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漆場 二

 靜華と別れた道へと引き返した吉右衛門が靜華を見つけたのは佐伯たちを倒してから三十分ほどが過ぎてからだった。


靜華は金髪のせいで遠くからでも視認でき、草原の真ん中で立っていた。靜華を見つけた吉右衛門は安堵するが、しかし様子が少しばかりおかしい。その靜華の顔に手を当てて行徳が正面に立っている。吉右衛門の知りえる二人の関係からこのような状況が生まれるはずがない事は明白である。異常事態と吉右衛門はとらえ太刀を抜いて斬りかかって行った。


「おい! 蛆虫!! 靜華からその汚い手を放して離れろ!! 今すぐにだ!!」


太刀の切っ先を向けいつでも斬りかかれる態勢を整えている吉右衛門がひどく荒ぶりながら、行徳に怒鳴っていた。


「ほぅ。ここにお前が来たという事は儂の手の者を倒したという事かのう……少しばかりお前を低く見積もっていたようだ。これは反省せねばな」


突っ込み斬りこんでいく吉右衛門の太刀筋に思わず背をのけ反らせて後方に大きく飛んだ。


「大丈夫か?」


靜華の顔を撫でる吉右衛門に靜華は無言で返す。


「靜華?」


「お前の天女様とやらはもうそこにはおられませんぞ! もう儂の身体の中じゃ!!」


「あぁ? ボケたのかじじい」


「おかしいと思ったらどうしゃ? 天下無双の降天の巫女様が儂にナデナデされておった時点で。でも、思ったよりも簡単だったのう。降天の巫女とは看板倒れもいいところだのう。まぁ、いただくものはいただいたしな。そうそう、お前には教えておかないといけないかのう? お前の天女様は、さすがにその辺りの娘とは違って高貴なお味だったぞぅ。ひひひひ」


「何をした? 靜華に何をした?」


吉右衛門は常人には見切れない速度で突きと斬りこみを数度に渡って繰り返す。それをことごとくかわしていく行徳。


「お前、人間ではないのか? さっきの奴らの黒い霧とか。そういう事か。どうも、靜華と組んでから普通と異常の境界がぼやけてしまってな、普通に考えりゃおかしいわな。」


吉右衛門の表情が厳しさをました。


「やっとか? 鈍いのう……それでは、ダメだ。もっともっとおつむの方も鍛えないとな。ひひひ」


間合いの外に跳ねるように飛んで逃げた行徳がいやらしく笑っている。


『本当なのか……』


天を仰ぐ吉右衛門。


『いつも一緒だって、言ってたよな……』


吉右衛門が別れ際に行っていた靜華の表情を思い出していた。それなのに、


『あんな奴にやられちまうとは……あんな奴にやられるのか?……

一緒……一緒なのか?』


『……靜華、聞こえるか? もし、まだお前がここにいるのなら俺に力をくれ。不思議な存在のお前なら出来るだろう? 信じているぞ靜華。』


「上を見たまま動かないが。どうした? 降参か? お前など巫女なしには何もできないのだからな。それでよい」


天を仰いでいた吉右衛門がにやりと微笑んだ。


「……そうか? それでは、手加減なしでいこう!」


そう言うと吉右衛門の太刀が金色に輝きだした。


「なぜ? 巫女はいないのだぞ」


「そうかな? お前の見えているものすべてが世界の全てではないのだぞ。ああ。。これは受け売りだがな。無駄に年だけ食っていたか?」


一閃、吉右衛門は跳躍し瞬時に行徳の間合いに入り込み袈裟懸けに斬りこんだものの行徳も瞬時にかわす。


「すばしっこい爺さんだ」


行徳が右手を出して人差し指と---

吉右衛門が反応し瞬間で間合いを詰め右腕を切断した。


「ぐっ」


行徳はその場で膝を折り倒れこむ。

そこを吉右衛門はすかさず、背面を真横に切り裂き……


行徳の身体は上半身と下半身が切断され、上半身はうつ伏せに。そのすぐそばに下半身が膝立ちの姿勢そのままに転がっていた。

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