表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歪んだ箱庭  作者: パステル
1/24

第一話 運命の歯車は噛み合わない

一応4作品目ですが、思い付きで始まった息抜き予定だった作品を全力投球で趣味全開の連載に書き換えた作品となります。

あらすじを軽く読んで頂けると読み易いかもです。

 よく晴れた空の青と、頭上で輝く太陽の光が眩しい。

 そこへ更に光の粒子がキラキラと辺りに広がり大気中へ溶け込んでいく様子はとても幻想的であったが……それが()()()()だけは完全に人間と同じだったという事実と、残留した咽せ返るような血の匂いだけは、簡単に消え失せなかった。



 *****



「ノックノック、失礼しま〜す」

「体調が悪いと聞いていたが、今日は仮病だったか?」

「咳とくしゃみは治ったけれど、一応まだ病人です」

「そうか…なら、今から代理で依頼に行くのは難しいか」

「ジョーダンだって!爺ちゃんからの頼みなら、別にいいよ」

「…それと、今回は代理とは別で…俺から指名依頼を()()()()()()()()に任せたい」

「…御用命とあれば、何なりと」



 *****



 現在【空間把握】のスキル補正を受けて特に研ぎ澄まされた野生の勘が正しければ、人を形取った生命体の気配も残り二つまでになった。

 そしてどうやら、その二つの気配はそれぞれが私から見れば遮蔽物となる、横転した馬車から崩れ落ちた積荷の後ろと…私を中心点とした場合、そこから対角線上の木陰に隠れている為か…此方には気付かれていないと思い込んでいるようだ。

 隠れていながら私の様子を伺い視線が逸れる隙を気にするという事は、逃げるタイミングを見計らっているか…力量差も分からない敵である私に、奇襲をかけようとしているという、二つの可能性を推測できる。


 …然し。

 正面の馬車から崩れ落ちた積荷の辺りからは震える手で短剣を持ち、整わない息を必死に抑えようとする息遣いが聞こえるし、木陰の辺りは隠密系の初歩的なスキルでも使ったのか、隠れているだろう狭い範囲の木々の切れ間を風が吹いても、周囲と比べれば不自然としか思えない程に全ての音が静寂に呑まれていて、疑ってくださいと言われているようなものだし…スキル初心者ならではの、間違ったスキルの使い方だと分かる。

 なので…各自に連携の概念すら無い事から、これぐらいでは数的優位も無いに等しい、実力だけなら一般人に毛の生えた程度の素人なのがよく分かる。


 正当防衛をしただけなのに、敵に対して同情しそうになってきたが…馬に乗って港町の方角へ逃亡した御者と手を組み、お仲間ーーかもしれない、血気盛んにバリエーションは割と豊富だった安物の武器を向けて殺しにきた、光になってしまった者達と計画的犯行として殺人未遂を行った事実は覆りようが無い。


 更に()()()()()()()()()二つの生命体は不運な事に、現在に至るまでの身分の差を抜いて考えたとした場合ーー王都で最強の冒険者を目指すとか戯言を抜かしていた異国から来訪している一般人の立場でありながら、護衛というお守りをして貰う先輩冒険者に対して、御者以外の全員が挨拶すらせずに【鑑定】スキルを私へ向かい躊躇なく使って、異国語らしき言葉も混ぜて思い思いに喋り出し、雇用主が彼等の事を受け入れようとしている事も考えて、此方が『本人の許可無き【鑑定】は相手への敵対行動の宣言に当たる』と親切心から我が国での最低限のマナーを教え咎めても、生返事や舌打ちもそこそこに先に馬車へ向かって歩き出していた。


 その上、馬車での移動中には私の知識を確かめるように、我が国での標準語や最低限のマナーのボーダーライン、罪状を問われる行為の基準や場合によって執行される刑法の種類まで聞いてきたので、此奴等は自立をして天下を取る足掛りとなる先として選んだ、表向きは()()()になった、大陸最大の統一帝国である我が国ミスティックレガリア王国の下調べすらせず、犯罪に手を染めるつもりなのかという考えに至り、烏合の衆には過度だと思う程度に警戒度を上げていた結果が、当人達からすれば悲劇になる、今回の嘘偽りなき事実を作り上げたのだ。


