実はプロローグなんですけども
さあさやってきました異世界…生活?
突然のバスの事故、気が付いたら崖っぷち
ドラゴンにスマホの謎アプリに、亜人類が蔓延るファンタジー的な何か
彼らは無事 生きる ことが出来るのでしょうか
ど素人のお見苦しい稚拙な文章になりますが
ほんのちびっとでも面白いと思ってくれたらうれしーなー
修学旅行の下見に一般生徒を向かわせるウチの学校の体制はどうかと思うけど、
費用は学校で持ってくれるし、家族同伴でも構わないとの事。
そーして適当にバスに乗ってとりあえず夏だし海にしない? とクラスメイトの意見を尊重し。
俺は海辺の観光地へ(場所は伏す)にやって来た、名前は藍原 要18歳。
特に得意な事もない、趣味と言えばウェブ小説くらいの冴えない男子。
別に文系でもないけど、なんかファンタジーが好きで嗜む程度です。
「おー、海だ、なんか久しぶりだな」
恐ろしく間抜けな意見を口にしているのは俺の兄貴。
藍原 譲27歳独身、高校卒業後、夜の街でホストっぽい事してる。
俺たちの両親は10年くらい前に死んでてさ、兄貴が色々と頑張ってくれてる。
ふざけてるチャランポラン、でも割とシッカリしてるとは思う。
「ホントだ、ウミネコかカモメか分かんないけど飛んでるな」
「なんかテレビや動画でしか見てないからヤケに新鮮っすねー
しかし修学旅行がコッチでいいの? 奈良とか京都行けばいいのに」
確かに定番と言えば定番だけどさ。
「まぁ…そうだけどさ、夏だし海行きたいんだと学校の皆が」
「でも海って言ってもさ、ここ泳げる所あったっけ?」
断崖絶壁という言葉が生まれた場所だと言われても不思議ではないくらい、
ゴツゴツとした岩肌に荒波が打ち付けて、何やらサスペンスの最後の舞台を思い出させる。
「開発進んで奥のほうに白い砂浜を用意してるってパンフに」
「おー自然に優しい自然破壊、外国の柔らかい砂だって」
「一応許可を取れば遊泳とか、貸し切りにもできるって」
「人気ない観光地あるある」
確かにバスの中は数人しか乗ってない。
子連れのオジサン、親子かな。
ギターしょってる軽音女子、かわいいけどキツそうな性格だろーな。
黒尽くめの男、悪の秘密結社のオフィサーだなありゃ。
かなりデブのオッサンと婆さん、普通に観光か。
少し眠そうな女性の運転手が一人、バスの運転手にしては珍しいのかな? 女性って。
「おいおい、あんまりジロジロ見るなよー」
「別にいいだろ? これも仕事の内ってね、どんな人間が観光に…」
突如として、バスが揺れた。
後は、とてもゆっくりと時間が進んで見えた。
兄貴が必至な顔して俺を庇おうとしてる。
あのバスの運転手は、顔が見えなくても酷く慌てて、そして青ざめているのが分かる。
まるでこの世の終わりみたいに。
「…うそ」
荒波が、空を覆ってる、ギザギザの岸壁が、目前に広がっている。
何か大きな、途方もなく大きなモノが、バスに衝突し。
俺たちは真っ逆さまに、あの夏のしみったれた海と岩に。
後は鼓膜が破れるような、絶望的な音。
すべてが一瞬で、そしてとてもゆっくりと。
きっと俺たちの命を奪っていったと思う。
最後に俺、学校の事、修学旅行の事、考えてた。
暗く、焦げ臭い場所、ここは…。
「いっ…てて…なんだよ…」
目を開けているのか、閉じているのか、ただの暗闇ではない。
まるで光をも飲み込む本物の黒、宇宙のような闇だ。
「そろそろ退いてくれないか?」
「ふぁっΣ(・ω・ノ)ノ!」
あの黒ずくめの男の腹に顔面埋めてただけとか。
「キミ動ける? コッチは割と重傷らしいが…」
「ん…一応…て大丈夫っすか!?」
出血が目立つ、医学の知識は無いがかなり危険な状態かも。
「まぁ直ぐには死なんと思うが、外はもう夜か? あまり目が見えん」
「外っ! 夜っ!? いや結構明るいっすよ真昼間の崖っぷち…
崖かっ!? 落ちてっ!? 空ぁ!?」
「うん、わかったから落ち着け、どうやら俺は目をヤられてしまったらしいな、見えん」
血が顔面を汚してる、それで目が見えないのかも。
「ちょっと待って、バスターミナルあたりで貰ったポケットティッシュ…
んー兄貴どこしま…兄ちゃんっ!? どどどっドコ!!」
改めて周りを見ると、荒れ果ててるだけで誰もいない。
他の皆は…ドコに…まさかっ。
「取り乱すな、冷静になれ」
「う、うん…わかった…」
今は考えない…まだ何も考えない、とりあえず手当て、この人を手当てするんだ。
「とにかく顔拭きますぜ旦那」
「すまない」
うへ眼球に血が…これ布突っ込んだらやべーよな痛いだろうし。
とは言え綺麗な水なんて…っとペットボトル、足元に飲みかけのミネラル…。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「今度はなんだ」
「下っ! 高っ! 空っ! 窓が床でっ! 森が!」
しかも鳥が飛んでる。
…あんなデカい鳥居たか日本に? 鳶?。
「…なるほど、分かったからあまり動くな、そして騒ぐな」
「はっはひぃぃぃ…」
ガタガタ震えながらも、慣れない手つきで男の顔を洗浄した。
「くっまだ霞むな…おおぅ…理解はしてたが流石にビビるな」
「だよな!」
「さてと、お前の他に生きている人間は居るか?」
「えっ?」
考えないようにしてたけど、兄貴は…。
やっぱり他の皆は…考えたくないけど…。
「…バスから落ちたのか?」
「そんな…」
「バスの中はひっくり返っちまって、外に放り出されても可笑しくはねーが
その割に窓は割れてないな、どうなってやがる」
ボロボロになりながらも、立ち上がる男。
深手を負ってはいるが、今の俺は呆然として、理解が追い付かない。
兄貴が死んじまったら俺は…。
「兄貴…」
「いや俺たちを差し置いて先に脱出したかもしれない、俺は血だらけだったし
死んじまったと思って見捨てたのかもだ、だとすればどこかに脱出口が…」
「でも、出口なんて…」
上のドアが全開、本来は乗り降りする所が天井になってる。
「あったな、まぁ問題はどうやってよじ登るかだが」
「生きてるのか兄貴は!?」
「希望的観測にはなるがな、少なくともここでは死んでないだろう」
「その男の言う通り、他の皆はソコから出てったゾ」
そして奥からに声がした、そこを見るとあの肥満体のオッサンが居た。
「オッサン居たぁ!?」
「オッサンとは失礼な、これだから最近の高校生は
こー見えてまだ25歳なんですけどもね」
「おおおオッサン! 他の皆は!?」
「だから皆ソコから出てったっての、自分は運動できねーし
バアヤに救助寄こすように頼んで行かせた、ここで安静にして待ってるのさ」
額の血を拭いながら黒尽くめの男もデブのオッサンに近づく。
「このバスは安全なのか? 今にも落下しそうだが」
「ああ、うまい事引っかかってるらしく、地震でも起きないと落ちやしないとさ」
そう言いながら救急箱を取り出すオッサン、黒尽くめの男の治療を始める。
「随分と慣れてるな、医者か?」
「まさか、ただちょっとばかし怪我の手当てに慣れてるだけさ
二人ともくたばっちまったと思って放置してたんだけど、生きてて良かったなぁ」
「え? それって兄貴も」
「ん? お前の死は無駄にはしないとかなんとか」
「兄貴ぃぃぃぃ!!」
出口に向かって叫ぶと。
「騒ぐと言うなと…」
巨大なトカゲが、羽の生えた巨大な爬虫類がソコに居た。
「…マジ?」
巨大爬虫類の耳を裂くような咆哮、さながらジュラシックワールド…いいや。
「どっドラゴンんんっ!?」
恐怖のあまり二人の背後に回る俺。
「なんだいありゃ!」
「ひぇぇぇぇぇぇ!? 嘘だろ!!」
中世ファンタジー的なRPGや小説でお馴染みの最強生物だ。
「クソっ! 退いてろ!」
黒尽くめの男は大型拳銃を取り出し、ドラゴンらしき巨大生物を銃撃した。
ドラゴンの目玉に直撃し、片目を瞑りながら引き下がる。
目から体液が滴り落ちる、呻き声も狼狽えもせずその動きは極めて冷静だった。
それが、なぜかとても不気味だった。
「っうお! 銃かよ! なんでそんなモン持ってんダヨあんた!」
「殺し屋だからだよ! こんな玩具じゃ虫に刺されたような物だろうけどな
サイレンサー邪魔臭いし六発しか…てか今はそれ所じゃないだろう?」
ドラゴンの様子を伺う黒尽くめの男、窓の外は平和にものだった。
「あのドラゴン鳴かないな…てかドラゴンの生態なんて知らんけど」
「ガオーとかぐおーっとか言わないな、アニメだとやたらバカだったり賢かったりすっけど」
オッサン二人も不気味なくらい冷静だった、もしやこれは夢なのでは…。
