第十五話 パワーレベリング
お久し振りです。
まだ読んでくれている読者様はいるのかな?なんて思ってます。
雲ひとつない晴天となった翌朝。
「やぁ、諸君。おはよう」
朗らかな笑顔で挨拶をしたのだが、呆れた様子のマラカイトと拗ねたオーロラ以外が無反応でとても寂しい。
「さて、本日の一限目だが「やっぱストップ!」おぉ、なにかな!」
やっと釣れた一人目の声に、つい食い気味に聞き返してしまった。
そしてツッコミを入れてくれたのは、やはりアトラクトだった。
「今日の一限目の先生はヴィオくん、だったよね?」
「あぁ、合っているよ」
「それじゃあなんで、トワちゃんがヴィオくんを背負ってるの?」
「良くぞ聞いてくれたね!私もついさっき聞いたんだが、最近は徹夜で新たな課題のできた研究に勤しんでいたらしく、明朝からどれだけ起こそうとしても全く起きる気配が無いんだよ。それで、当初私は授業では補助役として参加する予定だったんだが、やむを得なく起きるまでは背負って昨日から今日へ延期した使役の実技授業などのヴィオが担当する授業の臨時講師を務めることになった。と言う訳で、今日はよろしく頼むよ」
「そういう事なら、まぁ…」
「キミ達も、納得したね?」
「「「はーい」」」
「「「適応能力が高い…!」」」
私としてはもっと、オーバーリアクションでも良いと思うんだけどね。
*****
と言う訳で、先ず最初に行うのは、魔法陣の描かれたスクロールによる召喚。
そして召喚に応じた、自分と魔力の波長などの相性が良い対象との契約の儀だ。
配信者であるならば滅多に無い撮れ高だろうと思い、配信の用意を進めている六人にも知らせたのだが…
「本当に、ぴこちゃん達は使役はしないのかい?」
「うん。獣人の私達は魔力量がそこまで多くないし、パーティーのモフモフ要員は自分達で足りてるし!」
「折角トワさん達が貴重なスクロールをくださったけれど、お返しさせて頂きますね」
そう言われ、スクロールを返される。
「私は使い魔ちゃん、欲しかったなぁ…」
「なっつん!」
「それは言わない約束でしょう?」
「…わかったぁ」
如何やら反応を見るに、結論は出たもののなっつんちゃん個人では揺らいでいるようだ。
個人的な意見を言うならば、召喚のスクロールは割と余っているので持って行って貰っても構わないのだが、簡単に一般的には貴重品であるスクロールを気軽に譲る事は良くないし、我が家に言えばなんでも貰えると思い込んだ勘違い共が来るかもしれない。
「三人で話し合い決めた結論ならば、普通であれば私も口出ししないんだが…如何やら、今回の異国人への宣伝の報酬を変えなくてはいけないかな?」
「「「あっ!」」」
実は獣人っ子達とは我が家で配信を許可する前段階で宣伝広告の報酬交渉をしており、その際に前払いで普段の冒険者家業の日給を滞在期間の日数分から生活費を引いた額は渡しているが、後払いの報酬の支払いがまだ残っている。
後払いの内容は、彼女達が望む非売品を三人で一つとして扱い譲り渡すか、それよりも入手難易度が低いが貴重品と思われる物品を三つ、人数分だけ譲り渡すこと。
そういった内容で、何かが起きても後腐れが残らないように、書面上でも契約は交わしていた。
「申し訳ないが、正式な書類を作成した取引で契約違反を犯したとなれば我が家の信頼問題に関わってしまうからね。何か三人ともが望むモノはあるかな?」
「えぇっ!?でも、私達の欲しいものは特に無いし…」
「希望が無い場合は、金銭による解決方になってしまうけれど」
「いえ、これ以上トワさん方にご迷惑をおかけする訳にはいきません」
「わがまま言ってごめんなさいっ!私もう、使い魔ちゃんは大丈夫だよっ!」
「…ふむ。では、私達に必要以上の負担が掛からない範疇で、貴重な部類になるモノならば問題は無いと言うことだね?」
不安そうにではあるが、私の言葉に三人とも頷いたので、揉め事が起きて周囲に危険が及ばない様に、教室から客間へ私と獣人っ子達三人を加えた四名だけで【転移】する。
何も告げずに背負ったヴィオすら置いて【転移】した為、私を探してマラカイトとオーロラが動き出す気配を察するが、精霊族の私達と本来の獣人の血を引く真の意味での獣人族の末裔である彼とは、通常ならば魔力の波長が合わないから、仕方が無いことだろう。
「自領にいるようだし、内政に励んでいるのかな?」
「トワさん…?」
魔力の繋がりを【魔眼】で辿って、エントランスを通り抜け、書斎も通り過ぎ、執務室まで覗く。