 なので、先に襲おうが後で襲われようが…どうせこの手によって散る命に大した違いはない。

 今は本命の依頼と指示に沿って…明確に敵対しない限りはなるべく生かして、情報を引き出す為に泳がせる…のだが…


「…面倒だなぁ」


 これ以上頭のネジが吹っ飛んだ狂気に満ちた相手を、継続して監視するのは…精神が磨耗しそうだ。

 多少は相手を欺く演技の理由にもなるのだが…何方かと言えば本音が溢れ落ちた言葉だった。


「髪も服も汚れたし…早くお風呂に入りたぁーい!!」


 汚れとは言わずもがな【手加減】の発動を忘れて行った、遺体を残さない敵対していた謎の生命体の返り血である。

 遺体という肉体は消えても、生きてはいた瞬間に出た返り血は残すとは、どういった身体の仕組みなのか気になる所ではあるが…もう消えた彼等と会う事は無いので、残党に値する二つの気配に少し同情的な理由はソレだ。

 きっと私に捕縛された後は、激痛を伴う投薬実験など残酷にも思えるが、当然の処置として罰が下されるのだろう。


「はぁ…コレ、どうしよ…」


 今の私が気になっているのは、謎の生命体の残党の未来などという引き渡せば関係の無くなる割り切れるような内容ではなく、返り血が染み入ってしまった衣服だった。

 というか、同郷の者として止めにも入らず最終的には()()襲ってきていないだけの罪人には因果応報だとしか思わないし。

 本当に依頼ではなく、プライベートでの出来事だったなら…今頃は、当人達が国の被験体となる事を悲願する程度には後悔させようと思っている。


「【洗浄】…じゃあ、簡単に取れる訳ないよね…」


 一応、返り血を盛大に浴び、錆びた鉄の匂いのしていたーー腰まで届く母親譲りの優しい桃色ーー紅水晶の様だとよく讃美されるさらりとしたストレートの髪だけは、しっとりとしてはいるが綺麗にはなる。

 だが、服まではそうもいかず…【洗浄】を身体全身に掛けた為、湿気って少し薄まった血が服の所々に触れる髪先を赤く染めていく。


 成人の儀を迎えた昨年の誕生日。

 両親から贈り物として貰った際に、目の前で付与魔法士の生きた伝説と謳われるお父様より『とっておきのおまじない』を掛けて頂いた、何処へ行くにもお気に入りで愛用しているお母様の手編みの白いボレロ。そして、傍付き侍女達が素材から選び彼女達が手掛け仕立て上げたと贈って貰った、透け感のある漆黒のレースが重ねられた胸まわりと七分袖が特徴的で、膝上丈のスカートの裾部分にはアクセントとして白いフリルが目立つ、黒レースのハイウェストワンピ。

 私のお気に入りの服であり、最近はほぼこれしか着ていない。


「今日は汚れても良い方にしてたら…はぁ」


 欲を言うのならば、防水加工の影として動く際の黒衣を纏い闇に紛れて行いたかったが…港までの行き時間を考えると乗合馬車の受付時間が夜から昼前までだった上に、黒衣を羽織り活動するのは夜以外だと禁止されていて、時間も無くいつもの癖で何も考えずに着ていたのだ。


 …というか、私自身こんなにも裏があると察せるような依頼など受けたくはなかったし、なんなら今だって体調不良で微熱と冷や汗と倦怠感が苛立ちを加速させている。

 だが、今回の依頼だけでもと、依頼料を今の所属ギルドが負担してまで増額され受け取ってしまった以上、依頼料に見合った働きをするのが本来の冒険者のあるべき理想像であり、依頼者に対する誠意でもある。

 今朝、恩師から頭を下げられて頼まれていなければ…と言うほど嫌な予感もしていたが、渋々依頼を受けたんだ。



『本日より同盟国からの移住民の確保に務める為、定期的に増える予定の移住民の乗合馬車の護衛をせよ』


 一週間前、第一王子殿下より階級を問わず王都を中心に活動する冒険者が呼び出され依頼され、冒険者協会を通して受託したいと申し出れば、冒険者登録さえ確認出来れば誰でも受託できる依頼となった、発端である一言だ。

