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歪んだ箱庭  作者: パステル
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第十六話 燃ゆる狐

なんとか年内投稿できた!!

今年度は沢山の方々に読んで頂けて本当に幸せです。

 王都のメインストリートの外周をグルグルと、全速力ではないがそれなりの速度でもう一時間近くは走っていた。

 僕達が元から体を動かす事が好きな人ならまだしも、運動が不得意な僕やベリィさんに体力の少ないソフランさんまでが、かなりの速度を継続しながら走り続けていられるのは、オーロラさん直伝の【身体強化】をそれぞれが自分に走り出す前に掛けているからであって、本来の僕達の体力や根性では最初の十数分で倒れ込んでいただろう。


 当初の予定では、観光という名の視察をした裏路地や遮蔽物の多い露店街などで開始直後から潜み、獲物とする新米パーティーやソロ参加の中堅プレイヤーを撃破していく筈だった。


 では、イベント開始直後から今現在まで、どうしてこんなにも目立つ真似をしているかというと。


「そんなに不貞腐れないでもいいじゃないかぁ〜!」

「貴方とは、無関係ですからっ!」

「ダークくんと、同じ意見っ!」

「以下同文っ!」


 急に増えた押しかけメンバーの狐獣人の女性を振り切ろうとして、後先考えずに全員揃ってメインストリートまで出てしまったからだった。

 しかし狐獣人の女性は口先だけではなく少なくともかなりの持久力はあったようで、僕達の後ろをわざと一定距離を保って追いかけてくるので、僕もベリィさんもソフランさんも狩られる前に甚振られる獲物になったようなまま、一度もキルを取れていない。


 だけれども、僕達のパーティーの総撃破数は次々と増えている。

 それは何故かというと…


「もらったッ「退いて」ぁああッ?!」

「待ちな「邪魔」ッがァッ?!」


 僕達や狐獣人の女性を狙い進路を塞ごうとする敵対するプレイヤー全てを、ポニーテールにした長い黒髪を揺らし赤い瞳で僕達見たまま追い掛けて来る狐獣人の女性プレイヤーが瞬殺していたからだった。

 でもこのままイベントが終了してしまえば、終了時のポイント分配の時に全ての報酬を掻っ攫われるかもしれない為、僕達はとにかく逃げ切ろうとしていた。


「速度をっ、二人は上げても大丈夫っ?」

「ソフランさんに任せますっ!」

「ウチも、まだいけるよっ!」

「オッケー!それじゃ、一旦バラけて後はフレンドチャットで!」

「「了解っ!」」

「えぇ〜!」


 驚いた様子の狐獣人の女性を置いて、ソフランさんは速度を上げて真っ直ぐ駆け抜け、ベリィさんが右へ曲がり路地に行った事を確認し、僕は建物同士の間隔が狭い左の通りへ曲がって、外壁の出っ張りを蹴って高く跳躍して、屋根の上へと避難しつつ周囲を警戒する。

 流石に他のプレイヤー達も屋根の上にいる事態は無かったようで、少し安心して乱れた息を整える。

 下からは見えない程度に屋根の上から少し頭を出して、二人の居場所を探ろうとする、が。


「ひっ?!」


 背後から伸びてきていた誰かの手に肩を掴まれた。


「離してっ、ください!」


 赤く濡れたような爪先が肩に食い込む痛みから逃れようとして踠く。


「離しても良いけど…下に落ちたら危ないよ?」

「わっ…!?」


 僕の抵抗など関係ないと言うかのように、いとも容易く身体の向きを反転させられる。


「騒いでも良いけど、舌を噛まないようにね?」

「いつの間に…」

「防具の重量差や観察しながらの動き方的にも、一番追いかけやすかったんだよ」


 そして向き合うようになって視界に入ったのは、先程から薄々勘付いていたけれど…狐獣人の女性プレイヤーの火狐さんだった。


「火狐さんが此処に居るなら、僕がハズレくじを引けたようですね」

「う〜ん。そうでもないんじゃないかなぁ?」


 そう言いながら、火狐さんは親指と人差し指で輪っかを作り目にあて、望遠鏡でも覗くようにして建物の下の方ーーベリィさんとソフランさんが走って行った方角を見る。


「うんうん。やっぱりダークは運が良い」

「…何を言っているのか、わからないんですが」

「じゃあ折角だし、ゲームらしく選んでもらおうかな?」


 そう言って取り出されたのは、火狐さんと僕のアバターの目線よりも上からの景色が映るタブレットで、反射的に上を見たけれど何もない。

 だけど、タブレットを見ると急いで振り返った僕が見える。

 試しに片手を挙げたり、足をパタパタと動かしていると、隣からくつくつと笑う声が聞こえてきて咄嗟に火狐さんを見ると、やはり愉快気に笑っていた。


「ごめんね、あまりにも可愛らしかったから、つい」

「ぐぅっ…それよりも!お二人の事を教えてくれるんですよね?」

「うん、もとよりそのつもりだけど」


 タブレットの画面を火狐さんの指が操作して、最初に見えたのはメインストリートの露店街で巻き起こる戦闘と、その中心部の噴水の中にノーツさんと一緒に隠れているソフランさん。