「…見つけた。あぁ、こっちの話だから気にしなくていい」
記憶通りの日程で動いているならば、今は雑務か息抜きの時間の筈で、正確な座標は……王都と我が家の領土の中間辺りから北へ向かった先だ。
「【強制転移】、バーナード」
*****
なんの前触れもなく目の前の景色が変わったと思ったら、状況把握を終えるより先に、喋っていたトワさんの紡いだ言葉に反応するようにして金色の魔法陣が彼女の斜め後ろに展開され、金色の光に部屋が包まれると視界を奪われる。
あまりの眩しさに瞼を強く閉じていると、突如として重く伸し掛かる様な威圧感に身体が勝手に震え出した。
状況把握の為に、恐る恐る目を開くと…
「バーナード・ジルヴァーン、トワ様の御指名により拝謁させて頂きました」
絶対的強者足る威圧感を放ちながら喋る、ライオンが居た。
それは比喩でもなんでもなく、四足歩行の金色に輝く体毛と艶のある焦げ茶の鬣が揺れる雄獅子が、トワさんに向かって頭を垂れて喋ったのだ。
「…幻覚かな?」
「誰が発言を許可した」
「ミ゜ッ!!?」
その場に存在するだけでも自然と平伏したくなる王者の地を這う様な声に生物としての本能が恐怖し、変な悲鳴を漏らしていた。
「もっ申し訳ありませんっ!」
「ごめんなさいっ!食べないでくださいっ!!」
「貴様らなんぞを喰らうほど飢えていないし、私は美食家だ」
「あ、ハイ…」
だが人間は不思議なことに、自分以外に怯えている存在がいると一周回って冷静になるようだ。
「バーナード。その三人は私の客人だよ」
「出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません」
「それと。今は【威圧】で精神の鍛錬はしないでくれるかい?」
「承知致しました」
重たい身体が少しは動く様になったので、チラリと自分のステータスを見る。
現在も状態異常の欄に【恐怖:微弱】と表記されている事から、精神干渉系統の魔法で攻撃を受けていたのだろうと、ぴこは一人解釈して納得した。
「立ち話では疲れてしまうし、座るといい。バーナードも人型でいてくれるね?」
「はい。それでは、失礼致します」
刹那、雄獅子が光ったと思うと、そこには金の長髪に焦げ茶のアーモンドアイで、ケモ耳とライオンの尾を生やした、如何にもゲームに出てくる貴族といった身なりの、ダンディなイケオジがいた。
「もちろん全員が座っても、問題はないよね?」
「はっ。トワ様の仰せのままに」
座るように促され、イケオジがトワさんに許可を取ってその隣に座るまで着席しなかった私達の選択は合っていたのだろう。
雄獅子は此方へ視線を寄越したがその様子を見て、私達のような弱者の姿など居ないも同じだと思い知った。
「さて。さっきの話の続きなのだけれど、残念なことに私が提示できる選択肢では、貴重な物品だと均等に分けられ無いし、私個人で動かせる金額にも上限がある。だが、貴重な情報ならば全員に均等に分け与えられるから、問題は無いと思うんだ」
「…なるほど。この者達へのチカラの伝授の為に、真の末裔である私めをお呼びして下さったのですね」
「あぁ。仮とは言えど、バーナードも私に忠誠を誓った身だからね。一応は私のチカラの一部だと見做されるだろうと、思い付いたんだ」
雄獅子だったイケオジは恍惚といった表情でトワさんに陶酔しているように見える。
ケモミミと尻尾の生えたイケオジを従えて指先に口づけをされる美少女とか、トワさんが成人していなければかなりヤバい絵面だが、だからこそ画面映えしそうな場面でカメラを回せない事が本当に悔やまれる。
「トワ様がお望みとあらば、私めに何なりとお申し付けください」
「それじゃあ、チカラの解放のやり方は会得させてあげて欲しいんだけど、もし出来そうならば進化までお願いしたいんだ」
「承知致しました」
「それじゃあ三人は、何か獣人に関してわからない事があったら彼に聞くといい。バーナードも、構わないだろうか?」
「勿論に御座います」
「では、私はそろそろ教室へ戻るよ」
「えっ?あっ、ちょっ…」
無情にも、トワさんは此処へ移動した時と同じ様に転移魔法を使って姿を消す。
残されたのは、此方へ視線を向ける圧力が凄いイケオジと、放心状態の私達三人だけ。
「あのぉ、私達は帰ってもいいですか…?」
「それは許さぬ。トワ様がお戻りになられる前に、お前達が新たなるチカラに目覚めた上で、全員が進化を成し遂げろ」
初っ端から無茶振りするじゃ〜ん。
と言うか、チカラの解放とか進化って、もしかしなくても初出し情報では…?