俺は眠ってるのでは? まだ家ん中でぐっすりと…。
「コイツぶつぶつと現実逃避始めやがった、メンタル弱いな高校生」
「だれがサルだこのデブ! あんなん見て気が触れなきゃお前ら人間じゃねーっての!」
「別にソコでSĀN値削っててもいいけどよ、
現実問題ドラゴンは居たんだから何とかするしかないよね」
「いやまぁそうですけどさ…」
落ち着いてきたら、外が随分と静かなのに気が付く。
「…反撃してこない? 案外ダメージがデカかったか? だといいがな…」
銃弾を拳銃に装填しながら周囲を警戒する。
警察が持ってるような、弾倉がリボルバーの様になっている銃…。
「そうだ! 警察! 連絡! 救助救援! スマホ…」
圏外、それに見慣れないアプリ。
「…なにこれ」
ゲームのステータス画面みたいになってる。
何かのアプリの画面なのか、こんなゲームインストールしたっけ…。
てか県外なのになんで繋がってるの? 他のアプリは動かないのに。
「こんな非常事態にスマホをポチれるとは流石のサル世代、いや悟りか」
「ちげーって! 救助を呼びたかったんだよ!」
「GOしてたんじゃねーの?」
「GOじゃねーよ! ほら圏外だし」
そういうと、デブのオッサンもスマホを調べる。
「実は圏外なのは知ってたけどさ、なんでお前と同じアプリが…
もしかして最近流行りの魔法少女に変身できるアプリとか? それとも怪盗でメメントス的な?」
「それが事実だとすれば宝の持ち腐れ感半端ないっスね」
「おいその真顔でマジレスはヤメてくれないマジで、デブよりキズ付くから」
俺たちを尻目に黒尽くめの男も自分のスマホを取り出す、圏外の文字を確認すると眉をひそめる。
「連絡は取れないか…仕事が残ってたんだがな」
「何の仕事? ソレ何の仕事?」
「それは知らないほうが良いだろう」
「いやアンタさっき殺し…」
「それよりここから出るか、それとも…」
急にバスが揺れた、嫌な揺れだ。
「うん、まあ…そう来るよな…」
デブのオッサンがそう言うと、俺も恐る恐る窓を見る。
あのドラゴンの足が見える、バスに覆いかぶさって。
そのまま引きずり落とし、バスごと飛び立つ。
「ひゃあぁぁぁぁ!」
安全装置も何もないジェットコースターの始まりだった。
急降下に急上昇、まるで飛行機の中に居るような感覚。
二度しか乗ったことないけれど飛行機。
「バスが飛んでる…だと…」
「ドラゴンやべーな…」
「あんたたちどうしてそんなに冷静なのさ!」
これ死ぬやつじゃん、落ちて死ぬやつじゃん。
もしくは巣までお持ち帰りして食われるやつじゃん。
てかなんで日本にドラゴンが生息してんだよ…この…日本に?。
「おいおい…俺たち…どこに来たんだ? 海は?」
黒尽くめの男も青ざめる、その絶景に。
海なんてどこにもない、足元に広がるのは森林、眼前には荒野の地平線。
最初から気が付いてたハズなのに、理解してなかった。
明らかに、ここは日本のドコでもない所だった。
「こりゃ…異世界転生モノ?」
「サブカルで説明すんなデブ、つか生まれ変わってはないだろこの人血塗れだし」
「目上の人に対するこの態度よ…日本の将来は真っ暗闇やね」
もう日本の将来なんて気にしてる場合でもないだろう。
空の旅を始めてしまったバス、どこへ向かうのか…。
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バスをよじ登り、アタシらは事故現場へとたどり着いた、はずだった。
夏休み前に浜辺でギターでも弾こうかと、一人で来たんだけどな。
まさかこんな事に巻き込まれるなんて、ギターも壊れちまったし。
「なにコレ」
アスファルトの道路があるべき所には花畑が広がっていた。
「へー、随分綺麗な所だねー、ここも観光地?」
チャラくて間抜けそうな男が、パンフレットを広げて確認してる。
いやありえねーし、なんて否定したくても。
正直アタシもそれに期待してた。
「そんなはずは…それに潮の香りもしない…ここは」
あの下手糞なバスの運転手も、この事態に動転してるようだ。
「困りましたねぇ、坊ちゃまをバスで待たせたままなのですが…」
老婆は手慣れた手付きでスマホを操作してる。
圏外、救急車も警察も呼べやしない。
「何とかなりませんか? 連絡を取る方法は…」
子供の父親があのバスの運転手を頼っているが…。
アタシには分かる、これは只事じゃないね。
ここは、この世界の音が、アタシに説明してくれてる。
茂みや森の中に生息している生物、空、花の香り、土の匂い。
音が、アタシを異邦人だと、ここはお前が知ってる世界では無いと説明してくれてる。
だとすれば、なぜ、何故に、アタシは、アタシたちはこの世界に放り出された?。
あのバスで何があった? 何があのバスに衝突した?。
「おやお嬢さん、気づいてしまったのかい?」
「ババア、アンタ最初から気づいてたね? だからあのデブを置いてきた」
「先に犠牲になるのは、あのバスを出た連中ですし…」
「なるほど、何が脅威で、何で死ぬのか、
確かめるには都合がいいくらいにバカな連中か…アタシらは」
だとすれば、猶の事用心して…。
「あっお花…あっ蝶々」
あのチャラ男…。
「アンタ身内が死んじまったのに呑気してるね…」
「カナメは俺の中で生き続けてる、これからもずっとな、俺が迷わないように…」
「分かったから茂みから出てきな、さもなきゃ行方不明になってあの世で弟と再開することになる」
「ほら、果物を拾った」
「捨てな、食って大丈夫かどうかもわからない植物が一番危険だろ」
コイツはイの一番に死ぬね。
「ん? なんだパラパラと」
落ち葉が激しさを増し、バスから一緒に来た子供が降りてきた。
「おおワンパク小僧、どうだったかい周りは」
「駄目だよお婆ちゃん、周り木ばっかりで、この葉っぱも見たことも無い」
「そうかい…そうかい…これはなんともはや…難しくなったね」
知らない地域、いや日本ですらない、気づく奴は気づくだろう。
「バスがワープしちゃったみたいだよね」
「そんな事が起こるとは…思いたくはないけれど
どうやらキミの言っていることのほうが、正しいみたい」
この花、見たこともない形、新種の花か何かにしては目立ちすぎ。
それに手入れされてる形跡がある、この花畑は自然のモノじゃない。
「コウタ、木登りなんて危ないじゃないか、蜂が飛んでるかもしれないぞ」
「あ、父さん、蜂は居ないけど妖精捕まえた」
「お前妖精なんて捕まえたのか…ヨウセイ?」
光の粉を撒き散らしながら、子供の手から必死で逃げようとする小人が。
「…どうも…これは…うん…ヨウセイだな!」
親父さん微妙に現実を見てない、たぶん内心夢か幻かと思ってんな。
しかし妖精が居るってんなら、もうこりゃアレだね、ロックだね。
「友達が中学生の頃に妖精を捕まえたと言ってたけど、小さな小瓶だったわー
こんなバービー人形くらいの大きさだったらさ、さぞかし窮屈だっただろうね」
「そうだねー」
妖精をコショウみたいに振って、自分の頭に粉をかけ始めたコウタと呼ばれた子供。
「何してるの?」
「空飛べるかなと思って」
「物理的に無理くね?」
ただコウタくんの擦り傷、切り傷が徐々に塞がって、綺麗にはなってるみたい。
「おー、なんと…この妖怪の粉は怪我を治す力がありそうじゃな…」
「婆さん、妖精な…」
「ヒヒッ、そういえば名乗っては無かったの…婆さんは婆さんでも
砂由利婆さんなんじゃよ、お嬢さんは?」
「…田村 泡姫」
「ほーアバンギャルドじゃなー」
「あんま好きな名前じゃない、タムラって呼んで」
「いやいや、親から付けてもらった名前、大事にせんとな」
道徳を説くには些か狡賢い婆さんだろうけどよ、まぁ肝に銘じておくさ。
「コウタ…そのお方苦しそうだし、逃がしてあげなさい」
「え? やだ」
パチンと、妖精を平手で潰してしまったコウタくん。
「こっコウタ!? 何を…」
「妖精さんペチャンコにしちゃう最近の小学生ってメタルっすね」
文字通りペチャンコ…いや、カードになってる。
妖精の死骸だと思われた、その手のひらに収まっていたのは。
まぎれもない、トレーディングカードゲームの一枚だった。
「ほらっ出てこいっ」
コウタくんがカードに命令すると、あの妖精が出てきた。
今度は逃げもせず大人しい、妖精の鱗粉をアタシにも振り掛けてきた。
バスの事故で負った打撲や擦り傷が、見る見るうちに癒されていく。
「へー、息子さんって手品も動物の扱いも上手なんじゃなぁ、一体全体どんな教育を?
