やっぱり母は強しだね
こっちに向かっていた団体がギルドに到着したみたいで、玄関から応接室の方向に向かって進んでいる。
「ティア、お城から人が来たみたいだけどどうする?」
「うっ………行きたくない………」
仕方ないですね。取り敢えず私の分身だけでも行かせますか。
一足先に応接室に向かって待っていると、予想外の人がやってきた。
「失礼します。私はこの国の王妃、シェリス・リネルティスです」
「え"え"え"え"え"え"え"!?」
「うるさいよトム」
まぁ、まさか王妃が直接来るとは思ってもみなかったけど、そういえば昨日のメイドさん、確か王妃様に相談だかなんだかって言ってたっけ?それは元々聞かされてなかったってやつだっけ。
「立ち話させる訳にもいかないんで、取り敢えずそちらへどうぞ」
「そうね、お言葉に甘えましょう」
取り敢えず向いに座った王妃様にもお茶を出して後ろに下がる。
「あら美味しい。茶葉もそうだけど、道具や技術もなかなかね。頼もしいメイドさんみたいね」
「まあ能力だけなら。それと今王女さんの面倒見てるのはこいつですよ」
「ライムです」
相手が相手だから一応軽く頭下げたけど、この王妃様、見た目から物腰の柔らかさと言うか、優しさみたいな。例えるならお母さんみたいな静かな女性ってイメージがある。
「そうなの……それで娘は、ティアはどちらに」
「一応私の部屋には居るんですけど、聞いても行きたくないと言うだけで」
「………」
あ、王妃様なんか怒ってそう。悲しそうな顔してるんだけど、何かこう内側に怒りが感じられると言うかなんというか、帰ったら王様凄い怒られそう。
まあでも、話をしない事には解決しないし。この王妃様、多分だけどティアここにしばらく居ることくらい許してくれそうだけど。
「シェリス様、お隣、少々失礼してもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ?」
この部屋にいるのは私達いつもの6人、王妃様と昨日のメイドさん、それから護衛が何人か居るけど、よく得体の知れない相手が傍に寄ることを許しましたね。
「随分と信頼されてますね」
「あら、これでも王妃よ。あなた達のことは、良く調べさせたわ。だけど国への貢献はしていても、問題を起こしたって報告は無かったわ」
なるほど、確かに王家の人間本人が相手の城に乗り込むんだから、徹底的に調べたってことですか。
と言うか相変わらず物怖じしないねラムネは。
「それじゃあ王妃様、このモヤっとしてる丸い部分に声をかけてください」
「?」
「これはまさか!?」
王妃様はこれが何かわからなかったみたいだけど、そのお連れの、見るからに魔法使いやってます的な人が驚いてるから、こっちの人は分かったのかな?
「ライム、それって時空魔法の応用?」
「黙ってたのを気にしてるなら、今度教えますよ。理論云々はあまり分からないから殆どか感覚的な物になるけど」
「大丈夫。ライムは魔力の扱いが丁寧だから見ていてわかり易い。こうかな?」
それは褒め言葉なんですか?と言うかサラッと人の魔法コピーしないで下さいよ。
「えっと、どういう事かしら?」
「王妃様、率直に申し上げます。この者達は我々王宮に仕える魔法使いはおろか、かの魔道王国に居を構える魔道議会、その中でも相当の上位者と組織が認めた者と同じ所業を、この者達は成しているのです」
それを聞いた当の王妃様は、何かを考えるようにしながらも暫くして再び向き直る。
「そこに向けて話せばいいのですね」
「はい。それで離れてるティアにも声が聞こえます」
少し言葉を考えているのだろうか、魔法の前で沈黙を続ける王妃様だったけど、それも数秒だけの事、意を決して口を開く王妃様は、まずはティアの名前を呼ぶ。
「ティア……ごめんなさいね。私はこの国の王妃である前に、あなた達の母親なのに」
「………」
はぁ、両方の部屋に居るから思うけど、早く仲直りすればいいのに。
知らなかったからこそ本気で心配する王妃様と、許したいと心では思っていても、それをまだ認めたくなくて維持になるティア。と言うかティアに至ってはもう泣いていて見てられないんだけど。
「王妃様」
「何かしら」
「家族のゴタゴタに首を挟む気は無いけど、ティアの所までのお送りしましょうか?」
「………お願いできるかしら」
「お任せ」
そう言って指を弾きトリガーを引く、一瞬にして発動した魔法の後に、王妃様の姿は無く、無事にティアの元まで転移させることが出来た。
訳だけど………。
「おいメイド!貴様いったい何をしたのだ!?」
「王妃様を何処へやった!」
確かにこれは、見方によっては誘拐現場の様にも見えなくもないのかもしれない。
説明を面倒と思いながらも対策を考えていると、護衛の2人を手で制して止めてくれたメイドのリールさん。
「落ち着きなさい。王妃様の魔力は感知できます。この子はただ本当に、王妃様をティア様の元へ転移させただけよ」
向こうの執務室が騒がしかったけど、リールさんはなかなかに優秀なメイドさんみたい。もしかして私みたいに戦えるメイドなのかな?隙も殆どないから、個人的な感想だけど結構な強者と見受けました。
それはさて置いて。転移した直後、ティアを見つけて抱き寄せる王妃様と、驚いて固まりながら、さらに涙を流してるティア。
「ごめんなさいティア……私がもっと気にかけていれば」
「私も、ごめんなさい……」
これでハッピーエンドでいいよね?
暫くそのまま抱き合う2人、ティアが泣き止むのを待っている間に、ミーゼは少し用事があるからって帰って行った。
結構暇してそうに感じたけど、やっぱり一族の当主ってなると何かと忙しいのかね。
「ティア、お城にはまだ帰らないのかしら?」
「嫌なのだ。お母様は悪くないけど、お父様が悪いんだもん」
「そうね。お父様は後で叱っておくから」
ティアの主張を聞いて、それに頷き、そして考え始める王妃様。たまにこっちを見てきたりするけど、何にそんな迷ってるんだろうか。
「ライムさん、事情はリールから聞きました。そしてあなたはティアを、しばらくの間預かると言いましたね」
「そうですね。それはあくまでも家族許すならと。ただ言った後で申し訳ないですけど、私達は元々この世界の住人じゃないので、四六時中目を光らせることはできません」
私が質問に答えた後、また暫く考えてから。少し真剣な表情でこっちを見てから、表情を崩してティアに向き直る。
「ティア、あなたがこの場に留まることを、王妃として、母として認めましょう。国王陛下のことは任せて、反省したら迎えに来るわ」
「お母様ありがとう!」
国王だって一人の父親、家族のことでは母には勝てないということですか。
て言うか今の話聞いても、許可出すんですね。
「それじゃあライムさん、娘をよろしくお願いしますね」
「出来るだけ目を離さないようにしてみます」
最後にそう伝えると、王妃様は微笑みながら馬車に乗って帰って行った。
取り敢えず見送りは終わったから、後はティアの部屋をどうするか。
「ここじゃダメなのか?」
「いいけど、あまり居ても楽しくはない部屋だよ?」
「いいのだ!それにこのベッドは気持ちいいからな!」
それならいいかな。ベッドだけはって拘り抜いて作り上げたからね。
取り敢えず屋敷の中の案内は、また明日に回して今日はもう寝よう。
布団に潜ったら、そのままログアウトしてこの日は終了。




