それ原因は国王様じゃないか!
手を取って移動することしばらく、ようやっとギルドハウスの前に着いたけど、大変だった。
ティアーー少し前に呼び方を決めてこうなったーーは元々お城から抜け出して来てたから、お城に近づく私の足取りに不安になったのか、何度か寄り道をせがまれたりと、それはそれは王女様らしく振り回してくれましたね。
「ここですよ」
「大きいのだな……」
「そうですね。私の自慢のギルドですよ」
そう言って正面から入っていくわけだけど、誰にも見られずにってことはできませんよね。
「あら?ライムちゃんその子どうしたの?」
「なになに誘拐したのグヘッ!?」
「ミューは冗談が上手ですね〜」
「待って!?謝るあら!謝るからその右手の手刀は止めてぇー!?」
「はぁ」
とりあえず訳があることと、クエスト関係じゃない事は伝えて中に入る。
二人も何となく気づいてるみたいだけど、多分敵対関係にはならないだろうから、訪ねてくるようならそのまま通していいと伝えておく。
玄関の広間に入ると、奥から他のメイドが来て先導する。どうやらラムネから案して来させるように言われてたみたいで、ラムネの居場所を聞くまでもなく、ギルマスの執務室に直行呼び出しコースで連行される。
「ラムネさん」
「入っていいぞ」
私が来てるのは分かってるみたいだね。それならと、扉を開いて堂々と入っていく。
「ラムネ、連れて来たよ」
「その子か?お前が言ってる面倒事の種は」
「えっと……」
ラムネを前にして、と言うかラムネの威圧感を前にして、握る手に力が籠っているティアの頭に手を置いて、優しく撫でて落ち着かせる。
「大人気ないよ?」
「はぁ……わかったよ。それでそいつでいいんだな?」
「そう。でも助ける。もう約束もしたし、面倒事でも問題があるものじゃない」
「お前はそれでもいいが、その子が問題にならないって言い切る確証は?」
本心じゃそんなのどうでもいいくせに、ギルマスとしての責任ですかね?
「別に言い切る訳じゃないけど、ラムネも気づいてるでしょ」
「何の話だ?」
「ギルドの外に誰か居ること」
「いや普通に入って来てんだが」
そりゃあ通しても大丈夫って言ってあるし、実際来たところで敵にはならないでしょ、事情的にも実力的にも。
「問題あった?」
「いやないけどあんまり勝手をするなって言ってんだ……」
凄い疲れてますね。お客さんももうすぐ来るだろうし、お茶でも持ってきますか。
分身体を一人食堂に、もう一人を玄関のお客さんに向かわせてから少しして、私とティアは部屋の長椅子に、その向かい側にラムネを座らせて待っていると、直ぐにノックの音が聞こえて来た。
「通してくれ」
「失礼します」
そう言って入って来たのは、少し長めの金髪を首の後ろで一本に纏めている赤い瞳のメイドさんだった。
「あなたも座って下さい。話はそれからにします」
「分かりました」
滅多に見ないですね。ラムネのこんなにも丁寧な態度は。
それとメイドさん、何故空いている他の席ではなく同じ椅子の、それもティアの隣に座ってくるんですか?