もしかしてホグワーズ魔法学校出身なのかしらん?」
「お婆さんそんな…そんな事ある訳ないじゃないですか…
コウタ、どうして…何をしたんだい? その…妖精さんに」
「父さんもスマホ見てみなよ、このアプリ、僕なら動物や色んなモノをカードにして
手持ちに入れられるって書いてあったよ? ほら」
コウタくんのスマホには、何かのステータス画面と共に。
三つのツリー状の模様が三つ葉のように広がっていた。
「スキル…ツリー?」
テイム&ドロー、マジックキャスト、トラップメーカー。
それぞれのスキルツリーに、そのような名称が記載されている。
コウタくんは何かのポイントを、それぞれのスキルツリーに分配していた。
「これ、皆も持ってる? 皆もカード出来る?」
「だとしたら便利な能力じゃが…どうれ…」
サユリ婆さんもスマホを操作する。
タイムトリップスキル、刹那・殺伐スキル、シャドウステップスキル。
やはりスキルツリーはあったが、名称がどれも異なるようだが。
「ふむ…分からん」
アタシはどうだろ…。
…ヴァイオレンスアシストスキル、アイドルスキル、ギターフリークスキル。
やはり名称が異なるようだが…。
「あれれ、皆違うんだ、父さんのは?」
「えー父さんも? ええっと…」
ガーディアンスキル、スクラップレギオンスキル、レスキューレンジャースキル。
「…れぎおん…ふぉーまっと? って書いてあるけどこれ…コウタ、分かるか?」
「んー、それがアクティブスキルで、ツリーに広がってるのがパッシブスキル
アクティブスキルを強化したり、違う能力を増やしたり出来るんだって」
「じゃあこのレギオンフォーマットってのが…アクティブスキルなのか…な?」
アクティブスキル…アタシにもあるのかな。
ギタリスト…って書いてあるけど、コレ? まんまじゃん。
バスの事故でギターぶっ壊れたし…なんの役にも…。
「うおっと…ギター出てきた…」
スマホを操作したら、突然ギターがピカッと光って出てきた。
手触りも弦も、まんまギターだが…やたら軽いな。
「アタシ好みの調律…イイネ」
こんな状況じゃなきゃ演奏してみたいが…。
「ほほう、面白そうじゃ…どれどれ」
婆さんもスマホを操作すると。
「むむう、何も変わらないし、何も出てこない…ふむ?」
アタシらは婆さんに釘付けになった。
「何やら…胸のハリが…お肌も…」
「婆さん! 若返ってんよ!」
アタシとそう歳の変わらない女になった皺くちゃの婆さん。
「ほー…こりゃ…夢でも覚めないでほしいのぅ…うっとり」
手鏡で自分の顔を確認してる、確かに美人だけどさーつーか鏡あったんかい。
「不思議な事もあるもんだ…ん? そういえば…バスの運転手さんと…あの人は?」
「二人とも、歩いて行っちゃったよ?」
コウタくんが指さす方向には、林と森しか見えない。
「ヤッバ…完全に忘れてた…」
「ふむ…後を追うべきか…それとも…」
その瞬間、背後の崖から人のモノとは思えない叫び声。
いいや、それは獣の咆哮だった、とても大きな。
何か弾けるような音が数回響くと、それは崖から飛び上がる。
「なっ!? なにアレ!!」
「わぁ! ドラゴンだ!」
コウタくんがドラゴンと呼んだそれは、不気味な色味と鱗の質感を除けば。
確かにシルエットだけならドラゴンと呼べるかもしれない。
「ドラゴンと言うにはロックじゃないわね、コンドームみたいな体してるし」
「ちょっ!? 子供の前でっ!」
「いや教育にも生命活動にも不適切な生き物が目の前に飛び上ってるのですが」
そのドラゴン(仮)が、アタシらを見るに襲い掛かってきた。
「くっ来るぞ! コウタ!」
とっさにコウタくんの父親が手を伸ばすと、巨大な盾を持った兵隊が現れた。
盾の兵隊は、ドラゴンの攻撃を防ぐと、幻の様に消えた。
「すごーい! 父さんのスキルだ!」
兵隊の見た目は自衛隊か警察の特効部隊…というよりも近未来的な姿だ。
機械と人間が融合したような、生気のないその顔は不気味さもあった。
「背後にもおるぞい!」
気が付かなかったが、アタシらの背後から武器を持った兵隊が現れた。
鉄パイプを振りかざし、飛び上ってドラゴンにソレを打ち付ける。
「ガラクタの…兵隊…」
そうだ、よく見ればまるで、金属や廃材を生身の肉体に埋め込んだような姿の兵隊だった。
「こっコウタ…今のうちに!」
興奮するコウタくんの手を引き、兵隊任せに引き下がる親子。
「そら、タムラさん、ワシらも逃げるぞい」
「そっそうね…って婆さん! バスは? アンタの連れ…」
「…きっと大丈夫」
まぁいくら何でもあの化物の方へ戻るのは…ちょっと…。
という心の声が、なんとなく、聞こえてきた。
「無事だと…いいけれど…」
後ろ髪引かれる思いも僅かに残るが、とりあえず身の安全が最優先。
もしもの時はバスの死体を餌にすれば難を逃れられるか? あのオッサン。
ーーーーーーーーーーーーーー
「ほらお前が先に食われろサル!」
「ふざけんなお前の方が肉付き良いし俺らより時間稼げるだろデブ!」
見事に竜の巣に突き刺さるバス、あのドラゴンのヒナが窓を突き破り俺たちを食おうとしてる。
「心配するな責任をもって盛大な葬式を挙げてやっからさ! なぁ! どうだ食われてみては!?」
「あーバカバカ! 押すな押すな!」
そんな醜い争いをしてる俺らとは違い、黒尽くめの男は至って冷静に、バスの後部座席を調べる。
「出口だ、俺は一か八かここから逃げるぞ、お前らはどうする?」
「おおおっ! 流石! お供しますー!」
「おいこら、そんな狭いとこ、俺は入れない訳だが」
「ダイエットしとけば良かったな、アバヨ」
ここでヒナに貪り食われる運命だったデブを置いて、俺たちは難を…。
「うわっ!」
「な…にぃ!?」
我先に逃げようとした俺の顔面に、ドラゴンのヒナを大きな口が。
脱出口から先に回り込んでたんだ、既に先に…もう目前に。
二人は安全だが、もちろん俺は。
「そんっ…ぎゃああぁぁぁぁぁ!!」
食われる食われる食われる! 食われちまう!。
「くっ! 間に合わん!」
「死んだね」
畜生…もう眼前、あのヒナとは思えない鋭い牙が…。
激しい血しぶき、俺の血、こんなに臭かったっけ。
痛みもない、あるのは恐怖と、小便を漏らしたような不快感。
「おい…様子が…」
「なんだこのヒナ、死んでるぞ、首を切り落とされてる」
そう、それはヒナの生首、俺に覆いかぶさってるだけ。
「綺麗な切断面…それに、外が随分と静かだが…」
