突撃!腹ぺこ悪魔様
ティアも直ぐに眠りに入ったし、私もやる事をやるため有言実行。
「と、言うわけで」
「いやライム?流石にそれは氷菓に頼みなよ」
「ん?私が頼みたいのは器は作れるから、土台が欲しいんですよ」
別に今回の付与は私がやれるから氷菓を頼る必要は無い、じゃあ何がして欲しいのかってなるけど、欲しいのが魔法具本体じゃなくて、その魔法具を取り付ける土台だって分かると納得したみたいで、アイテムボックスを漁り出した。
「あぁ、そういう事ね。それならすぐ出来るけど、何処に着けさせる気なの?」
「取り敢えずネックレスにします」
「大きさは?」
「これ」
そう言って取り出したアイテムを見て、目を見開いてソレに食いつくミューだけど、確かに私も最初聞いた時は驚いたけど、使い方によってはかなり幅の広がる能力だし、私も今後が楽しみです。
「ちょっ、これって……魔法石、それも特大サイズってあるけど」
「実際にそうですよ、これは……」
それから少し、この特大と言いながら、その見た目が極小レベルに小さい魔石についてミューに話してあげた。
これは使用人としてここに来てくれたネムリさんの錬成って言うスキルで、私が錬金術を使って限界まで純度と質量を底上げした物を、そこから限界まで圧縮してもらったもの。
「そんなスキル持ってる子が居るなら教えてくれても良かったんじゃない?」
「数日前に入ったばっかですよ?」
「そうだけど……でも分かったよ、土台だよね」
「お願い」
完成を待つ必要はないから、こっちもこっちで魔石に付与と回路の組み立てでもして時間を潰しますか。
「ライム〜、ほいこれ」
「ありがとうございます」
それじゃあ早速取り付けて、土台の方にも回路を通せば出来上がり。
「それじゃまた」
「ああライム!」
「なんですか?」
「迷宮でなんか素材手に入れてない?」
あぁ〜、大体のものは片っ端からギルドに卸してるけど、今あるものでミューが使いそうな物ってだけでも結構あったりするんだよね。
「これとかは?」
「それは?」
「上位竜の角」
「まっ!?まじですかライム?」
まじも何も目の前に実物があるんだけど?
「これ貰ってもいいかな?」
「いいですよ、ちゃっかり合金使ってくれた事への御礼です」
「ありゃりゃ、バレてたか」
「沈黙は金、わらしべ長者は成功ですね」
そう言って私は、アイテムボックスからもう何本か同じ物を取り出して置いていく。
「流石にこれは貰いすぎじゃない?」
「気持ちみたいなものですよ。それに今後はもっと大変な依頼をしますから、頑張って腕を磨いて下さいね」
そう言って今後依頼するであろう事を少しチラつかせてみると、分かりやすいくらいにミューの肩が反応した。
「それは何かな?今の僕じゃ実力不足、ていう事かい?」
「ステータス上の問題は無いと思う。でもまだ技術が足りない」
そう言って私はアイテムボックスから、とある一振の石剣を取り出して見せる。
「それは一体?」
「騎士王国パランガーディンにある異様に高い山の上で拾った石剣、何となくで拾ったつもりだったんだけど」
この石剣、名前が石剣って表示されるだけで、その他の情報が一切見ることができなくて、気になったからそのまま持ち歩いてたりする。
するとミューは、少し震える手で異次元に触れるとそれから少しして、酷い衝撃でも受けたようによろめいて膝を着いた。
「だっ、大丈夫ですか?」
「イッ……?確かにこの石剣、今の僕だと手に余るかも。でもそれなら尚のこと燃えてきたよ。ねぇライム、その石剣、僕にいじらせてくれる?」
「元々その予定ですよ。私もこれともう少し、何かないか探してみます」
そう言って私は工房を後にしたけど、実はこれと似たような物、他の人が見たらガラクタに見える様な物を、実は幾つか見つけていたりする。
ただの勘でしかないけど、多分これだけじゃ足りない、そんな気がしているからこそ、迷宮の攻略に励んでいたりする。
部屋に戻った私は、部屋で寝るティアの側にある机に、さっき作ったばかりのネックレスと置き手紙、それから近くに冷蔵庫替わりのアイテムボックス機能付きの物入れを置いておく。
このアイテムボックスには、私が作った料理なんかを溜めていたりするから、数十人程度の胃袋じゃ早々無くなることは無い。
