知らない自分
「は〜っ、ばっかじゃないの」
翌朝、目覚めたアナベルは、自室で寝癖・寝間着のまま、目が空いているかいないか分からない寝ぼけた顔で朝食を取っていた。
なんとなく鏡に目が行き、違和感を感じて顔に手を持っていくと鏡に映った女性も同じ仕種をするではないか。
鏡のなかには、シルバーの髪のザガンに似た美人が映っている。しかも、10代後半から20代前半みたいな若さに見えた。体つきもボンキュボンのダイナマイトボディである。
自分であることを受け入れるのに数分。葛藤の末、深い深いため息と、憎まれ口がこぼれる。
"もう別人もいいところね"
ザガンを問い詰める気力も薄れた状態だったが、聞かないのも違う気がしだしたのでザガンと話をしようと決意する。立ち上がって話に行こうとしたところ、なんとなくこのまま離れていても、話ができる気がしたので試しにイメージして話かけてみる。
「ザガン、いいかしら?」
「ん?この頭に声が直接響いてくる感覚は何だ?」
「通じるのね。どうなってるのかしら?」
「私は、成長を促す機会を提供しただけだからな。身につけた固有のスキルなんだろう」
ザガンは当初の混乱を呑み込み、想定される回答をした。
「あなたが言った力は、都度必要な時に出来ることが浮かぶわ。これで全部かは分からない。頭の回転や閃く力が上がってるのはたしかに感じるわ」
アナベルはこれまでに分かったことを伝える。
「新たに目覚めた力については、少し時間を置いて聞かせて貰おう」
ザガンは、新たな力が顕現していることに満足顔だ。
「ところで私の容姿が変わってるのは何?あなたの趣味かしら?」
当初、話そうとした内容に会話を修正する。
「先程も言ったように、力を与えるきっかけを与えただけだ。その力を取捨選択をしたのは貴様の魂というか本能だと思うぞ。胸に手を当てて良く思い出すがよい」
「この無駄に腫れてる胸に手を当てて考えても無駄なようね」
頭を振って、これ以上話しても無駄なことを感じて回線を切る。
「2度寝でもしないとやってられないわね」
テーブルの朝食に手をつけずベットに潜り込むのであった。