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ボブとジェイ

「「立体音響?」」


加恋と美穂が口をそろえてその()()()()の内容に、

驚愕という程ではないが、意外性を感じることを伺わせることが、わかる返事を出した。


そして話の最中に蓮が並べてくれた幾つかの資料について説明が始まった。


真司と蓮が説明するには、そのゲームは選択肢無しの一本道のノベルゲーム。


プラットフォーム、

つまり対応機種はスマートフォンのアプリ配信


ストーリーは近未来、宇宙旅行中の男三人、女三人の学生達が、

宇宙船エゴイスト号に突如デブリがへばり付いたと思ったら、それが謎の宇宙生命体に、一人づつ殺されていく中で、地球への帰還と、宇宙生命体を撃退を目指していくという話だ。

キャラクターデザインは、

SFホラーの内容に負けないように、

程よくかっこよく、可愛くデフォルメされていた。


()()()()()()


キャラクターは男の方が、

リーダー気質のスポーツマン、イケメン金髪なアレックス。

眼鏡のガリ勉タイプなマイケル。


そして異常に写実的で、やたら筋肉質な、見た感じアフリカ系アメリカ人で、

コメディ映画によくいるタイプの、陽気なボブだ。


女の方は

ツンデレタイプのエリザベス。

おっとり系のアリサ。


そしてこちらも、異常に写実的で、やたら筋肉質な、見た感じアフリカ系アメリカ人で、

男勝りな姉御肌のジェイだ。


なんでも、ゲームのプログラムだとかは公式ツールを使っているので、もう仕上がっているらしく、

ストーリーもあとは蓮が、チャプター6、つまり最終章を仕上げるところらしく、


残りの仕事は背景が三つ、エリザベスの立ち絵のCG、イベントCGが二つ程


そして冒頭で上げた音響である。


「効果音と環境音とBGMを俺と蓮で作っている最中、

それを立体音響として、ゲームにぶち込んだら、

宇宙船という密室空間の臨場感を引き出せるんじゃないか?って蓮が思いついたんだ。」


真司は誇らしげに蓮の閃きを自慢し、

蓮は少し照れ臭く感じながらも、真司の話を引き継ぐ。


「でも、肝心の立体音響については、

僕たちはドがつく素人だ。

今から自分たちでやろうとしたら、どれほど時間がかかるか分からない。

しかし外注しようとしても、僕たちのことを把握している人は一緒に仕事をやりたがらない。

でも僕たちのことを、知っている上で話しを聞いてくれる人がようやく見つかったんだ!」


続けて、真司が興奮冷め切らぬ内にその会社を紹介する。


「その、会社はソラシドビートっていう、

つい半年前ほど出来た会社なんだが、

昨日ダメ元で連絡してみたが、

なんと是非話を聞きたいって返事が来たんだ!

正直今回もダメかと思ったわ!」

「もうかれこれ二百件は連絡したからね!」


その発言に加恋と美穂は、

自分達の想像を絶する苦労があったのだろうと、

思わず苦笑した。


そして、真司はその苦労に思いを募らせた後、

これからの活動を二人の新入社員に報告する。


「そんで、これからソラシドビートさんに挨拶にいくのと、

直接お話しさせてもらおうという話だ。」

「そして音響効果をソラシドビートさんに、

残りのCGとか立ち絵を、俺と加恋が、

朗読形式で収録を、大和が、

細かいバグチェックだとかを、蓮が、

ここまで質問はあるか?」


「ないよ」「ないわ」「ありません」


三人全員の意思は同じだ。


「でも、ちょっと待って。」


そこに横やりを入れたのは合意したはずの、加恋である。

真司は何か質問があるかと思い、聞き手側に回る。


「なんだ?」

「さっきのキャラクターの話だけど・・・。」


そう言いながら、加恋はアレックスや、エリザベスのように程よく、かっこよく、

可愛くデフォルメされたキャラクターデザインの絵を並べて、


異常に写実的で、やたら筋肉質な、見た感じアフリカ系アメリカ人なボブとジェイを指して、

先ほどからずっとツッコミたかった事を述べた。


「ボブとジェイが、名前も絵面も強すぎじゃない?」


そこから、口論に発展するのは、

蓮の想像通りであったのは言うまでもない。


「ボブとジェイはこの内容でこそだろ?!