「おいおい、どうなってる? 誰かがドラゴンと…戦ってる?」
そこには、一匹の狼が居た。
人の形をした銀色の狼が、鎖の付いたギロチンのような巨大な肉切り包丁を二振り。
踊るように、舞うように、鮮やかに、ドラゴンを文字通り捌いていた。
「なんだ…アレは…狼…男?」
「上半身裸のオスケモがドラゴンをクエストしてる所っすね」
「ん…お前さん、ある意味で俺より具体的に物事を見てるよな、良くわからないけど」
「誉め言葉ありがとうございます」
「いや、半ば呆れてはいるのだが…」
ドラゴン達が全滅するのに、そう時間は掛からなかった。
「ふー、終わりっと、面白いもの抱えて飛んでるのが見えたと思ったら
こりゃ地球のバスって乗り物じゃないか、まったく、ハイエルフの連中ときたら…
よっぽど簡易な術式で、異世界から勇者を召喚しようとした訳か、座標も高低差も滅茶苦茶だ」
ドラゴンの死骸を確認する人狼。
その銀色の毛皮には、返り血の一つも付いていない。
「ほう、走行中の転移したバスに飛行中のペインキラーが激突、そのまんまバスごと落下
痛覚のない翼竜であるコイツはほぼ致命傷を負っても生きている限りしばらくは動けるし
巣までバスを運べるって訳か、申し訳ないがここは人里近くてね、討伐依頼が出ていた訳さ」
刃の血を払い、二振りの肉切り包丁を腰に据えて、バスに近づく人狼。
「三人居るな、生きてるか? 異世界から来たお客さん方
ここはお前たちが知る世界では無いことは…空の旅で理解したと思われるが?
安心しろ、俺は…今の所はお前たちに危害を加える気はない、もう安全だから出てきな」
そう言う人狼に、二人は警戒心を全開。
「どうする? 出た瞬間にオープン・ザ・ヘッドも微レ存」
「…なら、適任が居る」
血塗れになった俺を立たせ、そのまま人狼の方へ歩かせた二人。
「いいぞ、そのまま真っすぐゆけサル」
「悪いな」
放心状態の俺はゾンビの様に両手を伸ばしてフラフラと歩いていた、らしい。
「おおう、こりゃ…大丈夫じゃ無かったか?」
そして人狼に敵意が無い事を知ると、拳銃を懐にしまい、外に出る黒尽くめの男。
「おいっ武器をしまうなよ…もしも攻撃してきたら…」
「ここで銃を構えながら接近なんかしたら、今の所は命の恩人に失礼だろ?」
「く…仕方ないか…それにしてもどうやって出るか…ソコに登れない…」
「少しは運動しろ」
二人は何とか出て、人狼に軽く挨拶をする。
黒尽くめの男は両手を挙げながら近づきつつ名乗る。
「申し訳ない、俺はクロ…敵意は無い、正直助かった」
「お前そんな猫にでも付けるような…」
「一応は実名だ…そう呼ばれている、というより俺に住民票も人権もない
無登録のまま殺しの道具として育てられたタダの鉄砲玉だ
生まれも育ちも日本の違法入国者って訳さ」
「すっげー、マイナンバーも無いんだ…っあ」
デブのオッサンも埃を払い髪を整えながら謙虚に腰低く挨拶。
「俺は雲然 獅子っニートやってます、命の恩人感謝永遠にー」
「ほー、出不精な引き篭もりとは予測してたが、本当にそうだったとは」
「辛辣…」
二人の様子を見るに人狼は、血塗れの俺に指さし。
「で、この小便臭いコレは?」
「知らね、ただの薄汚いサルでございまして」
「オイオイ…」
呆れつつも手の平で俺の顔面を拭う人狼。
肉球と剛毛が何とも言えない感覚だったのを覚えてる。
「おい、生きてるか」
「は…ぁぁぁ…」
「あーあ、完全にイッちゃってるなコレ、しばらく休もう
食事にするかい? 新鮮な肉もその辺に転がってる事だし」
大破したバスを人狼は物怖じせず調べ、燃料とバッテリーの繋がった配線を拝借。
そのまま竜の巣をかき集め、人狼は火を起こしキャンプの準備を手早く始めてる。
「へー、サバイバルしてますねー狼の旦那」
「まあ、慣れててな」
「いや、手慣れすぎだろ、随分とバスの構造に熟知してるな、俺ですら詳しくもない」
「まあ、慣れててな」
グロテスクなドラゴンのヒナが、見る見るうちにBBQに変身する。
「成竜の肉は毒が回ってるが、ヒナならその心配もない、ワリとイケるぞ」
クロは訝しげに肉を受け取る。
「トカゲの肉なぞ…」
「うまっ! 美味すぎ! 柔らかーい!」
「食うんかい」
レオンのオッサンは普通に食ってたそうだ。
俺は人狼が持ってた気付け薬を鼻に塗られ、飛び起きる事になる。
「うへっ…なに…」
「気が付いたか? 小僧」
「へ? 誰? 犬?」
俺を落ち着かせながら、銀色の人狼は三人に名乗る。
「俺はヴァーズ、ヴァーズ・ブレイデル、ただのチンピラさ
お前は…お前たちは異世界から、この世界に来た異邦人、残念ながら元の世界には戻れない」
それを聞くと、ぼーっとした俺よりも驚いたのはレオンのオッサンだった。
「戻れない? 日本に? マジ?」
「マジ、実はこの世界はお前らの住む地球と近しい次元に存在していて
もう何人もそっちの人間や、生活の道具など…恐らくゴミだが…現れることがあるのさ
だが一方通行、この世界から、地球に戻る方法が無い」
「えええ…困るよ、俺は生活に苦労してないんだ
金もあるし収入も沢山ある、贅沢三昧のニート生活を返してくれよ!」
「いやお前、収入って…ニートで…」
「クロちゃん、家賃収入って、知ってる?」
半ば呆れながらも肩をすくめるクロ。
「残念ながらぶっ殺してオマンマ食ってるから不動産とは縁遠くてね」
「おお、右に同じ、お前とは気が合いそうだな、コッチの世界に慣れたら殺し合おうぜ」
「勘弁してくれ、殺しを楽しみにした事はなくてね」
「残念、良いセンしてんのに」
骨付き肉にしゃぶり付きながら、オッサンたちが語り合ってるのを見て。
遂に、気を取り戻した俺は。
「こぉれ! どんな状況ぅぅぅ!?」
「おっ復活した、お前も名乗れよ、俺はレオンで
黒いのはクロ、狼の旦那はヴァーズさんらしいで」
「えっ!? えっ!? んえっ!? …ああ…う…
俺は…藍原 要…カナメだ…」
「へー、そんな名前だったんだ」
「いや俺的にはオッサンがレオンなのがアンビリバボーだが…」
「ぽっちゃり系のライオンが居たって良いじゃない…」
世間一般ではその体をぽっちゃりとは言わないんだけどな。
「それより、日本に…地球に戻れないって…」
「ああ、まず不可能だろう、次元は同じでも、地表の高低差や
座標の調整が難しい、惑星のサイズが地球とは違うのだからな
この場で地球に転移しようものなら…地球の地下深くに生き埋めにされることだろう
