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世界最後のライブをあなたに。  作者: 高橋テツヲ
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イントロpart2

 現在歩いているのは鉄道が通っていた高架橋の下だ。

 まばらに生えている雑草は手入れされるわけもなく、車に踏みつぶされることもなく、生き生きと生い茂っていた。

 元々は、駐車場として車が整然と並んでいた場所だが、今はすっかりと朽ちていて車の隙間という隙間に苔が生えかかっている。

 彼は一つの傷だらけの鍵を手にして一台の車に近づいた。

 元々はボタンを一つ押すだけで鍵は空いた車は、電池も切れてしまい古臭い手動で鍵穴に差し込み、ぐるりと半周する方法でしか空かなくなっていた。

 いつも通り鍵を開けて車に乗り込み、また鍵を差し込みエンジンを始動させた。そのエンジンは空虚な高架橋の下に突如発生した化け物のようなうなり声をこだまさせた。

 

…いつ聴いても、心を落ち着かせてくれる。


 ガソリンメーターはもうすぐガソリン切れというところを指示していた。

 そろそろ、ガソリンは腐敗が進み、ガソリン車での移動は困難になっていくだろう。

 太陽光発電を始めていくべきかと思い悩む。

 彼は隣の学区の避難場所へと車を進めるつもりだ。そこには誰も使わない非常食があるはずだからだ。

 ドライブギアをDに合わせ、アクセルを踏んで車が動き出した。

 ずっと開けっ放しになっているツタが絡んだステンレス製の門を抜け、高架橋の側道を走った。

 まだ文明が生きていたころには車を運転したことがなかったが、崩壊してからは誰もいない河川敷や、大通りで車を運転するようになった。

 そんなことを考えているうちに大通りと交わる交差点に着いた。

 どうせ大通りを走る車などいるわけもなく、一時停止なんて無視して右折した。

 高架橋を一旦潜り抜けると昔は国道だった道と交差しており、そこには右には崩壊しかけているガソリンスタンドと、国道と大通り沿いには窓ガラスが地面に降り注いでいる廃ビルがいくつも並んでいた。

 昔はよく自転車でこの道を通学に使った。

 国道を抜け、一つ目の交差点を左に曲がり、しばらく行くと公園と小学校が一体化した場所に着く。

 かつては散歩に来る人や、授業を受ける小学生が多くいたのだろうが、今となっては寂しく雑草が覆い茂るだけだった。


 公園そばの校門を抜け、職員用駐車場に車を置いて校舎内に入った。

 人の管理下から抜けたこういった場所はいつも独特の匂いが充満している。

 正面玄関から入ったところの事務室で最初は物色でもしてみるかと思い、軋むドアを開け中に入った。

 これと言って使えそうなものは使い捨てではあるだろうが、学校内の図面だ。図面によれば、南校舎4階部分に備蓄倉庫が存在しているらしく、そこで非常食を獲得していこうと思う。

 渡り廊下を渡り、南校舎へと入ろうとしたが、何故か鍵がかかっていた。仕方ないので、さっきの事務室か職員室に鶏に戻ろうかと思い、数歩歩いたところで彼は笑った。


 「どうして鍵なんかを取りに戻らないといけないんだ。どうせここには誰も来るわけがない。壊しては入ればいいだろう。」


 もう人など来るはずもないので、校舎入り口近くにあった花壇付近のスコップを取り、校舎の扉へと勢いよく振り落とした。扉は簡単にレールから外れて、校舎内へと倒れ込んだ。

 南校舎入ってすぐのところに上層階へと続く階段があったので、上がっていき3階へと着いた。そのまま4階に行こうと思ったのだが、せっかくだしいろんな教室を見てみようと思い、3階の奥の方にある家庭科室へと入った。