「さっきの内容は私達もまだ聞いたことない情報なんですけど、あなた様?はプレイヤーですか?」
「ぷれいやぁ…?」
胡散げな視線が物語っている。
これは間違ってた感じで、イケオジも生粋のNPCだ。
「それよりも、だ。獣人族の進化は一片の情報ですら秘蔵されている代物だが、お前達程度に教えたとて完全に成し遂げられるとは思っていない。が、トワ様からのお申し付けだ。今回は異例として教えてくれよう」
そうしてぴこは、つい先程まで遠慮していた自分を恨むが、後悔先に立たずとはよく言ったものだと思いながら、唇を噛んだ。
*****
先程と同じように【転移】しようとして思い留まり【念話】で化粧なおしをして欲しいとオーロラに頼むと、開口一番に獣臭いと文句を言われて消臭剤を散々吹きかけられ、ポプリまで渡されてしまった。
種族的な嫌悪感があったとして、獣人っ子三人には特に誰も何もしなかったという事は、あの三人も本来は獣人ではなく。
「模倣された人造生命体…」
つまり、ダークもベリィもソフランも、同じように不完全な永久機関を器の内部に秘めていて、そのうちに訪れる別れはそう遠くない…
「いや…感傷に浸る暇など、本来ならないのだろうな」
昔日に見た偽神は、人族に紛れる事すら叶わない不出来な傀儡を操り魔力の弱い部族を盲信させ、この帝国を創り上げるまでに至った。
だが、それと同時に消息不明とされた傀儡の行末を私は見た記憶がある。
その頃は不完全であった深淵の底ーー奈落まで、全ての傀儡が迷うこと無く身を投げていったのだ。
しかし、あの傀儡達は意思なき操り人形のように動いていたが、最近出会う異国人を名乗る相手には意思が存在し、何よりも器ひとつひとつに操り手がいる。
そうだとしても、偽神の手先の者の末路が同じように定められているとするならば、奈落には自然と消える事の無い生き物に似せて造られた器の山ができ、その中には…
「随分と寝覚めが悪くなりそうだ」
ユウガオが生きていた、文明なき古の黄金時代と呼ばれる当時の記録すら失われた現代では、私の生まれた家系を含めても真実を知るのは僅か四つの部族の中の極少数になり、その中の二つは魔族とされ、獣人族は爵位を返上している為、人族の王族や帝国に呪怨により縛り付けられているのは、私達精霊族の末裔のみとなった。
ふと、首元に違和感を感じて触れる。
ひやりと濡れたような感触のあと、千切れたように変形した金具の破片が手の中に転がり落ちてくる。
「もう壊れたか…【巻き戻し】」
手の中に崩れ落ちていた封魔の首輪だったものが、映像を逆再生をするようにして私の首元へ戻っていく。
窓ガラスに反射して映った自分の首筋から鎖骨にかけて垂れていた血を拭い、いつものように緩めの白いファション用の【隠蔽】が付与されたチョーカーを上から被せて着けた。
「こんなモノが、キミの求めたモノだったのか…?」
チョーカーの上から首に微かに残った呪怨の痕に触れても、今は亡き友の声が聞こえる訳は無い。
それでも、守りたいモノを守る為の強さを求め、大陸の各地を旅した日々は忘れられる筈もなく、最近のダーク達を見るとより一層、思い出す機会が増えてしまう。
あの子達が望むままの強さを与えている事が、真の意味で正しい選択なのか…未だに私は迷っている。
「幸福な未来を迎えても、その続きを守る事が出来なくても…」
どうしようと私は迷い、間違えたのだときっと悔やむ。
「後悔なき道など無いならば、今から私にできる最善を尽くすだけだ」
例え其処に、私がいなくても。
〜〜〜〜〜
「おっ、トワちゃんお帰り〜」
静かに扉を開けて入室すると、一人で生徒席に座るアトラクトに声を掛けられ手招きをされる。
「急に席を外してしまってすまないね。それで、アトラクト達は使い魔の候補は見つけられたかな?」
「アタシ以外はみんな決まったから、マラカイトくん先生に相性を見てもらってる途中なんだけど…」
「なにか問題でもあったのかい?」
「ダークくんとベリィちゃんとソフランくんの三人が誘拐犯になってるらしくて、身柄の拘束をされかけてる?」
「はぁ?!少し席を外しただけでそんな事態を起こせるとは…最早、才能と言っていいな…」
「でも、トワちゃんが会って話せば、兵士さんもわかってくれるんじゃないかなぁ?」
そう言うアトラクトの視線の先には、おそらく生まれて間もない精霊獣が二匹と竜種の幼体が一匹居たのだが…
「これは協定違反になるぞ!さっさと責任者を出せ!」