お前らが生活していた場所の座標はここから遥か上空なのだ、諦めるしかない」
「そんな…」
「ハイエルフの魔術に引っ張られた異世界人達は皆、落ちるような感覚に襲われる
それは元の世界の遥か地下に落とされ、改めてこの世界に転移するからだ
元の世界に戻るには、そうだな、空高く持ち上げられ、そこから元の世界に戻るとかかな」
「なんだ出来るじゃねーか頼みますぜヴァーズの旦那」
「それが出来るハイエルフ共は過去の戦争で皆殺しにされたのさ
お前らを召喚したのは、その残党、そもそもお前らを元の世界に戻す気もないだろう
操り人形に変えて死ぬまで使い潰される、どちらにしろ兵器としての最後を迎えるだけだ」
ヴァーズの言葉が、冷たく脳裏に響く。
絶望、これが絶望的な感覚なのかな。
「そんな…」
「それじゃあ何時もと変わらないな…」
「あーいやさ、アンタは、かもだけどさ…」
大きくため息をつくヴァーズ、心なしかホッとしてるようだ。
しかし微妙に芝居かかってる。
「三人には申し訳ないが、正直安心した、そう言う訳で
クソったれのハイエルフ共にお前たちの身柄を渡すわけには行かないんだ
お前たちは一人一人、既に兵器として改造されてる、成長する兵器…
連中は勇者と呼んでいるソレは、正直手に余る厄介な存在だからな
お前たち全員が、エルフの手に渡らないで良かったよ…」
「…それって…」
「ああ…なるほど…」
「げっ…そういう事、だよなぁ…」
そう、俺たちの様子を見るに、深々と落胆する。
「そんな気は、していたよ…
バスってのに乗ってるの三人だけなワケ、ないってさぁ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
命辛々逃げたアタシらを助けてくれたのは、金髪碧眼の容姿端麗な長が耳。
いわゆるエルフと言う連中だった、近くの古代遺跡に集落を用意しているらしい。
「これはこれは勇者様がた、埃っぽい所ですが、お寛ぎください」
アタシらを勇者と呼ぶコイツらは、酷く貧しい生活を強いられているそうだ。
「御託はいいわ、それより本当なの? あなた達を救えば
アタシらは元の世界に帰れるって話は」
「あなた方は我らが白き光の竜神に導かれし伝説の勇者
選ばれし方々なのです、我ら光の民を迫害し、窮地に追いやった魔族
それぞれ、火の民、水の民、風の民、土の民、そして恐ろしき闇の民
彼らを生み出した存在、炎竜 海竜 嵐竜 地竜 そして呪われし黒竜
邪悪なる魔王を討ち滅ぼし、魔の物である亜人類を滅亡させれば
役割を終えたあなた方には、更なる恩恵を授けた後、元の世界へ戻れるでしょう」
まったく、酷い話だ、アタシらを無理やり召喚し。
その上で勝手に人間離れした異能力を植え付けた。
挙句の果てにエルフを救えなどと…。
「おおおっ! 勇者だって父さん! 俺たち凄いんだって!」
「こらコウタ…しかし、あなた達の話が本当なら
それはとても厳しい戦いになるし、私たちのような人間が…」
「選ばれし者って言ってんじゃん! やっつけようよ! 悪い魔王!」
興奮する少年を宥める妖艶な和服の美女…。
まぁババアだけど。
「ワシらとしても元の世界には帰りたいが…
敵らを倒せるにしても、主らを救えるにしても、一国でも荒唐無稽
それが四つ国ともなれば、それは至難の業どころの話ではない
ただの空想、夢物語よ、達成など出来るとは思えんが…」
「出来ます、あなた達異世界の人々は、この世界においては最強の存在
かの闇の一族にすら、いずれは決して引けを取らない武神になるのですから」
勇者だったり武神だったり英雄だったり聖人だったり…。
とりあえずは持ち上げて働かせようとしているのは間違いないわね。
その点に関してはエルフは必至だったかな。
「他のその、選ばれし勇者はどうでもいいの?
アタシらだけで動いていいわけ?」
「運命が、いずれ引き合わせるでしょう、魔を滅ぼすこと
それが、あなた方の使命なのですから」
美しいエルフの巫女、神に、勇者仕えているという。
「それが本当なら、アタシらは早速、仕事をした方がいいって事ね」
「千里の道も一歩から…と、坊ちゃん無事だとよいのですが…」
「一応は生きてると思うけどね、スマホのGPS機能、この世界のモノに変わってるし
アタシらのスマホを可笑しくしたのってさ、アンタらエルフなの?」
アタシが手に持ってるスマホを見るに、静かに頷くエルフの巫女。
「皆様お持ちでしたし神の威光を示すのに、丁度良い触媒になりまして
その携帯端末を用いて、皆々様に能力の付与を促し、最適化をしました
幾つか機能は消滅しましたが、この世界に訪れた勇者様方々との通話及び
地図機能から現在位置を割り出す事も可能で御座います、地図機能も
この世界、ラースガルムの世界地図を基に、地理を検索する事も可能です
また自動翻訳の魔術もその携帯端末を通し、皆様に付与致しましたので
すべて勇者様方々の母国語でこの世界の言語を理解する事が可能となっております」
「ふーん」
随分と便利なモノね…この世界に引っ張り込んで。
アタシらのスマホを一瞬で改造し、アタシらの脳や体にも影響を与えられるなんて。
「その携帯端末は皆々様の能力の成長にも重大な役割が与えられてあります
すべて魔力に変換されておりまして、例え手放したとしても、いつの間にか
手元に戻っており、まだ原動力も皆々様の魔力により稼働しているので
命尽きるまでその携帯端末を利用する事が可能となっております」
「へー買えかえる必要も充電も要らないなんて財布に優しいなコレ」
「親父さんノンキしてるけど、微妙に不穏な事言ってなかった? この人」
「アリエル様、サユリ様、ヨウスケ様、コウタ様、離れ離れになった
ユズ様 ユキコ様 レオン様 クロ様、カナメ様、各勇者様方々が力を合わせ
憎き敵である魔族を討ち滅ぼすのです、そうすれば、更なる恩恵と共に
元の世界に帰れるのですから」
「…全員の名前を知ってるのね、自己紹介したつもりは無いけれど」
それもスマホから調べたのかな、魔力で改造するときとかに。
「私は光の民、ハイエルフの巫女レイティシアン、光の神に仕え
勇者様方々を支え導く者、どうぞ何なりと、我らにお申し付けください」
「ふむ、それならば、ワシらがどの方面から攻め入り
これから何を殺めればよいかを教示して貰おうか」
「そうね、いきなり外に放り出されて、やれ世界を救えとか言われても