 驚きの声を出す間も無く、少し噴水広場から外れた裏路地の方へ移動して見えたのは、二人の人影と対峙するベリィさんの姿。


「さぁ、ここでダークに問おう」


 火狐さんの鈴が転がる音のような声が、頭の中で鳴り響く。


「ダークが助けるのは、噴水広場で間も無く災害生物と遭遇不可避の不憫なソフラン?それとも、最凶キャラ二人とエンカウントしている不運なベリィ?何方を選び、切り捨てるのかな?」

「どういう意味ですか…!」

「そのままの意味だけど?どちらにせよこの程度の戦力では一人しか助けられないんだから、早く決めなくっちゃ…手遅れになる」

「二人は大切な仲間です!だから、こんな質問に意味はありませんっ!」


 そう言って飛び降りようとしたけれど、また火狐さんの手に阻まれる。


「命を賭ける殺し合いでも、所詮は娯楽なんでしょう?なら、意味の無いような質問も楽しまないと、つまらないじゃない?」


 火狐さんには僕が助けに行くことは止められて、何方かしか選べないと言われている。

 もし僕が強ければ、火狐さんを振り切って今すぐにでもお二人を助けに行けるのに…!!


「答えが出たみたいだし、念の為に聞いてあげる」

「無理だとしても……火狐さんを倒してでも、僕はお二人とも助けたいんですッ!」

「…やっぱり。ダークも、ベリィも、ソフランも。際限無き秘宝を生まれ持ってしても…どこまでも強欲なんだね」

「強欲でもなんでもいいんです!だから、早く二人を助けに行かせてくださいっ!!」

「行ってもいいけれど。私達だけじゃ片方しか間に合わなさそうだし、どう考えても火力不足でしょ?」


 頭を下げてお願いをすると、僕自身も思っていた事をバッサリと言い斬られた…


「落ち込むなら、このプレイヤーIDをフレンド欄に追加してからにして」

「…え?」

「私じゃダークのメニューを操作できないから、早くやってみて?」

「は、はいっ!」


 訳が分からず火狐さんを見るとタブレットを押し付けられたので、表示されていたプレイヤーIDを慌ててフレンド検索で打ち込んで…


「申請しました!」

「チャットメニューから特別なコード入力画面に移動したら、こっちの数字とアルファベット九桁のコードを打ち込んで。そしたら認証コードが個人メールに届く筈だからそれを認証画面に打って、表示されたリンクをさっきの二人のフレンドチャットに貼る。そうしたら招待した相手がイベント中からでもパーティーへ仮参加できるようになるよ」

「ちょっと待ってください……えっと、あれ?」

「んぅ?…あぁ、セキュリティコードが変わったんだね。じゃあ最終手段のボイメを使うから、一回タブレットのグループチャットを開いてくれる〜?」


 呑気に欠伸をしながらも指示を出してくれる火狐さんのタブレットを操作して、ボイスメッセージを送れるマイクマークを押す。


「火狐さんっ!!」

「分かってるって…お兄ちゃん達、久し振り。いきなりで申し訳ないんだけど、今すぐ私の()()()を助けて欲しくってーー」



 *****



 ソフランとダークの二人とは散り散りになったから、あの火狐ってプレイヤーからは逃げ切れた。

 だからこそ戦力が分散している今は、慎重に動くべきだったのに…見慣れた格好に目隠しをしたまま歩く、マラカイトくんとオーロラちゃんへ、いつものように声を掛けていた。


 その結果。


「どちら様でしょうか?」

「えっと…?ウチだけど?」

「答えになっていませんね」

「ベリィだよっ?!トワちゃんのお屋敷で一緒にいたじゃん!」

「ふむ…では、さようなら」


 ーービシュンッ!


 無言を貫いていたオーロラちゃんの投擲したナイフが、顔の真横を通過する。


「お嬢様の名前を…増しては愛称までもを、外野の分際で呼ぶなんてッ…!!」


 もしかしてこれは、ウチ達との思い出や記憶がない二人のコピーの方の最凶キャラにエンカした感じ…?!


「こんな時は逃げるが勝ちッ!」

「まぁ、焦らずに。少しお話をしましょうよ?」


 直後、足を踏み出そうとしていた地面が隆起する。


「僕達はただ、上からの命令に従っているだけの事。それ以外に他意はありません」

「あの、殺され掛けたんですケド…!」

「存じ上げない方は消すようにと、上からの命令ですので」

「それよりなにより殺意マシマシなのは勘違いじゃない気が…」

「姉上の愛称を気安く仰っていたので、つい。感情の荒波が魔法に表れるとは、まだまだ未熟なようですね」


 息を吐く間も無く振り返る。

 背後には盛り上がるようにして出来た土の壁が既にマラカイトくんの魔法によって作られており、すぐ目の前には殺気がダダ漏れのオーロラちゃんが地面に落ちたナイフを回収しているところだった。


 うん、逃げ場が用意されてなぁ〜い!


