正義の味方?
どうせ話すんだし、そんなに変に回りくどい言い方しなくてもいいと思うんですけどね。
だけど今の状況的にこれはアウトかな。
勇者組は素早く武器を手に戦闘態勢。
「これも君らの作戦かな?」
「いや、知らないぞ」
「まあ、原因があるならうちだけどな」
今トムが言ったけど、別に私達は何も問題は起こしていないと思う。
じゃあ何がアウトなのか、それは言ってしまうなら今の魔王様はぶっちゃけ戦争したくないって姿勢で、それに本来なら戦闘狂の魔族達が耐えかねた結果、今こうして下っ端が街を攻めているというわけ。
「どういうことだ」
「残念な話、うちらの魔王様はあんまり魔族向きの性格してなくてな」
「まあ馬鹿共が勝手に攻めて勝手に死ぬだけだからどうでもいいけど」
一触即発。お互いに睨み合っているところへ、勇者が突然交渉を申し出てきた。
「それなら皆さんも防衛に協力してくれませんか」
「ヤサキくん。いいのかい」
「俺達はまだ相手の数を知りません。全員で守っても何処かで死人が出ます。それなら協力を頼んででも守りきりますよ」
ただ綺麗事を並べるだけの勇者なら断ってるけど、自分の周りを守るためならどんな相手や手段だろうと使うその判断の速さは尊敬できます。
「どうですか」
「しょうがないなあ!」
「こっちの落ち度もあるしな」
「今回限りは協力します」
「と言うかもうそこまで来てるんだから。さっさと外に出た出た」
勇者組は完全に忘れてたのか、氷菓に指摘されて全員が慌てて外へ向かった。
外へ飛び出すと、既にあちこちから沢山の悲鳴が聞こえていて、目の前にも何人かの体が散らばっている。
これはゲームのフィルターがなかったら少しキツかったですね。
(勇者視点)
目の前に広がっている光景が、まるで地獄のように見えたのは俺だけじゃないはずだ。
「さて、俺らは門の外にでも行くかな」
どうやら向こうは外にいる奴らを相手するみたいだけど。
「待ってください。俺も行きます」
「心配かな?生憎と足でまといだよ」
「いや普通の魔族なら1人でも大丈夫だろ」
「私達がやりにくいの」
飛んでくる感想に俺の心は正直ズタボロですよ、えぇ。
「だけどあなた達がこの場を去らない保証もないんですよ」
「氷菓、今回は仕方ない」
「はぁ、情報収集も作戦のうち……分かったよ。ただし面倒は見ないから」
「ああ、それで構わない」
そんな訳で俺は今魔族側の4人と行動してるんだけど。
「次は右から」
「了解!」
片っ端から倒されていて俺の出番が全く来ない。
今は街の外に向かうついでに、街中の魔族軍をついでに片付けているみたいで、その道中だけで魔王軍の恐ろしさがよくわかった。
そしていざ街の外に出てみると、そこらじゅう魔族だらけ。
今はいくつかの冒険者パーティーらしき人達が応戦しているけどいつまで持つか。
するとトムさん達は各々仮面を着けて名乗り出した。
「魔族が随分と好き勝手やってる見てぇだな」
「誰だてめぇら!」
「私達は四神の民だ!」
向こうの反応もだけど、こっちはこっちでいつ打ち合わせしたのって事が気になるんだけど。
「蒼龍の巫女クロ!」
「白虎の巫女シロ」
「朱雀の巫女ライト」
「玄武の巫覡ガラだ。俺らがいる時に襲ったのが運の尽きだな。死にたくなければとっとと失せろ」
「この人間風情が!!」
うわあ……凄いノリノリなんだけど、実は初めから戦う気だったのかな……。
そんなことを考えてる間にも戦いは進んでいて、見るとさっき凄い怒ってた魔族の人が今にも飛びかかりそうだったんだけど。
「死ね……」
「遅すぎますね。あくびが出そうです」
は、早すぎる。
攻撃を仕掛けようとした相手の背後にいきなり現れたと思ったら、手を添える刀は既に鞘に戻されていて、それから吐き捨てるように感情を口に出したあと、ズレる様に首が地面へ落ちていった。
首の落ちた音が聞こえてから少しして、はっと我に返って周りを見ると、各々が魔族を殲滅していた。
トムさんは向かってくる敵をのらりくらりと避けながら刀で切ったり、地に伏せてから巨大な岩で押し潰している。
ビルドさんは刀を振るっただけで何か斬撃のようなものが飛んでいて、近くに来た敵には片手でヘットロックからの握り潰し……グロい……。
ライムさんはさっきみたいに何か電気?を纏いながら高速で移動して一人一人首を一刀両断し続けている。
氷菓さんは朱雀だからか、鳥の翼のような炎を纏って、そこから大量の炎の羽を飛ばしつつ近くの敵は直ぐに斬り倒す。
この人達がいれば問題はないんだろうけど、この人達ってこれから戦うんだよね。僕が……。
頼もしすぎる助っ人に、この後のことを考えて少し憂鬱にもなる俺だけど、今は考えないようにしようと心の中で強く思った。
しばらくすると目に見えて魔族は減っていて、そこからさらに数分後には完全に全滅されていた。
「凄ェ!」
「なんだあの4人組!」
「つかあれ子供か!?」
