蛇に勝って人に負ける
蛇が消えれば当然、すぐに元の場所に戻ってくるわけで、再び紅茶を片手に本を読む魔神様のところに戻ってきた。
「少し早過ぎないかしら?」
「簡単」
「そこまで」
「あなた達ねぇ……」
と言うか今回の試練、私達はそもそも受ける意味があったのかとも思いたくなるくらいには呆気なかった。
「あの、魔神様!」
「私達は今回は……」
「気にしなくていいわよ。今回はちょっとしたイレギュラーな子達がいただけで、あなた達にも今回の試験の合格、その資格は十分にありますよ。まぁ、分かったとは思いますが、あなた達の先を歩むものは身近にいます。精進なさい」
「はい!」
「ありがとうございます」
良かったですね。かく言う私も、今回は相手を氷菓から引き離すのが目的であって、今回は完全な物理型、その相手に魔法だけでの対処をどうするのかを見るんだろうけど、この試練じゃ私は完全にイレギュラーですね。
「それではそれぞれに相応しい称号を与えましょう」
『魔神の試練を突破しました。称号『星の魔女』を取得しました。』
『特殊条件を達成しました。称号『自然の支配者』を取得しました。』
『特殊条件を達成しました。称号『星の管理者』を取得しました。』
何だろう、ほぼ毎回のようにスキルとか称号を連鎖的に取ってるんだよね。
運営さんこれ大丈夫ですか?
「それはあなた達が歩んで来たこれまでを示す称号です。その力は個々で変わり、時には他の追随を許さない様な称号を貰っていく子もいるのよねぇ」
魔神様何故か楽しそうですね。氷菓も何か罰が悪そうにしてる。
「ん?氷菓はどんなのを貰ったの?」
「まぁ……それなりの。そういうライムは?」
「多分私もそこそこ……」
そこで確りと確認しておこうかと思って見てみると。
星の魔女
·魔法威力上昇、魔力消費軽減、魔力回復上昇、詠唱破棄
取得スキル:広域化、環境支配、星の心臓
魔法の祖である魔神の試練をクリアした者が手にする称号、この称号で手に入るスキルは、本来なら手に出来ないようなものも含まれている為、世の魔法使い達は、日々けんさんを積んでいる。
自然の支配者
·自然回復量上昇
取得スキル:踏破、道標、妖精の囁き
自然を支配し、また愛し、時には友として語らう。そんなあなたなら、世界はあなたを導くでしょう。
星の管理者 第十層
取得スキル:星の子
星の加護を受け、その力で星を見守る者。
何このよく分からないスキルのオンパレード達は……、と言うか称号の方もよく分からないの貰ってるし、いよいよこのゲームの底が見えなくなって来た。
「どうかした?」
「よく分からない、まぁ使える物もあったのかな」
「あとの話はまた後で、そろそろ戻すわね」
そう言った魔神様がだんだんと霞んできて、気が付けばさっきの魔道王さんの目の前にいた。
「ほぉ、中々にお早いお戻り。しかし敗れた訳ではあるまい……。良くぞ試練を乗り越えた!お主等は今日より賢者とする!」
「大賢者じゃ無くて?」
いやいや、そんなに急な昇進は無理だと思いますよ?
「まぁそう急くな。私とてお主等の力量を見誤ったつもりは無い。しかし一代で大きな富を築くとなれば、それを裏付ける実績もまた必要となろう。今お主等に足りぬのはそれだけの事。ここより先、私より先を目指すのならば、それぐらいの事はして見せよ!」
魔道王さんが大きく宣言すると、唐突にクエストが発生した。
大賢者への道 難易度:S
報酬:大賢者
人類の中でもひと握りとされる賢者。そのさらなる先を見るため、己が魔道と飽くなき探求心を持って、その新たなる歴史の一歩とするのだ。
随分と仰々しい説明文ですね。
まぁ、私も偶に自分で魔法を作るくらいはしてるし、それでなれたらラッキー位にはしておこうかな。
本当に今日は褒賞だけだったみたいで、あの後魔導王さんからそれぞれに、この国での身分、それも貴族としての位を賜ったんだけど。流石にこれは、私含めて全員が突っぱねた。
そもそも国の御役人なんてごめんだと、直接言ったら笑いだして、それについては問題ないと言われて、その訳を聞くと。
そもそも今回私達が貰った、この国独自の魔法貴族と言う貴族制度は、他国のそれと意味合いは同じでも、決して国に仕えなければいけない訳では無いみたいで、今城やその他の施設で働いているのは、それを生業とする者達と言うだけで、重ねて個人の自由を縛る為の錠ではないと言われた。
それで今回私達が貰ったのは、全員が準二級魔道貴族の位。
この国の貴族の位は、準三級魔道貴族、他で言う男爵に当たる。そこから三級が子爵、準二級が伯爵、二級が侯爵、一級が公爵となって、上には勿論魔道王。
この国には王族と言うのは存在せずに、年々変わって行くらしい。
ただ現状は、あの魔道王が強過ぎて誰も叶わないから、ここ数十年はあの人がずっと頂上にいる国が続いてるみたい。
「次は実力で負けたりしないからね!じゃあねー!」
「それでは私もこれで」
二人は私達より少し先、騎士王国、確かパランガーディンだったけか。そこにギルドの本拠地を置いているみたいで、行きと同様、帰りも別々で帰ることに。
「全く、どうしてこうも敵視されるのかな?」
「良かったですね。同類が増えて」
「それは自分も含めてかな?」
「まだ趣味の範疇ですよ」
「「………ふふっ」」
やっぱりこうして、友達と諸国漫遊の旅とかもいいのかも、そう思って帰り用の馬車に向かうと。
「今朝ぶりですね。お帰りも私が付き添わせていただきます」
「「………」」
再び途中から記憶が一部思い出せない空の旅を暫くして、私と氷菓は揃って部屋に直行してそのままログアウトした。