「ですから、今回の件は故意に起こした訳ではなく…」
「言い逃れとは、ますます重罪になる!現に此方では犯行から既に一刻近くは経過しているのだぞ!」
更に増えていた見覚えのない二足歩行の黒猫に対し、迷惑そうにマラカイトが対応していた。
「私の屋敷で騒ぎを起こさないでくれるかい?」
「増援かッ!もう許さぬ!喰ら「【魔法障壁】!」えッ…にゃ!?放せぇッ!!」
黒猫は何か爆破系統の魔法を繰り出そうとしていたが、それを察したマラカイトの張った小さな円球状の魔法障壁が黒猫の両前足を纏めて拘束し、手枷の様になって動きを封じ込めた。
「ありがとう、マラカイト」
「いいえ。それよりも姉上に怪我は…無いようですね…!」
「お陰様でこの通り、擦り傷一つ無いよ」
「お前達、聞いているのか!」
全く、この黒猫は随分とお喋りだな。
「騒ぐなと、猫の妖精兵のキミに言ったんだが。もっと簡単に説明しなければならないのかな?」
「にゃにゃっ!?このマナの匂いは…!」
軽めに【威圧】を発動させて黒猫の妖精に話しかけるが、寧ろその言動と操るマナで身分がバレてしまったのか、モゾモゾと動いて私の纏うマナの匂いを嗅ぎ出す黒猫の妖精。
まぁ、意味がわからなそうにボッーと立っているダーク達三人からすれば、ニャーニャー鳴いていた黒猫がいきなり私の手の甲をくんかくんかしている様にしか見えないだろうが。
「間違いない!閃光の妖精姫様ではありませんか!一体、なぜ此処に?」
「まぁ、キミ達からもそうとも呼ばれているけど、今の私の名はトワだ。それに此処は私の屋敷なのだから、キミに許可を得る必要性はないだろう」
「にゃんと!もしやこの犯人達は、妖精姫様のお知り合いでしたか?!」
「私の愛おしい義弟と友人達を犯人扱いするのかい?」
「でっ、ですが…こればっかりは妖精姫様相手でも…」
そう言って黒猫は集中して何処かと【念話】をし始める始末で、話していても埒が明かない。
なので、精霊獣二匹の記憶を軽く覗いて巣穴の座標を探り、二号と一号へ各々その場所で待機するように【念話】で伝える。
「マラカイトくんとトワちゃんがにゃんにゃん言ってるぅ…!」
「黒猫と話しているんでしょうか?」
「二足歩行の猫だとしても、流石に意思疎通が出来る訳ないでしょ…って、言い切れないかぁ…」
それに。
「大体、姉上が現れただけでいきなり室内で爆破系統の魔法を行使しようとするだなんて、危険思想なのは其方側では無いのかと思いますが。居るかどうかすら此方は認識していなかったのに…非常識ですよね?」
「それは、子どもが人質にされたのだと思ってだな…」
「僕達には当初は見えてすらいなかったと言いましたよね?」
会話の流れを聞くからに、どうやらマラカイトですら精霊獣の二匹も竜種の幼体も、ハッキリとは見えていないようだ。
「ねぇね、ねーちゃ…?」
「ん?」
これからどうやって精霊獣達を元の住処へ穏便に返せるか考えていると、腰の辺りを突かれる。
瞼を開けると、つるりと真っ直ぐ伸びた乳白色の短いツノが視界に映り、翡翠色の鱗が腕や脚の一部を覆っていて水掻きと鋭利な爪と竜人族のような尻尾の生えた人型の子どもが、興味津々といった様子で瞳を輝かせながらふわふわと浮いていた。
「鱗には生え変わりも未だ殆どないのに、翼を必要としない上位の風魔法を用いた重力操作の浮力で浮いているのか…キミは凄いね」
「すごぃ…?」
おそらく先程の竜種の幼体は風属性に特化した竜種であり、周囲の人型である私達を真似て【変身】しようとし、一部の見た目が元の姿に影響されて特徴が表れたのだろう。
「ねーちゃ、ぼくたち、みえる…?」
「あぁ、しっかりと見えているよ」
そう言ってから風竜の幼体と精霊獣の幼な子二匹の頭を順に撫でる。
泣きかけていたタヌキのような精霊獣は落ち着き、イヌのような精霊獣はブンブンと尻尾を振って喜ぶ。
「ねーちゃ、は…よぉせぇ?」
「残念だけど、私は妖精族ではないんだ」
「じゃぁ…どらごぉ?」
「竜種でもないよ。精霊族と人族の混血で、少し他と変わっているだけさ」
「どぉして、ねーちゃは、みえてぅ…?」
「さぁ、何故だろうね?でも、案外見えるという情報はアテにならないものだよ」
一般的な見えるというのは「物体が光を反射してそれを目が捉え、それを脳が画像処理して認識」することだ。
確かに存在していて認識しているのに見えないものも意外と身近にあるし、例えるならばそれは音だろうか?