抜け出して来た手前、ティアも居心地が悪そうにこっちに寄って来ますし。
「はぁ……ラムネ少し待って」
「はいよ」
ラムネもこのままの空気だと少し居心地が悪いみたいで、私が何を言いたいかは察してくれた。
私はまたティアの頭に手を置いて、ゆっくり撫でながら話を切り出す。
「ねぇティア、悪いと思うなら素直にごめんなさいだよ」
「で、でも……」
少し意地になりながら、それでも謝ろうとするのは見ていて可愛いけど、ティアの今後のためにも、こういう時は謝らないと、それに。
「ティアを怒る人はいませんよ。皆心配してるだけ、だから心配させたティアは謝らないといけない」
「グス……ご、ごめんなさぃ……」
「いいえ。ティア様は悪くはありませんよ、元はと言えば国王陛下が悪いのですから」
「ゔぅ……」
そう言ってティアを抱き寄せたメイドさんは、そのままあやす様に背中をさすり続ける。
ティアも色々と溜まっていたみたいで、目からは大粒の涙がとめどなく溢れている。
「お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いいですよ。さっきのままだと気になって話し合いも出来なかったですし」
「紅茶とお菓子です」
「これは……」
「ティアも遠慮しないで大丈夫ですよ」
「ん〜!これは美味しいぞライム」
素直に褒めてくれるのは嬉しいけど、それはそのはずです。
「私が作ったんですからそれなりに美味しいのは当たり前です」
「これが必須ステータスガン振り主婦の台詞か……」
「浮気はダメですよ?」
「いや何の話だよ」
この無自覚さをまじかで見てると、フィロが少し可哀想になってくる。
それでも全く意識してない訳では無いし、それはラムネのフィロに対する接し方でも十分なくらい分かりやすいですし、しばらくは見守るだけにしますか。
「それでは、まずは自己紹介からとしましょう」
「そうですね」
それからは全員の自己紹介をして、そして今どうなってこんな現状になっているのかを聞いた。
ことの始まりは数日前のティアの誕生会での事で、その時に祝いに来ていた他国の貴族がティアの事を気に入ったみたいで、その貴族から話を聞いた国の王子が興味を持って、そこからちょくちょく外交として付てきていたみたいで、それを初めて知ったティアは当然驚いてる。
という訳で一方的だけど、ティアの事を気に入った向こうの王子が、ティアのお父さんにその事を伝えて、その気持ちを知った国王も是非にと進めて今回の御付き合いの話になってくる。
と言ってもティアのお父さんは、実際のところそこまで乗り気ではないらしく、あくまでもお試しにというつもりだったみたいで、まさかこんな事になるとは思ってなかったらしい。
まあそれでも。
「随分ど勝手ですね」
「全くですね。ティア様を大切に思うなら、受けるよりも先にご相談なさるべきなんです。それこそ王妃、シェリス様にでも相談なさればこんなことには」
「あー、二人で一致団結している所悪いんだが、それで今後はどうするんだ?」
「そうですね……」
今後ね……今のままじゃどうせティアは帰りたくないだろうし。
「それならリールさん、ティアを少しの間だけ、このギルドでお預りしますか?」
「えっ、いやしかし……」
「私は帰らないぞ!」
そう言って私の腰にしがみついてくるティアは、絶対に帰らないとその姿からも固い決意がかぶれ出ている。
取り敢えず撫でておく。
「はぁ……仕方ありませんね。それならば一度、王城に戻って聞いて来ます。もし許しが出るならばという事で、ティアもそれで構いませんね」
「ああ、例え許しが出なくても、お父様とはお喋りしてあげないのだ」
ティアは何処か私に似ていますね。私もお父さんがしつこく構ってくる時に、口を聞かないって言って反省してもらうから。
「それでは、私はこれでお暇します」
「はい。お騒がせしました」
「こちらこそ、大変ご迷惑を」
直ぐに部屋を後にしたリールさんの見送りは、本人から必要ないと断られてしまった。
仕方ないしそっちはいいとして、ティアを取り敢えず部屋に連れていかないと。
「ああ、ライムお前、その子何処に連れてく気だ?」
「何処も何も私の部屋ですよ」
取り敢えず部屋には空間魔法でかけた何百、何千の魔法防壁と常に変化し続ける解錠の暗号はいいとして、一先ずはティア本人に出来るだけ強力な魔道具を渡して、暗号はそっちに連動して通れるようにすれば問題はない……訳じゃないけど、少なくとも少しの不安は解消できる。
そうと決まればっと、その前に着きましたね。
「ここが私の部屋」
楽しみにしてるところ悪いけど、私の部屋はそこまで面白くはないと思う。
「これがライムの部屋?」
「そうですよ。私は眠る事が生き甲斐なので、現にこうして、分身体が今も尚ベッドの上で寝てますし」
「へぇ……」
私の部屋はキングサイズよベッドを置いて、余ったスペースに自作で家具を置いただけだから、ベッド以外にはそれ程の拘りは持ってない、それ故に部屋をベッドに侵食された訳だけど後悔はしていない。
「それでも寝心地は保証しますよ」
「うお!?」
取り敢えず今日はもう遅いしティアを抱えてそのまま布団に押し込む。
「ふぁあぁぁ……」
街中ではずっと緊張していたのでしょう、気がつけば直ぐに寝息をたてて夢の中に向かってしまった。
「さてそれじゃあ私も」
さっき考えた道具、出来るだけ早くやらないといけないので早速ミューの工房に突撃でもしますか、まだログインしてるのは確認済みですし。