「あの、ウチは冒険者になったばかりの頃に…トワ、イライトさんに!助けてもらったから呼んじゃって、ごめんなさいっ!」

「姉上とそんな出会いをしたのですか…オーロラ、どう思う?」

「お嬢様からは聞き及んでいませんが…タラシなお嬢様の常識でならば、可能性としては無くはないかと」


 よし、もうひと押しで押し切れそうッ!


「本当なんです!それにその時、優秀で大切な家族の義弟さんと大切な唯一の女の子友達の専属侍女さんに、昔から一緒の悪友さんとのエピソードも聞きました!」

「優秀で大切な家族の義弟…!」

「大切な唯一の女の子友達で、専属侍女だという事も…!」


 実際にコピーじゃない本物のマラカイトくんと本物のオーロラちゃんも聞いてる時に、トワちゃんが言った言葉だから嘘ではないし事実なんだけど……なんだか騙しているみたいで、心が痛い。


「マラカイト様!この方は本当にお嬢様から救われたのかもしれませんし、見逃してはあげませんか?」

「…まだ、決めつけるのは早いだろう」

「じゃあ、マラカイト様はお嬢様に大切に思われていない、という事でっ!」

「なんでそうなるんだ!」


 …なんというかいつも通りの光景だけど、物足りない感が否めない。


「あっ!そういえば、今日はヴィオさんとは別行動なんですね!」

「「…は?」」

「へぁ…?」


 あっれぇ〜??

 なんだかマラカイトくんだけでなくオーロラちゃんにも怒りを向けられているぅ…?


「そういう事だったんですね…非常に残念ですよ」

「えっとぉ、どういう事ですか…?」

「ひとつ、お嬢様はヴィオの事を赤の他人に対しては『悪友』だと表現します。ふたつ、お嬢様とヴィオ本人の承諾無しにヴィオを愛称で呼ぶ者は、お嬢様と私やマラカイト様の仲を蔑む敵対者やネズミばかりです」

「という訳で、お別れの時間のようですね」


 目隠しをつけたままで此方の姿や場所は見えない筈なのに、オーロラちゃんがウチの背後の土壁に投げナイフを寸分の狂いなく、直撃するスレスレに刺して身動きが取れないようにウチの服を固定して、マラカイトくんが私への攻撃魔法の詠唱を始める。

 身動きする事も許されない程にナイフの刀身は肌に触れそうな程に近く、着々と練り上げられていく魔力の動きはひよっこ魔法使いのウチでもわかるぐらい精密で無駄がない、殺意そのもの。


 いきなり奥の手で対処する事態とか、聞いてないんだけどなぁっ!!


「【召喚】っ、ドロップ!」

「にゃんでしょうか…って、ベリィ様ァ!?」

「説明している時間はないから、取り敢えずナイフを取って!」

「はいッ!」

「使い魔が精霊獣だったなんて……消えてしまう事が本当に()()()()()()です」


 詠唱もしていないのに、オーロラちゃんが悠長にドロップがナイフを抜く様子を見ていてくれるのは、絶対的な勝利の確信があるからか、もしくはウチを消す事さえただの作業だと思っているのかはわかんないけど…!


「なんちゃって奥義がひとつ!【癒しの霧(キュアミスト)】」回復しても意味は「のッ!目覚めの一杯フレグランスっ!!」〜〜ッ!?」」


 周囲にココアとスパイスカレーの中間のような、甘ったるくてスパイシーな香りが漂い始める。

 この技の練習に付き合ってくれたドロップや本物の二人ならいざ知らず、コピーのマラカイトくんとオーロラちゃんには効果は見るまでもなく抜群で、マラカイトくんも詠唱を中断して口元を袖口で押さえている。

 トワちゃんの料理音痴に感謝の一撃だね!


 でも、これでは動きを一時的に封じただけで、袋小路という状況なのは変わっていない。


「ウチは最後まで足掻くから!ドロップ、次の新技のお披露目だよッ!」

「覚悟はできていますッ!」


 長い尻尾をピンっと立て、ドロップが返事をしてくれる。


「使い魔ドロップに告げる」


 今のところ、この新技の成功率は五分五分だけど…


「眼前の敵を撃ち抜くチカラへと姿を変えてッ…!」


 ウチだって、やればできるッ!!


「【従魔武装化】ッ!」


 ドロップが光の粒子に姿を変え、ウチの空っぽだった両手の中に、膨大な魔力の流れを感じる。


「ウチはお調子者の負けず嫌いで、いつもツイてないへっぽこだし、好きなことにしか真面目に取り組めないような…どうしようもないバカだけど!」


 二丁拳銃に姿を変えたドロップを構える。


「大好きなこの世界でだったら、コピーなんかに負けるつもりなんてないんだからッ!!」



 *****



 ベリィとダークくんとはバラけて逃げ切った後。

 僕は時折見掛ける戦闘の前線から離れようとする手負いのプレイヤーとか、集中攻撃を受けている準最凶キャラのコピーにキルだけ入れてポイントを稼いでは身を隠して、その結果ノーツに導かれるまま逃げ込んだ先は噴水の中だった。