周りは皆、魔族からの進行を無事に乗り切ったことで凄い喜んでいる。
すると目の前に謎の手紙がいきなり現れて、中を見てみると……
『少し騒がしいので、街の中、さっきの鍛冶屋で合流しましょうか。私達は先に向かっているので』
手紙を読んで慌ててさっきまで4人がいた方向を見ると、何処にもその姿がなく、気が付けば周りも少し騒がしくなっていた。
そんな喧騒から逃げるように街中に戻って、クレイさんの鍛冶屋まで急いで戻りながら、フロストさん、伊達さん、ハズキさんにも連絡をとって再び合流をする。
そんで着いてそうそうなんだけど。
「なんだお前ら、どうしてそこまでするんだ?」
「これに関しては口には出来ませんね。ただ言えることとしては、其方の勇者があなた方連れの者よりも戦闘で劣るようではこの先少し困った事になってしまうのでね」
何故かまた喧嘩してて、リズさんやクレイさんに少し状況を聞くと、どうやら魔王側がいきなり俺の武器用の素材を取り出してきたらしい、それも割とガチでヤバめの素材ばっか。
「因みに渡された素材って……」
「オリハルコンのインゴットが3つ、何が元なのか全くわからねぇ位に純度が高過ぎる魔石が1つ、それと龍の角が1本丸々、後はなんかよく分からん青い破片か、何かオリハルコンに混ぜて打てって言われたから、多分ちゃんとした加工方法ではある筈だ」
なんだそれ……。
マジで貰っていいものなのか凄い不安になって来るんだけど、と言うかオリハルコンって言ったよな。
いや、フロストさんやハズキさんの武器はオリハルコンって聞いたから、存在してること自体は知ってたけど、それを提供して来るとか今の最前線のギルドは一体どんだけ先に進んでるんだよ。
「ならそれが危険なものでは無いと言う証明は出来るのか?」
「ならリズさんに鑑定して貰えば良いですよ。私が沢山持ち込みしてるので、目利きは得意ですよ」
「お陰様でね!はぁ……ライムちゃんそれちょっと貸して」
「どうぞ」
それからリズさんは見落としがないか、素材の一つ一つをじっくり見ていき、その中で何回も驚いていた。
「……」
「で、どうなんだリズ」
「結果から言って、これらに変な効果はない……けどこれ何処で……」
「リズさん、企業秘密です」
「……分かったわよ。だけど出来るなら後で商談させて」
「流石と言うところですけど、安定しての確保は出来ませんね」
「それも含めてね」
話が一段落着いたみたいで、今度はリズさんがクレイさんに話を振る。
「そんで、あんたはどうするの?言っとくけどこの素材、あんたの所に持ち込まれるのは多分まだまだ先よ。この子達が何処でこんな素材手に入れたのかは知らないけど、今回の事はいい経験よ」
「そうだよな。まあ元々勇者の依頼は受けるつもりだったんだ。なら素材はなんだって問題は無い、寧ろより上位の素材を扱えるならドンと来いだ」
そして素材を受け取ったクレイさんは、そのまま工房に引き篭って行った。
一応後日出直して来て欲しいとだけ伝えられたから、今日はもうする事も無いんだけど。
「それで、あなた達はこの後はどうする予定」
「俺らはまだまだ周り足りないんでね。この後もこの街でのんびりしたら帰るつもりです」
「随分と呑気なんだね」
「まあ、ぶっちゃけた話。私達の所に勇者が来るのなんてまだまだ先だしな」
その通りとしか言いようがなくて何も返せない……。
「それならライムちゃん。さっきの話の続きって出来るかしら」
「リズさんには悪いですけど、私もまだうちの子達と全然回れてないので、今回は見送りで」
「あら、ライムちゃんってテイムスキル持ってたの?」
「いえ、別の子です」
そう言って出てきたのは、ライムさんに少し似た幼女?
すると見られてるのにびっくりしたのか、逃げるようにライムさんに抱っこをせがんで、腕の中に避難して少し安心している。
と言うか何この子可愛いんですけど。
「コトネです。端的に言ってしまえば私の神器です」
「「はあぁぁぁぁ!?」」
神器ってあれだよな。確か少し前に神聖国を拠点にしている大規模なギルドの団長をしている人が手に入れたって言うあの、まさかあれと同じ物を持ってるのかよ。
「手にした側から言わせてもらうと、神器が欲しいならゼロから自分で集める事ですよ。存在は何処かのギルマスの人が証明してるんですから」
「でも情報とか売らないの?凄く高く買い取れるけど」
「今言ったみたいに、何事も自分で、ですよ。これは言う側ではなく、どちらかと言えば聞く側にデメリットですから」
成程、作った人だからこそ分かることか……。
それにしても聞く側にデメリットって……一体何なのだろうか。
因みに俺の新しい装備は、数日後にクレイさんから受け取る事が出来たので先を行くことに。
その時にライムさんが神器を取り出して見せてくれたって話をリズさんが言うと、それはもう羨ましそうにしながらも、酷く残念そうに床に膝を着いて項垂れていた。