音は大きく響けば強烈な音波となって周囲の空気を揺らし肌で感じ取ることも出来るし、専門的な魔道具を用いれば見えない音の大きさですら数値にして弾き出す事も可能だ。
簡潔に言ってしまえば、見えていない世界の方が我々には圧倒的に多いというだけだ。
「じょぉほぉ…?」
「視覚から得て見えている情報が全てでは無いという事さ。ねぇ、ソフラン?」
「…へっ?!な、なんで…!?」
「この竜種の幼体が【変身】してからずっと、祝福や探知系統の魔法にスキルすら行使した様子もなくこの子を見ているのだから、そりゃあ分かるとも。まぁつまり、キミ達は魔力の波長や相性が良いと言う証拠なんじゃないのかな?」
最も、こういった知識を詳しく学ぶ機会がそうなかったソフラン達や、生まれたての幼な子達には、まだ少し早い話ではあるが。
「さて、黒猫の姿のキミ。この子達はそろそろおやすみの時間の様だから、私から親御さんのもとへ返してもいいかな?」
「えっと…失礼ながら、どのようにして迷いの森を渡るつもりでしょうか?」
「使い魔の二号と一号が今し方、其方の世界の精霊獣の親御さんの元へ着いたみたいだからね。チョチョイっと【転移】しようかな、と。では、伝えたから行ってくるよ」
タヌキとイヌの精霊獣の幼な子達を両脇に抱え、先に二号の元へ続く私専用の【転移門】を展開する。
「にょわっ?!お待ち下さい!」
が、黒猫の妖精兵は私の行先を塞いだ。
「なんだい?私達はそう暇ではないのだけれど」
「案内役だけでもさせて頂けなければ、私達が国王様に罰せられてしまいます!」
「…思い遣りからではなく、保身に走っての言葉だったか。聞いて損したよ」
「違うのです!最近の国王様は神経質になっており、我々兵士共も頻繁に罰せられているのです!その上、事件解決の為に妖精姫様の御手を煩わせたと知られれば…!」
「知られたら一体、なんだと言うんですか」
痺れを切らしたマラカイトが、自分を抱きしめながら震える黒猫の妖精に聞く。
「近衛以外の猫妖精の兵士全員に、爪研ぎ板の使用が禁止されてしまいますッ!!」
代替わり後に妖精族の国へは行っていなかったから、今代とは当人の出生祝いでしか関わった事しかないが…
「ただの猫じゃ「愚王の顔を拝んであげよう」姉上っ!?」
マラカイトが驚愕したように呼ぶが、猫の妖精兵部隊から爪研ぎ板を奪うという事は、身なりを碌に整えられずに表で活動をしていろと言う様な意味であり、妖精族全体の中でも猫の妖精兵部隊の評判も落ち、兵士への志願者も減少するに決まっている。
どれだけ優れた容姿を持ち合わせ素晴らしい戦闘力と統率力のある部隊でも、全員が小汚い身なりをしていては殆どの者は憧れないし、主君や近衛達と分かり易く比べられれば、全体の士気も下がってしまう。
「大体、精霊獣の幼な子が二匹も同時に消えたと言うなら、もっと人員を割くべきなんだ。なのにキミのような分隊長クラスが単体で活動するのは非効率的な愚策だよ」
「それは…部下の者達が次々と兵役終了後には辞めていってしまいまして、余りにも人員不足でして…」
「この子達を送り届けた後、主君の暴走をどうにかして欲しいんだったら、私が見失わないように案内するんだよ?」
「…はいっ!ありがとうございます!」
*****
「三人とも全員に有益な話があるんだが、聞いてくれるよね?」
断られるとは微塵も思っていないような自信に満ち溢れた言葉に乗せられて、僕達『ブロッサム』の面々はトワさんに連行され、屋敷にあった転送陣に乗って飛んだ先の、窓の外に知らない街並みが見える部屋にいる。
「そふらぁ、どぉしたのぉ…?」
「なんでもないよ〜?」
なんでなのか、僕だけは風竜が【変身】したという五歳ぐらいの子どもを抱っこして。
トワさんがお昼過ぎまで何処かに行っていた間、現状をマラカイトさんから聞かされた。
召喚の失敗で現れたと思っていた黒猫の正体が妖精族の兵士であり、ダークくんとベリィはやっぱり召喚の儀で誤った手順を踏んでいた結果、妖精族が崇めている精霊獣の赤ちゃんを強制的に呼び出していたらしく、トワさんがいない時の相手次第では、妖精族の結界が張られた迷いの森に放り出されていた危険性もあったんだとか。
その上、一度だけ帰って来た血濡れのトワさんを追ってマラカイトさんが、寝ているヴィオくんを置いたまま残した言葉はとんでもなく物騒だった。
「風竜は竜種の中でも、天候操作や重力操作を得意とする特殊な戦いを好む自由気ままな風そのもののような性格が多い竜種です。そして風竜の幼体は機嫌がいい時は突風を起こす程度で割と無害ですが、不機嫌になると手の付けようがありませんので、なんとか持ち堪えていて下さいね」
そう言ったマラカイトくんの目は、本気と書いてマジだった。
お目付け役で残っているオーロラちゃん曰く、幼い頃に上位の竜種に闘いを挑んでボコボコにされた事があったとか。
「風竜ちゃん、写真撮ってもいいかなぁ?」
「かめぇりゃっ!?」
「ベリィ…他人事だからってお気楽過ぎない?」
「だってぇ〜、可愛すぎるんだもん〜!!」
「そふらぁは、だいじょぉぶ?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれるなんて、いい子だね」
「ソフランさんもすっかりお兄ちゃんですね」
「ダークくんまで、呑気だなぁ〜!」
そう言いつつも、可愛らしい風竜の子ども膝の上に乗せて和んでいると、無言のままオーロラちゃんが何かを感じ取った様に動き扉を開く。
「二号様、一号様。お疲れ様です」
「オーロラさん、ありがとうですにゃぁ…」
「トワはあたち達を酷使してるにょよぉ…」
普通のにゃんこのように四足歩行で歩くアトラクトちゃんかトワさんのどちらかの使い魔の二号ちゃんと一号ちゃんが部屋に入って来た。
滅茶苦茶に可愛い。
「にゃんでこんにゃに動いても成長期が来にゃいのかちら…?」
「私は一号ちゃんくらい小柄な頃のまま生まれたかったけどにゃあ…」
そして暖炉の近くの絨毯の上に陣取り、ぐるんと寝転がり丸くなった。
「二号様も一号様も、とても魅力的なお姿ですよ」
そしてそのまま、誰も何も発せずに見ていると、数分と経たずにスピスピと寝息が聞こえてくる。
破茶滅茶に可愛いけど、両手とも塞がっていてモフれないっ…!
