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畢竟(三十と一夜の短篇第36回)

作者: 錫 蒔隆

 魂をこめる。いや、魂を捧げる。いま書いている小説が、私の最後の作品となる。

 仕事を辞めて七日め、私は一睡もしていない。アパルトマンの一室に籠りきり、食事と排泄のときだけ机を離れる。ネットで買いためた大量のカップ麺、体を動かすための燃料。トイレにもノートとペンを持ちこむ。寸暇をも惜しむ。だから眠らない。覚○剤を打つ数秒で、何十もの時間を獲得する。私はもう、人間であることをやめた。人間のままではとうてい、行きつかない。

 まちがいなく、私は死ぬ。この作品を書きあげるまでは、この命が保ってほしい。薬の残量もあと数ミリグラム。原稿枚数は五百枚を越え、終結に向けて突きすすんでいる。

 これまで鍛えあげてきたレトリックと文体のすべてを注ぎこんだ、ついの新作。薬の効用で得られる、奇想天外のストーリー。会心で快活に筆を滑らせる。もっと早くにこうしておけばよかったと思う。これを書きあげられたならもう、思いのこすことはない。

 ......私は、私の文学と心中するのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 果てるまで身を追い詰め、文学に捧ぐ姿がヒシヒシと伝わりますが……狂気が過ぎますね、彼の場合は。 おまけに申し訳ないのですが、できた作品がハチャメチャになってそうで期待が持てません。どうか素の…
[良い点] 人として書くか。 人を捨て書くか。 文学に魅入られ、呪われ、焦がれる心情がせつせつと伝わってきました。 [一言] とうてい行き着かない場所に焦がれる思いは、執筆者ならば多かれ少なかれ持って…
[一言] もっと早くにこうしておけば、にえぐられました。ここまでやりきった渾身の作でもそれほどでもなかった場合、とかうっかり(?)想像してしまいまして血の涙にむせぶ(秀作)です。アパルトマンにそぐわな…
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