廃屋と初料理
翌日は特に変わったことも無く普通に学校を終えて家に帰った、今日は特に頼まれた事もないから速攻で家に帰ってゲームでもしようかな。
昨日瑠璃からお店の場所は聞いてるから多分大丈夫だろう。
ゲームにログインするといつもの見慣れた噴水前で、それを起点に貰った地図を見ながら進んでいく、正直氷菓の地図は凄い見ずらい、だって棒線が枝分かれしてるだけだから、地図と街との遠近感を測って進んでるけど、辿り着ける自信が無い。
しかも最後に「お店に着いたら頑張ってね、ライムなら大丈夫だろうけど一応ね」とか文字の色変えて書いてあるのだ、正直引いたしこのゲームで初めての最悪サプライズだった、てか着けるか!こんな地図。
「はぁ、言ってても仕方ないしねぇ、いつも通り諦めて進むかな」
暫く進んでみると明らかに街中の雰囲気じゃなくなってきて、看板の名前から目的の店なのはわかる、だけど待とう、明らかにおかしい。
なんで空が暗くなってるの、何この歪な成長遂げた木、何このお店とは思えない廃墟、しかも街中なのがまた不気味だ。
「ゲームのためだし、仕方ない?のかな……」
うぅ……凄く入りたくない……。
でも扉の前で冷やかした上に即退散はお店の人に失礼かなと思ったのでとりあえず入ってみることにした。
「トリックorトリート〜スキルくれなきゃこの店燃やすよ〜」
「ちょ〜!待ちなさい待ちなさい!?」
時期的にはまだ早すぎるけど、もしかしたらここは年中ハロウィンでもやってるのかなと思ってお決まりのセリフを言ってみたけど、どうやら違ったらしい。
何故か言いたくなった時期外れの呪文を唱えてみると、店の奥から女性の声がして1人かけてくる、見た目は私と違う薄紫色に光る銀髪にとても濃いアメジストみたいな目に褐色の女の人?が出てきた、耳が長いから他の種族とのハーフか亜人的な人なのかな?
異種族の人はこのゲームを初めてから初めて見たかな?街中を歩いてても見かけないんだよね。
「貴女ねぇ!?初対面の人といきなり人の店兼住宅をいきなり燃やすとか正気なの!?」
「いやいや正気も正気ですよ?そもそもこんな所でこんなボロ屋じゃそもそもお客さん少なくないですか?」
「うぅ!?」
図星を突かれた上、相手が子供だからか床に丸くなって凄い泣いている、本当に苦労してるんだねぇ。
あっ、床にのの字書き始めた。
「グゥーー」
床でアルマジロになってる店主さんからお腹の音が聞こえて見てみると耳が真っ赤っかになってる、顔はもっと酷いだろうね。
「ご飯食べないんですか?というか前にここでスキルスクロール買ってった魔法使いがいたと思うんだけど」
「……のよ……」
「ん?」
よく聞き取れなかった、私が聞き逃すって相当だよ、やるね店主さん。
すると何か吹っ切れたのか暴走気味に事情を話す店主さん。
「街の孤児院に寄付したのよ!文句ある!?」
「文句はないけどそれで自分が食べられないって……」
てゆうか氷菓もしかして、この人のその後の事情を知ってて教えた?あの意味深な最後の台詞ってそう言うこと?
後で頭に手刀を落とそう。
『あれれ?もしかしてライム、たまたま書いてあった状況と、たまたま似ていて、たまたま悲惨な身の上話を聞かされたのを私の計画だと?言いがかりはよしてよん』
なんか聞こえたけど気にしたら負けだろう、それと手刀はもう1発追加する。
でもその前にこの人を何とかしないとダメだよね、まぁ精々レベル上げに付き合ってもらおうかな。
「ねぇ店主さん」
「ルイーザよ!」
「ルイーザさん、私で良ければご飯作るよ」
「へぇ?」
相当ショックを受けていたのか、地味に立ち直れてなくて変な声を出してるけど、次第に目に涙を溜めて聞いてくる。
「ほっ、本当に?」
「口に合う保証はしないけど、料理なら人並みにはできるよ」
「あ……ありがどー!ひどい事言っでごめんねー!」
この時初めて料理が偉大だと知った、まさかここまで変わるなんてね。
それから奥に通されて少し驚いた、料理できないのに器具や調理場、香辛料なんかもかなり揃ってる。
「あぁそれは前にここで亡くなったやつの遺品だよ、綺麗に残ってたしとっといたんだ〜」
いや普通これをそのまま残してもそんなにドヤ顔はしないでしょ、それにここがこんなに綺麗に残ってるなら周りも綺麗にしようよ。
話を聞くと前はここはどこにでもある様な料理屋さんだったんだけど、なんかその店を1人で切り盛りしてた店主が、一月くらい徹夜してたらコロッと行ったらしい。
馬鹿なんですかね?てか何をそんなに作りたかったんですか……。
てか事故物件な上に変ないわく付き的なアイテム一色ーー調理器具ーーが出てきたんだけど!?
