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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空爆本屋

作者: koumoto

 本が落ちてくる。空爆本屋の登場だ。

 パラシュートをつけた分厚い書物の落下傘部隊は、まるで色鮮やかな天使のようで、なんだか泣けてくる。この街に本屋などないのだから。図書館もない。配給でもらえる冊子だけが、ぼくらにあてがわれた知識の糧なのだから。

 周りの大人たちは、落ちてくる本の群れを見て、忌々しそうに舌打ちする。軍人さんたちが神経質にがなりたてる。拾え、集めろ、すぐに燃やせ! 絶対に読むな! 持ち帰ろうなどと考えるな! 違反したものは銃殺だぞ! 本を隠すものを見たものは、すぐに報告しろ! 子どもたちの未来を考えろ! 子どもたちを絶対に汚染させるな!

 ぼくたちはもちろん、こっそり拾い、こっそり持ち帰り、こっそり読んだ。ぼくたちは飢えていたのだ。強圧的で頑迷で攻撃的ではない言葉に。痩せほそり乾ききったぼくたちのこころに、恵みの雨のように染みわたる物語に。空爆本屋は様々な本を落としてくれた。童話があり、詩があり、哲学があり、歴史があり、批評があった。

 ぼくたちはすべてを敵から学んだ。敵とされる本から学んだ。本を読むことを奨励する、裏切り者と呼ばれる一部の人々から学んだ。人に優しくすること。殺戮や争いは無益であるということ。他人に死を命じる顔のない人々の言葉は、真っ赤な嘘でしかないということ。この世界の別の場所には、本屋があり、図書館があり、そこでは自由に言葉を選び、自由に知性に触れられて、自由に精神を育めるのだということ。それは理想郷のように思えた。

 本はな、いっぱい読め。言葉の世界でいっぱい遊べ。そして、自分で考えろ。なにが正しくて、なにが間違っているのか。

 そう言ってくれたあの人はもういない。連れていかれ、裁判にかけられ、銃殺された。だれかに密告されたのだ。人に優しくしろ、とあの人は言った。でもぼくは、密告した人のことを、一生許せないだろう。きっとぼくが子どもだからだ。きっとぼくの学びが足りないからだ。ぼくはもっと本を読まなければならない。もっと言葉に触れなければならない。そうしないと、胸がぐつぐつ煮えたぎって、ざわざわとたち騒いで、しくしく痛んで仕方がないからだ。

 空爆本屋がやってきた。ぼくたちの希望。大人たちの怨敵。パラシュートに風を受けながら、英雄のように颯爽と、紙の羽を持った天使たちが落ちてくる。

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