃんは表に感情を出さないけど、オーロラちゃんの事が大切な友達になりたい相手だと思ってて、ヴィオくんも口下手だけど、オーロラちゃんの事はかなり気にかけている方なの」

「そう、なんですね…」


 その割には、プライバシーへの配慮が欠けていると思うけど。


「昨日のトワちゃんは特に荒れててね?穏便にオーロラちゃんのご両親の冤罪を証明するって意気込んでいたのに、口論の最中に他所様の御令嬢を殴っちゃったんだから〜!」

「…そんなの、知らない」


 私の両親の事も、トワイライトがその件に関わっている事も、知らない…!


「バチコーンってアッパーまでしちゃって、今はその御令嬢のお家で軟禁までされちゃっててね?ルークスが慌てて王宮で弁明をしに行ってるから、私もヴィオくんも寂しいし暇なのよ〜」

「…なんで私は、知らないっ!」


 私には何も、教えられていなかった…!!


「オーロラちゃんにはトワちゃんのお迎えに行って欲しいんだけど、引き受けてくれるわよね〜?」

「…いえ。私には、本日の稽古の指南があるので」

「ヴィオくん。それじゃあ三人で無事に帰って来るのよ〜?」

「仰せのままに」

「はっ?!ちょっ、待っーー」



良ければまた読みに来てください!

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