「これで大丈夫ですね」
「スゥー……スゥー………」
「お休みなさいティア」
私はビルドと双子の姉妹だけど、私は妹側だから、いつも甘やかそうとする家族が少し煙たがった時もあったけど。
「妹ってこんな感じなんですかね」
余裕で余ったスペースに私も寝転がってログアウト、明日は学校が早く終わるから、なるべく早くこっちに来れるようにしよう。
予定よりも早く終わった学校から、大勢の生徒が帰宅する中を、私も少し急ぎ足で家に帰る。
家では相変わらず。家族揃ってお昼を食べて、食器の片付けも終わったところでゲームにログインする。
そしてログインした私の部屋に入って来たのは。
ベッドの上で未だに寝息をたてているティアと、昨日私が置いていった物入れを漁り、料理を取り出しては食べ続けている。全くもって見覚えのない女の子だった。
「ん……ライム……どうしたんだ……てっ、なんだこの状況は!?」
「んん!?」
食べるのに夢中で気づいてなかったのか、こちらに気が付いた女の子は、まるで悪魔のような黒い翼を拡げて、今にも窓から飛び出そうとしているけど。
「逃がさないよ。結界をフル起動、即座に拘束」
「んな!?」
あっという間に簀巻きにされてしまった女の子は、慌てた様子で言い訳という名の弁明を開始した。
「ちっ、違うんだよ。これはただ腹が減っていて帰れなかったから、それで魔力を回復する為に仕方なく沢山食べてたんだ!そしたらどれもこれも美味しくて、気がついたらこんなに食べてしまったんだ!」
「最後の晩餐には純分な豪華さがあったでしょう。遺言はそれで構いませんか?」
「おっ、お前まさか私を倒す気か!?」
勝手に人の料理食べておいて、何の罰もないのは流石に通りませんよ?
「わ、私は悪魔の中の悪魔!暴食の悪魔の子孫にして現当主のミーゼ様なんだぞ!」
「ならその暴食の悪魔様に教えてあげますね。食べ物の恨みは怖いんですよ」
「うぅ……」
一応は笑ってるつもりだけど、多分目が笑ってないせいで、怖がられてるのかな?
「な、なぁ……ライム?そ、その子どうするんだ?」
「そうだぞ!殺すなら殺せばいいさ!そもそも人間如きが私達悪魔にいだ!?」
このままじゃ本当に話が進まないから、少し静かにしていて下さい。
「別に殺しはしませんよ。それじゃあ、取引しましょうか」
「取引?」
本来なら取引を持ち込む側の悪魔が、その取引相手の人間に捕まった上に、お得意の取引で主導権を握られているのはこれ如何に。
「そうですよ。内容は、私は美味しい料理をあなたに、あなたは一族の一番大事な物を私に、という取引です」
「それはダメだ!」
「料理は別に今回限りじゃ無いですよ?食べたいなら好きに食べに来ても良いですよ」
「す、好きな時に食べて……くぅぅ……」
いやそれで揺れるんですね。悪魔が皆してこんなにチョロくは無いだろうけど、これはこれで逆に心配になってくるくらいですね。
だけど、これならもう一押しかな?
「それじゃあティア、お昼にするからこっちに座って下さい」
「え、でも」
「いいからいいから」
少し無理矢理だけど準備は整った。さぁ暴食の悪魔とやら、私の料理を前にいつまで我慢できるかな?
「どうぞ」
「おおぉ〜、何だこれは?」
「パンケーキですよ。お昼と言っても寝起きですからね。あまりガッツリ食べるのか分からなかったし、これなら量も変えやすいですから」
「美味しいのだ〜」
こんなところかな、さてどう反応するか。
「お前悪魔だ〜」
「悪魔に悪魔呼ばわりされたくはありませんよ。それで、どうするんですか?」
「ほ、本当に料理作ってくれるのか?」
「食べたいなら作りますよ」
「………。分かった、その取引を受け入れる」
交渉成立ですね。それならこれはもう必要ないですね。
それと私はもう1つ椅子を用意して引く。
「ミーゼはこっち、出してあげるからちゃんと座って下さい」
「へ?」
「食べたいんですよね?」
「ミーゼ早くするのだ。ライムの作る物は美味しいぞ♪」
「………知ってる!」
さて、王城の方から団体のお客様が来ていることですし、その辺を皆に連絡して、私はもう少しここでのんびりしつつ、もはや日課になりつつある分身隊の成果の確認をしますか。