このキャラクターデザイン以外ありえんな!」

「だったら、写実的か、デフォルメかで

デザイン統一しなさいよ!悪ふざけがすぎるわ!」

「大真面目だ!!!」

「なお、悪いわ!

他のキャラクターデザインどころか、

作品そのものを食い尽くす勢いじゃない!」

「いいじゃねぇか!

俺たちのような新参者は覚えてもらってなんぼだろ?!」

「はい!認めた!今この人自分の非を認めた!

その上で開き直るとか、この先が思いやられるわ!」

「いいんですぅ!お前と違って、

こういう絵も描けるアピールですう!!!」

「それ、言ったわね?!それ、言ったわね!!!」


ついにリアルファイトまで発展した、

二人の喧嘩を見て、ドン引きした美穂は蓮に助けを乞う。


「止めなくていいの?!

割とガチめな、ラリアット二人でかましてるよ?!」

「いいんですよ、あれがいつもの流れなんです」

「えぇ・・・」


蓮はやれやれまたか、呆れた感じであったが、

加恋はこれからの活動に不安を感じずにはいられなかった。


(実は兄さんが書いたボブとジェイは、

僕の意見を反映したというのは黙っておこう)



「それで、蓮君はこれから準備をしなくて大丈夫なの?」


真司と加恋が落ち着いてきた時、美穂が唐突に蓮に聞く。


なぜなら、

真司はライダースジャケットにジーパン。

美穂は白いブラウスに、膝まである紺色のスカート。

加恋は薄いピンクのニットに、グレーのロングスカートと、

外に出ても、恥ずかしくないおしゃれをしていたが、


対して蓮はこれからソラシドビートに、出向くというのに、

使い古した感じが、出ている黒のジャージを着ていたからだ。


その時、真司と美穂は蓮の右手がぶるぶると、

震えているのに気付いた。

そしてその震えは動揺と恐怖心からきていることも。

そのことを、必死に隠そうとしていることも。


「い、いや蓮はこれから、

まだやってもらいたいバグチェックがあるから、

家に残ってもらうことにしているんだ」


加恋は疑う素振りも見せずに、

真司の説明を聞いて、ああそうかと納得した様子で、


「そういうことだったんだ。大変だね蓮君」


と、蓮への労いと感謝の優しい笑顔を見せながら、

返事をだした。


真司と美穂は何とかその場を切り抜けたところで、

ホッとしたが、小声で加恋がこれからの不安を、

真司に耳打ちする。


(どうするの?今日がたまたま土曜日で助かったけど、

正直に蓮君の事情を話した方が、

いいんじゃない?これから働く仲間だし、

ポレポレで働く関係上ずっと隠すのは、

余計な疑惑を生み出すんじゃ・・・)

(話すにしろ、話さないにしろ、

蓮の意思を確認しない限り俺たちに何かする権利はねぇよ・・・)


真司の言うことは最もだと、

加恋はその話しをそこで止めた。



蓮以外の三人は手早く身支度を整え、玄関まで赴き、


「じゃあ留守番とバグチェックは、頼むぞ」

「いい報告持って帰るからね!」

「頑張ってね、連君」


蓮へのいってきますの挨拶を済ませ、出発した。



蓮は三人が完全に玄関から離れたのを確認して。

こう呟いた。


「僕は本当にどうしようもないクズだ・・・・」


蓮は唇を噛み締めながら、震えていた右手を、

未だに外出すらろくに出来ない自分を罰するように、

自分の右太ももに、何度も叩きつけた。


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