流石に難しいって話よ、どうせアンタら、何か考えがあるってワケでしょ?」
ここまで用意周到ですもの、攻略の手順もプランに入ってるはずだし。
「作用に御座います、火の民は火山地帯、その周囲を風の民の山脈地帯と空中都市
この二つは現状踏破する事すら難しいでしょう、陸にある土の民は最も繁栄した種族で
いくつもの諸国が広がっており、武力にしても最も優れていると考えられます
しかし水の民は、海上都市を構え外交に備えているだけで、戦闘力も他の民と比べれば
控え目であると考えて良いと、先ずは海から叩き潰し、その後土の民を壊滅し
残る風と火の民を滅ぼすのが順当かと考えております」
「ん? 闇の民は?」
「闇の民は、見つけたら逃げてください」
「…倒さなくて良いの?」
「逃げてください、絶対に、見た目は勇者様方々と同じ
耳の丸い一族です、見かけたら絶対に逃げてください
勇者様たちも見た目だけは同じなので闇の民を装い
魔族と接し、交渉を有利に進めることが出来ますが
闇の民だけは話が別でして、とにかく見かけたら死を覚悟し
可能な限り一人でも多く生還できるよう、全力で逃げてください」
そんなに強いのか…ポーカーフェイスだった巫女さんも表情が崩れ。
思い出すだけで吐き気がすると言わんばかりの嫌悪感を感じる。
「その闇の民の国は…どこにあるのですか?」
親父さんが伺うのも分かる、知ってたらその場所は回避するべきだし。
「闇の民の国などありません、彼らは流浪の民、個人や家族で渡り歩き
人間の肉や生胆を食らう目的で襲い、分け隔てなく多くの人々が苦しめられてます
しいて言えば、テリトリーと呼ばれる場所に単体で居ることが多く、比較的友好的な闇の民は
我らハイエルフの古代図書館の遺跡に一体、コレは我らとも交流があり、古文書の貸し出し等で
会うこともあります、元々我らの書物なのに忌々しい事にこの化物が管理している状態でして」
「話し合うこともできるの?」
「会話で難を逃れられるならそれを優先すべきかと
これらテリトリーは要注意地帯となっており、携帯端末の地図機能にも
それら情報を開示してあります、後ほど確認しておいてください」
古代図書館、宝石の彫像群、コロシアム跡地…ん?。
「町のど真ん中にも?」
「それは少人数の冒険ギルドのリーダーが闇の民の戦士であり、厳密にいえば
テリトリーでは無いのですが、土の民の都の一つ、商業都市コーネリアに居を構えておりまして
補足知識として記載しました、コチラの脅威度は比較的低いと考えて差し違いありませんが
くどい様ですが、決して戦いを挑まないように、くれぐれも注意を払ってください」
「ねーエルフのお姉さん、そんなにその闇の民は強いの?」
コウタ君は逆に興味をひいてしまったようだ。
レイティシアンもコウタ君が闇の民の接触を試みようとしている事に感づき。
少し躊躇いながらも言葉を紡ぐ。
「闇の民一人を倒すくらいなら、土の国を潰す方が幾らかは楽かと」
「…そんなに強敵なの?」
「今の所は撃破不能と考えてください、彼らは生粋の戦闘民族
彼らの神を討伐する際にも、別に闇の民とは戦わなくても問題ありません
黒竜と闇の民との間に交流も信仰も成立してませんし、戦闘力で言えば
もちろん黒竜の方が強いのですが、その頃には勇者様方々も力をつけ
我らハイエルフも繁栄を取り戻し、より強力にサポート出来ますので」
「なら闇の民の壊滅も、そのタイミングで取り掛かれば良いわけか」
「それでも、やはり闇の民は捨て置いたほうが我々にとってもメリットがありまして
最悪始末するのは、そのギルドのリーダーと
宝石の彫像群に生息している一体だけになるかと思います
我らの体は、彼ら闇の民の捕食対象にはなりえず、理想としては
他の民の残党を食らい尽くしてくれれば、我らとしても都合がいいので」
ハイエルフは食べれないんだ、闇の民って。
「我らハイエルフには血肉と呼ばれるものがなく、純粋な光の粒子の結晶
魔力の塊という存在で御座いまして、殺しても死体が残らず、精骸と言う
彫像のような姿を残すのみとなっており、食用には適しておりませんので」
彫像…なるほど。
「その宝石の彫像ってさ…やっぱり…」
「集めた装飾品を飾るのに、我らの精骸が適しているとの事で
同族を何人も狩り殺されている状態です、コレは捨て置けません」
「敵討ちとは殊勝な心構えじゃな」
「いえ、後々我らの敵になるので、なるべく排除したいだけです
精骸は弔う必要もありません、宝石だけ取って放置しても構いません
この化物はテリトリーを留守にする事も多いので、宝石泥棒が
命がけの盗みを働くことでも有名な観光地になっております
この化物に宝石を支払えば、彫像の園内を自由に見て回っても危険はありませんし
泥棒の死闘や決死の逃走劇をゆっくりと見学することもできます、勿論ハイエルフ以外ですが」
嫌だな、そんな観光地。
「現状では水の民を海上都市の制圧、並びに海底都市の壊滅
そして海竜の撃破が最も達成しやすい目標になると」
「それって…やっぱり命を奪うんですよね…その人たちの」
コウタ君の親父さんも、亜人類とは言え人殺しは正直したくはないだろう。
当然アタシだって、はっきり言ってこのエルフに対しても半信半疑だし。
元の世界にも戻りたいけど、だからって殺しなんて。
「魔物相手に情けなど無用、魚を刺身にするくらい容易く葬ってください
心が痛むのであれば、我らが痛まないようにフィルターをかけてあげますが」
「何それ、そのフィルターって」
「殺しを殺しとは思えなくするよう脳を」
「却下! 却下! なにそのクソ恐ろしいフィルター!
そんな物騒なもん作り出してるんじゃないわよ!」
「痛みを伴いません、光線を直接目の中に入れ、視覚から直接脳髄を」
「もはや発想がエイリアン極まりないのぅ」
コウタ君を背後に隠しつつ、少々青ざめながら親父さんも。
「前向きに検討しておきます…」
と言いつつ全力で拒否反応を示している。
「業務に支障を来しては困りますので、任務に滞りが見つかり次第
睡眠中にでも施術しておきますので、どうぞ心配無く」
「あれ? これって寧ろ脅されてない?、アタシら脅迫されてない?」
「考えすぎです、あんな化物を殺すことに躊躇いがあっては困ります
殺人に対して抵抗が無くなるだけで、別に人格を崩壊させる事もないでしょう?」
「ぶっ壊れると思うけどねアタシはな!