「二号ちゃん、モッフモフのフワフワだぁ〜!ぐへへぇ…!」
「一号さんは短毛種の猫みたいでサラサラですね…」
「二人とも羨ましい…!」
「…そふらぁ?」
「うぐぬぬぬっ…!」
「そふらぁ…!」
「オーロラちゃん、少しこの子預かってくれる?!」ソフラン様っ!?」
「…ゔぅっ…やぁああッ!」
*****
爺ちゃんとギルドマスターの部屋で話し込んでいると、唐突に嫌な予感のする魔力の膨張を感じ取り、風竜の幼体をソフランに預けて待機させていた部屋へ戻った私が見たのは。
「キミ達は…なにを騒いでいるのかと思えば…!」
「ひどりぃ、や゛ぁだぁぁああッ〜!!」
泣き喚く風竜の幼体と、暴風の中でも不得意な【魔法障壁】を展開して気絶したバカ三人と二匹を守るオーロラの姿だった。
無論、すぐさま風竜の幼体の魔法のみ【解除】を掛けたが、部屋は崩壊一歩手前だった。
「どうやら私は、キミ達を過大評価していたようだね。これからは正当な評価を持てるように気を付けよう」
「「「ごめんなさいっ!!」」」
「謝罪は結構。私の認識が甘かっただけだ」
三人は崩れ落ちるが、私だけでなくマラカイトからも目を離さないように注意されていて室内が半壊していたのだから、今は風竜の幼体をあやす事が最優先事項だ。
「とわ、は…どらごぉ、きらい…?」
「嫌いじゃない、ドラゴンは大好きだよ」
「でもね、そふらぁはぁ…!」
「うん?……あぁ、なるほど」
この子はソフランの魔力に惹かれて、召喚に応じていたのか。
でもそれはつまり、同程度の質である筈のダークとベリィの魔力に惹かれた物好きはいなかったという事だ。
「不平等では良くないし…そろそろ、頃合いかもしれないね」
「とわ…?」
二人を視れば、ダークは闇属性とレアな部類の光属性の適性があり、ベリィは闇属性と火属性の適性があるようだ。
「ダークとベリィだが、それぞれが抱き上げている一号と二号に新たな名前を与えるなら、今回の件は水に流してあげよう。もちろんキミ達に拒否権はないけれどね?」
二人の退路を塞ぐように言葉を紡ぎ、罪悪感を刺激する。
「じゃあ…僕の名前のダークに繋げて、ネス…なんてどうかな?」
「二号ちゃんはラッキーニャンコだから、ドロップちゃん!」
よし。言葉にして二匹の改名をした二人との間に、細いながらも魔力の繋がりが出来たようだね。
「ネスはダークへ、ドロップはベリィの補佐へ回るように。私との契約は本日付けで無効とする」
「「にゃっ?!」」
パリンっと音を立てて私との繋がりが途切れ、契約の儀による制約がダークとベリィの方へと合わせた姿へと。
一号もだが特に二号が姿形を変えていく。
「ニャアア!?見にゃいでくださいッ!!」
二号の体格は先程まではこう…シュッとしていた美猫だったのだが、今はかなりふっくらとした。
「二号の魔力消費がやけに多いと思っていたら…体型を【変身】で変えていたのか…」
「トワ様?!にゃんでこんな体型に戻っちゃったんですかぁあッ!!?」
「なんでと言われても、キミは既にベリィとの繋がりを得たのだから、私から魔力を与える必要はないだろう?」
「ベリィ様…!!」
「えっ?!なんかウチが悪い感じ!?」
「ベリィが現状で保有する魔力だけでは【変身】は叶わないようだし、今後は主人から魔力を許可無く吸い取り【変身】で誤魔化したりなどせずに、自力で体型維持をしてみる事だね」
