4.読書感想文って結構難しいよね
●4読書感想文って結構難しいよね
のんべんだらりと部室で本を読む。
今日は図書室から借りてきた赤〇先生の推理小説だ。
親が好きな系だったので西〇先生はシリーズで読んでいたのだが赤〇先生のは読んでいなかった。おすすめのコーナーがあったので借りてみたのだ。
ほどよい厚みで速読の自分なら放課後の間に読めそうなのも良かった。
部室の窓際に置いてあるソファーに横になって読むのは最高だ。とくに年上の人達が忙しそうに動いている前でくつろいでいるのはたまらない。
「手伝え帰宅部」
「ぐおっ」
完全に緩んでいる腹筋に文科系の部室にない筈のバスケットボールを投げつけてきた先輩。
「ちょ、ちょっとシャレになりません・・・」
「文芸部でも演劇部でも吹奏楽部でもない無能な帰宅部には人権はない」
わお、俺は人未満の生ものだったようだ。
「手伝わないなら出ていって石ころ」
「有機物でもなかった・・・て俺の心読んでます?」
いつもは四、五人ぐらいしか集まらない部室が十名を超える生徒がいた。その理由は文芸部は部誌用の原稿の編集、演劇部はようやく借りれた被服室での衣装の直しがたまたま今日に重なって文芸部と演劇部の部員のほぼ全員が集まっていた。
バタバタしている時になにも知らない素人が関わっていけないと思い奥の方でめだたない(悪目立ち)ようにしていたのに先輩にはお気に召さなかったようである。
「で、この優秀な帰宅部は何をすればいいのでしょうかっ」
「文芸部をお願い!」
「演劇部の方がやばいの!」
「はい部長さんのほうが早かった。文芸部手伝いまーす」
「待って!私も演劇部の部長だよ」
ショートで長身の女子生徒、演劇部部長さんが待ったをかけてきた。
基本演劇部の人達は体育館のほうで舞台練習をしているのであまり部室で会うことはない。たまに力仕事で手を貸しているので仲は良い方だろう。
「残念です。文芸部部長兼演劇部副部長兼美術部部員という面白い状況の部長さんを部長さんと俺の脳は記憶してしまっています。あなたは演劇部の部長の一つだけなので演劇部さんと記憶されていています」
くっそー!と叫びながら演劇部さんは部室を出て行った。すごく前向きな人だからそのまま被服室に行ったのだろう。
「やはり演劇部の手伝いをした方がいいですか?」
「いいえ。あちらは衣装を被服室に持っていくのに人手が欲しいくらいだからまだ大丈夫。あとで手伝ってあげてね」
さすが部長さん、演劇部の副部長も兼任しているだけあって内情には詳しい。
「さて俺は何をすればいいのですか」
部長さんと同じ机に座る。
机の上には部誌の為の原稿が幾つもあった。何名かは原稿にむかって執筆中である。先輩もその中の一人だった。
「なにか書いて」
「はい?」
部長さんの要求は一つだった。
部員の一人が病気で休んでおりまるまる一ページ空いてしまっているらしい。他の部員は・・・言うまでもない。
「そこのあなたの先輩とその他は現在進行で締め切りを破ってます」
あ、言っちゃった。
筆記具と原稿用紙を数枚貰い考える。何を書くか迷う、おふざけはアウトだろうたぶん部長さんに殺される・・・やってみようかな。
「ふざけたものを部誌に載せようとするなら拘束してくすぐりの刑十分だからね」
部長さんは俺でだけなく他の方達にも激励の御言葉をくれる。となりにいる先輩の書く速度が上がった。結構やばいのかな?
「コータ君には書けなかったなら部室入室不許可一か月ね」
「そんな殺生な!くすぐりの刑なら喜んで受けますから入室不許可になったらどこで暇を潰せばいいんですか」
俺の必死の訴えに周囲の者たちは私たちの部室を暇つぶしだって、それよりくすぐり刑を喜んで受けるって変態なの?違う真性の変態、と応援してくれる。最後のは先輩かな?
「だったら早く書いて、てか書け」
部長さんの目がマジだったので書くことにした。
と言っても俺は部室に遊びに来ている帰宅部員、核技術など無い。そのことを伝えると本の感想でも構わないとのこと。日々無駄に読んでいる乱読が役に立つ日が来るとは思わなかった。
では最近読んだ小説でいいかもしれない。
食〇鬼
タイトルを見たら大半の人が敬遠するだろう。そして表紙を見て推理小説なのかと思ってしまうかもしれない。読む前に人を選ぶ本である。
自分も推理小説と思って読み始めた。
内容は全く違い人を喰う鬼と少年の交流の話であった。
人を喰う鬼である女に出会ってしまった少年の交流と心情が奇妙に描かれている。
読み始めたときは予想と違う内容に戸惑いを覚えた。そして難しい言い回しに怒りを覚え、意地でも読み終わろうと考えたとき、この本の魅力にいつの間にか惹かれていた。
決して万人がに好まれるような本ではない。
人を喰う鬼女に恐怖を感じない少年の心情はよくわからないいままで、なぜ?どうして?と読み終えても謎が残ってしまう。
この本は全てを読んでほしいという点で書かれてはいない。どちらかというと詩や俳句に近いだろう。
その描かれている字の中に隠れた筆者の気持ちを読み解かなければ駄作と呼ばれてしまう本だ。
それが正しいかどうかは人次第である。自分には新しい本の読み方を教えてくれた素敵な本であった。
人を喰う女性がどうして少年と交流していたのか、少年はどうして人を喰う女性に惹かれたのか読み終わった後にも私の頭の中で時折考えられるだろう。それを不快だとは思わない。これからもこの予想が続くと楽しみでならない。
これが決してお勧めできない私が読んだ素敵な本である。
「・・・」
「どうでしょうか」
書いたものを部長さんに見てもらう。
最近読んだ本の中である意味一番印象に残ったのを書いてみた。
「私も読んだことあるけど本当に好きなんだね・・・」
部長さんはチラリと先輩を見てから呆れたというようにこちら見る・
「はあ、それはどうも?」
本好きを褒められたのだろうか。
「誤字はあるけど他は問題ないね。なんとか部誌を出せるよありがとう」
「いえいえ、拙作ですが力になれてよかったです」
「あとはそこの馬鹿者達次第だけどね」
部長さんににらまれて身を縮こませる文芸部員(負け犬)数名。
おや?負け犬の一人である先輩がこちらに原稿用紙を見せてくる。端の方に何か書いてあるな。
≪後輩のくせに生意気な≫
・・・ひでぇ。完全に嫉妬丸出しの文だ。こちらを見ている目つきも剣呑だ。他の部員達の目も同様である。
ああ、これが先に終わらせた者の優越感というものだろうか、興奮するなぁ・・・。
「こっちほどじゃないけど演劇部の方も忙しいから手伝ってね」
「はーいわっかりましたー」
もう少し嫉妬を浴びていたかったが部室のトップである部長さんのお願いという名の命令は絶対なので行動することにしよう。
筆者「当時のお気に入りの本でした。食〇鬼の女性と先輩は少し似ています。部長さんはそこをわかっています」
部長さん「良い資料になりました」
俺「俺のプライバシーが・・・」