分かったからそのおっかない手術は絶対にしないでよ! やったら許さないから…」
「でしたら、どうぞ、化物を討滅し我らを救いください」
こうして、ハイエルフという光の民を救うべく、アタシらは戦うことになるらしい。
画像を見て分かる、水の民の姿、確かに半魚人の怪物に見えるけど。
女性は、まんまアタシらの世界でも言い伝えられている人魚…マーメイドの姿だった。
「女の人は…上半身がアタシらみたいになってんね」
「それは過去、我ら光の民の細菌兵器によるものでして
風の民の女性も同様に、半身はハイエルフのように美しい姿をしております
異性が生理的に受け入れられない身体となれば繁殖も不能になるでしょう?」
「ゴメン、絶対アンタらロクでもない連中でしょ」
「それで…効果のほどはあったのかのう?」
「逆に人気が出てしまいまして、異種族間交配で更に増えちゃいました
挙句の果てにハイエルフの男の中にまで彼女らに心を奪われる次第で」
ダメだこりゃ。
「土の民の女性は獣の姿のままですが、細菌兵器のプロトタイプの実験投与で
少数ですがキャットピープルなる猫の耳と尻尾の生えた獣人が誕生しております
火の民は元々細菌兵器に対応しておりませんので、影響は不明です」
古今東西オーバーテクノロジーを乱用して生態系狂わせる企業って。
大体諸悪の根源なんだよなー。
「水の民の雌も人の形をしたケダモノ、躊躇う必要はありません」
躊躇うわよ。
「とりあえず、出発しましょう、ここには居られ…いえ
ハイエルフの皆さんも大変でしょうし、一刻も早く水の民の国へ行かなくては」
コウタ君のパパ本音が漏れてる。
「いえ、本日はゆっくりとお休みください、ペインキラーに襲われて大変だったでしょうし」
「ですが…」
「部屋と食事の準備もしております、どうぞ」
断れないやつだ、それにこの遺跡の出口も分からないし。
「受けるしかないのー」
「マジっすか…」
今は、このハイエルフ達に従うしかないのか。
他の連中は、無事なのかしら…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
森の中をズンズン歩く乗客を追ってきたら、背の低い村人たちの集落に到着した。
彼らは疲弊して、食べるものもないくらい貧困に喘いでた。
私は桜庭 有希子、バスの運転手をしていた女だ。
26歳独身、若さを武器に長距離長時間の観光バスの運転を任せられていた。
そんな私が、今はこのチャラ男と二人、錆びた槍を持った小人どもに囲まれてる。
「わー皆さん落ち着いて、俺ら何もしませんよ、ただ便所を借りたくて」
どうしてこんな事に…どこで間違えた。
徹夜して運転してたが、別に体力も気力も落ちてなかった。
事故してしまった、私の責任だ、会社にも迷惑を掛けてしまう。
その上二人を死なせてしまい、残る五人とは逸れてしまった。
ヤバい、泣きそう…もう泣くはコレ。
「闇の民が何の用だ! 殺すなら俺らだけにしろ! 子供と女には手を出すな」
「え? 女の人も居るの? 君たちみたいに可愛い背なのかな?」
「バカにするのも大概にしろ化物が!」
「わー! 落ち着いて落ち着いて! どう見ても丸腰っしょ俺ら!」
寧ろ、ここで私が殺されれば、それで上手に纏まらないかな。
ほらソニー・ビーン一族の話、進撃の巨人で知ったんだけどさ。
こいつ等が悪漢で、私たちのバスを破壊して、みんなを攫ったの。
私も抵抗空しく殺されてしまったんだ、と言う事になれば。
きっとバス会社の責任問題も無くなって、慰謝料も国が工面してくれないかな。
私、なんでバス会社の運転手に就職しちゃったんだろ、オペレーターでも良かったのに。
「ユキコさんも何とか言ってください、そこでぼーっとしてないでさ」
「だから引き返そうって言ったんですよー、もう殺されちゃいましょうよー
私もう色々と嫌になりました、もう生きていくのに疲れました
あの槍で串刺しにされたほうが幸せになれそうな気がしてきた、うん、そんな気がする」
「滝のように涙流してる所申し訳ないけど、とりあえず落ち着こうか」
「刺して、私を刺して」
そのために集まったんでしょ、その為にバスを破壊したんでしょう。
そうよ、みんなこいつ等が悪いのよ、全部こいつ等のせいなの。
ホビットみたいな恰好しちゃってさ、そんな錆びだらけの古臭い槍持ってさ。
「私の人生滅茶苦茶にしといてさ! 被害者ズラしてんじゃないよっ!!」
「ひぃ! 落ち着いてユキコさん! ほら小さい人たちも怯えてるじゃん」
「どうせお前らがマキビシか何か道路にバラまいてたんだろ!?
そんで洞窟に引きずり込んだんだ満潮で水没する入り口のヤツにぃ!!」
「ユキコさん、とりあえず落ち着こう、これ、あったかいココア、缶のヤツ」
「なんでそんなモノ持ってるんですか!? 自動販売機でもあったの!?」
「あるよ、自動販売機」
そう言うと、彼はスマホを操作して、自動販売機を取り出した。
…自動販売機を、ジュースの自動販売機を、スマホから取り出して見せたのだ。
「は? はぁ?」
私はベタベタと自動販売機に触れ、その慣れた感触と存在感に背筋が震えてる。
改めて確認する、これは自動販売機に間違いは無い。
コンセントとかドコから引っ張ってるのか分からないけど、電気も通ってる。
「ね? あるでしょ?」
私は無言でそのまま、その自動販売機に何度も自分の頭を打ちつける。
「わー! ユキコさん! 何してるの!」
「夢なんだこれは夢なんだ! はは! そうだよね! 当たり前じゃん!
私寝てるんだ! 寝てるのよ私まだ! 目覚まし壊れちゃったのかな!
おきろ私! 会社に遅刻しちゃう! みんなに迷惑かけちゃう! おきるのよ!」
頭が自動販売機に衝突するたびに、缶ジュースやペットボトルが出てくる。
「ダメですってそんなに買っちゃうと…」
「はははははははははっ! アッハハハハハハハハハ!」
そして20本目のコーラが出てくると。
「はぁ…」
膝から私は崩れ落ちた。
「コレ、代金の代わりに魔力を支払う構造になってるみたいで
このスマホのМPって所、ほら無くなってるっしょ? ユキコさんの」
0になってる。
「…なにコレ」
「だから魔力が…」
「コレなぁに…夢じゃあないのぉ…嫌よ…嫌、絶対に嫌ぁ」
どうなってるの? だってあり得ないじゃない…。
スマホから自動販売機が出てくるだなんて…そんな馬鹿な。
「あ、今のでEXPが入ったっぽい、新しいスキル取れる」
「スキルって何? EXPってなに? なんなの?」
「アプリの解説マニュアル、歩きながら見てたし」
だから迷子になるんじゃないのよさ…。
「俺の能力、ショッピング、魔力で別次元のショッピングモールから
特定のアイテムを魔力と交換で取得できる能力があるらしい
ツリーは、モールシフト、レイアウト、クレジット、の三つで
どれを伸ばせば強いのか分からないけど、とりあえずクレジット以外を伸ばしてる」
「さっきからペラペラと訳の分からないことを…く…頭が痛い…」
「大丈夫? 〇ファリンあるけど?」
「要らないよっ…スマホがなんだって…」
私のスマホにも変なアプリが入ってる。
どういう事? しかもコッソリ無料動画サイトから落としたスケベな動画や画像が…。
私のコレクションまですっかり無くなってるじゃない!?。
「悪夢だわ…コレ」
日本人のレズS〇Xががが…あれ探すの大変だったのに…。
海外のもボリュームあるけど、やっぱ日本のに限るわ…。
「ない…無くなっちゃってる…」
「仕方のない人だまったく、こんなにジュースを散らかして…あ皆さんもどう?」
私の奇行を目の当たりにして、このホビットどもは物陰から隠れてる。
「こーやって、プルタブ起こして、ぐいっと飲むんですよ?
ボトルのはキャップを捻って、お茶や水もあるんですけど」
コーラの甘い香りが、ポタージュの優しい匂いが、飢えたホビットを魅了する。
あの男が住人にそれらを配り終わると、あっという間に私の魔力で絞り出したジュースが売り切れた。
「あんたら、闇の民のくせに、俺たちを食わないのか?
それとも、この飲み物で太らせてから、食うつもりか?」
「えー? そんな事しないよ、大体俺たち闇の民なんて連中じゃないし
俺は藍原 譲、ただバスで旅行してただけ弟と、さっき死んじゃったけど」
「…嘘は、言ってないようだが…やはり闇の民にしか見えないな、その耳」
「耳と言えばさ、君たちの耳は尖ってるね、エルフみたい、エルフ耳? ほら映画とかの」
「ウッドエルフを知らんのか? 我らは光の民…それの奴隷種族の慣れの果てだ
連中が農業や重労働に、俺らウッドエルフやダークエルフを生み出した…らしい
今では、獣人の連中に、良いように使われているだけだがね」
「へーそうなんだ、畑仕事が得意なのに、随分と荒れ果ててるみたいだけど」
「ここ最近は、納税の義務も厳しく、また野獣や忌々しいドラゴンに畑や街道を荒らされてな
今じゃ種芋も底をついてしまった、もう何も育たないさ」
こいつ等世間話始めやがった、私を差し置いて…。
「ふーん、だったらさ、俺が畑仕事に必要なモノ、今用意できるけど?