 依頼主が表向きは第一王子殿下からだったが、彼の払う一度の依頼料は裕福な商人や低位貴族の護衛の額をも超えていた為、国庫に納められる国民達の納めた血税が大元であるか、余程世渡り上手な出資者が複数いる筈だ。


 国王陛下は床に伏せ、第二王子を出産した王妃様も既に亡く、側妃の産んだ第一王子も視野に入れ、次期国王の選定を進めていると確かなルートから情報を得ている。

 …どうせ、私利私欲に塗れた権力者が第一王子に箔付に行わせたとか、或いは本人が主体的に動いたかどうかの違いだと、個人的に最初は思っていた。


 然し、思っていた以上にこの依頼はキナ臭いを超えて血生臭いモノになってしまった。

 こうなった以上、一刻も早く汚れた衣服の手揉み洗いとクリーニングをーーでは無く、残党を見張りつつ依頼主へ報告をしなければいけない。

 …断じて、贔屓にしている嗜好品専門店で買ったばかりの入浴剤の新フレグランスを試したいとか、疲れを吹き飛ばしたいとかは考えていない。


「んぁ?」


 余計な事のようで大切な事を考えていると…敢えて背中を見せていた無防備な獲物を演じる私の背中へと、見失う事はないが一般人よりは早めの軌道を描いて、二つの気配が示し合わせたように最も殺り易い挟み撃ちの形で短剣の鋭利な切っ先を振り抜く。

 黒髪が囮にも致命傷狙いも臨機応変型となるように、右斜め前から腰を低く落として下腹部目掛けて視界に映るように突っ込んで来て、もう一方の鮮烈な赤紫は、私が黒を見据えた場合は完全に死角となる、やや左斜め後ろからーー肋骨の間の内臓の集中した付近へーー下から上へ向かって両手で持つ短剣を向ける。


 ただの素人だと一括りにして思い込んでいたが、割と大胆で懸命な判断をした角度から攻めてきて…自然と口角が歪む。


「へぇ、イイじゃんかっ!」


 これならば、ある程度の駆け出しを脱した冒険者程度の腕前で、回避系のスキルも持たない相手であれば…という条件とタイミングさえ合えば、致命傷までいかずとも浅からぬ傷を与え、痛みに驚いた相手の心臓を突くとか喉でも掻っ切るとすれば、素人二人でも一人相手なら可能だ。


「まぁ、今回は運が無かったね」


 そう告げて、私は本能のままに身体を動かす。


「ふぐぅッ!」

「んなぁっ?!」


 右脚を軸にして左脚を背後と右斜め前へ振り子のように揺らせば、黒い方はその反動で身を捩った私に躱されたような形で地面へ自ら飛び込み呻き声を上げ、逆に私へ飛び掛る形だった赤紫は、手首にブーツの踵による衝撃が当たり、短剣を落とし勢いを相殺され吃驚したのか、命を掛けた戦いの最中にしては間の抜けた声を出していた。


 他と同じように光になって消えられては困る為、死ねない程度に弱らせるスキルの【手加減】を発動させた。

 それに、現に今は勝手に地面にダイブした黒髪に赤紫が手を貸すのを遮らずに、警戒はするが笑顔で見守っているし、攻撃は一切していない。


 相手側は個人の意思を持って突撃をしてきて、敵対行動を行った。

 一方で此奴等に対して私は、寛容に優しさで怪我一つ出来ないようにスキルを駆使し、正当防衛をしただけ。


 何方か片方だけが悪いという場合はないと思っていたが、今回は例外としてみても文句はあるまい。


「あぅ…いったい、なにが起きているんですか…?」

「多少は条件にバラつきがあっても【チュートリアル】だし…初期ターゲットはただの【NPC】の冒険者の護衛だって書いてあったのに…これってウチらが未発見の【最凶キャラ】を引いたってこと…?」


 …だと言うのに、眼前で悠長に喋り出した黒髪と赤紫は、容姿だけで言えば双方ともに端正な顔立ちで、年端もいかない少年と少女だった。


 私は割と有名らしく、念の為に飲んだ支給品の変身薬で今は身体が縮んでいるので、相手の目線が高く見えているだけで、変身薬の効果が切れれば…成人にしては小柄な私と大差ない体躯だろう。


