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レイラが自活できるようにしようと決めたはいいが貴族にとっては非常識な振る舞いであるため、すぐに実行とはいかなかった。身支度させることですら大騒ぎだった使用人達への説得が困難を極めた。
主人のする事ではありません!キッチンは貴族様禁制です!使用人達から仕事を奪う事はいけません!などなど、侯爵家の教育が行き届いたプロ使用人達は悪く言えば頭が硬い。
実家の使用人たちは教えるなら徹底的にと、まだ埃がありますよお嬢様とかお茶が温いですよお嬢様とか味が濃すぎて素材の味が台無しですよお嬢様とか思わず姑かよ!って言いたいほど受け入れてくれてたのに。
「彼らには彼らの矜持があるからね」
「それは分かっているけど・・・」
旦那様はレイラの為だと思うならとあっさり承諾してくれた。元々私が身支度や自活を進んでやる事を知っているからだ。
「教えるのは私なのだし彼らの手を煩わせるつもりも仕事を奪うつもりもないのよ?場所と道具を貸してくれればいいだけなのに、それすらダメだなんて」
「うーん。それならいっそのことディアナ専用で別館を建てようか」
「別館!?い、いえいえそれはダメです!」
なんでもない風にさらりと言う旦那様に私はギョッとして勢いよくソファーから立ち上がった
「君は宝石やドレスを必要最低限しか買わないし、無駄遣いと怒るからプレゼントもあまり贈らせてくれないじゃないか。せっかく必要なものができたのだから私にプレゼントさせてほしいな」
同じソファーに座っていた旦那様は私の両手を握りしめ、ダメかな?と私の顔を見上げた。
くっ!旦那様の上目遣い、愛おしすぎる!!
「わ、わかりました!でも建てるのは館ではなくて小屋にしてください。平民の家規模のものが良いです」
「うんうん、希望通りにするよ」
「それから、その、できれば領地にも同じものを建ててほしいです」
「かしこまりました、奥さん」
図々しいおねだりなのに嬉しそうに微笑みながら承諾してくれる旦那様におもわず抱きついた。
私は本当に幸せだ、子供達にも絶対こんな幸せをあげたい。