レイアウトツリーに農具・園芸コーナー増設あったし、クレジットツリーを伸ばせば
価格の調整、魔力効率のアップ、それにゲストユーザーの使用も許可できるみたいだし」
スマホを操作して、ポイントを分配、彼は目の前の空き地に園芸館を設置した。
「なんだこれはっ! 何かの…魔術か?」
「魔術みたいですね、スマホで使える、誰かが俺たちのスマホを改造したみたい」
そっそいつらが私のコレクションをっ!。
ってじゃなくて…。
「まって…肌に放さず持ってたじゃない! そんな事出来るわけ…」
「セキュリティログが変になってる、ハッキングして中のソフトを弄ったと思う
多分あのバスの事故の時に一斉に、そしてソイツらがあの事故を引き起こした」
コイツ…思ってたよりなんか考えてる?。
「あの事故は人為的なモノ、あなたのミスは無い、突然巨大な生物が現れた
それに衝突したまま、遥か上空からあの崖っぷちに落ちたんだ、こんな不思議な
アプリが作れる連中だし、只者ではないだろう、彼ら…ウッドエルフは関係ない様だね」
ひたすらスマホを弄ってた彼は、この世界の情報を集めてたんだ。
「GPS機能も改造され、地図も書き換えられてる、民家がある方へ来た
…犯人が居ると思ったけど、勘が外れてしまったみたいだね…他の皆も移動してる
ならこっちが正解だったのかも、ここから少し遠い、遺跡の方へ四人が向かって…
バスに残った反応が三つ、空を飛んで移動してる…飛行生物が運んでるのかな…
カナメの遺体も食われちまうんだよな…持っていけないからどうしようもないけど…」
スマホの画面を見ながら、彼は強く決意している。
「仇は、必ず討つから」
敵が居る、私たちを襲った未知の危機、私の人生を滅茶苦茶にした存在が。
確かに、確実に、居る?。
彼はそれを探していたの? 私が混乱して、泣き崩れている間にも。
「アナタは…ソレを倒そうとしているの? 弟さんの命を奪った? ソレを」
「俺はそいつを許さない、どんな理由があろうともだ、必ず償わせる」
頼りなく、気が散漫として、考えなしに好奇心を働かせて。
獣のようにしたたかに、自らの敵を探していた、帰ることなど、もう考えてない。
家族を奪った存在を、全力で始末しようとしている!?。
「それなのに…私は?」
怯え、震え、絶望し、暴走し、彼とは真逆だ。
こんな私が、彼の傍に居ていいのか、それすら恥ずかしい。
でも、だけど、それならば。
「アナタの復讐、私も協力しても良いかしら、他に何も
私はどうすることもできないし、何の手掛かりもない」
会社にも連絡できないし、家族にも電話できない。
私には慣れ親しんだバスすら残されていない。
「それなら…」
彼は先ほどの冷徹な表情とは打って変わり優しく微笑むと。
「アドレスと連絡先、交換しようか」
こうして、私は彼に協力することにした。
乗客を二人も死なせ、五人とも逸れてしまった、情けない運転手。
彼の役に立つことが、もしかしたら償いになるのかもしれない。
少なくとも今、私は彼の決断と意志に、縋るくらいしかできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
休憩後、各々移動の準備を始める。
銀色の人狼、ヴァーズは俺のスマホを受け取ると、GPS機能を立ち上げた。
「便利なモノを持ってるな、ほぅら、他の連中の位置、そうとう遠く離れてるな
ウッドエルフの集落に二人、古代遺跡に四人…ここにハイエルフの集落があるな」
「スマホ使えるんだ…」
「初めて触ったが、何となく分かる、直感的に使えるようデザインされてるんだ
これを発明した人間はそうとう優秀な人間だったんだろうな」
そのまま今度はスキルツリーを開いた。
「これが、ハイエルフの魔術でお前らに施された改造度合いを視覚化したものだ
ポイントが溜まったら好きな能力を育てればいい、確認しておけ」
そう言ってヴァーズは、俺にスマホを返す。
「これ…能力? 俺の?」
ライトパワースキル ダークパワースキル メギドフレアスキル。
アクティブスキルはブレイブソード、ってなってる。
ごちゃごちゃと色々と描いてあるが、光と闇が合わさったら最強じゃない? って感じらしい。
「中二病」
「うっさい! オッサンのは何なんだよ」
「ん? チートだって」
コマンドセットスキル ストレージスキル ライオンハートスキル。
ぱっと見だと、どんな能力があるか分からないけど。
「何が出来るの?」
「色々と出来るみたい、ゲームでもチートコードで遊んでたし、そんな感じかもな
おい、クロちゃんのは? どんな能力?」
「…これか?」
アクティブ暗殺 刺殺スキル 銃殺スキル 毒殺スキル。
「すごく…殺せそうね…」
「怖っ」
「全部スマホ使わなくても出来る事だがな、毒殺は便利そうだが」
それぞれ得意な事、好きな事が繁栄されているみたいだ。
「それらは強烈な武器になる、お前らはそれを使って、好きに生きたらいい」
「え? 好きにって…」
「俺はこのままハイエルフの野望を止めなきゃならない、大切な友人との約束だからな
だがお前らはソレに付き合う必要はない、この世界で、その能力で、何でもすればいい」
竜の巣から広がる、途方もない異世界。
「元の世界には戻れない、しかし方法があるかもしれない、それを探すのもいい
強力な能力で好き放題暴れて、やりたい放題にしたっていい
当然、ハイエルフの野望を打ち砕くのも良い、気のままに冒険したっていい」
その狼の表情は、今までの狩人の強い眼光や笑みとは違う。
「何より、この世界を好きになって欲しい」
とても優しい、包み込むような微笑みだった。
「…俺は…自由になんて、できない…今まで、そんな事考えた事もない」
クロがそう言った。
「自由なんて欲しくない、ただ、命令して欲しい」
ヴァーズに。
「俺がかい?」
「そうだ、命令してくれ、自分で考えるより、その方がいい
ずっと誰かの命令で動いていた、殺しも、生活する場所も
すべてが誰かの、俺の所有者の指示で作られていた、俺はそう言う人間だ」
迷いも、不安も、何もない、真っすぐにヴァーズに言う。
「だから、命令して欲しい、俺を好きに使ってくれて構わん」
「そっか、なら、手伝ってくれ、アンタは素人じゃない、最初から役に立ちそうだ
俺が命令しよう、ハイエルフを倒し、世界を守る仕事をしよう、力を貸してくれ」
「ああ…それで構わない、お前の命令で動こう」
クロさん即決か、俺は…。
「俺も、ハイエルフは許せない、でも先ず、兄貴に会いたい
兄貴は今…ウッドエルフの集落に居るみたいだ、そこに行こうと思う」
「なるほど、俺たちの現在の目的地に近い所にあるな、そこまで一緒に行くか?」
「助かるよ…正直一人で動くのは…まだ怖いし」
兄貴に会わなくちゃ、先ずはそれから、それから次を考えよう。
「で、レオンはどうする?」
ヴァーズの問いに、レオンは。
「ええ…まぁ…俺は別に、このまま自由に冒険して、女の子とハーレム展開したり
全裸で混浴したり、一国の王になったり、豪邸に住んだり、皆から全肯定されるくらい
都合の良い展開とラッキースケベの連続に続く連続が楽しい異世界スマホ生活が待っているワケだし…」
コイツ何言ってるの。
「でも、さ…意志も何もないけど、とりあえずついていく、アンタらに
そっからハーレムルートのフラグとか立つかもしれないだろ?
バアヤの事も気がかりだし、合流してから色々と考える、今は一緒に行くよ」
「それでもいいさ、俺もお前を放り出したりしない
知り合いにラビットソン商会って連中が居てな
分かれるならそいつ等を紹介しようとは思っていたのさ」
「おー就職先まで紹介してくれるとはハローワークかコイツ」
このデブ身も蓋もねーな。
「それじゃあ仲良く、エルフ狩りに行きますかね」
俺たちは、ヴァーズについていくことにした。
正直それ以外考えられない、今この状況では。
それが最善だと、思うしかない。
終わり
見事バラバラになったメンバー。
銀色の人狼ヴァーズの導きでカナメ一行は冒険の旅へ
ユズ兄はバスの運転手とウッドエルフの集落でジュース奢ってる
アリエルちゃん達はたぶん脳みそ改造コース待ったなし
不定期連載ここにスタート、簡潔に完結したいところではありますが
挫折して飽きたり放置したりたまに復活したり
人生だもん、いろいろあるよね
マイペースに連載したいと思います では