「これ本当に使って大丈夫なの?」
「呪いの類はこの建物に着いてたけど、何故かそことその場のアイテムだけは問題なかったわ」
それが本当なら、ここの前の持ち主は本当に料理が好きだったんだろうね。
少し思いに浸りながら目を瞑り、許可を貰ってから使わせてもらうことにした。
「少し使わせてもらいますね」
そう言って私が取り出したのは、リズさんでは捌ききれずに放置状態となっていたリトルボアのお肉だ、表面は膜があるみたいにはりがあるのに中身は柔らかい変わった肉だ、現実じゃ食べられないからそのうち料理してみたかったんだけど、いざ作るとなるなら何になるのか、多分鉄板で行くならシチューだろうけど、あいにく今は材料の宛がないから断念、普通に塩焼きでもいいけど何か欲しい。少し調理場を漁ると面白いものを見つけた、それがこちら。
醤油 レア度4 調味料 品質A
とある料理人がその人生をかけて研究し、作られた物、しかしまだ風味が濃すぎ、実用には難しいか。
砂糖 レア度6 調味料 品質A−
とある国で作られた物、半自動で作られた物のため、品質はやや低め。
ここの料理人の死因見つかったんですけど!?
こんなのが見つかるなんて本当に料理好きなんだねこの人、それとしれっとこの調味料入れてる入れ物、状態保管の出来る優れものだったりする。
一周まわって何者?この人……。
よく分からない不安感が積もるけど、流石にルイーザさんももう待ちきれないようで、無駄な体力を消費しないためだとかで机に突っ伏している。
まぁこれでアレが作れる、そして何気にその材料のもう1つも持っていたりする。
それじゃあ早速料理していきますかね、初めは調味料からかな?実は実際には作ったことないから動画の見よう見まねなんだよね。
そしてその使う調味料は私がさっき見つけた醤油と砂糖、動画の材料だとまだ足りないけど、このふたつがあればとりあえずは何とかなると思う。火が強過ぎると簡単に焦げるし蒸発しちゃうから、本当に弱くして少しずつ混ぜ合わせる。
混ぜている時にふと思い出した、そういえば氷菓がトムヤムクンに何か食べさせてて、その後にトムヤムクンがなんかすんごい悶えてたのは覚えてる、気になったので見てみると、なんというかすごい都合展開。
鑑定した結果がこちら。
メールの実 レア度2 食材 品質C
赤々とした丸い実、その中に含まれる独特の刺激と、魔王も唸る脅威の辛さ!まるまる食べるのは死に等しい。
あれ?確かトムヤムクンまるまる食べてたけど……てか魔王も唸るってどんだけ……。
まぁいいかな、それよりもコレなら味にひと工夫出来る気がする。砂糖と合わせてるから甘辛いタレが出来るかも。
トムヤムクンの勇姿と鑑定結果から多量に含むのはかなりまずいので表面のまだ味の薄い所をそいで入れる、この時初めて器用値が高くて良かったと思ったけど、これも称号のおかげかな。
「普通の人なら果肉どころか辛さ満点の汁で大洪水起こすことだろう」
味の調整ミスしてたら全部ルイーザさんに押し付けておこう。
蒸発したタレが空気に吸われ、だんだん強くなる室内の香りに、まだかまだかと待っている飢えたルイーザからの視線がすごく怖い。
このゲームの中で五感を再現したシステムが問題ないなら香り的には大丈夫、むしろ少し鼻に着く甘辛そうな匂いが余計に食欲をそそるくらい上手く進んでる。
タレ作りも終わったから、あとはお肉を焼くだけだね。