 家庭科室の棚にはもう二度と使われないだろう調理器具がうっすらと埃をかぶってそこに居座っていた。

 教師用の大きい調理台の裏側には南京錠で厳重に閉められた小さな扉があった。おそらくは、生徒が持ち出されては困るような品が入っているのだろう、包丁とか。

 武器になりそうなものだが、現在それより強いであろうバールや日本刀、サバイバルナイフを持っているので、彼には必要なかった。

 家庭科室では特に面白そうなものはなく、隣の教室である、理科室へと足を運んだ。

 理科室にはよく怖がられる人体模型や骨格標本がそのまま置かれていた。人がいなくなった今では、夜中に学校内を徘徊しているのかもしれない。

 理科室には特に何もなく、隣の理科準備室に入った。

 理科準備室の棚にも家庭科室の包丁が閉まってあるところ同じように、生徒が触らないように頑丈な南京錠で封印された棚がいくつもあった。

 棚の中には危険な薬品などもそのままの状態で放置してあった。

 使えそうな薬品もあるだろうと思い、近くの本棚にあった保管薬品リストを頼りに見ていく。

 保管薬品リストには、各薬品が保管されている棚の番号と、薬品の特性などの情報が記されていた。

 ここでは、引火性が高く着火剤に利用でき、消毒にも利用できるエタノール溶液だけをとりあえずもらうことにする。

 2番目の棚に入っているらしく、その棚の南京錠を壊そうとしたが、それに利用できそうな工具がなかったので、扉の金具部分を破壊して扉そのものを壊し、薬品を得ることにした。

 金具部分をバールで叩き壊し、扉を取り外したら中にあるエタノールを取り出し、近くにあった教材に使う予定であっただろうB4のいくつもの実験用器具が記された紙でぐるぐる巻きにして、輪ゴムで止めてリュックサックの中にしまった。

 

 そろそろ本題の非常食を得るために最初に上った階段から4階に上った。

 4階は一部が雨漏りしているらしく、床の腐食が若干見受けられた。

 備蓄倉庫は階段上ってすぐの部屋で、鍵がかかっていたのでバールを使って入った。

 文明が崩壊する前からも、部屋に入る人はいなかったらしく、埃が非常に舞っていた。

 窓のところには暗幕がかかっており、暗かったのですべて開けて、窓も開けた。

 明るい日差しが差し込み、涼しい風が頬を掠めていった。

 4段にも積み上げられた非常食の山には圧倒された。中身は見た目ほど重くはなかったが、落とさないように慎重に一つずつ持ち上げ車の中へ入れていった。

 全部運び終わるまでに1時間ほどかかり、運び込めなかった分は正面玄関の床に置いておいて、後日また取りに来ても楽なようにしおいた。

 

 彼は車のエンジンをかけて、また拠点へと戻っていった。

 拠点は出発した駐車場の目の前にある元テレビ局のビルだ。

 荷物を台車を使って運び込み、部屋の隅へと積み上げていった。

 この部屋は元々、音響機器を置いてあった部屋らしく、巨大なミキサーなどが置いてある。

 できれば自宅で過ごしたかったのだが、自宅周辺は火災で辺り一帯が焼け野原になっているので暮らすことは到底不可能だった。

 一時期は市街地の雑居ビルや市役所、ショッピングモール、マンションなどでも暮らしたりして、いろんなところを転々としていた。

 現在はここに落ち着いているが、いずれまたどこかに移動するかもしれない。

 機材室にあった備品はすべて第二スタジオに放置している。

 現在は家具量販店から軽トラで運んできたベッドと他の部屋から持ってきた机やいす、本棚を設置して寝泊まりしている。

 実はこの部屋は部屋の中に壁があり、二つの区画に分割されている。扉から入ってすぐのところは、ほとんど何もしていなく、天井に大きな青い穴が開いているだけのスペース。奥のスペースはさっきの家具を設置している居住空間だ。雨の時は水が入り込んでしまうので屋上に上がり、ブルーシートをかぶせて水が入らないようにしている。

 扉側のスペースではお湯を沸かせるように鍋とカセットコンロが設置されている。ここで夜に食べるインスタントラーメンはそこそこおいしくて悲しい味がする。

 

 日差しはいつの間にか傾き、深い深い夜へと向かっている。


  …………………


 自転車を駐輪場に置いた俺と大岡は生徒昇降口は土日閉まっているので、職員用の正面玄関から入って、履物を手にもって構造的には珍しいだろうが2階にある生徒昇降口にあるげた箱へと向かった。