 普通のプレイヤーやNPCのコピーは、噴水の中に隠れるなんて突拍子のない事はしない。

 常識的に考えれば、防具や衣服が濡れて重たくなり動きが鈍くなるし、そもそも【潜水】のスキル持ちだとしても呼吸が続くのは精々が十数分程度で、その姿を隠す結界を張る余裕もある筈がない。


「本当に、ノーツがいてくれて助かったよ!」

「ソフラン。ノーツ、役に立った…?」

「うんっ!勿論だよ〜!」


 こうして髪の毛先すら濡れること無く噴水の中に潜伏していられるのも、遮音と迷彩を兼ねた結界を保てる余裕があるのも、全てノーツが人ひとり入れる大きな気泡を作って維持してくれているお陰だ。


「あっ、あの人はさっきから割と無双してて危険かなぁ…それに、近くにいる人達のキルを奪ってる事はバレてるみたいだし…」


 場所がバレたら危険だし、周囲には魔法使いも結構な数がいるから、怪しまれないよね?


「その身に余る己の業を知り、天より裁きを受けよ。【神鳴り】!」


 僕の発動キーの宣言と大差無いタイミングで、ノーツと契約したことで得られた【従魔一体化】という祝福(ギフト)の中にあった、自身を中心にある程度の気配を察知できる【探知】で存在を確認していた全ての対象に、自分達が暴れて出したダメージの蓄積量をそのままプレイヤー当人達の頭上から降らした。

 大量のプレイヤー達が光の粒子に変わり消えていく中でもダメージに耐えた頑強なプレイヤーには、これまた【従魔一体化】に含まれていた、自分の視界の範囲内でなら離れた場所からでも魔法を発動出来る【魔眼】を使って、風の刃を遠隔操作で操り、弱っている気配に撃ち込みトドメのキルをする。


 噴水広場付近にはもう人影は無く【探知】にも誰一人として反応が無い事から、僕とノーツが如何に無双したのかがわかる。


「最初は隠れていようかと思ったけど、美味しいとこだけもらえる最強な潜伏場所があるなんて、誰も思い付かないよねぇ〜!」

「ソフラン、お客しゃまだよ?」

「はぇ?」


 僕が気付けないように此の隠れ場所を見抜いた、お客様ってことは。

 最低でも隠密系統と感知系統のスキルの扱いが僕より長けているという事になって、必然的に実力は僕よりも格上に限られてくる。


「どうするの?」


 幸いなのは、相手が無防備な僕とノーツに対してまだアクションを起こしていない事から、プレイヤーや敵対心MAXで出会うNPC達の部類ではないということ。


「ソフランっ!」

「ごめん、ごめん…」


 錆び付いたブリキのようにギギギと首を動かし、ノーツが見る方向へ顔を向けると…


「己に聞こう。我が主人様の敵対者で在るのか否かを」


 細長く枝分かれしたような白銀のツノと、真珠のように光の加減で色を変えるヒレ耳に、巨大な群青の体躯を覆うシーグラスのようにスモーキーな水色の鱗の、東洋な見た目のドラゴンの首から先があった。


「どっ…」

「ど?」

「どぉ?」


 そして。


「ドラゴンが喋ったぁああ!!?」

「己の使役する幼な子も喋っているではないか…」

「ソフランっ!ノーツだって喋れぅ!」

「あっ、そうでしたね。でへ、でへへぇ…!」


 この世界は十分ファンタジー要素があるんだけど、ここまで科学や理屈では説明できない竜種の更に上位に当たる古龍が目の前にいるだなんて!

 水の壁で見えにくいけど、大蛇に小さな手足をつけたような身体は宙に浮いているけど、風魔法を身に纏って浮いていた場合は見える筈の水飛沫が飛び散っている様子は全くない。


「あのぉ、古龍様はどうやって浮力を得ているんですか?鱗の形状的には種族は水龍様だと思うんですけれど、空中でも自由に動けるって事は、他の古龍様方も火や水の中でも生命活動を続けられるんでしょうか?!」