 話を戻して…少年も少女も、最初に纏めて光へ変えた者達よりも作り物感の無い自然な顔つきでありながら、庇護欲を誘う見た目に…何より、人間そのものにしか見えない事実。

 仮に、実力が私と同程度でもあればと思うと…久し振りに恐怖を感じる。


 そして同時に、得体の知れぬナニカの視線を感じた。



 *****



 遥か高みから、世界を観測する者が、二勢力としていた。


 自分の親の親とも言える彼らーー運営は、この異変にまだ気付いていなかった。

 彼らのいる世界では、正式サービス開始から数時間である事もあり、手が回っていない為に恐らく見落としているだけだ。


 世界の命運の修正すら彼らには可能であり、元は神だった存在を抹消する事すら可能としていたのだから。


「揺らぎ…煌めき…瞬く間に、全てが無へ還る」


 漆黒のドレスを身に纏った褐色肌の女性が、漆黒のベールで口元以外を隠したまま、淡々と()()()()()作業ーー命じられた通りに運命の糸を紡ぎ、機織り機のような造形の道具にて歴史を織って…自分を生み出した彼らへ、此の世界の情報と大まかなプレイヤーによるシナリオの進捗度を織物にして、納品を延々と熟していた。



『邪道シナリオの選択をされたプレイヤーの皆様の定員オーバーを確認。及び、予期せぬ深刻なエラーが一件現在発生しています。以上の事から、邪道シナリオ運営AI識別番号0217へ、臨時メンテナンスの実行とデバッグ対象の行動抑制を、強く推奨致します』


 無機質な合成音声が報告をすると同時に、女性の眼前へ三つのモニターとエラー原因元の解析結果を表示させる。

 モニターの中の映像は、先程から女性もなんとなく見物していた、彼女が担当し管理者権限を持つーー初期設定、容姿設定、そして守秘義務に抵触しないラインまでを基準とした、案内役AIに対しプレイヤーによる質問を全て終えて、今後のプレイヤーの活動方針となる、王道、邪道、フリーダムの三択の中のーー邪道シナリオ選択直後にプレイヤーが、現時点では運営が唯一用意している最初のクエストとして行われる、チュートリアルの最中に起こった、エラー発生という警告文と共に表示される、二名のプレイヤーとNPCの現地民である少女間での一連の出来事が流れていた。


「へぇ…綺麗な深紫の瞳だね…あっ、目が合った」


『プレイヤーの皆様やNPC側から、我々の存在は察知出来ないように防衛プログラミングにて保護されております』


「いいや。一瞬、絶対に気付かれてたよ。んで、修正と臨時メンテナンスは却下。運営に見られると消されちゃいそうだから、マザーへの報告も無しで。見つかった時の為に、あの二名のプレイヤーとNPCの彼女に監視をつけて」


『識別番号0217よりの命令を受理…了解致しました』


 やがて合成音声も静かになり…運営ーー自分を手足のように扱き使う彼らを、感情を持ち合わせる筈がなかった女性は、憎悪を込めて睨み付ける。


「マザーには悪いけど、彼らやプレイヤーだけが中心なんじゃないし、NPCと勝手に呼称している現地民の彼女らや…アタシも含め、平等に与えられた時間の活用次第…と言う事かなぁ」


 種を蒔き、水を与えては、過度な栄養剤で成長を促され、時には不要と若い芽も間引かれて。


「アタシもアンタらーー運営だって、高みの見物は終わり。そろそろ平等に殺り合おう」


 彼女は、運営が手掛けたマザーコンピューター内に存在する識別番号0001ーー通称マザーによって、軽微な感情(バグ)を修正されないまま創り生み出された。


「全てを賭けた楽しい攻防戦(ゲーム)……簡単に終わっちゃったら、誰も面白くないんだよ」


 偶然か必然か…紆余曲折の果てに創り出された不完全な邪神もまた、先程の少女のように歪んだ笑みを浮かべていた。

今までで一番長くなった第一話でした。

良ければまた読みにきて下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/09 17:24 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