 げた箱に靴をしまい、スリッパをはいて部室へと向かう。

 2階から3階へ上がる階ですでにディストーションのかかったギターの音が聞こえてくる。

 「今村はもう来ているらしいな。」

 「だな。」

 大会へ向けた練習メニューを大岡と相談しながら部室がある5階へと向かう。

 部室の軋むドアを開けると、大量の機材がある。

 そこの中から自分の機材を出し、4階の東側に後輩が作ったスタジオへと向かう。

 そのスタジオへ近づくにつれて、ディストーションのかかったギターの音はどんどん大きくなっていく。

 そのスタジオのドアの窓からはギターを弾く一人の女子の姿が見えた。

 ガラガラとドアを開けるとそこには俺と同じバンドの今村が椅子に座ってギターを弾いていた。

 ドアの開く音の方が大きかったのか、今村はギターを弾く手を止めこちらを振り向いた。

 「おそーい!いつまで待たせるのよ!」

 開口一言目は毎度おなじみのお説教だった。

 「わりぃ、ちょっと街中で買い物してたら遅くなった。」

 俺はそう言い訳して自分のいつものポジションへと向かう。

 「そんなこと言って、土日のスタジオ練習の日、いつも二人とも遅れてくるじゃん!」

 俺は持ってきた機材を組み立てていく。

 「この暑さが言うことを聞かせてくれないんだ。」

 大岡も自分の機材を足元に組み立てながら反論する。

 「暑さに負けずに来た私はどうなるのよ!」

 俺は機材の上にまた機材を乗せて、うしろに下げた机の上に置いてある機材とシールドで接続した。

 「おめぇ…いつも冷房のガンガンに効いたバスで学校まで来てんじゃねーか。」

 電源を入れた機材と機材を操作して準備が完了する。

 「うっ…でも、だからと言って遅刻するよりはいいでしょ…きゃっ!」

 今村がしゃべり終わると同時に俺は音を出し始めた。音が案外大きかったのか、今村は小さく悲鳴を上げる。 

 「ちょい、お前音大きいぞ、ちょっと下げろ。」

 大岡も俺に注意してくる。

 「わりぃ、ボリューム下げるわ。」

 そういってまた機材を操作して音を少しずつ下げていく。音はきれいなピアノの音だった。

 「もー、驚かせないでよ!」

 そう、俺が使っている機材はキーボードだ。音はキーボードとつないだシールド、そしてミキサーを通してスピーカーから出ている。

 「ごめんって…大岡は準備できた?」

 大岡は自分の機材を設置し終え、大きな音を出し始めた。それは巨大なリズムを刻むドラムだ。

 

 そう、俺たちは私立川浦学院高等学校軽音楽部、ファントムだ。

 とは言ったものの、もう一人が来ていないのだが。

 「あとは守月だけなんだけど、来ないなァ…」

 大岡も椅子に座りそんなことをつぶやいていた。

 「よかったわね、あんたたちがビリじゃなくて。」

 今村もそんなことを言っている。

 そんな中俺は暇なのでキーボードで適当なアニソンでも弾いている。

 元々ピアノをやっていたので、ある程度ピアノも弾けるのだ。

 そうしていると、大遅刻をしてきた守月が到着した。

 「おっそーい!もっと早く来てよ!」

 ついに今村が怒った。

 「ごめんよ~。寝坊しちゃった~。」

 「とりあえず、早く準備してくれよー。」

 俺はそう言ってまたピアノを弾き始めた。

 「またなんかピアノカバー増やしたね~。」

 守月が俺に準備をしながら話しかけてきた。

 「あぁ、また好きなアニソンコピーしちゃったよ。」

 守月は見た目はかわいいのだが、中身がかなりのアニオタだ。俺もそこそこアニメは見たりするのだが、守月はそれ以上だ。話によれば、小6の時からアニメに目覚めたらしい。

 「今度さ、このアニソンコピーしてよ~。」

 そう言ってスマホを俺に差しだしてきた。

 スマホの画面にはプレイリストが表示されていて、最近話題のアニメのオープニングが流れていた。

 「これめっちゃやりたいやつ!今度コピーしてみるよ。」

 「ほんと!?めっちゃうれしい~!」

 そうしているうちに守月の準備も終わったらしく、アンプから重低音の歪んだ音が耳へと流れ込んでくる。そう、守月はこのバンドのベース担当だ。

 

 「よっしゃ、全員準備完了したし、1曲目を一回全部通してみよっか。」

 