「そんなくだらん事を聞いて、何が目的だ?」

「モチのロンで、ファンタジー世界考察レポートに記す為ですっ!」

「ソフラン…お客しゃま、困ってる」

「だってだって!こんなにも物質エネルギーに反した理屈では説明出来ない古龍っていう存在が目の前にいるんだよ?!研究しないでいられないよっ!」

「…もう良い。我が主人直々に判断して貰うまでよ」


 そう言うと、古龍様の鋭利な歯が覗いてーー


「あっ…」

「ソフランっ!?」


 ーーパクッ、とひと口で食べられた。




「い゛やぁああああッ〜!!!」


 と、思ったのも束の間の事で、ノーツの泣き喚く声が聞こえた瞬間にペッ、と吐き出された。


「ソフラン食べちゃ、や゛あああッ〜!!」

「幼な子よ、もう吐き出しただろうっ?それに我は食べたのではなくてっ…」

「や゛あああああッ〜!!」

「自分の主人は其処に居るであろうッ?!」

「ノーツは古龍の子孫が現在の環境に適応した下位互換の竜種で幼いのに、強さと年功序列を何より重んじる古龍の成体が慌てている…?」

「己もくだらぬ考察に時間を費やさず、幼な子をあやさぬかッ?!」

「あっ、はい!」



 〜〜〜〜〜



「すぅ…すぅ……」

「…ハァ、漸く泣き止んだか…」

「と言うより、泣き疲れて寝ちゃいましたね」


 膝の上に乗せて抱き抱えたノーツは目元が赤くなってはいるが、だいぶ僕もあやす事に慣れたのか、はたまたノーツが少し成長したのか。

 すぐにぐずぐずと胸の中で泣いた後に、静かに寝息を立てて眠り始めてしまった。


「なんで古龍様はあんなに慌てていたんですか?」

「別に深い理由などない。幼な子を守りたいと思うのは特別に珍しい事ではないだろう?」

「…古龍様は、優しいんですね」

「我だけが特別な訳ではない。ただ、我の幼少期をその幼な子に重ねて見てしまっただけだ」


 ついつい古龍様を神格化して見ていてしまったけれど、こんな優しくて甘い世界が現実じゃない、作られた仮想現実だなんて…いっその事、夢だったら良いのに。


「そういえば…古龍様の主人さんは何処にいらっしゃるんですか?」

「シスイ。主人の僕より怠けてる?」

「…え?」


 ラベンダー色の髪を後ろで結い、長い前髪の隙間から見えた目隠し越しにも伝わってくる不機嫌オーラの発生元は…


「ヴィオ、くん…」

「は?呼び捨てとか不愉快でしかないんだけど。シスイが僕のこと、言ったの?」

「何も口外はしておりません」

「…そう。じゃあ、此の辺りに残ってる侵略者(インベーダー)はソイツだけだ」


 ヴィオくんのコピーらしき相手の言葉に引っ掛かりを覚えるが、それよりも今は腰に紐で引っ掛けていた、今は布切れで塞がれたヴィオくんの瞳のような色合いの魔石まで付いた豪華な装飾の本を浮かせ、ページを捲りながら歩いて来る姿に未曾有の恐怖を感じている。


「狩人ごっこも飽きた。シスイも早く片付けて、帰ろう?」

「あぁ、承知した」


 シスイと呼ばれた古龍様は悲しそうな眼でノーツを見てから、僕の【鑑定】の熟練度では分析し得られない緻密な構築の魔法陣を開いた口の前へ瞬時に展開した。


「ノーツ、【強制送還】」

「どちらにせよ、お前は侵略者(インベーダー)である運命は変わらない」


 古龍様は驚いたように僕へ視線を向けてから口を閉じかけ、構築されていた魔法陣も緩やかに崩れ出す。


「シスイも、僕を見捨てるんだ?」


 だが、練り上げられていた魔力が分散した事を感じ取ったのか、ヴィオくんのコピーは厳しい口調だが悲しそうな声で古龍様へ問う。


「…すまないな」

「大丈夫っ!僕ならいくらでも生き返りますからっ!」


 少しでも罪悪感を持たないでもらえるように、大きな声で古龍様へ伝えた。


「折角稼いだポイントも水の泡かぁ…」


 次第に肌を焼くような熱波がジリジリと全身を包み込んでいく。


「…んん?」


 そして、炎に呑まれたのに……僕はまだ立っていた。

 然し炎の勢いは調整されたガスバーナーのように、真っ直ぐ長く続いているようで、どう反応するべきなのか困惑している。

 残酷な描写防止フィルターはオフだから、細かく弄ってない設定的に痛覚遮断も有りのままだった筈。


「もしかして…いつの間にか僕は最強に成り上がってた?!」

「戯け者めィッ!!」

「あいたッ?!」


 誰かに突き飛ばれ、炎の外側へ弾き出される。


「ソフラン〜!」

「…ぇ?」


 肩に触れられた手の感触は、妙に現実味を帯びていて…


「ノーツ?なんで、此処に…?」

「ソフランさんッ!」


 腕の中に飛び込んできたノーツを抱くと、今度は頭上からダークくんの声が聞こえてきて、炎の中からも【魔法障壁】を身に纏った人影が揺らぎながら近付いてくる。


「ダークくんがなんで此処に!?…と、獣人の…誰?」

「白虎のアラレさんで、僕達と徒党を組んだ助っ人さんです!」

「あたちもいるわよっ!」


 背中に触れたままダークくんを持ち上げて飛んでいるネスちゃんにツッコミをされつつ、もう一人の人影の方へ警戒しつつ視線を向ける。

 すると、その相手ーー白地に淡い水色で雪の結晶模様の浴衣に身を包んだ、虎のような丸みのあるケモ耳と細長い虎柄の尻尾が生えている美少年が、ジロジロと僕のことを品定めするように見ていた。


「また男か…」

「へ?」

「じゃんけんで負けなければ今頃、僕が火狐とペア組めてたし…変に豪運な天然の案内役と組んで妄想逞しい大戯けの救出に時間を割かずとも済んだのか…ハァ」


 なんだかよくわからないけど、もう一人のプレイヤーは本望で助けに来てくれた訳では無い事がよく伝わった。


「事情はよくわからないけど…徒党を組んだならよろしくね、アラレさん!」

「ボクのことは気にしないで良い。どうせ火狐がお願いしてくれなかったら見捨てて頃合いを見ながらキルしてた程度の関係だし「アラレさんっ!」はいはい…よろしくネ、ソフラン」