「ベリィ様、今すぐにでも保有する魔力量を二倍…いえ、十倍に増やしましょう!」
「トワちゃ「まぁ、仲良くしてくれると嬉しいよ」ふぇ〜ん!」
ベリィとドロップはもう大丈夫そうだね。
「あたちの主人がおみゃえねぇ…?」
「駄目でしょうか…!」
「お前ではなく、ネスの新たな主人のダーク様だろう?」
「トワっ!あたち達のなにが不満だったにょよっ?!」
「不満があったのはネス、キミの方だろう?それに、ダークは保有する魔力量は剣士にしては多い方だから、使い魔になれば広い世界を見ながら全力の戦いも十分に楽しめるんじゃないかな?」
「…そうにゃの?」
「えっと、まだまだ未熟な冒険者ですが、いつかはS級冒険者になりたいと思っています!」
「闇と光の複合魔法も使えそうだし、魔法剣士の育成も面白いかもしれにゃいわね」
うん。ネスとダークの相性も良さそうだ。
「最後に、ソフランにはこの子に名を与えられるかい?」
「それって、この子が僕の使い魔になってくれるって事ですか!?」
「但し、この子が再びソフランの魔力を選び、僅かな魔力量の供給でも繋がりを持てるならばだけど」
「もし僕が選ばれなかったら、この子は…」
「それなら心配は無用。どちらにせよ、暴風を発生させられるまで成長した竜種は巣立つものだから。もしソフランが他の使い魔を使役するようなら私が面倒をみるつもりだし、正直に答えて欲しい」
周囲の視線が私とソフラン、そして抱き抱えている竜種の子に向けられる。
「この子に名を与え、契約の儀を行うかい?」
私の腕の中の翡翠色の竜の子へ目線を合わせ、ソフランの瞳と竜種の子の澄み切った湖面のような瞳が合う。
「そふらぁ…」
「僕でも、本当にいいの?」
「そふらぁがいい…!」
「うんっ!よろしくね、ノーツ!」
*****
時は流れ、ダークくんとネス、ベリィとドロップ、僕とノーツが契約の儀を交わしてから一月と少しが経った。
最も、現実世界ではそんなに時間は経っていなくて、第一回大規模イベントの前日の夜になったくらいなんだけど。
「そうか。もう行ってしまう時か…」
「トワさん達には本当にお世話になりました」
「そんな大それた事など私はしていない。それに、期待に応えようと頑張ってくれたのはキミ達の方だろう?」
「ひぐっ…ウチだってトワちゃん達と別れたくないよぉ〜!!」
「泣いてしまうだなんて大袈裟だなぁ…ん、おいで」
「うわあああぁぁんッ〜!!」
腕を広げたトワさんにベリィが抱き着いて泣きじゃくる。
本当は僕も寂しいし泣きたいけれど、余計に心配させてしまう…!!
「マラカイト様?トワお嬢様と抱き締めあっているベリィ様を止めないのですか?」
「僕はヴィオほど嫉妬深くはないですよ」
「別に…僕も今日ぐらいは我慢できるし…」
「では、私は阻止して参りますね!」
「「オーロラッ!」」
マラカイトくんとヴィオくんの静止する声も届かず、なんとなく流れで抱き締められていた僕やダークくんとベリィはオーロラさんの剛腕によってあっさりと引き剥がされる。
「トワお嬢様の抱擁は誰でも受けられるものではないのですよ!」
「まぁ、今生の別れでもないし、続きはまた今度だね?」
「はいっ!七日後には帰って来ますから!」
「「えっ?!」」
あれ?マラカイトくんとヴィオくんが硬直した?