 そうしてドラムのカウントから曲が始まった。

 守月のベースが中低音を奏で、俺が歌って、ピアノのリフが聞こえるAメロ。

 そして大岡のドラムと今村のギターが入ってサビの盛り上がりへと向かうBメロ。

 サビ、すべての楽器が壮大なハーモニーを奏でて最大の盛り上がりを見せつける。

 

 一曲目がすべて通しで演奏が終わった。

 「うん、いいと思う。」

 大岡がそうつぶやいてみんなが頷いた。

 「ギターソロのところをさ、もっと歪ませてもいいと思うんだけど、どうかな?」

 俺が切り出して1曲目の改善点の話し合いが始まった。

 「確かにもうちょっと目立った方が良いかも。」

 今村もそう感じていたらしく、改善方法を考えている。

 「キーボードのピアノはもう少し音を下げて、強弱意識してみようかな。」

 「それがいいと思うよ~。」

 「ベースは多分そのままの形でいいと思うよ。」

 「今村のコーラスがもうちょっと出ているといいかもしれないな。」

 「ラスサビのところを転調させたらどうかしら?」

 「それはちょっと音域が高いから俺がきついかも…。」


 その後も改善点を話し合い、それらを意識して練習をして午前中の練習は終わった。

 「午前中はここまでにして、昼食にしようか。コンビニ行こー!」

 そうして俺たちは学校からすぐのコンビニへと向かった。

 「かなりいい形になってきているんじゃないか?ピアノがいい味出してる気がする。」

 「確かにそうだね~。これなら大会へも順調に行けそうだね~。」

 「大岡のドラムもリズムのずれがあんまりないからめっちゃいいよ。」

 「そっかぁ?やったぜ。」

 「でも、油断はしちゃダメよ?他校だって最近頑張ってきているんだから。」

 「確かに今村の言うとおりだな、もっと上を目指そう!」

 コンビニ内はエアコンが効いていて涼しかった。

 「大岡は何食べるんだ?」

 「んー、俺はこのでっかい焼きそばだな!」

 「そんなに食べて大丈夫なのか?」

 俺が目にしたのはティッシュ箱が二つは余裕で入るであろうサイズの超ビッグサイズの焼きそばだ。俺には到底そんな巨大な胃袋は持ち合わせておらず食べられなさそうだ。

 「食いしん坊にはちょうどいいんじゃないかしら?」

 「そんな今村は何食べるんだ?」

 「私?私はパン1つとオレンジジュースだけで十分よ。」

 「まぁ、女子はそんなものなのかもな。」

 かごに入っていたのは、言ったとおりのチョコクロワッサンと果汁100%のオレンジジュースだけだった。

 「そんな西川は何食べるんだ?」

 

 …そういえば、俺の名前は言ってなかったな。俺は西村仁だ。


 「俺はそうだな、暑いし冷やし中華でも食べるかな。」

 「おぉ、それもいいな!俺も次はそれ食べるか。」

 「…大岡、次はそれじゃなくて、今回はそれも、だろ?」

 「あっ、バレた?」 

 この食いしん坊は食べたいと思ったものはすぐにでも手に入れてしまう馬鹿だ。この前レストランでは、スパゲッティーを食べたばかりなのに、ハンバーグを見た瞬間にすぐに注文ボタンを押して注文しているというほどだ。

 「はぁ、この食いしん坊はどうしようもないな…守月、何を悩んでいるんだ?」

 「あ~、じつはね~、このお菓子を3個買うと、このアニメクリアファイルがもらえるんだけど、どれにしようか迷っているんだよね~。」

 「お、このアニメめっちゃ面白かったなぁ。実は主人公が敵だったっていう。」

 「あっ、その話しちゃいます!?私止められなくなりますよ!?」

 「いえ、遠慮しておきます…。」

 俺は即座にその申し出を断った。恐らく30分はこのコンビニから出られなくなるだろうからだ。

 とりあえず、昼食に冷やし中華一つと、棒アイス一つと、コーラを一つ買って外でコーラを飲んだ。それにしても、この暑さは異常だと本当によく思う。

 「全員買い終わったか。じゃあ、戻るか。」

 若干一名、未だにクリアファイル選びで迷っているが、置いていくことにした。

 

 昼食をスタジオ隣の教室で食べて、再び日が暮れるまで練習を続けた。

 そうして夏休みの一日が終わった。

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