 この現状を僕は喜ぶべきか、憤慨すべきか、誰か教えて欲しいです。



 *****



「まさか貴女程度の魔法使い見習いが、近接攻撃以外に遠距離射撃までも扱えるなんて、ね。驚きましたよ」

「ぐぁっ!!」


 横っ腹を蹴られて地面を転がりながらも、未だに二丁拳銃の形から元の姿に戻ってくれないドロップを抱いてなんとか庇う。


「ですがそれも仕組みを解析して終えば、効率的に魔力を弾丸へ変換して発射するだけの玩具だ」

「いっ、つぅぅ…」


 ウチは完膚なきまでに叩きのめされて、負けた。

 二対一にすら持ち込めずに全て【魔法障壁】で防がれて、魔力切れを起こし意識が遠退く瞬間を、たった一発の空気砲でやり返された。


 想像していたよりも、悔しくはなかった。

 強気なことを言ってみても、本当は勝てるだなんて少しも思っていなかったから。


「…ざッけんなぁ…!」

「はい?」


 でも、一つだけ許せない事があった。


「コピーの癖にぃ…今は、全っ然似てないっ!」


 こんな時、本物のマラカイトくんとオーロラちゃんなら、例え見知らぬ敵にでも殺生与奪権は貰ったとか言って、無力化した後に引き摺って帰ることを、ウチは知ってる。


「テメェら、箱推しガチ勢を舐めてんのかァッ?!!」

「…あぁ。発する言葉も支離滅裂ですし、もう壊れたんでしょうね」

「マラカイト様の仰る通りです」

「違うッ!!例え事実でも、オーロラちゃんが素直にマラカイトくんに従う時は、トワちゃん絡みの裏があるのッ!!」


 確かにウチは一度負けた。

 だけど、負けたんならまた立ち上がって、挑めばいいだけだ。

 そうして挑めば、いずれは勝てるから。


「まだ、負けないし、負けてないッ…!!」


 自分に言い聞かせながら折れかけていた心を、ゴリ押すように推し達への愛で奮い立たせる。


「大人しく(キル)されていればいいのに…」

「えぇ、本当に…」

「「馬鹿だなぁ?」」


 二人の声がハモった瞬間、その背後から特大の火球が二人の身体があった場所に降って来て、それが直撃した二人は液状になったように溶けて、ボールのように地面で弾み、見知った一つの人影へと変わっていく。


「あぁ〜、あ〜」


 発生練習をする薄ピンクの長い三つ編みのシルエットが、段々とあからさまなトワちゃんのバッタモンに変わっていく。


「んん゛ッ…さぁ、これでキミ達も満足でしょ?」

「口調も全然似てないっ!!」

「確かに。容姿の事だけでも、トワのいつもの三つ編みも数段は長いし前髪は横に流していないし、そこまでトワは背が高くない筈だよね。まだ成長期だし」

「そうそうそう!よくわかってるじゃん…って、うげっ!火狐!?」

「助けに来たけど…まさか、ダークからのフレンドチャット、読んで無いの?」


 慌ててフレチャを開いて見ると、未読のメッセージが本当に一件届いている。


「『助っ人さんの火狐さんともう一名徒党を組んだ強い人がベリィさんの方へ行きます。なので驚かないで下さい』…って、なんじゃこりゃぁああッ!!?」

「驚き過ぎじゃない?」

「ねぇ〜?そろそろ待つの飽きたん「黙れ、劣悪コピーッ!!」…むぅ。じゃあもういいよぉ!」


 ついついトワちゃんの姿のままだらしない口調で喋ったコピーに怒鳴ると、コピーはまたしても崩れ落ちながら姿を変えていってーー


「ジャッジャーンっ!!ユリちゃんの真の姿、初公開だよぉ〜!」


 ーー衣服や色素まで真っ白な美少女になり、燃えながら決めポーズをしていた。


「あッちゃッ〜!!?」


 白い美少女は水を作り出して浴びるけど、それでも頭の炎は広がって全身に広がっていく。


「因みにだけど、もう一名の助っ人っていうのは、劣化コピーに火球を当てている()()お兄ちゃんのプレイヤーの事だから」

「今はって、強調するんだ…」

「だって事実だし…危なッ?!」

「ひゃッ?!」


 気が付けば火狐にお姫様抱っこをされていて、差が無く真下には氷塊が突き刺さっていて。

 高く跳躍した現状の後に待っているのは、妙な浮遊感と落下ダメージ…!!