「三人は異国人のみが参加出来る催しに参加して帰ってくると、二人にも伝えたよね?」
「トワお嬢様…泥酔状態のマラカイト様とヴィオに伝えても意味がないと言いましたのに…」
「「は?」」
*****
事態を把握したマラカイトとヴィオに、鬼の形相で追いやられるように出発したダークとベリィとソフラン。
各自の使い魔であるネスとドロップとノーツは私の家でまだ寝ているが、特殊な結界が張られた空間でも契約の儀を交わし、日々鍛錬を忘れずに保有する魔力量を増やしていった三人の目覚ましい伸び代を見れば、召喚も送還も容易く熟す事ができるだろう。
何故かくたびれた様子で数日前に出発した獣人っ子達も無事に全員が進化を終えていたようだし、下準備は完全とは言えないが、ある程度の基盤は出来ている。
「それじゃあ、私も出掛けてくる」
「姉上も何処かへ行かれるのですか?」
「…あぁ。少し野暮用があってね」
「そうだったのですか?!それではお召し物をご用意しますね」
「大丈夫。もう着替えは用意してあるから、本邸の方にこのまま行くよ」
そう言って歩き出そうとするが、ヴィオに行く手を阻まれる。
「トワ、お願い」
「何か欲しいお土産でもあるのかな?」
「そんなもの無い。だから、行かないで」
「すまないが、急ぎの用事なんだ。甘えるのは帰って来てからにしてくれるかい?」
「…わかった」
悲しみに顔を歪ませて、ヴィオは進路から退く。
「絶対に、無事に帰って来て」
「…あぁ。絶対に帰ってくるよ」
*****
「「疲れたぁ〜!」」
「お二人とも、早く宿屋を確保しないとですよ!」
辺境伯領から二日掛けてやっと、僕達は第一回大規模イベントの開催される帝国の王都エレメントへやって来た。
「ほわぁぁ〜!あっちにも、こっちにも、可愛い子ちゃんがいる!!」
「種族も人族以外にも結構いるんだね〜」
「ちょっと、ベリィさんもソフランさんも!」
着いて早々はしゃぎ出す二人の手を引き街道の端に引っ張る。
「アトラクトさんから言われていた事をもう忘れてたんですか?」
「いやぁ、なんかトワちゃん達で美形に慣れてたつもりだったんだけど、いざ目の前にするとねぇ…」
「整い過ぎた美形や人族以外で堂々とした平民や冒険者は、大抵の場合がプレイヤーだよね」
「その通りです。それに、万が一僕達を知っている方に出会っても、過度なファンサはしてはいけない事も覚えておいてくださいね?」
「「はぁ〜い」」
二人とも本当に真剣に聞いているのか不安になっていると、広場の一角がやけに騒がしくなる。
周囲のプレイヤーの声を聞いてみると、どうやら『モフ天』の皆さんが配信を始めたようだ。
「久し振りに見に行きた「駄目です」
「ちょっとだけ挨拶するのは「駄目です」
渋々と頷いたベリィさんとソフランさんを引き摺って、イベントの受付まで向かう。
周囲のプレイヤーは同じくらいの体格の二人を運ぶ僕の腕力に驚いているが、受付までの人混みがモーセが海を割ったように広がっていくので、受付での登録を簡単に済ませる事ができた。
如何やらパーティーで徒党を組んで参加するプレイヤーの為に、フレンドリーファイヤを防ぐ腕輪を配っていたので、三人分しっかりと受け取って互いの魔力を通しておく。
「開始までまだ少し時間があるみたいですね」
「開始時刻まで観光でもしようか?」
「舞台は此処みたいだし、ウチもソフランに賛成〜!」
「それじゃあ早速…」
そう言い掛け、インベントリから大剣を取り出して二人を庇うように前へ立つ。
「…へぇ?中々の瞬発力だ」
殺気を放っていた相手は狐獣人の女性だったようだが、和風の黒い狐の面で顔を隠したまま喋っており、黒に赤い縦縞模様のスカートタイプの浴衣に下駄を履いているだけとは思えない俊敏な動きで間合いを取った。
先程まで喧騒に溢れていた受付近くが、僕達と狐獣人の女性を中心に静まり返っていく。
「さっきからウチ達を狙ってたのも知ってるから」
「なんだ、気付いていたなら教えてくれればいいのに」
「一定距離を保ちながらも隙を窺い襲ってきて、更に武器も構えたまま。その態度は、僕達と敵対したいって意味だよね?」
「正論でパンチされてしまったかぁ。それじゃあ、私は武器を仕舞うよ」
女性が武器をインベントリへ仕舞った事を確認してから視線を二人へ向けると、ベリィさんは詠唱を終えた状態の水球を指先に浮かべており、ソフランくんは近距離戦用のナイフを構えて警戒を解いていなかった。
「ご用件はなんでしょうか?」
「ただ私は足手纏いにならないで、そこそこ戦えそうなパーティーメンバーをスカウトしようと思っただけなんだけど、いつになったら警戒を解いてくれるの?」
「僕達だけでも戦えますので。それに、そこそこしか戦えない足手纏いの僕達は貴方には不要なんじゃないですか?」
「まあまあ、落ち着いて。争おうなんて最初から思ってないから、そっちも武器を仕舞ってよ」
女性が素手のままゆっくり歩いてくる。
「じゃないと、運営様に怒られちゃうよ?」
そして、近くにいる僕達にしか聞こえないような声で言った。
仕方なく僕達も武器は仕舞うが、警戒は怠らない。
「それじゃ、イベントの間はよろしくね?」
一瞬、言われた意味が分からずに戸惑うが、その答えはすぐに分かる事となる。
「二人とも、腕輪が!」
「えっ!?…やられた」
「そんな…!」
僕達の腕輪には、僕達以外のパーティーメンバーとして目の前の女性の魔力が通った後であり、登録完了の表示が出ていた。
「改めて、私は元ライバーの火狐。新米配信者グルの『ブロッサム』さん、よろしく頼むね?」
狐の面を外した女性は、愉快だと言わんばかりに目を細めてくつくつと笑う。
つい声を荒げそうになった瞬間、イベント会場への転送陣に僕達は呑み込まれた。
良ければまた読みに来て下さい!