「ぐっ……あ、れ?」

「ふふっ…もう大丈夫だよ?」


 憎たらしいのに何故か安心してしまう火狐に、耳元で囁かれて瞼を開くと…


「これからも、ずっと。火狐のお兄ちゃんは俺だけだよな?」

「そうだけどっ…お兄ちゃん、近いって…!」

「〜〜ッ!?」


 片や、濡れ羽烏のような漆黒のストレートのロングにルビーのような赤いつり目のミニスカ浴衣美少女。

 片や、群青色のエアリーマッシュに黒曜石のような切れ長のアーモンドアイの甚平美青年。


 青年が迫り、後退りのできない壁際へと詰め寄られた少女は文句を言おうとするが、青年の細長い指が少女の顎を軽く持ち上げ、唇同士が触れ合いそうな距離へと近づいていきーー


「ウチは尊死してきますッ…!!」

「えっ、ベリィ?!ちょっと、お兄ちゃん離れて!」

「なに?人前だからって緊張してるの?」

「え、まさか人目の無い所では既に?!ご馳走様ですぅ〜!!」

「何もしてないッ!それと、私のお兄ちゃんはずっとトウドお兄ちゃんだけだから離れて!」

「我儘なところも可愛い…」


 Sっ気満載なお色気ムンムンの兄と普段は余裕のある態度なのにお兄ちゃんに対しては強気に出られないツンデレ妹とか、私得過ぎないかっ?!!


「あっ…興奮し過ぎて、鼻血がぁ…」

「もうっ!離れないならアラレと結「今は待ってやるな」…妹として、私は恥ずかしいよ…」


 もう今日だけで、尊い成分の過剰摂取で気絶しそうなんだけど…!!


「ぐへへぇ…!」

「コイツは本当に、火狐の大切なお友達なのか…?」

「うん。少し変わってるけど、大切な存在だよ」

「お兄ちゃんとしては、友人はもっと選んだ方が「おやおやぁ〜?」…チッ」


 観葉植物になって新たな掛け算を堪能していたのに、空気を読まずに物理的に燃えていた真っ白な美少女が横槍を入れてくる。

 真っ白なダボダボのパーカーワンピに白いニーソと白いスニーカーに、真っ白でストレートのスーパーロングの髪の周りに浮かぶお星様のエフェクトに真っ白な大きな瞳の幼さの残る顔立ちで、トワちゃんよりも小柄な体躯…


「敵じゃなかったら、アリ寄りのアリなんだけどなぁ…!!」

「もしかしてぇ、ベリィはぼくに見惚れちゃった〜?」

「グギギギ…!!」


 さっきまでの劣悪コピーの本当の姿がこの美幼女なら、素直に尊みを感じているって認めたくないぃいい!!


「っていうか、名前っ!ウチを知ってんの?!」

「う〜ん?所詮はコピーの記憶(ログ)を遡っただけだから、ぼくはよく知らないかなぁ。でも、こっちの現実(リアル)と差分の無いアバターに禁断の扉の開き具合は〜?」

「この巫山戯た態度と独特な呼び方は、ユリだな」

「さっきぼくは名乗ってるのに、誰も聞いてなかったなんて酷いよ〜!でもやっぱりっ、超絶暴君な御子息サマだぁ〜!」

「用件があるなら、早々に済ませて去れ」

「はいはぁ〜い!」


 苛立った様子の美青年にも全く怯まない美幼女の姿がブレて。


「「ガハッ?!」」

「ツキネっ!!」

「それじゃあお言葉に甘えてぇ、お姫サマはもらってくねぇ〜!」


 今までの比では無い鈍痛が後頭部に走った。


「ありゃぁ〜?な〜んか、混じってる〜?」


 視界が段々と…暗転、して……


「おっと〜!前は見なきゃダメだよ〜?」




 *****



 助っ人に連れて来たと紹介されるだけはあり、アラレさんの操る魔法は水属性の上位魔法や、風属性との複合魔法の氷まで数秒でつくり、降り続く火球を着実に相殺していた。

 だが、古龍様の猛攻は防げているというだけであり、仮に観察へ徹しているヴィオくんが参加した場合は…恐らく絶望的だろうと思う。


「防ぐだけでは我にも敵わぬぞ」

「そんな事ぐらい、ボクだってわかってるしッ!!」


 また、いくら上位の複合魔法を使えても、生まれながらに魔法を扱える古龍様相手に魔法で戦いを挑むのは無謀であり、戦況はハッキリと言ってしまえば、劣勢だった。

 ところが。


「シスイ、もういい…!【強制送還】」


 苛立ちを露わにしたヴィオくんが古龍様を【強制送還】する。


「どうして…ただの弱者共には手加減をしてるの?選ばれた僕が今の主人で絶対的な存在なのにッ…!」

「ヴィオくん…?」

「僕は必要とされている。あんな愚図で役立たずの忌子よりも優れているから…!!」


 だがどうも、ヴィオくんのコピーの様子がおかしい。

 結んでいた髪を乱雑に解き頭を抱えて、何か小さな声でブツブツと呟いている。


「誰か、僕をみて…!」


 苦しそうに吐き出した言葉は、本物のヴィオくんかと見紛うレベルで感情が乗っている願いのようで、思わず近づこうとするが…これは、強制負けイベントから逃げ出せるチャンスなのかもしれない。

 アラレさんの方を見ると同じように考えたのか、静かに頷いて返してくる。


「お前らが先に行け。ボクが殿(しんがり)になる」

「でも、ヴィオさんが」

「惑わされるな。さぁ、早く」


 そう言ったアラレさんが一振りの剣を構えた様子を見てから、僕はダークくんの手を引いて考え無しに走り出す。


「ソフランさんっ!まだ二人が…!」

「僕達の実力じゃアラレさんからしたらいるだけでお荷物だし、あのヴィオくんはコピーなんだよ?」

「…そうですよね」


 気まずい沈黙の中でも僕達は走り、マップ上にあるベリィと火狐の緑の点がある場所まで急ぐ。

 他にも二つ、青い点が表示されているけれど、位置関係的に見るのなら一つはアラレさんでもう一つは徒党を組んだ二人目のプレイヤーだろう。

 そして僕達が何やら話し声の聞こえる、ベリィ達の居る裏路地の角を曲がった瞬間だった。


「それじゃあお言葉に甘えてぇ、お姫サマはもらってくねぇ〜!」


 小さな人影が自分よりも大きな何かを持って、すれ違う。


「おっとぉ〜?前は見なきゃダメだよ〜?」


 ぶつかる直前に白飛びしたように真っ白な人影は注意をすると去って行った。

 その腕の中に、虚ろな目をしたベリィを抱えて。




 *****



 圧倒的な聖なる力を操る、唯一無二の絶対神。

 一般的には創造神様と呼ばれる存在を聖なるモノとして崇め、聖属性や高位以上の光属性の魔力適性持ちの赤子を見つければ最後、信者として育つように刷り込み盲目的な信者を生み出すような、人族至上主義の教派が統一帝国には多く広まっている。

 そんな教派の教えを盲信的に信じては、領地によっては困窮した生活を過ごす領民の血税を湯水のようにお布施として渡し、傀儡と化した第一王子の後ろ盾の役目を頼む、一部の例外を除けば腐敗している有り様は明らかな愚王と、その下に群がり甘い蜜を啜る名ばかりの王家やソレ等に連なる愚か者達が、国の命運という舵を握るような現代の統一帝国では、王家の派閥を重点的に取り込んで力を蓄えている強大な教派ーー天上教の教皇こそが、今代でも陰の支配者である事は有名だ。


 然し、有名とは言えども口に出す事すらタブーだと言う現実も、暗黙の了解として貴賤問わずに広まっているのが統一帝国の常識だろう。



 〜〜〜〜〜



『あれは魔法から生み出された本体の体験した負の感情に汚染されたマナの塊。本体とは似て異なるモノだ』


 そう、教祖様は仰られていた。

 やはり真の秘宝の鍵を握るのは、古より王族程度に支配されている異形の亜人であるようだ。


「カルミア?私の祈りを覗き見ては駄目だと、毎回言っているでしょう?」


 そう言った腰よりも下まで届く銀髪碧眼の青年が、杖の石突で自身の影を突いた。

 すると影から弾き出されるようにして、白髪金眼のふわふわとした少年がコロコロと転がり出てくる。


「あぅぅ…ごめんなさい、ニゲラ様」

「何か貴方にも、理由があって行ったのでしょう?」


 優しげな微笑みで尋ねる青年に、少年はもごもごと口篭った後に意を結したようにして口を開く。


「ボクでも、ニゲラ様の影に潜れば…ニゲラ様の前に立ち塞がる暗雲を、どうにか出来るかもって思って…」

「立ち塞がる暗雲ですか…そういった捉え方もありますね」

「あのっ!なにかボクでもお力になれる事がないでしょうか…?」

「貴方にできて私にできない事なら……そうだ!貴方の友人の元で情報を得て報告、だなんてどうでしょう?」


 瞼を閉じ思案する仕草をみせた青年は、名案だとばかりに言ってニコニコと微笑む。


「うぇええっ?!でも、今は同郷の者達がいるからだめだって…」

「そこから先はカルミア、貴方自身が考える事ですよ?」

「はい、ニゲラ様ーー教皇様の仰せのままに」


 少年が【転移】した事を確認した青年は、再び瞼を閉じた。


「カルミアの同郷の者達…異国より訪れし、無知なる悪意」


 ステンドグラスの窓から差し込む光を浴びる白髪の青年は、祈りを捧げた姿勢のまま小さな声で呟く。


創造神(ウンエイ)様の御威光が、邪に連なる者達を浄化するその日まで」



 *****



「たっだいまぁ〜!あっつい〜、アイス食べたぁ〜い!」

「ちょっとユリ!アンタが遊び呆けている間の報告書が溜まってて邪魔なのよ!」

「えぇ〜!?ぼく頑張ってきたからアイス食べる〜」

「書類整理が終わらない限り、アイスは没収に決まってるでしょッ!」

「そんなぁッ〜?!シャクヤクってば酷いっ〜!ねぇ、ボタン〜?」

「作業効率が下がるので、静かにユリは作業へと戻ってください」

「アイスは…?」

「食べられるとお思いですか?」

「ふぇ〜んっ!!」


来年度も執筆活動に励みます。

面白かった、続きが気になるなど思って頂ければ僥倖です。


良ければまた読みに来てください!

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